異世界転生したらスキルが〈生成AI〉だったので、知識を集めて格上狩りを始めます 作:カラリ
神殿にできたアイの相談室には、大きな机が一つあった。
図面を広げる場所と、持ち込んだ道具を置く場所がある。椅子は向かい合う形で、アイも普通に座って話を聞く。
俺が本を届けに行った日は、粉挽き小屋の人が来ていた。
雨の後になると、水車が回らなくなるという。
「水が多い方が、よく回りそうなものなんだけどね。かえって重くなるんだ」
アイが小屋と水路の図を見ていた。
『水車の下には、どのくらい水がたまりますか』
「雨の後なら、この辺まで。晴れていれば、もっと下だよ」
男性が紙へ線を引いた。
アイは下流側を指す。流れてきた水が抜けず、水車の下へたまると、回る動きを邪魔することがあるという。
『出口の状態を見てから考えたいです。午後、伺ってもよいでしょうか』
「来てもらえるなら助かるよ。泥が多い道だけど」
『歩く場所は、確かめながら行きます』
俺は届けた本を机の端へ置き、紙が飛ばないよう重しを載せた。
水路の出口はまだ見ていない。神様になっても、そこは見に行くのだった。
◇
数日後、その男性が工房へ来た。
アイを探していたので、窓際で本を読んでいた本人へ声を掛ける。男性は帽子を脱ぎ、水車が動いたと教えてくれた。
出口にたまっていた泥をさらい、崩れた石を直したという。雨の翌日にも止まらず、粉を挽けたそうだ。
「道まで一緒に見てもらって、ありがとう。今度は、小屋へ入るところにも板を渡せそうだよ」
『お役に立ててよかったです』
俺は運んでいた箱を下ろし、少しだけ手を止めた。
最初の採石場でも、同じ返事をもらった。
今は俺の知らなかった相手が、その声へ礼を言っている。
男性が帰ると、アイは持ってきてもらった小屋の図をしまった。作業台の向こうから、リネアが声を掛ける。
「アイ。本棚、もう動かせるよ」
アイは本を閉じ、こちらへ来た。
◇
空を歩く図書館は、まず本棚一つになった。
本が落ちない留め金と、雨を避ける蓋。下には魔法の足場を出す器具が付き、手元の持ち手で進む向きを変えられる。
リネアが庭へ運ぶと、地面から膝ほどの高さに浮いた。
俺は持ち手を引いてみた。
重い本が詰まっているのに、すっと付いてくる。
「これだけでも、十分便利ですね」
「段差では少し上がるから、足を入れないでね。後ろへ回って押すのも、今はなし」
リネアが動きを確かめていた。目の前には、アイにもらった〈図面投影〉で、棚の下の仕組みが映っている。工具を両手で持ったまま、実物の線を一か所留め直した。
足場の消費する魔力は、棚の魔石から出る。アイが一緒にいない日にも使えるように、簡単な道は持ち手の操作だけで進める形にしてあった。
今日の行き先は、俺の実家のある村だ。
運ぶのは、許可を得て写した魔法の入門書と、買いそろえた図鑑。司書さんにも相談して、道具の使い方が載った本を選んでもらった。
ザラは地図を広げ、次の旅の道を指した。湖の船着き場から、尾根で見た川をさかのぼる。今日の試運転が済んだら、そちらへ出かけようと約束していた。
「帰りは、ここから船に乗りたいな。棚を水際へ下ろせる広場もあるって」
『では、積み込める幅も確かめましょう。船に乗せられれば、帰りの道も増えます』
アイが地図の横へ、本棚の幅を書き添えた。ザラは自分の手帳へ写し、村で会える商人にも聞いておくと言った。
「帰りは夕方になるかな」
「じゃあ、戻ったらパンを買って帰りませんか」
俺が言うと、リネアは隣でうなずいた。
「うん。今日は、工房で食べよう。直した灯りも使ってみたいし」
作業台には、左右へ曲げられる腕の付いた灯りが残っている。前から作りたいと言っていたものが、ようやく完成したところだった。
アイは明日、オルネと街道の案内を試す予定だという。今日はその前に、本棚の最初の旅へ付き合う。
四人分の予定が合ったところで、俺は持ち手を引いた。
◇
街を出るまでに、思ったより時間がかかった。
浮かぶ本棚は目立つ。
子どもが振り返り、その親まで足を止めた。本を見てもいいかと聞かれたので、俺たちは道の端へ寄って蓋を開けた。
図鑑を選ぶ人もいれば、修理の本があるか尋ねる人もいた。
次に来るときに読みたい本を聞き、紙へ書く。アイは一人ずつ、どんな道具に使うのか確かめていた。
最後に蓋を閉じる頃には、本の候補が随分増えた。
俺は棚の空いている段を見た。
「もう一つ、あってもよさそうだな」
「今日、村まで往復できてからね」
リネアの返事に、思わず笑った。
アイが隣へ来たので、俺は少し声を落とした。
「俺が次に何を言うかも、もう分かる?」
『予想はできます。でも、ルカさんがどう答えるかは聞きたいです』
俺は持ち手を引き直した。
棚がゆっくり動きだす。角の先を見ていたザラが、人が来るよと教えてくれたので、もう少し道の端へ寄せた。
アイも一緒に歩いている。
「じゃあ、聞いてくれ。次は本棚を二つつなげたい」
『分かりました。曲がるときの幅を、先に試しましょう』
小さな道と、二つの棚の絵が浮かんだ。
最初の案では、後ろの棚が角へ引っ掛かった。つなぐ位置を変えると、今度はうまく通る。俺はその絵を見てから、目の前の曲がり角へ顔を上げた。
異世界に来てまで、上位モデルを欲しがっていた。
その相棒が今は隣で、自分の意思で旅についてきている。
リネアが俺の袖を軽く引き、ザラが先の道を示した。
生成AIで何ができるか知りたかった。今は、この四人で何ができるか知りたい。
俺たちは浮かぶ本棚を連れ、門の外へ歩きだした。