異世界転生したらスキルが〈生成AI〉だったので、知識を集めて格上狩りを始めます 作:カラリ
次に買うものは、もっと強い武器だと思っていた。
だが翌朝、森の案内役のザラが店の壁から下ろしたのは縄の束だった。金具や滑車、それに小さな巻き取り器が付いている。崖の向こうへ人や荷物を渡すための一組だという。
「昨日の谷へ張っておこう。これで向こう岸を退路にできる」
狼が来られない方へ自分たちだけ渡る。その説明を聞いた途端、縄はずいぶん魅力的な買い物に見えた。
向こう岸までは約30メートルあった。図鑑に載っていた狼の跳躍でも届かず、歩いて回るなら下流の渡り場まで行かなくてはならない。こっちが数秒で渡れるなら、それだけで差ができる。
「買います」
値札を見てから財布を開く。少し前なら迷った金額だが、熾殻獣から入った分がある。リネアも点検できる道具だというので、これからも使えそうだった。
白い幕を出す魔法の符も買った。壁のように向こうを見えなくするが、人や物は通り抜ける。逃げるときに出せば、相手からこちらの姿を隠せるそうだ。
最後に、今度こそ自分のクロスボウを選んだ。借りていたものと似た形で、肩へ当てるところが少し短い。構えるとぴったり収まった。
◇
図書館では、双角狼の長が仲間を魔力で守る仕組みについて、詳しい記録を見つけた。
挿絵には、長から仲間へ魔力を送る様子が描かれていた。多くの仲間を守っている間は、長自身の防御が薄くなるという。
「周りを先に倒すと、最後には長に全部戻るんですね」
「普通は囲まれないように数を減らすしかないからね。最後も硬くて大変なんだ」
ザラの話を聞いて、昨日見た長を思い出した。仲間が動く間、少し後ろにいた大きな獣。なら子分を別の方へ走らせ、その間に長を狙いたい。
アイへ相談すると、獲物を追う仲間へ長が防御を送る習性が使えそうだという。小型化した餌の板から、狼が好む動物に似た魔力を出す。子分が餌を追えば、長の守りはそちらへ分かれる。
二か所で光らせれば、子分を散らせるかもしれない。
リネアに図を見せると、手元で二つを切り替えるところまではできると言ってくれた。俺は地図へ印を付け、必要な石を書き足した。
その横で、リネアは別の本へ目印を挟んでいた。彼女が開けられずにいる、遺跡の錠前と同じ印が載っている。
「それ、遺跡の錠前ですか。今回30まで上がったら、先にそっちを試しましょう」
リネアが目印を挟む手を止めた。
「覚えててくれたんだ」
「あの灯りが落ちてた場所でしょう。俺も気になります」
リネアは隣の本も開き、こちらへ寄せた。
「同じ印なのに、片方は流すと開く、もう片方は閉じるって書いてあるんだよ」
見比べても俺には違いが分からなかった。どちらかの本が間違っているのかもしれないが、今は決めずに両方写しておく。
「じゃあ、図面も持ってくる。今度こそ入口の先まで行けたらいいね」
リネアは目印を抜かず、二冊とも俺の方へ向けてくれた。
◇
逃げ道にする谷へ戻ると、リネアが対岸の木へ縄を張る金具を飛ばした。
細い縄がつながり、次に太いものを引き渡す。両岸へ張ったところへ滑車を載せ、腰の命綱を付ければ準備は終わりだった。
ザラが先に渡る。巻き取り器が動くと体が谷の上を滑っていき、向こうへ着くとこちらに手を上げた。
次は俺だった。
下の川がずいぶん小さく見える。持ち手を握っていると、横でリネアが腰の金具を軽く叩いた。
「腕だけでぶら下がらなくていいよ。こっちでも支えるから」
言われたとおり体を預けた。足が地面から離れた瞬間に風が顔へ当たり、思わず妙な声が出る。岩壁が横を流れ、ザラの伸ばした手をつかむ頃にはもう渡り終わっていた。
俺は振り返って距離を見た。
「これ、便利ですね」
「うん。今日は追われたらこっちへ戻ろう」
それから荷物を持って何度か往復し、俺も巻き取り器の操作を覚えた。最初は怖かったが、止まるところが分かると面白くなってくる。
逃げる練習をしているはずなのに、あと一回くらい渡りたい気分になってしまった。
◇
戦う場所は、谷へ続く細い道に決まった。
すぐ上の斜面へ大きな岩が乗っている。ザラは足元を確かめ、これを下の道へ落としたいと言った。リネアが留め金と滑車で引き留める仕掛けを考え、綱を下まで延ばす。
俺は岩を見上げた。
自分があの重さを持ち上げる必要はない。落とすだけなら、細い綱を引く力で済む。
アイへ見せると、長が防御を分けている間なら有効だと返ってきた。ただし走り抜けられては当たらないので、足止めも必要だという。
「ここに、踏むと脚に絡む網を仕込もう。私が長をおびき寄せるから、網を飛び越えて、その先の縄で渡る」
ザラが道へ目印の枝を置いた。その少し先に俺の隠れる岩があり、さらに先が谷の渡り口だ。
長が網へ入ったら、俺が綱を引く。
岩を落としたら自分も渡る。
その順番で道を歩き、走る場所も確かめた。リネアは対岸から餌を操作する。線には魔力を漏らさない覆いを付け、地面へ伏せておいた。
留め金だけで試すと、俺の手でもちゃんと外せた。
最後に、群れの外側で餌を短く動かしてみた。近くにいた二頭が顔を上げ、茂みの方へ走っていく。
近づかれる前に魔力を止め、俺たちは静かに下がった。追ってくる気配はなかった。
「あれなら散らせる。子分が離れたところで、私が長の前へ顔を出すよ」
ザラの言葉を聞いて、俺は明日の手順をもう一度頭の中で繰り返した。
必要なものはそろっていた。
帰り道では、ザラに討伐まで同行してもらうことと、費用を引いた報酬を三人で分けることが決まった。
「明日の朝も、一度渡っておいていいですか」
「いいよ。じゃあ、荷物を向こうへ運ぶのをお願いしようかな」
ザラが言い、リネアが俺の買った巻き取り器の袋を見た。
「気に入ったんだね」
「はい。狼がいなくても使いたいです」