異世界転生したらスキルが〈生成AI〉だったので、知識を集めて格上狩りを始めます   作:カラリ

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同じ魔法じゃない

『手を離してください』

 

 翌朝、アイに言われるまま指を上げてみた。

 

 火と風が混ざった石から、魔力を別々に取り出す。昨日は二人がかりだったその作業を、今朝は小さな陶板で試している。赤と緑の光は空の魔石へ流れ続け、俺が手を離しても止まらなかった。

 

「本当に離していいんだ」

「うん。こっちは何もしてない」

 

 リネアも横で両手を見せた。陶板には、昨夜アイが考えた手順をリネアが刻んである。二人とも手を出さずに、光が流れるのを眺めた。

 

 仕組みを聞くと、取り出した魔力の一部を道具自身を動かす方へ回しているという。灯り石が勝手に光るのと同じように、こちらも最初に流れを作ればいい。

 

 赤い石へ流れる光が細くなり、やがて板の線が一つずつ消えた。測っておいた終点で止まったのだ。リネアがまだ光の残る元の欠片を外し、別の石を載せようとした俺の手を指さす。

 

「そっちはまだ測ってないよ」

「あ、これで何でもいけるわけじゃないのか」

「この石に合わせた手順だからね。違うものを入れても、板は考え直してくれない」

 

 なるほど。アイが机へ引っ越したわけではなかった。別の石なら、測って設定を合わせ直す必要がある。それでも、動いている間ずっと手を添えているよりずっと楽だ。

 

「調整するための皿とか、こんなに小さくできるんですね」

「試してる間は大きく作った方が便利なんだ。どこを変えればいいか分かったから、その部分を減らせた」

 

 俺は袋から餌の図面も出した。あの台車も要らなくなるのかと聞くと、リネアはうなずいた。使う量と切り替え方が分かった今なら、そちらも板と魔石だけで持ち歩けるそうだ。

 

 そうなると、壁に立て掛けた長い棒まで気になってくる。

 

 ――排魔針も、手を離せないかな。

『石から抜いた魔力で流れを保てます。ただし、石への接触は続ける必要があります』

 

 返事を伝えると、リネアは道具箱から金具を出した。ばねで物を挟むもので、遺跡の部品を拾うときに使うという。

 

「石にこれを付けておこう。触る方も道具に任せれば、両手が空くよ」

 

 その言葉で、崖の上で必死に棒を押さえていた自分を思い出した。

 

 石が落ちてから槍へ持ち替えるのではなく、落ちる前から武器を構えていられる。

 

「それ、作りたいです」

 

 リネアは笑って机の上を空けてくれた。

 

  ◇

 

 組合へ寄ると、火を吸う熾殻獣を倒した報酬が受け取れた。

 

 大きすぎる死体は回収を頼んであった。核は傷つけてしまったが、殻も吸収器官も売れるそうで、費用を引いて分けても財布には十分な重さが残った。

 

 自分のクロスボウを買いたい。専門書庫にも入りたい。欲しいものは増えていたが、今は新しく作った金具を試すのが先だった。

 

 また武器を貸してもらい、採石場の旧区画へ向かった。登れない壁の上へクロスボウを据え、杭につないだ線を、棒の先の金具へ留める。灯り石で呼んだ岩甲虫は、首の後ろまで石を貼り付けていた。

 

「首の後ろの石へ付けます。そこが落ちたら撃つので」

「うん。こっちで見てる」

 

 リネアが少し下がるのを待ち、俺は棒を下ろした。金具を石へかぶせて柄の仕掛けを引く。ばねが閉じたところで魔力を流すと、線が青く光った。

 

 ここからだ。

 

 棒だけを外して手元へ戻す。金具は石を挟んだままで、光も消えなかった。

 

 甲虫が背中を振った。

 

 俺の腕は引っ張られなかった。

 

 それだけで嬉しくなりながら、棒を置いてクロスボウを持つ。まだ石は付いているのに、もう狙いを合わせて待てる。

 

 脇の小石が落ち、首を覆っていた大きな石もずり下がった。その下の灰色が見えたところへ、俺は矢を撃った。

 

 甲虫が倒れるまで、たいして場所を変える必要もなかった。

 

「……楽になってる」

「先に狙えたね」

 

 リネアへうなずき、下に落ちた石を見た。金具も線もそこにある。石から魔力がなくなったので、今は光っていない。拾えばまた使えるのだ。

 

 ――アイ、ありがとう。これ、すごく助かる。

『はい。次も使いやすくしましょう』

 

 胸へ力が入ってくる感覚はあったが、レベルは18のままだった。次に必要な量は増えている。この相手だけで30まで上げるなら、相当な頭数が要るとアイに教えられた。

 

 楽に勝てる方法はできた。次は、もっと経験値の多い相手で同じくらい楽に勝ちたい。

 

 俺は道具を拾うために下の道へ回った。

 

  ◇

 

 石を挟んで魔力を抜く金具を組合の担当者に見せると、試験用として買ってもらえることになった。

 

 前の方法では、針を持ち続ける人と槍を使う人を分けるつもりだったという。これなら少人数でもできる、と図面を眺めている姿を見て、俺まで嬉しくなった。

 

 使う場所と金具を付ける位置も書いて渡す。火と風の魔力を分ける陶板も、リネアが店へ預けてある。そちらではもう、次に試す石を選び始めていた。

 

 初日に俺を引きずり落としかけた仕事を、次の新人はあの金具に任せられる。売れた分の金を数えながら、もう一つ作っておけばよかったと思った。

 

 ただ、こちらにも続きがある。財布へ追加の報酬をしまい、リネアと図書館へ向かった。

 

 専門書庫の閲覧料は銀貨一枚だった。以前なら一般の棚で読めるだけ読もうと思っただろうが、今日は払える。案内された扉をくぐると、見慣れない本の背が奥まで続いていた。

 

 魔法の研究書。古い遺跡の記録。魔石を何個もつないだ器具の図。

 

 近くの一冊を抜いてみると、空中へ魔法の足場を出し、その上を歩く人が描かれていた。何もない場所にも、体重を支える板を出せるのだ。

 

 これもできるのか。

 

 隣の本には、台座の上へ光で動物の姿を映す仕掛けが載っていた。店の展示や案内に使うものだという。別の背表紙には、離れた部屋の様子を映す観測器の文字も見える。どれも知らない魔法だったが、図に描かれているのは戦場ではなく、店や倉庫だった。

 

 人が上に乗れる足場と、見たいものを映す道具。思わず二冊目へ手を伸ばした。

 

「先に次の相手でしょ?」

 

 リネアに図鑑を渡されて、俺は手を止めた。別の棚へ向かいかけていたのが、どうやら顔に出ていたようだ。

 

「そうでした」

 

 笑って机へ向かいながら、アイにも尋ねてみる。

 

 ――ほかに読んでみたい本、ある?

『先ほどの足場の本を見たいです。移動できる場所を増やせそうです』

 ――俺も気になってた。じゃあ、それも一緒に読もう。

 

 図鑑の横へ足場の本も置いた。

 

 狩場を探そうと地図を広げると、街から遠い山々に赤い印が並んでいた。閉鎖された鉱山の横には、レベル200以上の魔物が確認されたとある。

 

「……200?」

 

 18まで上がったばかりの札を見て、それからもう一度地図を見た。桁が違った。

 

「そういう場所もあるよ。100を超える相手なら、倒すより近づかない方を選ぶことが多いから」

「街まで来たりしないんですか」

「この鉱山のは、奥の鉱石を食べるんだって。人を追って遠くへ来ることは少ないみたい。だから鉱山を諦めて、道も移したんだね」

 

 印の外には、別の街道が大きく曲がって通っていた。地図に道がないところは、まだ誰も行っていないのだとばかり思っていた。行った上で、使わなくなった場所もあるのか。

 

 今の俺が行く場所ではない。リネアと街の近くへ目を戻し、図鑑で双角狼の項目を探した。こちらも群れの長は、レベル40を越えることがあるという。

 

 暗い森でも遠くの獲物を追える。ほかの狼も集まり、戦っているうちに囲まれる。どう見ても、今の俺が正面からぶつかる相手ではなかった。

 

 だからこそ、獲物の見つけ方が気になった。

 

 ――何を目印にしてるか分かれば、隠れられないかな。

『その可能性があります。狩りの記録も探しましょう』

 

 リネアが絵をのぞき込んだ。

 

「次はそれ?」

「はい。正面からは戦いませんよ」

「それはもう分かってる」

 

 彼女は椅子を寄せ、持ってきた解除の本を開いた。

 

 次はレベル30だ。

 

 今度も、その行き方を本棚から探すことにした。

 

  ◇

 

 狼の狩りの記録を取りに一般閲覧室へ出たところで、足が止まった。低い棚の上に、大きな絵の本が開いて置いてある。

 

 谷をまたぐ白い橋だった。橋の上には家が建ち、その家と家の間を、洗濯物を下げた綱が結んでいる。下の川にいる船まで描き込まれていて、そちらの小ささを見てから橋の高さに気づいた。

 

 こんなところで干した靴下を落としたら、諦めるしかない。

 

 説明を読むと、南にある街を旅の画家が描いたものだった。次のページは夕方の同じ橋で、家の窓に灯りがついている。そろそろ戻ろうと本から手を離したところで、アイに呼び止められた。

 

『その本を、もう少し見せてもらえますか』

 ――これ? 橋の絵だけど、何かに使えそう?

『まだ分かりません。ただ、続きが気になります』

 

 俺は本へ目を戻した。足場の組み方か、橋の支え方でも調べるのかと思ったが、そうではないようだ。

 

 もう一枚めくると、家の間にある小さな広場が描かれていた。さっき外から見ていた橋の上だ。屋台でパンを買う人がいて、欄干へ肘をついて話す人もいる。あの高さで普通に暮らしているのが、なんだかおかしかった。

 

 ――落としたもの、下の船の人が拾ったりするのかな。

『この絵では、籠をひもで下ろしています』

 

 言われて見ると、橋から川まで細い線が延びていた。上にいる人が手を振り、船の人が籠へ何かを入れている。

 

 洗濯物ばかり気にしていたが、こういう使い方もあるのか。

 

「何、見つけた?」

 

 リネアが本を抱えてやってきた。俺が絵を見せると、彼女も橋の端から端へ目を動かした。

 

「旅絵集だ。これ、一般の棚の本だから借りられるよ」

「そうなんですか」

「読み終わらないなら持っていけば?」

 

 机の方には狼の資料が積んである。今日はそちらを読んでおきたい。でも、この絵も閉じて戻すには惜しくなっていた。

 

 貸し出しの札を確かめ、本を閉じる前にアイへ声を掛けた。

 

 ――借りていこう。出発前に、続きも一緒に読もうか。

『はい。お願いします』

 

 狼の記録と一緒に抱えて戻ると、リネアが机の上を少し空けてくれた。旅絵集は、一番上へ置いておいた。

 

 帰りに貸し出しの手続きを済ませ、鞄へ入れる。道具を詰めてきたときより、角をぶつけないように気をつけて歩いた。

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