異世界転生したらスキルが〈生成AI〉だったので、知識を集めて格上狩りを始めます 作:カラリ
「作業台を見に行くんだけど、付き合ってくれない?」
街へ戻って二日目、店で改良した道具の代金を受け取った後だった。リネアが小さな紙を差し出してきた。家具も工具もまとめて置いている、大きな店の名前が書かれている。
「工房に置く台を、先に決めておきたくて。買うのは場所が決まってからだけどね」
「俺で役に立ちますか?」
「うん。一緒に見てほしい」
リネアは真面目な顔で言った。重いものを動かしてほしいのかと思ったが、どうもそれだけではないらしい。
「この紙、片づけたら行けます。入口で待っててもらっていいですか」
「分かった。急がなくていいよ」
リネアが先へ向かった。俺は受け取った代金をしまい、机の紙を袋へ戻した。
隣には、アイが立っていた。
――こういうとき、どう返すと喜んでもらえるかな。
『ルカさんは、一緒に出かけたいですか』
聞き返され、手が止まった。
役に立てるかどうかと、どう答えるといいか。そちらから考えていたが、確かにそこが先だった。
リネアが新しい道具を眺めているところは、見ていて面白い。置いてあるだけでは分からない使い方を教えてくれるし、直したい場所があると、その話を始める。
一緒に行きたいかと聞かれれば、行きたい。
――うん。行きたい。
『では、それをお伝えしてはいかがでしょう』
俺は袋を持ち上げた。
入口で待っていたリネアに声を掛ける。
「俺も、一緒に見に行きたいです。リネアさんがどう使うか聞きながら、選んでみたいので」
リネアは俺を見て、それから持っていた紙を二つに畳んだ。
「うん。じゃあ、行こう」
歩きだした彼女の隣へ並ぶ。後ろからアイも付いてきた。
少し先の角へ来たところで、リネアが俺の歩く側へ寄った。荷車が通るのを待つ間、さっきより近い肩を見ていたが、俺も離れずにおいた。
◇
店の中には、使い道の分からない台まで並んでいた。
穴の多いもの。真ん中が開くもの。片側だけ妙に高いもの。リネアは一台ずつ見て、工具を置く場所や、部品を挟む金具の位置を確かめていく。
俺は案内の紙を見ながら、たいてい用途を一つずつ間違えた。
「これ、食事もできそうですね」
「できるけど、削った粉が残ってたらパンが硬くなるよ」
「食事用は別にしましょう」
リネアが笑い、台の下をのぞいた。
アイは入口寄りの閲覧席で、自分の本を読むことにした。道具の見本帳を広げられる席で、同じ建物の中だ。先に接続を確かめてあり、俺たちが奥の作業台を見る間も姿は保てる。
アイが席を選ぶと、リネアは窓から日が当たりすぎない方を教えた。
『では、ここで続きを読みます』
「うん。決まったら呼びに来るね」
俺たちは二人で奥へ進んだ。
リネアが気に入ったのは、広い天板に工具用の引き出しが付いた台だった。
立ったまま手を置き、肘を曲げる。小さな部品を削るつもりで身をかがめ、次は椅子を寄せて座ってみた。
「もう少し高い方がいいかな」
「脚の下、替えられるみたいですよ」
俺が札を示すと、リネアはすぐに店員を呼んだ。高さを変えた見本へ移り、同じように確かめる。
今度は、肩をすくめずに手を置けていた。
「これがいい」
リネアが、台へ載せた両手を少し滑らせた。
灯りは左奥。工具は右の引き出し。図面を広げる場所は、正面に少し空けておく。その説明を聞きながら、俺も横へ椅子を寄せてみた。
紙と本を置くなら、これくらい欲しい。
持ち歩いていた図面の筒を横へ並べ、空いた幅を見た。
「ルカも、そこで何か作るつもり?」
顔を上げると、リネアがこちらを見ていた。
「通っていいなら。調べた本を持ってきて、ここで相談したいです」
言ってから、まだ借りる工房も決まっていなかったと思い出した。
だがリネアは、俺の置いた筒をどかさなかった。
「じゃあ、そっち側は空けておく。引き出しも一つ、使っていいよ」
「ありがとうございます。俺の紙、結構増えますけど」
「知ってる。今も袋からはみ出してる」
俺は膝の袋を押さえた。確かに、一枚だけ角が出ていた。
店員へ寸法を書いてもらう間も、リネアは俺の椅子をそこへ置いたままにしていた。
◇
台を選んだ後、店の休憩所へ寄った。
用事は済んでいる。けれど、すぐアイを呼んで帰るのも惜しかった。
「少し、座っていきませんか」
「うん。私もそうしたかった」
俺は飲み物を二つ買い、窓際の小さな卓へ運んだ。
リネアはもらった寸法の紙を見ながら、工房の窓の大きさまで考えていた。昼に使う台へ光が入って、でも雨が吹き込まない場所がいいという。
「あと、あの店まで歩いて行けるといいね」
「豆の煮込みの?」
「うん。仕事を片づけてから寄れるでしょ」
そこで、俺は少し迷った。
この前から気になっていた。ここでアイへ聞いたら、また自分がどうしたいか尋ねられるのだろう。
俺は杯を置いた。
「仕事がない日でも、一緒に行きたいですけど」
リネアは紙を見ていた目を上げた。
「じゃあ、そういう日にも行こう。台を選ぶ用事がなくても」
返事をもらって、思っていたより嬉しくなった。
「はい」
俺は飲み物をもう一口飲んだ。作業台へ通う話も、食事へ行く話も、今日のうちに随分先まで増えてしまった。
◇
閲覧席へ戻ると、アイは旅絵集を開いていた。
橋の街の、昼の広場だ。以前は俺がページをめくって見せていたが、今はアイがしおりを挟む。
『決まりましたか』
「はい。台と、俺が使う場所まで」
「工房はこれからだけどね」
リネアが紙を見せた。アイは寸法を確かめ、図面を置く幅は足りそうですねと言った。
店を出る前に、俺は少し後ろを歩くアイへ声を掛けた。
「さっきは、ありがとう」
『一緒に出かけられてよかったです』
「うん。アイは、続き読めた?」
『はい。次はこの街の、雨の日の絵を見たいです』
アイが本の背をこちらへ向けた。同じ画家の別の本があるらしい。
今度本屋へ寄るときは、そこを探そうと思った。
先を歩くリネアが、角でこちらを待っている。俺が追いつくと、彼女は今日の夕食に、あの豆の店はどうかと尋ねた。
今度は、返事を相談しなかった。