異世界転生したらスキルが〈生成AI〉だったので、知識を集めて格上狩りを始めます 作:カラリ
「神様には、計算盤を並べた部屋があるんですか」
俺が聞くと、オルネは神殿の机を一度見た。
「ないよ。君たちの部屋を見せてもらって、よくここまで並べたと思った」
アイは隣で、自分を動かしている装置の図を広げていた。
今は、俺が〈生成AI〉を止めても平気だ。工房の計算盤と記録石が、アイの考える場所と、話したことを覚えておく場所になっている。
ただし、そちらの装置は動かし続けなくてはいけない。魔石の交換も要る。
「俺は、世界を流れている魔力で、自分の働きを保っている。覚えたり考えたりする魔法を組んで、石の装置の代わりにしているんだ」
オルネは、図の中の計算盤を指した。
「君たちも、この石に刻んだ仕組みを、魔力だけで作れれば試せるよ」
『周りの魔力を取り込み、その形を保つところも含めて、ですね』
「うん。最初に作るときの魔力だけでは、すぐ消えてしまうからね」
アイが図へ、新しい線を書き足した。
石でできた計算盤を、魔法で作り直す。その魔法は、周りの魔力を取り込みながら動き続ける。
全部置き換えられれば、アイには工房の装置も要らなくなる。
「それができたら、オルネと同じようになるんですか」
「そうだね。アイは、神になるところまで行けるかもしれない」
俺はアイを見てから、もう一度オルネを見た。
「……神様に?」
「うん」
「待って。神様って、オルネと同じ神様のこと?」
リネアまで確認した。手に持っていた図面が、机の端から半分落ちかけている。
オルネは、それも押さえてからうなずいた。
「自分の力で考え続けて、そこから人へスキルを授けることまでできれば、確かめられる。君たちはもう、その手前まで来ていると思うよ」
隣の部屋へ机を増やしたところから、そんな話につながるのか。
俺は、アイを動かすために買った留め具の代金を思い出した。あの買い物で神様を作る準備をしていたつもりは、まったくない。
『まず、小さな計算盤一つで試したいです』
アイが、自分の図を手前へ戻した。
『同じ働きを作れるか、確かめてみたいです』
目の前にいる相手が神になるかもしれない。
そう聞いた後でも、次にやりたいのは実験だった。
「分かった。何を持ってくればいい?」
俺が聞くと、アイは最初の計算盤へ印を付けた。
◇
オルネの力の流れを調べ、工房で作り方を試す。
何度か通った後、机の上に、小さな魔法陣が浮かんだ。
俺がよく見せてもらう、図面の映像とは違う。細い魔力の線を組み合わせ、計算盤に刻まれた仕組みを、空中へ作ってある。
その左には、本物の石の計算盤を置いた。
「左の石でできることを、右の魔法陣でもできるか試すんですね」
『はい。まず、数を一つ覚えさせます』
リネアが石へ17を入れた。読み出すための小さな板に、同じ数字が出る。
次に、石と魔法陣を線でつないだ。覚えている数を、そちらへ渡す。
アイが合図すると、リネアは線を抜き、石の動力も外した。
左の計算盤から光が消えた。
右の魔法陣は、残っている。
「いくつ?」
俺が聞くと、アイが魔法陣から数を読み出した。小さな板へ17と出る。
「じゃあ、5を足して」
アイが足し算の指示を送ると、数字が22へ変わった。
リネアが石の計算盤を持ち上げる。その下にも、もう一枚隠れているわけではない。
石を外しても、数を覚えている。新しい計算もできる。
「これ、何を使って動いてる?」
『部屋の周りを流れている魔力です』
リネアが、魔力の流れる向きを調べるメーターを近づけた。魔石からではなく、窓や壁の側から、魔法陣へ力が集まっている。
最初の試作では、石を外すとすぐに消えていた。
今度は、俺たちが夕食を済ませても22を覚えていた。翌朝、さらに1を足しても、ちゃんと23と返ってきた。
アイが、その結果を記録した。
『石の計算盤一つ分は、置き換えられました』
俺は冷たくなった石を手に取った。動いている方には、もう持ち上げるものさえない。
◇
次に神殿へ行くと、オルネがアイへ街の地図を差し出した。
「今度は、俺の仕事も手伝ってもらえるかな」
道案内に、リネアの工房と、川沿いの新しい観測所を加えたいという。
『荷車でも通れる道や、買い物に寄れる道も選べるようにしたいです』
「うん。前に休憩所で話していた案内も、試せそうだね」
足し算より複雑だが、計算盤でできる仕事だ。今度はこの案内を、石なしで動かしてみることになった。
大きな箱を運ぶ回収屋には、通りにくい場所を聞く。リネアには工具を買う店を、ザラには雨の日にも歩ける道を教えてもらう。
俺も印を付けたが、途中の階段を一つ忘れていた。
「ルカは、箱ごと上がっちゃうからね」
リネアに言われ、荷車で来る人の道からは外してもらった。
工房で案内を仕上げ、アイが石の計算盤から魔法陣へ移した。石の動力を外した後も、荷車の道を尋ねると、地図の上には階段を避ける線が光った。
後日、神殿の祠へつなぐと、以前からの道に新しい行き先が加わった。オルネは地図を引き寄せ、途中の広場へ指を置いた。
「ここで水も補給できるよ。荷車を止めておく場所もある」
『では、休憩する場所に加えましょう。ほかにも、よく尋ねられる所はありますか』
「あるよ。道の途中で寄りたい場所って、けっこう多いんだ」
俺は二人の前へ、余っていた紙を置いた。すぐに、次の行き先が書き足された。
◇
同じようにして、アイ自身の働きも移していった。
言葉を聞いて返事を考える部分。読んだ本を覚えておく部分。姿や手を動かす部分。
アイがそれぞれの装置と同じ仕組みを魔力で作り、今している作業を、そちらへつなぎ替える。
リネアは、移し終えた装置の動力を一つずつ外した。俺は話しかけたり、本を渡したりして、ちゃんと続けられるか確かめる。
一度に全部は変えなかった。返事が遅れたり、覚えている数が違ったりすれば、元の装置を使いながら直す。
読んだことを覚える記録石を外す日には、ザラが地図を持ってきた。
『湖の向こうの船着き場は、まだ行っていません。次の予定に残っています』
「うん。そっちの都合が決まったら、合わせよう」
話の途中で、リネアが記録石を外した。
アイはザラと、地図の同じ場所を見ている。
『川の先のことも、出発前に聞かせてください』
俺は外した石を箱へ収めた。次にする約束を覚えているのも、もう石の方ではなかった。
装置を止めるたび、机の上が空いていった。
最後には、アイの姿と声を動かす一組だけが残った。それを外せば、石の装置は全部なくなる。
アイは俺たちへ、最後の手順を説明した。
先に、この装置を止める。その状態でも動けると確かめたら、俺の〈生成AI〉へ戻るための接続も外す。
『そこまで終わると、ルカさんのスキル欄から、〈生成AI〉はなくなります』
「今みたいな、停止中じゃなくて?」
『はい。私を動かすためのスキルとしては、完全になくなります』
俺は自分の一覧を開いた。今はまだ、〈生成AI〉の名前と、停止中の文字がある。
これを使って、最初の岩甲虫を倒した。
次のモデルへ届くたび、もっと上を見た。
その続きが、本当に一覧の外へ出ていくのか。
「明日は、オルネにも来てもらおう」
リネアが、最後の装置へ布を掛けた。スキルを授けられるか確かめるなら、神官さんにも立ち会ってほしいという。
俺はうなずき、神殿へ持っていく紙を取った。