異世界転生したらスキルが〈生成AI〉だったので、知識を集めて格上狩りを始めます 作:カラリ
依頼書の数字はレベル34だった。
俺はそれを見てから図鑑へ目を戻した。牛ほどの大きさで、全身を赤黒い殻が覆う四つ脚の獣。熾殻獣と書いて、しかくじゅうと読むそうだ。名前からして、昨日の虫よりずいぶん強そうだった。
現在の俺はレベル10。増えた腕の力を何度か確かめてみたが、あの殻を槍で割る未来は見えない。
「私は24だけど、それでも正面から割るのは無理だね」
リネアに言われて、力で試す候補はきれいに消えた。
だが図には気になる場所があった。胸元の小さな穴から火の魔力を吸い、殻を強くする。勢いよく吸うと別の属性まで巻き込むことがあり、使えないものは胸の殻を開いて吐き出すという。
その奥には、全身へ魔力を送る柔らかい核がある。過去の討伐記録には、殻の隙間から矢を通して倒した例も載っていた。
「中まで硬いわけじゃないんですね」
「うん。レベルが高くても、全身が同じ硬さになるわけじゃないよ。あの殻に守られてる分、核はむき出しにしたくないんだと思う」
問題は、相手がその隙を見せてくれるかどうかだ。岩甲虫から石を外したように、今度はこちらから殻を開かせたい。
――火に食いついたところへ風を混ぜる。吐くときにここを狙えないかな。
『試せます。吸収をやめても、すでに取り込んだ風を吐き出す時間は必要です』
ずっと無理やり吸わせる必要はない。最初に吐く、その隙があればいい。
俺が伝えると、リネアは昨日分けた石と混成石を机へ並べた。
「なるほど。混じってたら困るのは、器具と同じか」
先に純粋な火の魔力で誘い、吸い始めたら混成石へ切り替える。アイへ器具の図と測定結果を渡すと、必要な石の大きさや切り替える手順がまとまった。
あとは、離れた場所から核を撃てる武器だ。
リネアが貸してくれると言ったので、俺はそのまま組合の練習場へ向かった。
◇
クロスボウは、弦を引いて矢を載せておけば引き金だけで撃てる武器だった。
聞いたときは俺にもできそうだと思った。最初の矢が的から外れたところで、それと当たることは別だとよく分かった。
「肩のここへ当てて。台に置いて撃つなら、腕で全部支えなくていいよ」
リネアに構えを直してもらうと、次は的の端へ刺さった。三本目で円に入り、同じ距離で繰り返すうちに続けて当たるようになってきた。
体は強くなったが、狙い方まではもらえなかったらしい。肩へ当てる位置と、引き金を引く感覚を何度も確かめる。
その横ではリネアが餌の器具を組んでいた。二つの皿を小さな運搬台へ載せ、片方に火だけの魔石、もう片方に火と風の混成石を置く。細い線で手元へつなぎ、離れた場所から流す魔力を切り替えられるようにしていた。
「私はこっちで両手が塞がる。撃つ方は任せるね」
「はい」
任せると言われると、もう少し練習しておきたくなった。結局、もう一束の矢を使ってから出発した。
◇
火の魔力を吸う熾殻獣は、昔レンガを焼いていた場所に棲みついていた。
大きな炉の前へ赤黒い獣が寝そべっている。息に合わせて殻の隙間が光り、そのたびに俺は持ってきた矢の細さが気になった。
あの殻を狙うのではない。胸が開いたところを撃つ。
そう頭の中で繰り返し、手前に残った厚い壁へ隠れた。背後には人が一人ずつ通れる石の通路がある。少し先で横へ折れ、大きな獣は入れない。リネアはそこを確かめてから餌の台を広場へ押し出した。
正面に獣、その手前に餌。俺たちは壁の後ろだ。俺は右端へ寄り、近づいた相手の胸を横から見られる場所へクロスボウを据えた。
「最初は試すだけね。風を吸わせて胸が開くか見るから、まだ撃たないで」
火の石が赤く光ると、獣がすぐに頭を上げた。炉から半身を出し、皿の上に伸びた赤い光を胸の穴へ吸い込む。
リネアが火と風の混成石へ切り替え、餌に風の魔力を混ぜた。
緑の光も吸い込んだ途端、獣の肩が跳ねた。吸収が止まり、胸の殻が左右へ開く。その奥に赤い核が見えたかと思うと、緑の風が前へ噴き出した。
リネアが両方の皿を止めても、風はすぐには収まらなかった。砂が扇形に掃かれていく。
俺のいる壁際は、風が噴き出す正面から外れていた。風が弱まって胸が閉じるのを見届け、ようやく息を吐く。
『開いていた時間は約三秒です』
アイの声を聞いて、俺はリネアへ顔を戻した。
「餌の魔力を止めても、風を吐き終わるまでは胸が開いてましたね」
「うん。構えてれば間に合うと思う」
獣は体を揺すり、また皿へ顔を向けていた。風を吐いたくらいで餌を諦める気はなさそうだ。
俺は肩へ武器を当て、さっき核が見えた場所へ狙いを合わせた。
「次は撃ちます」
リネアがうなずいた。俺も指を引き金へ置いた。
◇
今度は獣が炉から出てきた。
台のすぐそばまで歩き、皿から伸びる赤い光を胸の穴へ吸い込む。リネアが切り替えようとした、そのときだった。
大きな前脚が台へかかった。車輪が鳴って餌が横へずれ、それを追った獣の胸が石柱の陰へ入ってしまった。
このままでは撃てない。
「柱で見えません!」
「右の角からなら見える!」
指された先まで、壁は続いている。俺はクロスボウを抱え、物陰のまま三歩走った。角で据え直すと胸が見えた。
「狙えます!」
リネアが火の皿をもう一度明るくした。獣が胸をふくらませ、赤い光を深く吸い込む。その瞬間だけ緑の光が混じり、すぐに皿は両方とも暗くなった。
さっきの試しより、ずっと短い。だが獣は吸収をやめ、前脚を踏ん張った。俺は胸元から目を離さなかった。
『開きます』
胸の殻が左右へ開いた。俺はむき出しになった赤い核へ狙いを合わせ、引き金を引く。
矢が斜め横から突き刺さった。
その直後、獣の正面へ風が噴き出した。俺が壁へ頭を下げると、回り込んだ風が髪を揺らす。風が収まるのを待って、もう一度顔を上げた。
獣はこちらを向こうとしていたが、前脚が崩れて石畳へ倒れた。尾が台をひっくり返し、皿が大きな音を立てて転がる。
俺は次の矢を用意したまま待った。
刺さった矢の根元から漏れる赤い光が弱くなる。背中の隙間も暗くなり、最後に爪の動きが止まった。
胸へ入ってきた熱を感じたとき、ようやく当たったのだと実感した。
〈熾殻獣 レベル34 討伐〉
自分の数字が11になり、12になり、まだ変わる。俺は武器を抱えて壁へ背をつけた。
止まったところにあったのは、レベル18だった。
「18……」
この一戦で8つも上がった。
リネアが相手の動きを確かめて戻ってきた。彼女もレベル25になったという。今までの自分では受け止められなかった重さの武器を、俺は片手で持ち上げてみた。
支えられる。
腕を下ろしてから、もう一度上げてしまった。
「そんなに変わった?」
「はい。かなり」
笑いながら答え、転がった皿へ目を向ける。
――これ、もっと小さくできるかな。
『はい。今回の記録があれば、調整するための部分を減らせます』
俺はリネアへ向き直った。
「帰ったら作りたいものがあるんです」
「また道具?」
「次は、もっと身軽に来られるやつを」
次もこんなふうに勝てたらいい。できれば、台車を押して歩くところは省きたい。
「賛成。私もこれを押して帰りたくない」
リネアは外れた車輪を拾い、曲がった留め具を工具で戻した。俺は獣に踏まれた台を起こす。持ち上げて支えるのは、来るときよりずっと楽だった。
「最後、切り替えるのが早かったですね」
「少し吸わせるだけで十分だったから。それに、台をひっくり返される前に止めたかった」
「あの量でよかったんだ」
「うん。ルカがすぐ動いてくれたから間に合った。柱の向こうじゃ、私からは撃てるか分からなかったし」
台を持つ手に、少し力が入った。
「次の道具、使いにくかったところから直しませんか」
「両手で押さえなくて済むと嬉しいね。片方は空けておきたい」
「じゃあ、その辺から。帰りは俺が押すので、聞かせてください」
台へ道具を積み直し、持ち手をつかんだ。リネアは借り物のクロスボウを抱え、歩きながら小さくしたい箇所を挙げていく。俺はそれを聞きながら、ときどきアイへ伝えた。