「どうしょうもなく、あなたが」 〜ブエナビスタとレッドディザイア〜   作:リンゴ糖

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盟約は果たされた
それぞれの秋初戦


 

1.札幌記念 ブエナのチャレンジ

 

 

「行ってきます!」

 

札幌記念に挑むためブエナビスタは一足先に合宿所を後にする。

札幌までの移動や休養、調整等を考えると結局一週間ほど余裕を持って動くことになった。

 

「聖女の加護を」

「がんばってねー」

「応援してるよぉ」

 

それでも見送りに来てくれたみんなに感謝を告げて、いざ挑戦の地へ。

 

 

───

 

札幌記念は主にシニア級の始動戦に選ばれる。

同期はクラシック路線の一人だけで、あとはみんな先輩方。

有馬を勝ったマツリダゴッホさんや、前走で函館記念を制したサクラオリオンさんが人気を集めている。

 

私はいつも通りスタートから後方に控えると、注目のお二人の姿も近くにあった。

お互い警戒しながらレースを進める。

 

札幌レース場は小回りで直線も短い。

スピードは負けないつもりだが、小回りのテクニックは二人には及ばない。

動き出しが遅れると危険だ。

 

第三コーナーを回ってサクラオリオンさんが仕掛ける。

私もピッタリ内から体を合わせる。

ほぼ同時に一列後ろのマツリダゴッホが動いたのもわかった。

 

加速しながら大外を回る。

固まった先行勢をどんどん飲み込んでいく。

外のサクラオリオンさんを競り落とした時、ゴール前にはまだ一人粘り込んでいた。

 

 

───

 

札幌記念を制したのは一個上のヤマニンキングリー先輩。

前走まで三戦連続二着だったが、今日は覚悟の先行粘り勝ちだった。

 

先行有利のコース形態。

後方に有力ウマ娘が固まった意識の隙。

次戦を見据えた八割仕上げ。

 

負けた理由は探せば色々出てくる。

勝ちに等しいなんて評価ももらったが、負けは負け。

 

「トレーナーさん、お願いします」

 

「本当にいいのかい?」

 

「はい、走ってよかったです」

「新しい課題も見えてきました」

 

トレーナーさんを通して凱旋門の不参加を発表してもらう。

今の私ではおそらく納得いく結果は残せない。

 

経験豊富なシニアの先輩、中央四場以外の不慣れなレース場。

いつもと違う条件で走ったことで、私はもっと走りの引き出しを増やさないとダメだとわかった。

 

スピードには自信がある。

今後はそれを引き出すための下準備をできるようにしていかないと。

 

「はー、負けちゃった」

控え室でひとりごちる。

 

「でも、私まだまだ成長しちゃうもんね!」

「待っててね、ディザイアちゃん!」

 

つよがりなのか、誤魔化した本音なのか、思ったよりも楽しそうな声が出たブエナビスタだった。

 

 

───

 

ブエナビスタからの連絡が届いたのは24日になってからだった。

レースの公平性のため、出場者は携帯などを預けないといけない。

 

散々お祭りの写真を送りつけたメールには

えーん!

と泣き顔の絵文字が帰ってきていた。

 

凹んでるけど深刻じゃない。

そんな雰囲気を感じとって、

 

「まったく…」

「負けてよかったなんて思ってないでしょうね?」

 

泣き顔の絵文字を指でぐりぐりと押す。

 

「私はきっちり勝ちきって見せますわよ、ブエナさん?」

 

なんとなく、指差しポーズの絵文字を送った。

 

 

───

 

2.ローズステークス ディザイアの意地

 

 

レッドディザイアは秋華賞の前哨戦にローズSを選んだ。

 

春の二冠で力を示し、今回はブエナビスタも不在。

最早死角はなしと、圧倒的一番人気に推された。

 

夏合宿を乗り越えたレッドディザイア。

変わらぬ細身のシルエットは、ひとまわり大きくなったように見えた。

 

 

───

 

好スタートを決めた私はいつも通り、中団後方に位置取る。

先行策を試す案もあったが、あえて変えることはしなかった。

それは逃げ道を作るようで、

ブエナさんのように両方取る!なんてできない私は、一つの道を信じたかった。

 

最終コーナーを抜けて外から足を伸ばす。

一人、また一人と交わしていく。

先頭を捉えたと思った時、内側から伸びた影が一歩抜け出していた。

 

 

───

 

最後に差し切ったのはブロードストリート。

私のレースプランにミスはなかったと思う。

それでもお互いコースレコードで駆け抜けた時、スタート位置の差で彼女の方が先にゴールにたどり着いた。

 

今日の主役は私だったはずなのに、

ドロリとした熱が内で囁く。

 

いけない。

ギュッと目を瞑る。

一秒、二秒、三秒。

 

目を開いた私はいつものように試練にさらされた聖女に変わる。

ブロードストリートさんとカメラがこちらに向いている。

 

「あぁ、素晴らしい!」

「ブロードストリートさん、あなたも強きもの!」

「これもまた、試練なのですね!」

 

彼女の手を取り、語りかける。

ターフビジョンに私たちの姿が大写しになる。

 

勝者を讃える聖女の姿にスタンドから歓声が上がった。

 

───

 

P.S.

レース後の一幕にブロードストリートにもネットであだ名がつけられた。

 

本物の聖女(その3)

 

 

ちなみに、まだ雑談レベルではあるが秋華賞の上位人気は上から

 

本物の聖女(その2)

本物の聖女

本物の聖女(その3)

 

だと言われているそうな。

 

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