「どうしょうもなく、あなたが」 〜ブエナビスタとレッドディザイア〜 作:リンゴ糖
エリザベス女王杯:聖女の試練
1.緊急クラス会(欠席者2名)
トレセン学園の一角、前後の扉に加えて遮光カーテンまで閉め切った教室に複数のウマ娘が集まっていた。
「それでは緊急クラス会を始めます。
議長は、私アンライバルドが務めます」
「書記は板書係を、リーチザクラウンが、ノート係をスリーロールスが担当します」
伊達メガネをスチャッと揺らしながらアンライバルドが口を開いた。
紹介された書記の二人も、同様に装備した伊達メガネに触れてみる。
「えー、今回の議題はブエナビスタとレッドディザイアについて」
「先日の秋華賞以降、ギクシャクしてる二人をなんとかしようってことね」
この一週間二人の様子がおかしい。
まぁ、レッドディザイアは元々変な感じだけど。
「特に気になるのはブエナの方ね。
前までディザイアちゃん、ディザイアちゃーんってやってたのに、今じゃなんか避けてる?感じなのよ」
アンライバルド、リーチザクラウン、スリーロールスの三人はブエナとデビュー戦が同じだった。
それぞれが順当に結果出してることもあり、なんとなくお互いに連帯感を感じていたのである。
そんなブエナの様子がおかしいとなれば、立ち上がるのもやぶさかではなかった。
「ナカヤマ、ジョーダン、二人の情報網にはなんかないかい?」
「残念ながら現状はノー、だ」
「こっちもダメ。ブエナもディザちもギャル組とはそこまで絡みないみたいだしー」
「ダート組はどう、トラン?」
「うーん、イマイチだねー」
「一応関係あるかわかんないけど、ディザちゃんが、ドバイとダート、オールウェザーとかのワードで調べものしてたよん」
「アキュートさん、職員さん関係は?」
「さっぱりだねぇ。
悪いウワサは聞かないからその辺は大丈夫だよぉ」
「うーん、どうしたもんかなー」
とりあえず集まったは良いものの、まだまだ情報不足だった。
「…あの」
後ろの方から控えめな声が上がる。
「どした、ブロードストリート?」
「実はさ、秋華賞のあの確定待ちの時さ、ちょっとだけ気になったんだけど…」
「結果が確定したとき、ディザイアが顔押さえて座り込んだの」
情景を思い返しながら話し出す。
「その時は、感極まったんだなって感じたんだけど、今思うと逆だった気がするの」
「逆?」
「うん。なんとなくだけどさ、感極まって顔押さえて、座り込む。
この流れわかるよね?」
ブロードストリートはこめかみをぐりぐりしながら、
「あの日のディザイア、膝から崩れて、顔を覆ってた気がする」
「だからどうなのってことだけどさ、なんか違和感あったの」
以上。まとまり無くてごめん。
そう言ってブロードストリートは話を打ち切った。
「やっぱ、なんかあったぽいよな……」
ため息をついたアンライバルドはとりあえず解散を告げるのだった。
───
最初の緊急クラス会から三週間。
特に進展もないままブエナビスタの次走、エリザベス女王杯が近づいていた。
その間にも、
レッドディザイアに声をかけようと物陰から様子を見てるブエナビスタ。
目が合いそうになって突然背中を向けるブエナビスタ。
レッドディザイアを玄関で待つブエナビスタ。
そんな姿を散々見せられて、
「少女マンガかよ!」
ブロードストリートは吠え、
「うぇー、砂糖吐きそー」
アンライバルドは突っ伏した。
緊急クラス会もまだ続けてるのは基本この二人だけで、
あとはもうほっとけと、アレむしろいちゃついてるだろ。
みたいな空気になっていた。
「なんかさー、ハラ立ってきたんだけど!」
「アイツらケンカ下手くそかよ!」
同じくエリザベス女王杯に参戦予定のブロードストリートとしては、いつまでも腑抜けられててもムカつくのだった。
───
秋華賞のあと、ディザイアちゃんに拒絶されてから、私はその現実を受け止められずにいた。
本当は話を聞かなきゃいけない。
それで、悪かったとこ直して。
それから、それから。
「怖いよ…」
私は結局、あの夏合宿から何も変わってなかった。
こんなの嫌だってわかってるのに、直接聞いて、また拒絶されるかもしれないのが怖くてたまらない。
ディザイアちゃんは次走のエリザベス女王杯をキャンセルして、ジャパンカップに向かった。
ケガで調整がズレたって発表されたけど、ほんとは私と会いたくなかったんじゃって、そんなこと考えちゃう。
レースに嘘つく人じゃないって知ってるのに、不安が止まらない。
トレーニングはちゃんと続けている。投げ出したくないから。
それなのに一番向き合わなきゃいけないことから私はずっと目を逸らしている。
───
2.エリザベス女王杯 ふたりはプ⚪︎キュア
そんな最悪のメンタルで迎えたレース当日、G1エリザベス女王杯。
秋華賞と同じ京都レース場。
あの控え室の横を通った時は鼻の奥がツンとした。
今日だって一番人気に推されている。みんなに期待されている。
しっかりしなきゃ、そう思うのに、心は沈んでいく。
「ブエナビスタ!」
「勝負よ!」
突然の大声に背筋がピンッと伸びる。
恐る恐る振り返ると、そこにはブロードストリートさんがいた。
ツカツカ歩み寄り、鼻先に指を突きつけられる。
「今日は、自力で先着してやる!」
ふんっ、と振り返ると肩を怒らせ、去って行った。
「わーお、ブエナちゃんモテモテー」
たまたま隣にいた先輩がぼそっと呟いた。
───
そんなアクシデントも問題なく、レースは予定通りにスタートした。
前に行ったのはクイーンスプマンテ先輩ともう一人。
テイエムプリキュア先輩。
さっきの控え室の人だった。
二人はどんどんペースを上げていく。
逃げが二人でハイペースっぽい。
私は後方に控えて脚をためる。
向正面、直線で前を伺うけれど前の二人が見えない。
嫌な予感がして、ペースを上げる。
集団の前にとりついたけど、まだ前は見えない。
第三コーナー、淀の坂を登って視界が開ける。
ようやく見えた二人の姿は遥か前方にあった。
最終直線に入っても全然捉えられそうにない。
それでも、ギアを上げる。
スパートを掛ける。
全力の末脚で必死に追いかけたが、二番手のプリキュア先輩の背中にたどり着いたところがゴールだった。
───
結果は三着。
また勝てなかった。
こんな私じゃダメなのに。
なんとか三着だったけど、心は晴れない。
いや、勝てても変わらないかも…
「おりゃ!」
またうじうじして下を向いた私の後頭部に誰かがチョップした。
振り返るとそこには、ブロードストリートさん。
「ブエナ、ちょっと来て」
有無を言わさぬ態度。
私は肩に手をかけられ、引き摺られて行った。
「ディザイアと何があったの?」
スタンド下の物陰に連れ込まれると、真っ正面から踏み込まれた。
「何って、何もない、よ?」
「そーいうのいいから」
「ケンカしたんでしょ?」
「ケンカっていうか、私が悪いかも、だし」
「だから、私が直さないと…だし」
だんだん情けなくなってきて、また目線が下がっていく。
ブロードストリートさんがため息をついたのが聞こえた。
「ブエナ、今度はこっち来て」
そう言ってまた私は引き摺られて行く。
「アレ見て」
引き摺られた先はインタビュー会場。
勝ったクイーンスプマンテ先輩に、二着のテイエムプリキュア先輩が絡んでいる。
「先輩、もうやめてくださいよ!」
「勝ったのわたし!主役はわたし!」
「なんでだよー私たち、ふたりはプ⚪︎キュアだろ?」
「なんでですか!?」
「だって、クイーンって名前それっぽいじゃん?」
「理由それだけ!?」
「そもそも私たち一緒に走るの今日で二回目ですよね?」
「時間なんて関係あるかよ」
「これから相棒になれば良いだろ?」
「名前だけでなんでそこまで踏み込めるんですか!?」
騒がしいやり取りに報道陣も笑っている。
───
「みたか?」
ブロードストリートさんの問いに、
「はい」
目の前の出来事に圧倒されたまま答えた。
「ブエナ、アレやりなよ」
「えっ、いやです」
思わず反射で答えた。
「嫌だよねー、そーだよねー」
「それで、いいーんだよ」
私の返事にブロードストリートさんは笑っていた。
「嫌なら嫌って言いな」
良い子ちゃんはしんどいだろー?
そう言って私に発破をかけてくれてる。
「…でも」
「…まったく、不器用だね」
ブロードストリートさんは自分のこめかみをぐりぐりしていたが、
「そうだ、じゃこれ聖女(その3)からの試練ね!」
「ええっ!」
「試練を乗り越えるんでしょ、聖女は♪」
もう決定でーす!
そう言って彼女はニヤニヤと笑っていた。