異世界転生したらスキルが〈生成AI〉だったので、知識を集めて格上狩りを始めます 作:カラリ
魔石を近づけると、上の針だけが動いた。
リネアが直した測定器には、二つの目盛りがある。上は道具を動かす魔力。下は、魔物を倒したときにもらう、レベルを上げるための力だ。
灯り用の魔石をいくら近づけても、下の針は動かなかった。
「金でレベルを買えるわけじゃないんですね」
「できたら私も買ってるよ。魔石は燃料。こっちで測りたいのは、戦った後に体へ入ってくる方」
リネアが下の目盛りを指した。そこが正しく動くかは、遺跡に残っていた測定記録と比べて確かめてある。次は実際に魔物を倒し、どのくらい受け取っているのかを見る。
そして、できれば増やしたい。
俺は隣へ置いた小さな輪を持ち上げた。腕が通るくらいの金属の輪で、逃げていく成長の力を、受け取る人へ導く道具だという。
観測棟の記録には、部屋を一つ使うほど大きな回収設備が載っていた。その仕組みをアイの案で小さな輪へ分け、持ち歩ける形にした。一度置いたら終わりではなく、戦う場所や人の動きに合わせて向きを変える必要がある。
『三つの輪の調整は、私が続けます』
「お願いします。今まで捨ててた分、拾えるだけ拾いたい」
アイがうなずいた。隣ではザラが、輪を収める箱の蓋へ布を貼っている。運んでいる間に曲がらないよう、内側まで作り直してくれていた。
買ったものと拾ったものを全部詰めると、箱はなかなか重くなった。
俺は両手で持ち上げ、一度下ろしてから片手でも試した。
「持てるな」
「うん。でも、その持ち方で中身をぶつけないでね」
リネアに言われ、両手へ戻した。レベルが上がっても、測定器の方まで丈夫にはならない。
◇
数日後、俺たちは遺跡の観測棟へ戻った。
裏の水路には、前にも倒した石鎧蜥蜴が入り込んでいた。背中は硬いが、冷たい水で動きを鈍らせ、横腹を狙えば倒せる相手だ。回収の人が入る前に片づけてほしいと、組合からも頼まれている。
まずは成長の力を集める輪を使わず、一匹倒してみた。
ザラが盾で頭を受け止める。俺は右へ回り、鱗の薄い横腹へ槍を入れた。以前より深く刺さり、引き抜いて下がる動きにも余裕がある。相手が向き直る前に、ザラの槍が続いた。
動きが止まると、アイが測定結果を映す板をこちらへ向けた。
板の中では、死体から白い筋が広がっていた。その一部が三人へ向かい、残りは薄く広がって消えていく。
「……こんなに逃げてたのか」
自分へ入ってくると温かい、いつものあの力だ。受け取った分だけで喜んでいたが、外へ消えているところまで見えると惜しくなる。
「死体のそばへ、もっと寄ればいいんですか?」
「寄るだけじゃ、全部は入らないって。受け取る途中で散るから、こっちで道を作るんだね」
リネアが三つの輪を並べた。俺たちの登録札を順に当て、誰へ向けて力を集めるかを合わせる。
アイも横から自分の姿と記録を見比べた。
『今の私の操作に対応する分は、ルカさんへ流れています。姿を持っても、動いているのはルカさんのスキルですので』
「じゃあ、輪は三つでいいのか」
『はい。お金の分け方とは別ですね』
俺はうなずき、二匹目を狙える場所へ輪を置いた。
次は、あの白い筋を逃がさない。
◇
二匹目が倒れたとき、輪の縁が白く光った。
測定板の中で広がりかけていた筋が、途中で向きを変える。輪を通った光が細い束になり、俺たちへ届いた。
胸が温かくなった。
さっきより、長い。
俺は思わず板へ近寄った。リネアが左右の記録を並べてくれる。倒した相手が放出した総量と、三人へ入った割合。その両方が残っていた。
「増えてる」
「うん。相手にも個体差はあるけど、受け取れた割合が上がってる。私とザラの方も同じ」
これなら、一匹ごとの当たり外れで喜んでいるわけではない。
俺は輪へ目を向けた。リネアが移動したところへ、アイが輪の向きを合わせ直している。力を集め終えると光が消え、また次に使える状態へ戻った。
「今までと同じ相手を倒して、もらえる分が増えるんですね」
『はい。全部は集められませんが、減らせる損失があります』
全部でなくてもいい。これから倒す相手全部で効くのだから、十分すぎる。
残りの二匹でも試し、置き場所を少しずつ変えた。柱の陰へ入ると届きにくくなるので、リネアが輪の台を高くする。アイはその高さも測り、次に置く場所を教えてくれた。
片づけ終えたとき、三人ともレベル75になっていた。
俺は表示を閉じてから、輪の付いた台を眺めた。小さいのに、これから稼ぐ経験値へずっと働いてくれる。持って帰る箱の重さまで、来るときよりありがたく感じられた。
「アイ。この台が回るところ、次は私が組んでみたいんだけど」
リネアが声を掛けた。
『では、向きを決めた順からお話ししますか』
「うん。完成した図だけじゃなくて、そっちを知りたい」
アイが地面へしゃがみ、図を広げた。リネアも隣へ座る。俺は道具を箱へ戻しながら聞いていたが、途中から輪の傾く角度の話になったので、壊さず詰める仕事へ集中することにした。
ザラが蓋を持って待ってくれていた。
「二人は、もう少しかかりそうだね」
「はい。先に帰り道を見ておきましょうか」
俺たちは箱を日陰へ置いた。紙の上を動く二人の指が止まるまでは、そちらへ手を出さずにおいた。
◇
街へ戻ると、組合から奥の机へ案内された。
遺跡の記録とレベル75の札を確かめた担当者が、新しい依頼書を持ってきてくれる。今まで掲示板で見ていた紙より、添えられた地図が多かった。
「この場所の調査を、お引き受けいただけないかと思いまして。討伐までできるかは、見てからご相談で構いません」
街道の外にある古い貯水池だった。水を抜けなくなり、今は大きな魔物が占領しているという。
確認されたレベルは164。
次のモデルは100からだ。その数字を見ただけで、俺は少し前へ座り直していた。
「資料は、どこで読めますか?」
担当者が地図の上へ、調査記録を重ねてくれた。
俺は最初の一枚を開いた。隣からアイものぞき込んでいる。
今度は、倒した後の準備までできている。