異世界転生したらスキルが〈生成AI〉だったので、知識を集めて格上狩りを始めます 作:カラリ
翌朝、石の鎧を背負った岩甲虫をもう一匹倒した。少し申し訳ないくらいあっさり勝てた。
もちろん、向こうが弱くなったわけではない。昨日と同じ崖を選び、最初から棒を縁へ預け、石が落ちる前に槍へ持ち替える用意もしておいた。その上で腕の力まで増えているのだから、同じことをするにも余裕が違った。
首の後ろへ槍を刺し、脚が止まるのを待つ。胸へ入ってきた熱を感じながら数字を見つめていると、レベル9になり、それから目当ての数字へ変わった。
〈レベル10〉
「よしっ!」
もう少し落ち着いてからにしよう、とは思わなかった。崖から離れて座るなり一覧を開く。暗かった標準モデルの文字が、今日は明るい。
記録を引き継ぐという説明を確かめ、すぐに切り替えた。
――アイ、聞こえる?
『はい。標準モデルへ切り替わりました』
同じ声だった。
――昨日調べた石のこと、覚えてる?
『はい。火と風の魔力が混じった欠片ですね。加工の本は、閉館で途中になっています』
そこまで覚えているなら話が早い。少し安心した自分に気づいてから、袋へ手を入れた。昨日買い取ってもらえなかった、濁った欠片がある。
昨夜の閉館まで調べて分かったのは、火や風といった属性が混ざると、普通の器具では使いにくくなるということだった。分ける道具もある。ただし小さな欠片をいちいち調整していては、職人の手間賃の方が高くなる。
そういう調整こそ手伝ってほしい。
――この欠片から、火と風の魔力を分けて取り出したい。昨日の本から考えられるかな。
『はい。まず加工器具と測定器が必要です。使えるものが見つかったら仕様を見せてください』
今度は、何をどう測るかという手順まで出てきた。難しかった本の説明が、俺にも店で尋ねられる順番に整理されている。
なるほど。今すぐ試したい。
俺は戦利品を拾い、昨日より軽く感じる荷物を背負って街へ戻った。
◇
「その針、仕事で使ってるの?」
回収品の店をのぞいていると、横から声を掛けられた。短い栗色の髪の女性が、俺の背負った排魔針を見ている。傍らの荷車には壊れた灯りや錠前が積まれていた。
「岩甲虫の石を外すのに使いました」
「ああ、そっちか。それで槍も持ってるんだね」
話が早くて助かる。俺は袋の欠片を取り出し、こういうものを測れる道具はないかと尋ねた。
「火と風が混ざった混成石か。魔力を分けたいの?」
「はい。器具さえあれば試せるかもしれなくて」
「専門の店なら処理してもらえるよ。この大きさだと赤字になるけど」
女性は荷車から別の欠片をつまみ上げた。俺の石より緑の筋が多い。
「同じ鉱山の石ならまとめて同じ設定を使えるんだ。でも回収品は一個ずつ違う。職人に銅貨30枚払って、できたものが25枚じゃ困るでしょ」
世間が気づいていない儲け話、というわけではなかった。みんな処理の仕方を知った上で、割に合わないから置いてある。
それなら、かかる手間を減らせればいい。
「その調整を早くできるかもしれません。そういうスキルを持ってまして」
用意した測定の紙を見せると、女性は途中から真剣な顔になった。最後まで読んでから店の奥へ声を掛け、使った分の材料費と器具の借り賃を後で精算するならいい、という返事をもらってくれた。
「私はリネア・カレム。魔道具の回収と解除をやってる。これ、私も試してみたい」
「ルカ・エルバンです。助かります」
自己紹介を済ませると、そのまま作業台へ通された。
◇
欠片から取り出した魔力を売れる形にするために、空の魔石を二個買った。火の魔力をためるものと、風の魔力をためるものだ。使い切っても石自体が壊れていなければ、また充填して使えるという。
その横へリネアが測定皿と、二本の管が付いた器具を並べた。片方の管から火の魔力を、もう片方から風の魔力を取り出し、別々の魔石へ入れる仕組みだ。
「地面へ捨てるだけなら簡単なんだけどね。商品として取り出すなら、この辺の加減が要るんだ」
欠片を皿へ載せて器具を動かすと、火の魔力が赤い光になって管へ流れた。ところが勢いを強めると、風の魔力を示す緑の光まで混じり始めた。
強く吸えばほかの属性も引っ張り、弱すぎれば時間がかかる。しかも中身が減ると加減も変わる。一度つまみを合わせて終わりではないと聞き、職人の手間賃にも納得した。
俺はアイの説明を書き留めた紙を見ながら、測定を頼んだ。流す勢いを何度か変えてもらい、目盛りと光を見せる。
『今回の石の手順ができました』
出てきたのは最初の設定だけではなかった。途中で変えるところと、取り出すのをやめる位置まである。俺が順に伝えると、リネアは器具へ置いた手を止めてこちらを見た。
「減ってからの分も分かるの?」
「今の測定で考えてくれたみたいです」
「じゃあ、やってみよう」
リネアがつまみを合わせ、俺が空の魔石へつながる管を開いた。火の赤い光と、風の緑の光が、別々の魔石へ流れ込んでいく。途中で設定を変えると、光が薄くなっても混ざらなかった。
欠片が暗くなる代わりに、空の魔石が色づいていく。赤くなった方をリネアが灯りへはめた瞬間、作業台が明るくなった。
「ついた」
俺はしばらく灯りを見ていた。魔力が入っていることと、ちゃんと使えることは、思った以上に違う。昨日は返されたものが、今は店の道具を動かしている。
後ろで見ていた店主が石を手に取り、銅貨20枚で買えると言った。元の欠片なら一枚ほど。風の方にも値段が付くという。
「20倍……」
「空の石と道具代も払ってね」
リネアに言われて我に返った。もちろん払う。それを引いて残る分が大事なのだ。大事なのだが、昨日値段の付かなかった石が光っているのを見ると、つい嬉しくなってしまう。
木箱にはまだ欠片がいくつも入っていた。
「ほかの石も試していいですか?」
「私も頼もうと思ってた」
リネアは笑って箱を机へ載せた。
◇
昼過ぎまで、二人で欠片から火と風の魔力を分けて取り出し続けた。
火が多い石もあれば風が多い石もある。見た目が似ているのに流れ方の違うものまであったが、測るたびにアイは別の手順を出してくれた。リネアが設定を考え込んでいる時間が減り、小さな欠片でも間に合う速さになっていた。
俺も途中から器具を任された。アイに正しい目盛りを教わっても、つまみを回しすぎれば混ざる。慌てて戻そうとしたところで、リネアが魔石へつながる管を閉じた。
「先にこっちを閉じて。せっかく分けた魔石へ、混ざった分まで入っちゃうから」
混ざった分だけを小皿へ逃がし、目盛りが落ち着いてからつなぎ直す。俺がつまみをにらんでいる間に、リネアは出口まで見ていた。
次からは指先だけでそっと動かした。最後まで濁らずに分けられると、できた石を余計に眺めたくなった。
「ルカって、前は回収の仕事をしてた人?」
「いえ。昨日、成人儀式を受けたばかりです」
「昨日?」
リネアの手が止まった。
「岩甲虫も初めてだったの?」
「昨日のが初めてで、今朝もう一匹です。それでレベル10になりました」
「ずいぶん早いね。街道の護衛で頼りにされる人でも、30から50くらいだからね」
「まず10でスキルの上の機能が使えるので。早く試したくて」
リネアは俺と排魔針を見比べ、それから測定皿を引き寄せた。
「なるほど。今はそれを試してる最中か」
そのとおりだった。実にいい試し方になっている。
出来上がった石は店主がまとめて買ってくれた。売上は銀貨8枚と銅貨20枚。欠片と空の石、それに器具の借り賃で銀貨3枚と銅貨60枚。残った利益を半分にすると、俺の取り分は銀貨2枚と銅貨30枚になった。
銀貨1枚は銅貨100枚だ。これで図書館へ何日通えるか、真っ先に考えてしまった。
「店でもこれをやりたいって。手順を道具へまとめられるなら、そっちも買いたいそうだよ」
リネアが言うので、アイへ尋ねてみた。処理中の記録が集まれば作れるという。継続の仕事までできそうだった。
だが一覧を開くと、次に欲しいものもちゃんと並んでいた。
〈推論モデル レベル30で解禁〉
今度は30か。
標準モデルを使い始めたばかりだが、やはり気になる。俺は財布をしまい、次の道具にどれくらい使えるか考え始めた。
◇
片づけていると、リネアが古い錠前を持ってきた。外側が割れているのに、中の細い線だけはまだ光っている。
「私が入りたい遺跡の鍵なんだ。同じようなものが何重にも掛かっててね。これも見てもらえる?」
錠前をアイへ見せたが、今度はすぐに答えが出なかった。刻まれた魔法の図を読むための資料が足りないという。
――分かった。どんな本から探そうか。
『遺跡で見つかった文字や図を集めた本があれば、そこから比べられます』
返事を伝えると、リネアは錠前の裏へ指を当てた。小さな字で、扉の番号と日付が書いてある。日付は一つではなかった。
「何度も行ってるんですか?」
「入口まではね。壁の絵に、見たことのない道具がいっぱい描いてあるんだ。奥に記録が残ってるかもしれない」
リネアは荷車にある壊れた灯りを持ち上げた。俺にはどれも同じように見えたが、錠前とよく似た線が底へ刻まれていた。
「これも、その遺跡の近くで拾ったもの。直してみたら、今売ってる灯りの半分の魔力で動いたんだよ。中には何があるのか、見たくならない?」
「なりますね」
扉の手前に落ちていたものでそれなら、奥はなおさらだ。リネアは灯りを元へ戻し、錠前だけを布で包んだ。
「次に行くときは、ちゃんと開けたいんだ」
俺が袋へ道具を戻していると、底にまだ分けていない欠片が見えた。赤と緑の混じった光だ。器具へ入れると邪魔になる組み合わせだったが、使い道はほかにもあるかもしれない。
「リネアさん。火の魔力を吸う魔物っていますか?」
「いるよ。東の討伐依頼に出てたはずだけど。何をする気?」
「火を吸わせるときに、風まで混じってたらどうなるのかなって」
リネアは欠片を見て、少し考えた。それから作業台に置いていた図鑑を俺の前へ広げる。
「それなら、この辺を読もうか」
俺は売り物にするはずだった欠片を、別の小袋へ移した。