異世界転生したらスキルが〈生成AI〉だったので、知識を集めて格上狩りを始めます 作:カラリ
「強くなるほど、見つかりやすい?」
本の説明を読み直し、俺は自分の胸へ手を当てた。
双角狼は額の角で魔力を感じ取る。体から漏れる量の多い相手なら、遠くからでも見つけられるという。ようやく強くなってきたところで、その力を目印に追われることになるとは思わなかった。
「だからこの狼を狩るときは、魔力を抑える練習もするんだ。私も得意じゃないけど」
リネアは解除の本から顔を上げた。練習でできるようになるなら覚えたいが、今すぐ何とかする道具も欲しい。
「魔石の魔力を外へ漏らさない布ならあるよ。回収品を持ち歩くときにも使う」
その説明を聞いて、俺はアイへ呼びかけた。
――人を包んでも使えそう?
『試す価値があります。布の仕様と、運搬時の包み方を調べましょう』
包む中身が変わるだけだ。本に載っていた布を、その日のうちに店で見せてもらうことにした。
◇
魔力を外へ漏らさない布で、頭巾の付いた羽織を作った。これを着て、狼に見つからず近づきたい。
道具の包み方を説明した本と、布の仕様をアイに比べてもらい、リネアが縫い合わせてくれた。袖口まで閉じるので少し窮屈だった。
リネアは、体から漏れる魔力を測るメーターを取り出した。目盛りと針が付いた道具で、漏れる魔力が多いほど大きい数字を指す。
俺の胸元へ向けると、針は小さい数字を指した。袖をめくって腕を出すと、大きい数字の方へ動く。袖を戻せば、また小さい数字へ戻った。
布で覆ったところからは、魔力が漏れにくくなっている。面白くなって何度か袖を上げ下げするうちに、リネアがメーターを引っ込めた。
「魔力を隠せてるね。ただ、魔法を使えば見つかるから、攻撃するときまでは隠しておこう」
姿が消える羽織ではないが、体から漏れる魔力は抑えられる。遠くの狼に、近づく前から見つからずに済みそうだ。
リネアは俺の分を直し終えると、残った布を広げた。
「三着作ろうかな。森の案内を頼む人の分も欲しい」
「ほかにも一緒に行ってもらうんですか?」
「うん。狼は鼻もいいからね。風向きや道を選べる人がいてくれると助かる」
地図の山や川は読めても、その途中の倒木までは分からない。俺はお願いして、余分な布の代金も財布から出した。
◇
組合へ行くと、窓口で冒険者が、岩甲虫の鎧を外す金具を受け取っていた。俺たちの作ったものだ。
担当者に図面を見せられ、付ける位置を確かめている。あの虫に使うのだろうと思うと、俺もつい足を緩めてしまった。
「使ってくれるんですね」
「針を持つ人が減らせるって喜んでたよ」
リネアとその横を通ると、槍を持った長身の女性がこちらへ手を上げた。日焼けした顔で、髪を後ろへ短く束ねている。
「狼を見に行きたい二人?」
彼女はザラ・ドルネと名乗った。森の案内と護衛を引き受けてくれる人で、現在のレベルは32だという。
差し出された討伐依頼には、森にいる群れが九頭、長はレベル54と確認されたことが書いてあった。
「54……」
思わず口に出た。レベル30を目指している俺にとって、ずいぶん景気のいい数字である。
「この群れは、私も正面から相手にはできない。今日は様子を見るだけにしよう」
ザラはそう言ってから、俺の持ってきた羽織に目を留めた。リネアと一緒に使い方を説明すると、その場で袖を通し、動きやすさを確かめてくれる。
「なるほど。これならこっちから見に行けるかもしれないね」
下見の報酬と範囲を決め、討伐まで進むなら改めて相談することになった。俺が銀貨を渡すと、ザラは地図を広げて、今日歩く道を教えてくれた。
◇
魔力を隠す羽織を着て、森の入口まで来た。先頭のザラが、枝先の葉を見上げた。
「風は狼のいる方から来てる。このまま進もう。匂いを向こうへ送らずに済む」
音の出る金具を布で包み、荷物を背中で揺れないように留め直す。羽織で魔力は隠せても、匂いや物音では見つかってしまうのだ。
途中でザラが足を止め、予定していた左の道から離れた。小さな沢の方へ下りていく。
「地図だと、左の方が近そうですけど」
「あっちは乾いた葉が積もってる。踏むたび音がするから、今日はこっち」
足元を見ると、確かに沢沿いには石が多かった。歩幅を小さくすれば、音を立てずに進める。地図を畳み、ザラの踏んだ石へ足を置いた。
先頭を歩くザラには何度か止められた。踏みそうになった枝を避けたり、草の下の穴を教わったりするたびに、来てもらってよかったと思った。
やがて倒木の前で合図があった。身を低くしてのぞくと、灰色の狼が獲物をくわえて歩いている。
大きな犬よりさらに大きく、額から二本の角が伸びていた。
その顔がこちらへ向いた。
俺は息を止めた。角の先が青く光り、鼻がゆっくり動く。だが狼はすぐに顔を戻し、獲物をくわえ直して歩いていった。
小さく息を吐いたところで、ザラが耳元へ顔を寄せた。
「いつもなら、あの辺でもう気づかれる」
俺はリネアを見た。頭巾の下で彼女もうなずいている。
効いている。
魔力の漏れ方を調べるメーターでも、羽織の効果は見えた。けれど実際の狼が俺たちに気づかず歩いていった方が、よほど嬉しかった。
――アイ、これ、使えるな。
『はい。距離と風向きも記録しました』
俺は頭巾を直し、またザラの後ろへ続いた。
◇
群れが休む場所は少し開けた斜面だった。
倒木の向こうに灰色の背中がいくつも並ぶ。奥には一回り大きな獣がいて、太い角と長い尾が見えた。あれが長なのだろうと眺めていると、先ほどの狼が獲物を持って戻ってきた。
長が顔を上げた。
角が光ると、周りの狼にも薄い青が走った。
「あれが群れの守り。長が防御の魔力を分けるんだ」
ザラの説明を聞きながら、俺は図鑑で見た線のつながりを思い出した。
数が多い上に、全員を硬くする相手までいる。一匹ずつ相手をしていたら、その間に残りが回り込んでくるわけだ。
――だったら、守りを出してる方から倒したいんだけど。
『残りの防御も弱くなります。あの一頭を狙える条件を探しましょう』
小声で伝えると、ザラもすぐにうなずいた。
「私も最初にあれを倒したい。ただ、ここで近づけば全部が来るからね」
彼女は斜面の後ろを見て、それから帰りの道を指した。
「見つからずに動けるなら、戦う場所も選べる。あっちを見て帰ろう」
案内された川沿いには、地面が裂けたように深い谷があった。向こう岸はずいぶん遠く、下から水音が響いている。上流には大きな岩が張り出した古い道も見えた。
ここで何をするのか、俺にはまだ分からなかった。
けれどザラは道の幅を確かめ、リネアは木と対岸を見比べていた。
俺も地図を開いた。谷の形が細かく描かれているのは、ザラが持ってきた方だった。川を渡れる場所には短い線が引かれ、まだ通っていない道は点でつないである。
端の方に、小さな丸だけ付いた尾根があった。
「これは何の印ですか?」
「行ってみたいところ。あそこからなら、向こうの湖まで見えるって聞いてね」
「道はないんですね」
「うん。仕事の帰りに寄るには遠いから、まだそのまま」
ザラは地図を膝へ置き直し、今日歩いた道の続きを書き足した。
俺の地図にも谷を書き込む。もう畳もうとしているザラに少し待ってもらい、下流の渡り場まで写しておいた。