「どうしょうもなく、あなたが」 〜ブエナビスタとレッドディザイア〜   作:リンゴ糖

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史実の個人的解釈に、ウマ娘のテイストを足しています。
キャラブレ、オリウマ娘が気になる方はご注意ください。


優等生ちゃんと異セカイの聖女

1. ブエナビスタは真面目にすごす

 

 

私は幸せなんだと思う。

 

両親は仲良し。

学業も安定。

肝心のレースについても、順調だ。

 

基礎を見てくれた先生方や、今私を担当してくれているトレーナーさんからも悪い評価は聞かない。

 

デビュー戦は三着に敗れてしまったけど、トレーナーさん曰く

「才能の原石が惹かれあった」

そんな感じの、ある意味事故だから気にしなくて大丈夫みたい。

 

実際、次の未勝利戦は快勝!

年末の阪神JFも推定一番人気らしい。

ジュニア級とはいえ、目標のG1制覇も目前。

まさに絶好調、順風満帆と言って差し支えないのに、私の心はなんとも言えない違和感を感じていた。

 

本当に、不満はない。

恵まれているって自覚もある。

 

それなのに何かが足りないって、何かが違うんだってそんなズレをどうしようもなく感じてしまっている。

 

わからない。

わからないけど、現状に応えたいという思い。

それと、正しくあればいつか報われるんじゃないか。

そんな二つの感情が、私ブエナビスタを動かしている。

 

未来はわからない、なんて言うけれど、この心の隙間は埋まるのかな?

 

そんないつかを夢見てブエナビスタは

今日を乗り越えていく/やり過ごしていく。

 

 

 

 

───

 

2.レッドディザイアは異セカイを目指す

 

年が明けて、ブエナビスタはジュニア女王となった。

注目される機会も増えて、今日もベンチで一息ついていると、

 

がんばってー!

なんて声をかけてもらった。

 

嬉しさ半分、気恥ずかしさ半分で小さく手を振って応えたが、そんな時ふと思う。

心躍らせたG1の舞台も、後から振り返るとどうだったのだろう?

 

スタートで若干出遅れて、後方を追走。

最終コーナーあたりでは前に取り付いて、直線は大外から突き抜けた。

 

特別な緊張があったのかもしれないし、普段どおりだったのかもしれない。

それを判断するにはレースの経験がまだ足りていなかった。

 

 

もしかしてこの先も。

少しだけ不安になって目を伏せる。

だからだろうか?

目の前の誰かに気づくのが遅れた。

私が顔を上げるよりも早く、その誰かは私の前にしゃがみ込むと、

 

「やっと、やっと会えました」

「…ブエナビスタ、我が運命の片翼。

…もう一人の、聖女よ」

 

そう言って、私の右手を包み込んだ。

大切な壊れ物を扱うように、優しく繋がれた両手。

力はそれほどこもってないはずなのに、決して離さない。そんな思いが伝わってきた気がした。

 

「えっ、あの」

「あなたは、だれ?」

 

「…私はレッドディザイア」

「あなたを、ずっと探していました」

 

レッドディザイアは目を閉じ、静かに語りだす。

 

「私は異セカイを目指す、聖女にして巡礼者。

長き旅路、試練は幾度も私の歩みを止めようと襲いかかります。

聖女はあらゆる困難、苦難に屈しません。

果たすべきは目標ではなく、真実なのです」

「時には空を見上げる日もあります。

風に吹かれ、星に導かれ、歩みを緩める日もあります。

試練とは、乗り越えられる者にだけ与えられる物。

……それでも一人では高く険しい道」

 

目が開かれる。

レッドディザイアの黄金に輝く瞳が真っ直ぐにブエナビスタを見つめる。

 

「嗚呼、」

「……貴方が、貴方が必要なのです」

 

「ひつ、よう?」

 

「ええ、貴方なのです」

 

正直に言うと、よく分からない。

それでも私の心は高鳴っていた。

未知のドキドキとワクワクで、うるさいくらいに騒いでいる。

 

「…レッドディザイア、さん」

 

「えぇ、ブエナビスタ」

「ここに盟約は結ばれる。

ともに行こう、遥かな道を」

 

私は、空いた左手を彼女の手に添える。

 

私を包む彼女の手を。

私より少し小さなその手を。

ーーどこかへと私を連れ出す、熱がこもったその手を。

 

「うん。よろしくね、ディザイアさん」

 

離したくないと思ってしまった。

 

 

───

 

3.実績解除

 

 

レッドディザイアとの邂逅はブエナビスタに未来への希望を抱かせた。

 

初めてかもしれない。

ただただ浮き立つ心に導かれ、先の見えない道に飛び込むなんてことは。

 

そんな個人的には運命の出会いから一週間。

期待に胸躍らせたブエナビスタは、何事もない一週間を過ごしたのであった。

 

「……あれっ?」

 

何かが起こるかも知れない。

そんな期待を抱いて始まったこの一週間。

ブエナビスタはいつレッドディザイアが来てもいいように万全の準備をしていた。

メモ帳と筆記用具を常に持ち歩き、カフェの店員さんに席の融通をお願いした。

見通しの立たない予定をお願いするのは心苦しかったが、店員は快く応じてくれた。

そんな善意にも背を押され、レッドディザイアを待っていたが、結局この一週間、なんの音沙汰もなかった。

 

さすがに不安になって、あの日を思い返す。

何か気になることしちゃったのかな?

初めての連続で、もしかしたら失敗しちゃったのかも。

 

あの日は、ディザイアさんの情熱的なお誘いに心惹かれて、思わず同意の返事をした。

そのことに後悔はない。

 

ただ、浮かれてた自分が少し不安で、念の為振り返ってみることにします。

あくまで念の為です!

 

───

 

ディザイアさんは、

 

「…そう、ありがとう」

 

と、一言返すと

 

「時が来たら私たちはまた巡り会う。

私と貴方は互いに運命の片翼を抱いた同志。

惹かれ合う聖女なのです」

「…きっと近くまた巡り会う。

その時まで、しばしのお別れです」

 

そう言って最後まで名残惜しそうに私の手に触れていました。

 

───

 

……明確な約束は、していません、ね。

 

うわぁーーー!

やっちゃったーーー!

 

 

───

 

⭐︎実績を解除しました!

 

「浮かれポンチ」

約束を勘違いしたまま一週間を過ごす。

楽しみは大切ですが、確認は怠らないように!

 

 

 

───

 

4.聖女の試練(雪)

 

 

ブエナ的激動の一週間を過ごした後、再会の機会は突然訪れた。

 

「うーん、吹雪いてきちゃったな」

 

未だ寒さの残る一月、雪の予報は出ていたが予想外の大吹雪が関東を襲った。

 

トレセン生はほとんどが寮だからなんとかなるだろうけど、さすがにこれは。

 

「……聖女の出番ですね」

 

「ディザイアさん!」

 

私がどれだけ探しても見つからなかったのに、何かが起きそうな時にはすぐにあらわれた。

これが聖女!

 

私はこの一週間のモヤモヤも吹っ飛んで、彼女の動向を見守る。

 

彼女は静かに手を組むと跪き、目を閉じる。

その祈る姿はまるで時が止まったようで、

実際止まってないので、勢いを増した吹雪に埋もれた。

 

「ディザイアさん!?」 

 

 

「…さすが、聖女の試練ですね」

 

もこもこの雪だるまが立ち上がる。

うっすらと赤い髪が透けている。

 

プルプルと身震いすると聖女が現れた。

しっとりと濡れた彼女は未だ荘厳な雰囲気を保っている。

 

「…行きます」

 

彼女は静かに手を組むと跪き、目を閉じる。

その祈る姿はまるで時が止まったようで、

実際止まってないので、雪から変わった雨に激しく降られた。

 

「ディザイアちゃん!?」

 

 

コントじみた流れに思わず呼び名が変わる。

慌てる私を他所に雪だるまから濡れネズミに変身した聖女は、それでも荘厳な雰囲気を保ったまま答える。

 

「…聖女の力が、十全に届いていないようです」

 

雨に濡れてもその気高さは失われない。

特徴的なアホ毛もしんなりしているが気にしない。

 

「…行きます」

 

彼女は静かに手を組むと跪き、目を閉じる。

その祈る姿はまるで時が止まったようで、

三度目の正直で、ついに雨は勢いを失った。

ずぶ濡れの聖女にあわててもらってきたタオルを渡す。

 

「…これなら皆さんも無事に帰れるでしょう」

 

「…ディザイアちゃん…」

 

 

そう言って小さく微笑んだ聖女に、私は言葉を失った。

やっぱりよくわからない、だけどきっと悪い人じゃない。

そんな私の盟友をタオル越しにぎゅっと抱きしめた。

 

 

───

 

翌日、雨を止めた聖女はやっぱり風邪をひいた。

 

熱さまシートを額に貼った聖女は、

 

「これも聖女の試練なのです」

 

そう言って私の剥いたリンゴをつまんでいた。

そんな聖女を私は隣で見守っていた。

 

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