異世界転生したらスキルが〈生成AI〉だったので、知識を集めて格上狩りを始めます 作:カラリ
水の中にいると速い。水があれば傷も塞がる。
泥底竜の説明を読んでから、俺は貯水池の図へ目を戻した。大きな鰭を持つ魔物が、池の底へ長い体を横たえている。水と泥をまとって身を守り、傷ついたところへも周りの水を取り込むという。
「じゃあ、水を抜けませんか」
言ってから、ずいぶん雑な案だと思った。だがリネアは図を回し、池の南側を指した。
「水門はあるね。前にも、それをやろうとしたみたい」
問題は水門まで行く道だった。
操作小屋へ渡る橋が落ちている。池の縁を回れば魔物のすぐそばを通るし、修理の道具を運ぶには橋も要る。水を抜きたくて橋を直そうとすると、その橋を直す間も竜のいる池で作業しなくてはならない。
俺は指で、切れた橋の端と端をつないだ。
「ここ、足場で渡れますね」
『はい。人と工具を運べれば、水門の状態を確かめられます』
アイが答えた。使って楽しかった空中の足場が、今度は大物を倒す入口になる。
ザラは池の横の石段へ印を付けた。
「直せたら、ここから戦おう。高い場所だから、泳げなくなった竜には近づかれにくい。後ろへ下がる通路もある」
水を抜き、上から攻撃する。
俺はその二つを紙へ書いた。その下へ、光の槍の射程を確かめる、と足した。
遺跡の守護獣を撃った、あの太い光を持ち歩きたい。リネアとアイに相談し、長槍の先へ小さな発射器を付けてもらっていた。広間の武器ほど強くはないが、今の魔力量なら何度も撃てる。
組合の試験場で厚い的に穴が開いたときは、俺まで振り返ってザラを見てしまった。
「通りましたね」
「うん。ただ、撃つときに先が下がってる。こっちを支えて」
褒めてもらいながら構えも直された。今まで練習した槍が、そのまま遠くへ撃つ武器にもなっている。新しいものを握っただけより、ずっと使える気がした。
◇
貯水池は白い崖に囲まれていた。
崩れた橋の向こうに操作小屋があり、池の中央には島のような背中が浮いている。あれがレベル164の泥底竜だと分かると、水面の小さな波まで気になった。
俺たちは橋があった場所へ光の足場を出し、工具箱を運んだ。アイは横を歩きながら、足場と手すりを動かしている。胸元の水晶で向こうを見て、足元全体は橋の端へ残した別の水晶で確かめる。
二度往復すると、修理の工具も魔石も、成長の力を集める輪も運べた。
何日もかけて橋を架けるつもりだった場所を、道具を持ったまま歩いて渡っている。それだけで、討伐のかなり手前から得をした気分だった。
ただし水門は、到着して触れば動く状態ではなかった。
俺とザラで点検用の重い蓋を持ち上げ、リネアが中へ灯りを向ける。太い軸を支えていた金具が欠け、動かすたびに斜めへずれるらしい。
「元と同じ部品、残ってませんか」
「探すより、ここの傷みに合わせて作った方がよさそう。軸も少し削れてるから」
リネアは寸法を測り、紙へ新しい金具を描いた。アイへ渡すと、図を見たアイが二か所を指した。
『こちらを厚くすると、門を持ち上げるときに支えられます』
「うん。じゃあ、その分こっちを削ろう。中へ入れるときに引っ掛かるから」
直した図が返り、リネアが持ち込んだ金属片を選ぶ。俺は言われた幅で押さえ、ザラが削った粉を払った。
実物の隙間へ当ててみると、まだ端が触った。リネアはそこだけ印を付け、もう一度削った。
「図面では入るはずでも、実物に合わなきゃ困るからね」
最後には、金具が奥へきれいに収まった。
リネアが手を放すと、斜めだった軸がまっすぐになっていた。
◇
水門の脇には、大きな鋏を持つ魔物が六匹いた。
泥鋏。強さはレベル96ほど。先に細い水路を閉じ、隠れていた泥から一匹ずつ地面へ追い出す。
ザラが盾で鋏を受けたところへ、俺が横から光の槍を撃った。硬い背中は避け、持ち上がった鋏の根元を狙う。傷ついた相手がこちらを向く前に、次を構える時間もある。
倒れれば、置いておいた輪が成長の力を集めてくれる。
修理の合間に六匹を片づけ、数日たった頃には、三人ともレベル84になっていた。
前なら一匹を倒すために準備していた相手を、今は水門へ入る道を空けるために倒せる。俺は槍の先から光が消えるのを見て、次の魔石を替えずに袋へ戻した。まだ残っている。使える量まで増えていた。
操作小屋へ戻ると、リネアが両手を軸の奥へ入れていた。
「アイ。その図、ちょっと上で持ってて」
『この位置ですか』
「うん。ありがとう。手を離すと、またここがずれちゃうんだ」
アイが紙の上端を持ち、リネアの目の前へ掲げた。彼女は図の数字と金具を見比べ、そのまま工具を動かしていく。
「目の前へ図面だけ出せたら便利だね。手が足りないとき、いつも紙の置き場で困る」
『今は、こちらで持っています』
「うん。助かってる」
俺は次の留め具を手元へ並べた。持つ仕事はもう取られていたが、渡す仕事ならまだある。
◇
水門が直っても、すぐには開けなかった。
まず上流の分岐を切り替え、池へ入る水を別の水路へ流す。下流には組合から知らせを出し、古い道へ人が入らないよう見回りも頼んだ。
それから門を少しだけ上げ、水が抜けるか、再び閉じられるかを試す。
重い門が、途中で傾かずに持ち上がった。
リネアが先ほど直した軸を見て、ようやく肩を下ろした。
「これなら開け続けられる。下の溝も使えるよ」
竜が水を吐いても、その水を足元へためさせず、排水路へ流すための溝だ。相手が取り込んで傷を治す前に、外へ出してしまう。
ザラとは石段の上を歩き、下がる場所をもう一度決めた。竜が近づいたら、奥の狭い通路へ移る。俺の光の槍が池の底まで届くことも、小さな的を置いて確かめた。
全部済んでから、夕食の火を起こした。
リネアは直した金具の図をもう一度開き、実物で変えた箇所を書き足している。アイが脇で紙を押さえた。ザラは明日の風を読むため、崖の上の雲を見ていた。
俺は温めた器を受け取り、匙を持った。
竜はまだ池の真ん中にいる。明日は、あそこから水だけなくなる予定だ。
「今夜のうちに水門を壊しに来たりしませんよね」
「今のところ、私たちより魚を追ってるね」
ザラが見張りの映像を向けてくれた。大きな背中の前で、水しぶきが上がっている。
それなら、こちらも先に食べておこう。
俺は図面へ汁を飛ばさない場所まで器を寄せた。