副作用「犬可愛がられ」   作:またたび

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第1話「猛犬注意」

 

 今日も東隊はランク戦のために顔を突き合わせ、明日のランク戦にむけて作戦を練っていた。最初の狙撃手であり、元A級でもあり、多くの隊員から尊敬を集める東春秋(あずま はるあき)。そして、そのもとで日々研鑽し成長している、攻撃手の小荒井登(こあらい のぼる)と奥寺常幸(こあらい のぼる)の三人が机に座り、人見摩子(ひとみ まこ)は立ちながら三人の会話を聞いている。

 

 そんな中、東隊のもう一人の隊員工藤(くどう)ぬいは一人ソファーで寝転がり、視点を反転させて東達が作戦を考えているのを見ていた。それに気が付いた摩子が、ちゃんと座りなさいと叱った。

 

「一応、ぬいにも関係あることなんだから、話は聞いておきなさい。ほら、ちゃんと座って」

「だって暇なんだもん。何を話しているのかまだわかんないし……」

 

 ぬいの身体を無理やり起こし、ソファーにちゃんと座らせるようにする摩子。対してぬいは全身の力をすべて抜いているのか、首が座っていない赤ちゃんのように、体がぐらぐらしていた。それに対して若干の苛立ちを見せた摩子だったが、途端にいたずらっ子のような笑みを浮かべていた。

 

「なら、ちゃんと分かるようになるために、また加古さんにお願いしようかな~」

 

 その効果は絶大だった。それまでダラダラとしていた態度が一変し、きちっと座るようになったいた。しかし、ぬいの顔はまるで悪魔でも見るような顔つきで摩子の事を睨みつけていた。

 

 それもそのはず、ぬいはその副作用(サイドエフェクト)によって可愛がられることが多いのだが、そのなかでもA級隊員である加古(かこ)望(のぞみ)はぬいの事を非常に可愛がる。ぬい自身も可愛がられる事に対してはある程度許容できるのだが、加古はその程度ではなかった。例として、ランク戦解説時に膝にマスコットのように抱きかかえられて一緒に解説をさせられたり、炒飯を食べさせられたりと、沢山可愛がられている。

 

「ババアには何にも言うなよ……」

「ぬいがちゃんとしてたら、何もしないから」

 

 あまりの代わりように流石に可哀そうになった摩子はそう返し、ぬいの好物であるホットミルクを出す。ぬいは摩子を睨みつつもホットミルクを飲む。

 

「加古さんの事をババアって、よく言えるな」

「お前も言ったらいいよ、コアラ。そしたら少しぐらいはオレの気持ちが分かるだろ」

「たしかに分かるかもしれないが、もっとよく分かるには、この写真を見ればいいだけだから……」

 

 そういい、コアラが取り出したのは、ケータイの写真だった。それは、ランク戦の解説席で加古の膝の上に座らされたぬいだった。顔は真顔、というよりも生気が抜かれたような顔。解像度がもう少し低ければ人形と思われるレベルだった。

 

 それをみたぬいはコアラに向って悪態をつきまくっていた。ちなみに、コアラはこれ以外にもいろいろとコレクションと称してぬいの恥ずかしい写真を何枚か持っている。

 

「クソが!いいからその写真、早く消せよ!」

 

 立ち上がりコアラに近づこうとしたぬいだったが、摩子にまた座らされ、今度は押さえつけられていた。

 

「ほんとにもう、いいから、座って聞いていなさい。わからないなら後で一緒に考えたらいいから」

 

 流石のぬいも邪魔をするつもりではないため、摩子の言う通りに大人しく座った。ちなみに、それでも落ち着かない場合は今度は摩子の膝の上に座らされることになる。つまり、ぬいからすればこれは自身の尊厳を破壊するぞという最終通告でもあるので、ぬいも大人しくするのである。

 

 ぬいはつい最近東隊へと入隊となったため、小荒井と奥寺の二人にくらべてまだまだ発展途上である。そのため、作戦会議でもなにがなんだかまだわかっていないため、とりあえず聞くという聞き専となっている。最近では東さんと一緒に他のランク戦を見て、東さんの解説をきいたり、それに対してまともな質問をするようになってきて、少しずつ成長の兆しが見えてきている。

 

「……ほんとにもう」

 

 作戦会議が順調に進んでいる中で、異様にぬいが静かだと感じた摩子がぬいが座っているソファーを見てみると、そこにはホットミルクを飲んで寝てしまったぬいがいた。こうなってしまうと変に起こすより寝かせてあげたほうがいいため、タオルケットを被せ寝かせる。

 

 数十分後、作戦会議が終わるころにやっとぬいが起こされる。

 

「ぬーい、起きな。もう作戦会議も終わったぞー」

 

 小荒井と奥寺がぬいの身体を揺さぶり、ふたりでぬいを起こしにかかる。

 

「はい、はい起きる。起きるよ」

 

 体を揺さぶり続けられたぬいは、ついに観念して起きる。

 

「起きたか?なら今回の作戦について話すから、よく聞いておけよ」

 

 作戦が決定すると、小荒井と奥寺が作戦をぬいに伝える。これ三人の成長として必要と考え東がそう指示している。小荒井と奥寺はその真意を理解しているものの、基本受け身であるぬいはただ二人が今回の作戦について説明しているとしか考えていない。

 

「ここまでは理解できるだろ?」

「まあ、一応」

「んじゃ、こっからが本番なんだけど……」

 

 眠そうに目を擦るぬいと、熱心に今回の作戦について説明する二人を東と摩子は、温かい目で見つめていた。

 

 ただ、しばらくするとわからんとごねるぬいと、作戦の説明に四苦八苦する二人の仲介に東と摩子は駆り出されることになるのだが。

 

・

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 ぬいにとってランク戦というのは試験のようなものだった。まず、ぬいに課されることは小荒井と奥寺の作戦にちゃんと従う事。そのうえで、自分でもちゃんと考えて動くことが求められる。ぬいは基本的に考えながら動くというのが苦手である。そのうえでランク戦が終わった後は、東隊のみんなでランク戦を振り返る時間があるのだが、ぬいにとってはそれが試験のようなものだった。

 

 自身がなぜそう動いたのか説明しなければならないし、逆にランクであったことについて質問されたりするからだ。これがぬいにとっては試験のように感じていたのだ。

 

「コアラ、こっちは諏訪さんと香取さんだった。たぶんオレも気づかれてそう」

「わかった、すぐそっちに向かうから、もう少し待機しててくれ」

「了解」

 

 B級ランクもシーズンの中盤戦に差し掛かった。現在、東隊は六位で上位に付けていた。この三つ巴の戦いでいい結果を残せたらさらに上の順位を目指すこともできる、そんなランク戦の最中だった。

 

 ぬいは周りを他の部隊に囲まれている中で、その救出のためにコアラ、それを追走するように奥寺も向っていた。各隊合流を優先するかと思われたが、一人だけせの定石から外れるように動いている人物がいた。

 

「みっけ」

「嘘じゃん!」

 

 家の塀に身を隠していたぬいを見つけ出したのは、今回のランク戦で一番順位の高い香取隊隊長、香取その人だった。

 

 見つかったぬいはすぐさま機動戦へと入った。塀を飛び越え大きい通りに出たぬいは、サブトリガーのバックワームを解除しシールドに回し、メイントリガーにセットされたアステロイド:拳銃で無造作に香取に向けて撃ちまくる。

 

「コアラ、見つかった!そっちに向かう!」

「マジか?!相手は?!」

「カトリ!」

 

 それだけを言うとぬいは通信を切り、戦闘に集中する。香取はぬいにとっては強敵である。通信をしながら相手ができるほどぬいに余裕はなかった。

 

 オペレーターである摩子が示すルートを進んでいく。しかし、機動力ではグラスホッパーを持っている香取の方が素早い。アステロイドで上手く牽制しつつ逃げていたぬいだったが、その距離も徐々に縮まっていった。

 

「クッソ!ストーカーかよ!」

 

 悪態をつきながら逃げるぬいだったが、ついに追いつかれてしまった。近接では圧倒的に無力なぬいは、香取のスコーピオンに徐々に追い詰められていく。

 

 そして、ついに勝敗を決める一撃が決まる。香取のスコーピオンがぬいの身体を大きく裂いた。

 

「雑魚じゃん」

「……死ね」

 

 ぬいのトリオンは切れかける直前、ぬいは決死の一撃を香取に向けて撃ちまくる。普段の戦いであれば、ぬいのアステロイドでの射撃はシールドで簡単に防がれるものだった。しかし、この日のぬいは、成長していた。

 

「ッ!!」

 

 香取へ近距離からの射撃。それが香取のシールドをも割りトリオン体へと大きなダメージを与える。

 

 ぬいはバカだ。しかし間抜けではない。東隊がずっと徹底させてきた考えて行動させるという訓練が実を結んでいた。

 

 香取との機動戦の際、ぬいは徹底的にアステロイドの威力を抑えていた。そして、香取へと確実にアステロイドが当たる距離になったとき、アステロイドの距離を削りそれを威力に割り振った。

 

「はは、おまえも雑魚じゃん」

 

 その捨て台詞とともにぬいは緊急脱出(ベイルアウト)した。香取に大きなダメージを残して。

 

 香取は体から漏れるトリオンを手で押さえていた。緊急脱出(ベイルアウト)はすることはないが、それでもトリオン体には大きなダメージを与えていた。

 

「くそ」

 

 香取の頭の中ではグルグルと色々なことが巡っていた。確かに油断はしていたかもしれない、それでもやられるとは思ってはいなかった。色々考える最中、香取は最初の戦闘を思い出した。たしか、あいつはどこかに向っていたはずだと。その事を思い出した香取はグラスホッパーを構え逃走を図る。しかし、すでにもう遅かった。

 

「小荒井、こっちだ!」

「了解だ!」

 

 そこには、グラスホッパーを使い急接近する東隊の攻撃手の二人がいた。

 

 そして、香取は二人の連携によって緊急脱出(ベイルアウト)した。

 

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 緊急脱出(ベイルアウト)したぬいは、マットから飛び起き、摩子へと駆けよる。その顔は子犬のようにとてもニコニコだった。

 

「どうなった!どうなった!オレのポイント?!」

 

 どうやら、先ほどの戦闘でのポイントが気になっているようだった。オペレーター用のデスクへ近づいてきたぬいに摩子はすこし微笑み、それから結果を告げた。

 

「小荒井のポイントだね」

「なんで?!ランク戦で初めてのポイントだと思ったのに……」

 

 目に見えて落ち込むぬいに、摩子は頭をなでて慰めた。一方のぬいはいつもなら手を払いのけて悪態をつくぐらいの事をするのだが、今回は相当落ち込んでいるのだろう、撫でられている事を受け入れていた。この場には摩子とぬいしかいないという事もあるのだろうが、それでも相当落ち込んでいるというのが分かった。

 

「今回はちゃんと頑張っていたよ。とりあえず、一旦休んでなさい」

 

 そこからは、ぬいは椅子を摩子さんのとなりに引っ張っていき、試合の行く末を見守った。

 

 小荒井が香取隊の三浦に落とされ、作戦室へと戻ってくるが、奥寺と東さんの連携と作戦により見事B級上位戦を勝ち切った。生存ポイントもプラスされ見事5点を取り、東隊は三位へと上がった。

 

「ぬい、今日の動きはよかったな。序盤でやられはしたが、今日はしっかりと考えて動けていたな」

 

 東隊ではランク戦後の振り替えをしていた。まずは序盤ではやられたものの、いい活躍をしていたぬいに焦点があたった。

 

「いや、まあ、オレもこれぐらいはできるし」

 

 まだまだ正直になれないぬいだったが、それでも今日は詰められるのではなく褒められたからか、恥ずかしそうに振り返りに参加していた。

 

「まあ、これぐらいの駆け引きができるようだったら、ぬいはもう解禁でいいかもな」

「マジで!?本当に?!」

「ああ。むしろぬいには選択しを増やした方が、良さそうだしな。小荒井と奥寺とは違った事が求められるし、その方がぬいももっと考えてくれそうだしな」

 

 東がそう言うと、ぬいは嬉しそうにはしゃいでいた。ちなみに、解禁というのはサブトリガーの解禁、そしてメイントリガーの枠の解禁ということである。ぬいは今までアステロイド:拳銃とシールドとバックワームという簡素なものだったが、これからは色々と考え自身でトリガーを弄れるということである。

 

「お、よかったなあぬい。これでもっと戦術面で貢献できるな」

「何言ってんだ、コアラ。いままでも貢献してただろ。ぶっ飛ばすぞ」

「お?早速やるか?」

「こらこら、そのケンカへの速さはいったい何なの?ぬいもそうやって何でもかんでもケンカに持ち込まないの。コアラも、意地悪なことは言わない」

 

 売り言葉に買い言葉の応酬だったが、そこに摩子さんが割って入る。東隊ではいつもの事だったが、初めはこんなではなかった。人見知りでありながらなんにでも牙をむくようなぬいに、人見も東も手を焼いていたが、そこに小荒井がうまくぬいと仲良くなっていき、今はこうやってじゃれつく余裕もできたのであった。ちなみに、奥寺はいつの間にかぬいと仲良くなっていた。

 

「ま、今日はとりあえずみんな、よくできていた。今日のところは解散だ。ぬい、今日はもう帰って明日トリガーを調整しなさい」

 

 さっそくトリガーを変更しようとしていたのだろう。トリガーを取り出していたぬいを東は止め、今日はもう帰るように促していた。一方でぬいは嫌そうにはしていたのだが、大人しく東の言う事を素直に聞いていた。 

 

 このランク戦のあと、これからのことを楽しみにしているであろう、ウキウキでボーダーを歩いているぬいがいたとかいなかったとか。

 

 

 






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