異世界転生したらスキルが〈生成AI〉だったので、知識を集めて格上狩りを始めます 作:カラリ
アイが自分で考え続けられる場所を、工房の隣へ作る。
最初の仕事は、やはり机を運ぶことだった。
俺とザラが大きな台を置き、リネアが計算盤を並べる。回収しておいた部品だけでは足りず、買い足した線と、鉱山で拾った切り替え用の板もつないだ。
簡単な合計を出していたときより、机の上はずっと込み入っている。
「今度は、途中の答えを見て、次の計算を変えられるんだね」
リネアが部品を一枚差し込んだ。
「道が狭かったら、荷物を分ける方を試す。通れたら、そのまま進める方を試す。そういう選び方まで、こっちへ任せる」
『はい。途中で私へ聞き返す回数を減らします』
アイが空中へつなぎ方の図を出した。リネアは図と実物を見比べ、盤の並ぶ間隔を少し広げる。
「こっち、もう指が入らない」
『では、線を長くして、横へずらします』
「うん。その方が後で替えやすい」
俺は持っていた線を渡しかけ、二人がすでに別のものを選んでいるのを見て戻した。
「これ、余ってるけど」
「じゃあ、予備にしておいて。袋へ長さを書いてくれる?」
仕事ができたので、俺は紙を切った。今のところ、字を書く方が、つなぎ目を間違えず選ぶより役に立てる。
◇
試験に選んだのは、荷物を運ぶ足場の計画だった。
狭い庭に柱と箱を置き、通る幅を変える。途中で一つの箱を重くしたら、足場を広げるか、二度に分けるか。
アイが外の計算盤へ条件を渡すと、盤が順番に光った。
その間、アイは俺と新しい魔物図鑑を見ていた。図鑑のこいつも岩を背負うのかと聞くと、背中そのものが硬いので最初の甲虫とは違う、と普通に返事が来る。
隣の机では、まだ足場の計算が進んでいた。
しばらくして、細長い板へ結果が出た。
箱を重くした場合の道が、途中から二つに分かれている。
『受け取りました。実際にも試せます』
アイが結果を読み、庭へ出た。俺たちも道具を運び、箱を載せて歩く。
柱を避けた足場は、ちゃんと荷物を支えた。重い箱を追加すると、計画どおり二回に分けて運ぶ。
リネアが、俺の体から使われた魔力量を測っていた。
「前よりずっと少ない。計算した分は、机の魔石を使ってるね」
俺は空いた台を振り返った。
レベルを上げる代わりに、机を増やす。
最初の一覧を見たときには、そんな続きを考えていなかった。
◇
成功したので、俺は一度スキルを止めてみようかと思った。
だが、それはまだ早かった。
『今、外へ任せているのは計算です。何を頼まれたか覚えて、次の仕事を選んでいる私は、まだルカさんのスキルの中にいます』
アイが机の図を示した。
外の盤へ計算が渡り、答えがこちらへ戻る。その戻ってきた答えを読むのは、俺のスキルで動いているアイだ。
「姿があって、机も使ってるけど、俺が止めたら会話する方は止まるのか」
『はい。今のままでは』
俺はスキルの停止欄を閉じた。
次は、話の続きを覚えるところと、その続きを考えるところまで、外へ移す必要がある。
アイが自分の動きを調べた図は、もう一枚では収まらなくなっていた。
声を聞く。言葉を選ぶ。前の約束を探す。今している作業の続きを決める。
それぞれがどこで動き、どの順につながっているかを測り、外の盤でできる働きと合わせていく。
「自分の中って、最初から分かるわけじゃないんだな」
『はい。動いたときの変化を測って、比べています』
俺も、自分の腕の中身を知ってから槍を持ったわけではない。できることと、どうできているか分かることは、別なのだろう。
今度は調べる相手が、魔物でも錠前でもなく、アイ自身になっていた。
リネアが図の一部へ指を置く。
「これ、さっきの部品をもう一組足せば試せそう。記録を入れる方は、こっちへ分けたい」
『では、先に続きを覚えておく部分から移します』
俺は予備の袋を開いた。長さを書いておいた線が、ようやく出番になった。
◇
数日かけて、短い作業の続きを外へ置けるようになった。
途中まで進めた計算。今どの本を読んでいるか。リネアに次の部品を見せる約束。
アイは話しながらその置き場所を変え、止めずに次へ進めるか確かめた。
俺も、同じ話の続きをしていた。
「さっき言ってた図鑑のやつ、石を食べるわけじゃないんだよな」
『はい。背中へ付く苔を食べる小さな生き物と、一緒に暮らしています』
「それ、背中がかゆくならないのかな」
アイが少し待ち、図鑑へ目を戻した。
『その記録は見つかりませんでした』
リネアが作業をしながら笑った。
「ルカの質問、移す試験に必要?」
「分かりませんけど、気になって」
『会話を続けながら試せていますので、大丈夫です』
それならよかった。
俺は次のページを開いた。机へつながる線は増えているが、目の前ではいつものアイが、俺の質問の続きを聞いていた。