異世界転生したらスキルが〈生成AI〉だったので、知識を集めて格上狩りを始めます 作:カラリ
街へ戻ったとき、門番は最初に俺たちの荷物を見た。
次に登録札を見て、最後にアイへ目を向ける。リネアが光で映した姿だと説明すると、なるほどとうなずいてから、アイ本人へ挨拶した。
『こんにちは』
隣から返事がした。それで俺たちは四人のまま門を通れた。
俺としては、背負った荷物の中で石板が割れていないかの方が気になっていた。リネアも同じだったのか、店へ着くなり自分の袋を作業台へ載せた。
布をほどくと、灯りの設計が書かれた板が出てきた。
「よかった。大丈夫」
リネアが息を吐く。店主は図をのぞき込んでから、奥の広い台を空けてくれた。
遺跡で見つけたものを並べると、台一つでは足りなかった。
◇
点検記録には依頼の報酬が付き、売ると決めた部品にも値段が付いた。俺たちが使う観測器や音声板、リネアの欲しかった設計の記録は残す。
店主が金を数える横で、リネアは、レベルを上げる力を測る道具の修理部品を注文した。遺跡の観測棟で見つけたものだ。魔力を漏らさないための覆いだけは、新しいものを使いたいと言う。まずは散って失われる成長の力を測り、できれば集める道具も作る。そのための費用を先に取り分けても、銀貨は十分に残った。
俺がいつものように三つへ分けようとしたところで、ザラが声を掛けた。
「アイは、報酬で欲しいものある?」
机の向こうで、アイが顔を上げた。
俺も手を止める。今までアイのために必要なものは、俺の財布から買っていた。本も道具も、次に使うものとして一緒に選んでいたので、取り分をどうするか考えていなかった。
『買ってみたい本はあります』
「じゃあ、今回の分も相談しよう。扉を開けたのも、向こうへ渡したのもアイなんだから」
ザラが銀貨を一枚、まだ空いている場所へ置いた。リネアも自分の前の山を見る。
「私は、この記録を残してもらってる分もあるしね。現金は四つに分けてもいいと思う」
「俺も、それでいいです」
俺は三つに寄せていた銀貨を戻した。持ち帰る道具と共同の費用をもう一度確かめてから、残りを四等分する。
アイの前へも、同じだけ積んだ。
『これは、自分で使ってよいのですか』
「うん。何を買うか決まったら、自分で払えばいい」
言ってから、金を入れる袋が要ることに気づいた。リネアが余っていた小さな革袋を出し、口の結び方を見せてくれた。
アイは銀貨を一枚ずつ入れた。最初の一枚は指先から滑ったが、二枚目からは机の縁で受け止めるようにして、全部収めた。
革袋を腰へ留めたアイを見て、次からは最初に四人分の置き場所を空けておこうと思った。
◇
買い物は、回収品の店でほとんど済んだ。
部品と工具の棚の反対側には、古い本も並んでいる。リネアが案内すると、アイはすぐに一冊を抜いた。
橋の上に家が並ぶ街を描いた、あの旅絵集だった。
「同じの、あったんだ」
『はい。これを探していました』
図書館で借りたものより表紙の色は薄いが、中の絵はきれいだった。アイは橋の街を開き、その後で前後のページも確かめる。リネアは背の綴じ目を見て、糸が緩んでいないか調べていた。
「持って歩くなら、濡れない袋もあった方がいいね」
『本を包むものですか』
「うん。外側だけでいいから。読むたびに何重にもほどくのは面倒でしょ」
二人が布の棚へ向かったので、俺は工具を選びに反対側へ移った。同じ店の中なら、アイとの接続は保てている。ザラは入口近くで新しい地図を広げていた。
俺は細い線をつなぐための留め具を探した。売り物には大きさが何種類もあり、どれを買えばいいか分からなくなりかけたところで、リネアが書いた紙を思い出す。
寸法まで書いてあった。助かった。
ほかの工具もそろえて戻ると、アイは包み布を手に、リネアへ何かを確かめていた。
『では、窓の近くにも置けますね』
「そう。光が入る方が、細かいところを見やすいから」
何の話だろうと思ったが、俺が机へ工具を置くと話題が移った。リネアが留め具の寸法を確かめ、これでいいと言ってくれる。
その間にアイは本を店主へ渡し、革袋の口を開いた。
銀貨を出し、釣り銭を受け取り、本を受け取る。俺には何度もしてきた買い物だが、アイは最後に本と残った金を交互に見た。
『買えました』
「うん。今度は返さなくていいな」
アイは本を開き、橋の上の広場が描かれたページを眺め始めた。
◇
店の作業台を借りて、買ったものを並べた。
リネアが、成長の力を測る道具から古い線を外している。ザラはそれを運ぶための箱を選んでいた。アイはその横で本を開いていた。誰かの手を借りずに、机の上へ自分で置ける。
「アイ。次の試験なんだけど、この部品で先に――」
『その前に、このページを見終えてもいいですか』
俺は言いかけて止まった。
アイは本を押さえたまま、こちらを向いていた。急いで閉じようとはしていない。
「ああ、もちろん。俺もまだ工具を出すところだから」
『ありがとうございます。終わったら声を掛けます』
顔が本へ戻った。
俺は残りの袋を開いた。さっきまで、本を読んでいるアイを見ていた。それなのに、いつものように次の仕事を頼もうとしていた。
留め具を分け終えたところで、リネアが古い線を見せてきた。中まで青く変色している。これを使い回さなくてよかったねと言われ、俺も触って確かめた。
少しして、本が閉じられた。
『お待たせしました。試験の話を聞かせてください』
俺は買ってきた部品を指した。散って失われる成長の力を集めたいと話すと、アイは、まずそれを測る道具を直そうと答えた。どれだけ集まったか、確かめられるようにするためだ。
◇
その日の作業を終えてから、リネアに窓の話を尋ねてみた。
「本を置くところの話?」
「さっき、アイと話してたので」
「私の工房を作るなら、棚をどこに置こうかなって。まだ借りる場所も決まってないんだけどね」
リネアは使い終えた作業台を拭いた。今は店の空いているところを借りているから、試作品を広げたままにはできないという。
「自分の場所があったら、途中のものを明日もそのまま続けられるでしょ。小さくてもいいから、いつか欲しいんだ」
「今回の記録、広げる場所も要りますね」
「そうなんだよ。帰ってきたら欲しいものが増えちゃった」
リネアは図面を巻き、持ち帰る袋へ収めた。
アイが本を包み終えると、リネアは結び目を確かめた。俺が工具の棚にいた間に教わった包み方を、もう覚えていた。
◇
宿へ戻り、俺は机の上に旅絵集があるのを見た。
借りていたときとよく似た眺めだった。ただ、今日は俺が開いて見せる必要がない。アイが窓のそばへ椅子を寄せ、自分で本を開いていた。
「その絵、最初から気に入ってたんだな」
『はい。図書館で続きを見せていただいたときから』
あのときは、何かの役に立つのかと聞いた。最初は、橋の支え方でも調べるのかと思ったんだっけ。
俺はベッドへ腰を下ろした。
「今、話しても大丈夫?」
『はい』
アイが本へしおりを挟んだ。
少し迷ってから、前の世界のことを話した。こことは違う街で、違う体で暮らしていた記憶があること。こちらの家で子どもとして育ちながら、少しずつそれを思い出したこと。
あちらにも、相談すると答えを返してくれるAIがあったこと。
アイは途中で口を挟まなかった。俺が話し終えると、膝の上へ両手を置いて尋ねた。
『だから、最初から私の使い方をご存じだったのですね』
「似たものは使ってた。こうして一緒に歩いたことはなかったけど」
『前の世界では、どんな相談をしていたのですか』
「仕事のこととか、晩飯を何にするかとか。魔物の倒し方を聞いたのは、こっちへ来てからだよ」
『今は、その相談が多いですね』
「明日も頼む。今日は、その本の続きをどうぞ」
『お話ししてくださって、ありがとうございます』
アイが本を開いた。しおりを脇へ置き、その先へ一枚めくった。
◇
翌朝、成長の力を測って集める道具の部品を、机へ並べた。
交換する線、測る器具を留める金具、力を受け止めるための皿。店へ持っていけば、リネアと組み立てを始められる。
「今日は、こっちを一緒に見てもらえる?」
『はい。本は昨夜、区切りのよいところまで読みました』
アイが椅子を寄せた。旅絵集は包み直されて、アイの鞄に収まっている。
俺は留め具を一つ取り、図面の横へ置いた。
アイが反対側から紙の端を押さえたので、残りの部品も並べ始めた。