「どうしょうもなく、あなたが」 〜ブエナビスタとレッドディザイア〜   作:リンゴ糖

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オークス:深まる青葉

 

ティアラ戦線の二戦目、最大の栄誉とも言えるオークス。

話題の中心はブエナビスタとレッドディザイアだった。

 

今回は別路線からの刺客と呼べるような存在はおらず、

桜花賞に引き続き圧倒的一番人気のブエナビスタ。

唯一挑戦権を持つレッドディザイア。

どんな予想もこの二人を避けては語れない。

 

特筆すべきはレッドディザイアの大躍進だった。

桜花賞ではブエナ一強、あとは団子という評価だった。

しかしオークスでは、ブエナ一強は変わらずだが、ディザイアも抜けた二番人気に推されていた。

長距離レースの強豪、マンハッタンカフェと仲良くしているという噂もあり、距離が伸びて有利なのでは?なんて話も出ている。

 

 

「という訳で、本命はレッドディザイア」

「ジョーダン、私はここで負けを取り返すさ」

 

「ハイハイ、逆神おつー」

「ごめんねディザっち。ナカヤマのしょーもないコントに巻き込んで」

 

 

ふたたび届けられた応援メッセージはレース前の緊張をほぐしてくれた。

今回も連絡係を務めてくれたアンライバルドは先日の皐月賞を制し、ブエナの評価を間接的に高めていた。

 

桜花賞で始まった二人の物語は、周りを巻き込んでさらに盛り上がっていく。

レースまで後僅か。

まだまだ熱は引きそうにない。

 

 

───

 

揃ったスタートから、ブエナビスタはいつものように後方に位置取る。

先頭は逃げウマ娘が二人、牽制しあいながら集団を引っ張る。

レッドディザイアは中団後方の内に潜り込んで、じっと息を潜めた。

 

レースは人気の二人を警戒して中団待機を決めた者、大金星を狙って前目につける者。

十七人はそれぞれに心を決める。

ペースは平均的、隊列は縦長。

それぞれのウマ娘の思惑が徐々に形となって現れていった。

 

最終コーナーを抜けて前が固まる。

コーナーピッタリ、最短距離でここまで進めたレッドディザイア。

失速した逃げウマ娘と、外に膨れた先行勢を落ち着いてかわした。

 

ブエナビスタはコーナーから加速し、遠心力で膨れた勢いそのままに大外へ抜け出す。

ゴールまで一直線、ギアを上げよう踏み込んだ瞬間、外に振られた先行勢が進路に被さる。

 

直線半ば、内を捌いて先頭に立ったレッドディザイア。

ブエナビスタは出掛かりを潰され、さらに外へ流れる。

アクセル全開、独走状態で抜け出したレッドディザイアを必死で追いかける。

 

一歩、一歩、一歩。

踏み込むごとに加速するブエナビスタ。

ゴール板の前、二人の影が重なった。

 

 

───

 

スピードを緩めながら、隣のディザイアちゃんと見つめ合う。

 

「どっちかな?」

 

「どっちなんでしょう?」

 

息は荒いし、心臓はバクバクいっている。

今すぐにでも倒れ込みたいくらいだ。

 

写真判定はまだ長引きそうで、並んで待機所に戻る。

中継の画面を見つめるディザイアちゃん。

私は結果がわかるのが少し怖くて、下を向いて呼吸を整えていた。

 

「結果がでたよ!」

 

周りからの声に弾かれたように顔を上げる。

映し出された掲示板には、私の番号が一番上にあった。

 

喜びに思わず口元を押さえる。

隣にちらっと目をやると、ディザイアちゃんがふらついたのが見えた。

 

頭が真っ白になって咄嗟に手を伸ばす。

私より細身な身体を強く抱き留めた。

 

「…ごめんなさい、力が抜けてしまいました」

 

顔を逸らしてディザイアちゃんが言った。

私はゆっくりと彼女を壁際に誘導する。

 

「…おめでとうございます、ブエナさん」

 

身体も心もつらいだろうに、そんな言葉をもらって、心がギュッと傷んだ。

 

「……ありがとう、ディザイアちゃん」

「係の人呼んでくるから控え室で休んでて」

 

「ええ、ありがとうございます…」

 

最後の言葉は消え入りそうなくらい小さかった。

 

 

───

 

インタビューの最中も私は上の空だった。

ディザイアちゃん、大丈夫かな?

真剣勝負の結果に後悔はない。

誰かが勝つってことは、誰かが負けるってことだから。

だけど、あの時のディザイアちゃんは、まるでどこかに消えてしまいそうな儚さがあった。

 

彼女に触れた右腕を見る。

想像よりも細くて、受け止めた重さも羽のようで、私は漠然とした不安を、頭を振って追い出した。

 

 

「ブエナビスタさん、今回の勝利で凱旋門挑戦を決める、なんて噂もありますが?」

 

「あっ、えっと、はい!」

「ティアラ三冠と、凱旋門。

まだ検討中ですが、秋には素敵な報告ができるよう、今後もがんばります!」

 

応援ありがとうございました!

 

そう言ってスタンドに向けて手を振った。

今朝までは夢と希望であふれていた心は、今は不思議な盟友のことでいっぱいだった。

 

 

───

 

ディザイアちゃんは消耗がひどくて、ライブはお休みということになった。

ライブ前に彼女からのメッセージがスクリーンに映し出される。

 

「どうも、本物の聖女レッドディザイアです」

こんな挨拶から始まると、

 

「これも異セカイに至るため、聖女に課せられた試練なのです」

「しかし、私の不在を悔やまないでください。

我が盟友にして、運命の片翼。もう一人の聖女たるブエナビスタが、無事にその務めを果たすでしょう」

 

身振り手振りを交え、熱っぽく語るディザイアちゃん。

スタンドからは画面がうるさいw

なんてツッコミも飛んでいた。

 

そんなメッセージを残されては仕方がない。

不肖ブエナビスタ、見事盟友の願いを叶えて見せましょう!

 

一部ネットで私のあだ名が

 

†運命の片翼†

本物の聖女(その2)

 

なんてつけられたのも些細なことです!

ガッデム!

 

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