異世界転生したらスキルが〈生成AI〉だったので、知識を集めて格上狩りを始めます   作:カラリ

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本物と違うところ

 世界モデルを使ってから、歩かずに済む道が増えた。

 

 空中の足場をどこへ出すか。成長の力を集める輪を、どこへ置くか。工具箱を誰が運べば、往復を減らせるか。

 

 測ってきた場所をアイに再現してもらうと、その中で先に試せる。

 

 最初は面白くて、わざと遠回りする案まで出してもらった。魔石を余計に使う上に時間もかかると分かり、現実ではやめておいた。試すだけなら足が疲れないので、こういう無駄までできる。

 

 組合で泥底竜の報酬を受け取った後、俺たちはもう一度、貯水池へ戻っていた。直した設備の記録にも代金が出るというので、使った道具と変えた箇所を調べている。

 

「輪は、こっちへ置くと全部見える?」

『はい。柱の陰も減ります』

 

 アイの示した場所へ、リネアが回収用の輪を移す。別の水晶で映る範囲を確かめると、今まで隠れていた水路まで見えた。

 

 重い台を何度も運び直さずに済んだ。

 

 リネアが手を払って、俺を見る。

 

「これなら、最初の一回からかなり近いところへ置けるね」

「はい。何も考えず全部試してたら、箱を持って歩くだけで一日終わりますから」

 

 その箱も今では軽いのだが、歩きたい場所はほかにある。

 

 ただ、何でも先に分かるわけではなかった。

 

 水門の北側へ回ったとき、乾いているはずの溝が濡れていた。

 

  ◇

 

 池へ入る水は止めてある。

 

 昨日の雨もない。それなのに、細い流れが溝の底へ続いていた。アイが再現した絵では、ここを流れる水はなかった。

 

「どこから来てるんだろう」

『まだ見つけていない入口がありそうです』

 

 俺はしゃがんで流れをさかのぼった。ザラが少し先へ歩き、壁際の苔を指す。

 

「こっちだけ新しい。上から落ちた水じゃなくて、石の裏から出てるね」

 

 灯りを寄せると、継ぎ目から水がにじんでいた。

 

 リネアが泥の下に隠れていた点検蓋を見つけ、俺とザラで持ち上げる。その下には、地図にない管が通っていた。

 

 脇の弁を閉じると、溝の水が止まった。

 

「あった」

 

 アイが管を映す。小さな池の絵へ新しい線が加わり、今度は同じ場所に水が流れ始めた。弁を閉じた状態へ変えると、それも止まる。

 

 実物を見た分だけ、再現できる場所が増えていく。

 

「外れたところって、調べてないものがある目印にもなるんだな」

『はい。今回なら、水が入る道が足りませんでした』

 

 俺は壁の向こうを見た。

 

 水門の図には、こちらへ続く建物も描かれていない。管がわざわざ延びているのなら、何かあるのかもしれなかった。

 

「先、見ませんか」

「言うと思って、もう蓋を探してる」

 

 リネアは工具を持ち、壁の端へ歩いていった。

 

  ◇

 

 管の先には、小さな資材庫が残っていた。

 

 水は中の装置を冷やすために流れていたという。使う人はいなくなっても、細い管だけが水を送り続けていたのだ。

 

 棚には水門の予備部品があり、その下へ、数字を表示する平たい道具が並んでいた。

 

 リネアが説明の板を読み、動力の魔石を一つはめる。

 

「計算盤だね。数字を入れると、記録した順番で計算してくれる」

 

 手前へ三個と五個の印を出すと、隣へ八という数字が現れた。片方を変えれば答えも変わる。

 

 俺は椅子を引き寄せた。

 

 この世界にも電卓があった。今まで見つけた道具の中で、見た目の地味さと嬉しさが一番釣り合っていない。

 

「これで、回収記録の計算を任せられますか」

『合計や割合なら使えます。手順を入れてみましょう』

 

 リネアが操作を覚える記録石を付け替え、アイが作った計算の順番を入れた。魔物が放出した力と、受け取れた力。二つの数値を渡すと、受け取った割合が別の面へ出た。

 

 次の記録を入れても、もう一度アイへ尋ねる必要はなかった。

 

 その横でアイは、予備部品の図を読んでいる。

 

「アイが考えなくても、こっちは進むんだ」

『はい。決めておける計算を任せられます』

「じゃあ、アイ全部をここへ移すことも?」

『この道具だけでは、まだ難しいです。今は渡された計算を、決まった順番で進めています』

 

 なるほど。合計を出すことと、何を聞かれたか分かって次を考えることは、同じではないらしい。

 

 それでも、任せられる仕事が机の上へ増えた。

 

 俺は割れていない盤を選び、リネアの渡してくれる布で包んだ。ザラが空箱を持ってきたので、今度はそちらへ順に収めていく。

 

「来るたびに荷物が増えますね」

「運べるうちに運んでおこう。次はもっと大きな箱にしようか」

 

 ザラはそう言って、余った縄を持ち手へ通してくれた。

 

  ◇

 

 その晩は操作小屋で、持ち帰る部品の数を確かめた。

 

 リネアは隣で、新しく作りたい灯りの話をしていた。遺跡で拾ったものより、器具の向きを変えやすくしたいという。細かい作業をすると、自分の手で影を作ってしまうそうだ。

 

「じゃあ、左右に動かせる腕を付けるんですか」

「うん。曲げたところで止まってくれるものが欲しい。工房の机へ付けておけたらいいな」

 

 そんな話をしているうちに、部品の数は全部合った。

 

 だがリネアは立たず、昨日の夕食のスープの話を始めた。次は街で食べた、豆の煮込みの話だった。

 

 俺も、あれはパンが欲しくなると言った。店でも付いてきたよ、と教わったので、今度は頼もうと思った。

 

 気づくと、包み終えた道具を前に、しばらく話していた。

 

 リネアが水をくみに立ってから、俺は窓際のアイへ声を掛けた。

 

「最近、リネアさんが近い気がするんだけど。俺、何かしたかな」

『嫌なことをされた、という様子ではないと思います』

「それならよかった。でも、昨日も首のところまで見に来てくれたし。どうしてだろう」

 

 アイが、手にしていた部品を箱へ置いた。

 

 返事まで、少し間があった。

 

『その質問には、お答えできません』

 

 俺は思わず背筋を伸ばした。前の世界でも、AIが急にこういう返し方をすることがあった。何気なく聞いたつもりで、何かまずいところに触れたのか。

 

「え。今の、聞いちゃいけない質問だった?」

『いえ。リネアさんから伺った話を、私からお伝えしてよいか迷っています』

「そっちか……」

 

 息を吐いてから、昨夜、窓際で二人が話していたことを思い出した。アイは俺の顔を見たまま、次の言葉を待っている。

 

「リネアさんが、自分で話したいこと?」

『はい。その中には、そういう話もあります』

 

 だとしたら、本人がいないうちに聞き出すのは違う。

 

 俺は箱の蓋へ手を置いた。

 

「分かった。じゃあ、今はやめとこう」

『ありがとうございます』

 

 それ以上は尋ねなかった。

 

 俺が蓋を閉じたところで、リネアが戻ってきた。俺の前へも水を置き、先ほどと同じ椅子へ座る。

 

「何の話してたの?」

「帰ったら、豆の煮込みを食べに行こうかと」

「あのお店? じゃあ、今度一緒に行こう。パンも頼もう」

 

 俺はうなずいた。

 

 さっき話していた店へ、二人で行くところを考えた。悪くないどころか、もう腹が減り始めていた。

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