「どうしょうもなく、あなたが」 〜ブエナビスタとレッドディザイア〜 作:リンゴ糖
1.仲直り大作戦
【DAY1】
「ディザイアちゃん!」
【DAY2】
「お昼ご飯を」
【DAY3】
「ご一緒、しませんか?」
ブロードストリートさんに背中を押された私は、ディザイアちゃんをお昼に誘います!
誘いますが、
【DAY1】
「ブエナさん」
【DAY2】
「お誘いは嬉しいのですが、」
【DAY3】
「予定が崩れたこともあり、ジャパンカップに集中したいのです」
「ごめんなさい」
そうやって3日ともお断りです!
ガッデム!
「しーしょー」
「ダメでしたよ、師匠ー」
ぶえーん、と弱音を吐いた私に
「うーん、まぁこれはしゃーない」
「とりあえず話しかけられるようにするためだし」
切り替えていこう。
なんて言ってのけるブロードストリート師匠。
「そーだぞ、ブエナ。
とりあえず単純接触効果ってやつだぞ」
携帯を片手にそうアドバイスする、アンライバルドちゃん。
「つーか議長、もっと真面目にやれよ」
「最近ずっと携帯いじってんだろ」
「私は私で色々やってんだよ。
てか、二人も読む?」
そう言ってアンライバルド議長は画面を私たちに向ける。
そこにあったのは、
「君⚪︎届け」
「ハチミツ⚪︎クローバー」
「ちはや⚪︎る」
「参考になるかなってスリーロールスに聞いたら色々勧められてさ」
「徹夜で借りた本読んだし、なんなら今アプリでも購入してんの」
よく見ると彼女の目は充血して、ギンギンだった。
───
あいつはもうダメだ。
そう呟いたブロードストリート師匠は、私のほっぺたを挟んで目を合わせます。
「ブエナ、明日も声かけるけど今度は別の話題だ」
「ディザイアの態度も頑なだけど、あくまで忙しいからってのが理由だ」
「レース関係の話題を振ってやれ」
「対戦相手、上の世代、トレーニングのこと、内容はなんでもいい」
「それならきっと断りにくい。
もしダメでも印象には残るだろ?」
ブロードストリートさんはニヤリと笑う。
「…師匠!」
師匠はやめろい。
そう言ってほっぺをむぎゅっとされた。
───
「ディザイアちゃん!」
「…ブエナさん、またいらしたのですか」
「生憎、食事を含めてレースに向けて調整に入ります」
「なので今後はお誘いされても困ります」
師匠の読みはすごい!
むしろディザイアちゃんも仕掛けてきた。
「違うよ!」
「実はね、私もジャパンカップについて調べてきたの」
「何かお手伝いできるかもだし、お願いします!」
頭を下げる。
そのままちらりと目線を彼女に向ける。
「…はぁ」
ため息を一つ、こちらに向き直る。
ディザイアちゃんは胸の前で手を組むとゆっくり目を瞑った。
───
「…ブエナビスタ、
ソラに挑みしイカロスよ」
「これは試練なのです」
目を開いた聖女は静かに語り始める。
「今こそ旅立ちの、巣立ちの時なのです」
「聖女はひと所には止まりません。
今も救いを求める人がいるのです」
ブエナビスタの周りをぐるり、ぐるり。
言葉を紡いでぐるり、ぐるり。
天を仰ぎ、両手を広げ、その場でくるりと一回転。
「貴方から授かったツバサが聖女を新たなセカイへ導くのです!」
「イカロスよ、勇敢なる貴方は再び舞い上がる!」
「いずれセカイは気づくのです。
聖女の、イカロスの真の輝きを」
嗚呼、
なればこそ。
「今は時を置くのです」
「…それがお互いの為になります」
聖女は動きを止めると、最後に深く一礼したのだった。
───
2.ジャパンカップ 伸ばした手
秋の府中の大一番。
ブエナビスタは東京レース場のスタンド席にいた。
結局ブエナビスタはあれ以降の介入はできなかった。
納得はしていない。
それでも、レッドディザイアが今はまだ、と言うならそれを優先したいと思った。
言葉の通りレッドディザイアはジャパンカップに向けて食事から休養から、全てをコントロールしていた。
確かにそのスケジュールを乱してまで付きまとうのは良くないことだと思えた。
「…これはしょうがないこと」
「でも、応援ぐらいは許してね」
ブエナビスタは誰に語るでもなく呟いた。
───
今回のジャパンカップは豪華メンバー。
断然一番人気のウオッカさん。
昨年の覇者スクリーンヒーローさん。
アメリカからの刺客コンデュイットさんなど、十三人がG1タイトルを手にしていた。
レースは同期のリーチザクラウンちゃんが早いペースで逃げる。
締まった流れも前で受けたウオッカさんが直線抜け出す。
ディザイアちゃんも後方から鋭く伸びたけど三着まで。
それでもこのメンバー相手の大健闘で一定の評価を得たようだった。
ウイニングライブでは前の目立つところで踊ってたディザイアちゃん。
ステージと観客席。
光の中で踊る彼女を見ていた。
これでいいんだ。
ディザイアちゃんはこのジャパンカップに向けてがんばってたんだから。
…少しの寂しさなんて、私が我慢すればいいから。
ライブが終わってディザイアちゃんが、
ウオッカさんが引き上げていく。
舞台袖に捌けるところでディザイアちゃんの姿が揺れた気がした。
「あっ」
オークスの彼女がフラッシュバックする。
咄嗟に手を伸ばした。
…当然空を切った。
私の視線の先、彼女を支えていたのはウオッカさんだった。
───
3.ずるいよ
ジャパンカップの翌日。
授業で顔を合わすよりも早く、
私はディザイアちゃんを訪ねていた。
レースの翌日だからお休みかも、
なんて心配は心から吹っ飛んでいた。
おめでとう!
大丈夫?
本当に伝えたいのはどっちなのか。
そもそもグラウンドにいるのだろうか?
朝の静謐な空気を吸い込んで私はペースを上げた。
───
人もまばらなグラウンドにディザイアちゃんはいた。
…隣にはウオッカさん。
レース翌日だから軽い散歩程度なのだろうか。芝コースの内側を二人で歩いていた。
なんだろう、この感覚。
元気そうなディザイアちゃんを見て一安心なはずなのに。
それなのに、
ウオッカさんと談笑する姿に、
心の中に薄くモヤが広がった気がした。
「…ずるいよ」
無意識に口をついたのは、誰に向けての言葉だったんだろう。