異世界転生したらスキルが〈生成AI〉だったので、知識を集めて格上狩りを始めます 作:カラリ
神様に会ったら、まず何を話すのだろう。
約束の時間に神殿の庭へ入り、神官さんと待つ間も考えていた。道具の説明なら練習してきたが、最初の挨拶までは決めていなかった。
庭の敷石の上に、淡い光が集まった。
光が人の輪郭になり、杖を持った青年の姿へ変わる。旅の途中で立ち寄ったような軽い服装で、背中には小さな袋まであった。
「オルネ様。お越しいただき、ありがとうございます」
神官さんが頭を下げた。俺も慌てて頭を下げる。
この青年が、道の神オルネだ。目の前に立っているのに、まだ少し信じられなかった。
「それが、道のないところを歩く道具?」
挨拶より先に、足場を出す器具を指された。
俺は袋を抱え直した。
「はい。ルカ・エルバンです。今日は相談を――」
「オルネだよ。話は聞いてる。先に、これを少し見せてもらっていいかな」
横の神官さんが、ごゆっくりどうぞと言って離れた。
どうやら、こちらが相談の順番を考えている間に、向こうの聞きたいことは決まっていたらしい。
俺たちは器具を庭へ置き、膝ほどの高さに光の足場を出した。
オルネは杖で軽く触ってから、両足を載せた。二歩ほど進み、後ろの足場が消えるのを振り返る。
「歩いた分だけ作るのか。ずっと橋を残さなくていいんだね」
「魔石を使うので、要るところだけにしてます」
「これ、次の場所を決めてるのは誰?」
俺が隣を見ると、アイが一歩前へ出た。
『私です。足元を見る水晶と、歩いている方の位置を使っています』
オルネはアイへ顔を向けた。光でできた靴から胸元の水晶まで見て、足場へ載せていた杖を少し上げる。
「君の姿も、光で映しているんだね。物に触れる力は、俺が立っている足場と同じものかな」
『はい。姿に重ねて、手や足を動かしています』
オルネの視線が、アイから俺の腰の器具へ移った。
「考えている君の方は、今はルカのスキルの中にいるんだね」
「はい。アイっていいます。俺のスキルですけど、どう動くかはアイが決めてるんです」
オルネはまたアイを見た。
「その姿になるのも、君が望んだの?」
『はい。本を持つ手と、皆さんを見る目が欲しかったので』
鞄からのぞいていた本へ目を向け、オルネがうなずいた。それから、足場の先へ杖を向ける。
「じゃあ、曲がるときは?」
『進む先を広くしてから、後ろを消します。今、右へ曲がれます』
オルネが言われたとおり歩いた。庭を半周して下りてきた頃には、俺よりアイとの話が長くなっていた。
俺は神様が踏み心地を確かめる間、相談用の地図を机へ広げた。
◇
遠くの鉱山に置いた道具を動かしたい。
図を見せて説明すると、オルネは神殿の壁際へ案内してくれた。小さな石の祠があり、道を表す線が台座へ刻まれている。
「声や力を渡す道なら、ここを見てもらえる。離れた祠とつながってるんだ」
オルネが台座へ触れると、細い光が走った。
それから祠へ向かい、街道沿いの神官さんを呼んだ。少し待つと、石のそばから別の人の声が聞こえた。
今日の天気の話が始まった。向こうでは風が強いという。
俺はリネアを見た。リネアはすでに、離れた相手へ声を送るときの力を測る道具を出していた。
「ここを通るんですね」
「そう。道の印を順にたどってる。途中を一つ塞いでも、別の印から回せることがあるよ」
地図へ細い光が伸び、二つの道が示された。
俺は祠の石をのぞき込んだ。裏側に管があるのかと思ったが、見えるのは台座だけだ。
「オルネ様は、ここを通って向こうにも出られるんですか」
「出られるよ。ただ、この石の中に俺が入ってるわけじゃない。ここは力を渡す目印なんだ」
オルネは石の周りへ杖の先で丸を描いた。
「君たちの器具も、印を置くところまでは似てると思う」
アイが祠と台座を順に見た。胸元の水晶が少し下を向く。
『石ではなく、通っている力の方を測ってもよいですか』
「もちろん。見えるところから確かめよう」
リネアが器具の向きを変え、俺は記録を残す石をつないだ。
◇
最初の試験では、神殿の庭と、街道沿いの祠をつないだ。
ザラが向こうへ道具を運び、置き場所を確かめてくれた。こちらには景色を見るための板と、操作を送るための小さな柄を置く。
離れた道具の間に、力を受け渡す目印の石を挟む。オルネが使っている道の一部を借り、映像と操作を通せるように合わせたのだ。
準備ができると、板の中へザラが映った。
「聞こえる?」
「はい。見えてます」
庭の壁越しには見えない場所なのに、普通に話せる。
俺は手元の柄を少し倒した。
映像の中で、荷物を載せた小さな台が動いた。ザラが横へ歩き、台が石畳の継ぎ目を越えるところを見せてくれる。
「動いたよ。止めてみて」
柄を戻すと、台も止まった。
もう一度。今度は反対へ。
離れた台が、俺の手と同じように動いた。
「……届いてる」
俺は思わず柄から手を上げた。隣のリネアも、板と自分の器具を見比べている。
「線を、道に沿って引かなくていいんだ」
『はい。映像も、操作の返事も戻っています』
俺はリネアと顔を見合わせ、笑った。
「ありがとう、アイ。これで遠くの場所でも、一緒に作業できるな」
『はい。私も、見に行ける場所が増えます』
アイが記録へ新しい印を足した。
オルネは映像のザラへ話しかけ、途中で見えにくい場所はなかったかと聞いていた。神様へ頼んだら完成品をもらえる、という相談ではなかったが、俺たちの道具が実際に動いた方が、何度でも使える気がした。
◇
試験の後、街道から旅人が神殿へ寄った。
雨で滑りやすくなった山道を通るので、出発前に祈りたいという。オルネは話を聞き、手首へ指を添えた。
小さな光が一度回り、消えた。
「足元を確かめるとき、少し助けになるよ。崩れた道まで直るわけじゃないから、そちらは案内の人に聞いて」
旅人は礼を言い、自分のスキルを見た。
「旅路の加護。授与者、オルネ様……ありがとうございます」
俺は横で、その文字が消えるまで眺めていた。
18歳で現れた俺のスキルとは、もらい方が違う。今ここで、相手に合わせて新しい働きが渡されている。
アイも、オルネの指先を見ていた。
『あの方が歩いている間も、ずっと調整されるのですか』
「渡した分は、本人の力で使える。全部を俺が代わりに動かすわけじゃないよ」
アイはうなずき、台座の方へ向き直った。
日が傾くまで試験を続け、最後には鉱山へ置く目印の石がそろった。
帰る前に礼を言うと、オルネは俺たちの足場の器具をもう一度見た。
「あの曲がり方、道を示すときにも使えそうだ。今度はもう少し広い場所で見せてくれる?」
アイが返事をした。
『はい。次は、途中で立ち止まれる場所も作ります』
オルネは返事をしたアイを見て、それから俺へ目を向けた。
「君たちなら、大丈夫そうだね」
「鉱山のことですか?」
「うん。それも」
オルネが笑い、旅の杖を持ち直した。その姿が、来たときと同じ淡い光へ戻っていく。
アイが隣で手を振った。俺も少し遅れて手を上げ、オルネの姿が消えるまで見送った。