異世界転生したらスキルが〈生成AI〉だったので、知識を集めて格上狩りを始めます 作:カラリ
水門を開くと、池が大きな音を立て始めた。
俺たちは南側の石段の上にいた。下に水門、その先に水を逃がす排水路がある。泥底竜はまだ池の中央だ。
水を抜いて泳げなくし、傷を治す水もなくす。そうしてから、俺が上から光の槍を撃つ。
槍を縁へ載せ、池の中央を見た。
水位が下がるにつれ、島のようだった背中の下に長い胴が現れた。竜が鰭を広げて泳ぎ始める。だが向かった先からも水は引き、やがて太い腹が池の底へ着いた。
竜が体をくねらせた。
水の中で広がっていた鰭が、今は泥をたたいている。ずるりと少し進んだが、すぐ腹が引っ掛かった。
「止まった」
「まだ下へ降りないでね。こっちから届くから」
ザラの声で、俺は前へ出しかけた足を戻した。
リネアは水門の操作板を見ている。アイは魔法の防壁を俺たちの前へ広げながら、成長の力を集める輪も動かしていた。そちらを何度も確かめなくていいよう、役目を分けてきたのだ。
俺は長い柄を支え直した。
鰭の後ろ、泥の薄くなった脇腹へ先端を向ける。
「撃ちます」
槍へ魔力を流した。
◇
白い光が、竜の脇腹へ突き刺さった。
泥がはじけ、その下に傷が残る。竜は長い首をこちらへ向け、大きく口を開いた。
水の塊が飛んできた。
俺は槍を引いて身をかがめた。目の前の防壁が大きく鳴り、外側を水が滑っていく。縁を越えてきたしぶきが、首の後ろへ冷たく入った。
「もう一発。右へ寄って!」
ザラが盾を上げ、俺はその横へ入った。次の水が防壁を打つ間に、槍の魔石を取り替える。
水をなくせば、何もできなくなるわけではない。
そこは本にも書いてあった。だから上から撃てる場所へ、防壁まで用意した。その中にいてもしぶきが冷たいのだから、直接受ける方は試したくなかった。
竜へ目を戻した。
脇腹の傷は、まだ開いていた。
「塞がってないです!」
「うん。今吐いた水も、こっちの溝へ落ちてる」
リネアが排水の操作を続けた。池の底に浅くたまりかけた水が、南の溝へ吸い出されていく。あれを残すと、竜は傷を治してしまう。
俺は同じ脇腹へ、もう一度光を撃った。
今度は竜が大きく身をよじった。首がこちらを向くのを見て下がり、水が壁へ当たるのを待つ。返す一発は、さっきより深く入った。
ちゃんと効いている。
俺は柄を抱え直し、次に首が上がるのを待った。
◇
竜が泥を掻きながら、こちらへ近づいてきた。
石段の下へ、長い跡が伸びてくる。泳いでいたときより遅いが、止まったままではなかった。
「あの白い石を越えたら、後ろへ移るよ」
ザラが足元の目印を指した。そこまで来られると、首が石段の縁へ届くかもしれない。俺は奥の通路へ持ち替えやすいよう、槍を少し短く握った。
目の前では、アイが防壁を横へ延ばしていた。後ろへ下がる道にも、体を隠せる壁ができる。
竜が口を開いた。
俺は狙いを変え、首の付け根へ光を撃った。
首が横へ振れた。水の塊は石段を外れ、池の底へ落ちた。リネアがそちらの溝を開き、たまる前に流していく。
「あと二発、ここから撃てる。その後は移ろう」
ザラの声を聞き、俺は足を踏ん張った。
一発目で、竜の進み方が鈍った。
二発目を撃つ前に、もう一度だけ太い首が上がった。俺が身をかがめると、防壁の向こうで水が砕けた。止んだところで立ち直り、脇腹の傷へ狙いを戻す。
指先から魔力を流した。
光が入り、腹の動きが止まった。
竜は鰭で泥を掻こうとしたが、もう前へ進まなかった。首がゆっくり下がり、顎が地面へ落ちる。
俺は次を撃てるまま待った。
リネアは排水を続けている。ザラも盾を下ろしていない。俺たちは石段の上から、その大きな体が完全に動かなくなるのを見届けた。
やがて、池の底に置いた輪が白く光った。
◇
成長の力が、三本の束になってこちらへ来た。
胸の奥が熱くなる。
〈泥底竜 レベル164 討伐〉
俺は石段へ腰を下ろした。数字が90を越え、100も過ぎていく。
まだ上がる。
100まで欲しかったのに、もう110だ。120を越えたところで思わずリネアを見たが、彼女も自分の表示を見つめていた。
〈レベル126〉
「……126」
「私も。同じところまで来た」
ザラが盾を置いた。持ち手を握り直し、片手で軽く持ち上げてから、少し困ったように笑っている。
「帰りに荷物を持ちすぎそうだね」
俺も槍を持ち上げた。さっきまで両手で支えていた長い柄を、片手で水平に保てる。少し動かしただけで先端が大きく振れ、慌てて両手へ戻した。
力が付くのも、付いた分の扱い方が要る。
でも、これはいい。とてもいい。
魔力も、使ったはずなのにまだ体の奥へ広く残っている。その変化を確かめながら一覧を開いた。
〈世界モデル 使用可能〉
すぐに選んだ。
「アイ、切り替えられた?」
『はい。観測した場所を再現して、実行する前に案を試せます』
「帰りの足場を考えてみてくれる? 荷物をまとめて運びたいんだ」
目の前へ、崩れた橋の小さな絵が映った。アイの姿を映すのと同じ光だ。見慣れた橋の上を、人影と工具箱が渡っていく。
一人ずつ往復する案。その横へ、全員が一度で渡る案。
使う魔力と、運び終わるまでの時間も並んだ。
「こっち、同じくらいの魔力で済むのか」
『足場を広く出す分は増えますが、往復を減らせます』
今までなら実際に運んでから分かっていたことが、もう比べられる。俺は工具箱の数を変えてもらい、次に、帰りの回収品を一箱足した。
絵の中の人影が、すぐに別の持ち方を始めた。
「帰る前に荷物を増やそうとしてない?」
横からリネアに言われた。
「もう少し持てそうなので」
「私も持って帰りたい部品、ある」
こういう話は早かった。
俺が立ち上がると、リネアがすぐ近くへ来た。濡れている襟元を見て、首に傷がないか確かめる。
「ここ、水だけ?」
「はい。冷たかったですけど」
「よかった。最後、顔までかぶってたから」
リネアは俺の返事を聞いてから離れた。俺は襟を引っ張り、まだ中に残っていた水を払った。
◇
その晩、操作小屋で書類をまとめていると、窓際からリネアの声がした。
「……今のは、まだ内緒ね」
顔を上げると、アイがうなずいていた。俺に気づいたリネアは、乾いた布を持ってこちらへ来る。
「槍、拭いておいたよ」
「ありがとうございます。さっき、何の話でした?」
「私の相談。まだ、まとまってないから」
そう言って、俺の前へ布を置いた。
俺はうなずき、残っていた柄の水を拭いた。リネアは窓際へ戻らず、横の椅子へ座って修理の記録を開いた。
紙へ書き込む音が近くで続いた。俺も道具の数を確かめ、乾いたものから袋へしまっていった。
翌朝、帰りの足場を試した。三人とアイ、それに工具箱を一度で渡せる幅ができる。
リネアは修理に使った道具と、余った金具を一緒に運んでいた。俺も回収器の箱を二つ重ねて渡る。
足元が広いと、こんなにも歩きやすいのか。前を行くリネアに話しかけられ、俺は箱を持ったまま隣へ並んだ。