異世界転生したらスキルが〈生成AI〉だったので、知識を集めて格上狩りを始めます 作:カラリ
朝の群れは九頭ともそろっていた。
俺は岩陰に伏せ、落石の仕掛けにつないだ綱を握っていた。木々の間では、八頭の狼の後ろを、ひときわ大きい長が歩いている。あいつを網で止め、その上へ岩を落とす。
ここから先は、子分を餌へ走らせる。
対岸のリネアへ合図すると、左の茂みで魔力が漏れ始めた。先頭の狼が鼻先を上げ、何頭かを連れてそちらへ向かう。次に右の餌が光ると、残りも道を外れた。
長の角が青く輝いた。仲間へ魔力の守りを分けている。長自身の防御が薄くなる、狙っていた状態だ。
長の後ろに隠れていたザラが、頭巾を外した。魔力を隠すのをやめ、自分を見つけさせる。
「こっちだよ!」
槍を振って走りだす姿へ、長が跳ねるように顔を上げた。
追い始めると速かった。木の根を越えるたびに間が詰まる。俺は綱を握り直したが、まだ引くわけにはいかなかった。
あの道の網へ入ってからだ。
◇
ザラが曲がり角から出てきた。
目印を見て網を飛び越え、その先の持ち手へ走る。すぐ後ろへ長が飛び込んだ。前脚が着いたところで網が跳ね上がり、胸と脚を巻き込んで体を前へ倒した。
「今!」
ザラの声で綱を引いた。留め金が外れ、上の岩が動きだす。
長が顔を上げるより早く、斜面から落ちた大岩がその背中を押しつぶした。
足元が鳴った。青い光と砂が広がり、俺は思わず腕で顔をかばった。だが結果を見ている余裕はない。綱を離し、渡り口へ走る。
対岸ではザラが持ち手を外していた。リネアが空いた金具を戻してくれる。
昨日練習したとおり腰へ留め、体を預けた。
谷の上を滑りながら振り返ると、岩の下に長の角が見えた。その青い光が消えるのを見た直後、胸の奥が熱くなった。
〈双角狼 群れの長 レベル54 討伐〉
「倒した……!」
向こう岸でザラに腕をつかんでもらい、ようやく地面へ足を下ろした。その間にも数字が変わり、20を越え、25も過ぎていく。
止まったのはレベル29だった。
あと1つ。
そう思ったところへ、対岸から吠え声が上がった。ザラが槍を持ち直し、俺も慌ててクロスボウを取る。
長は倒せたが、群れの残りはまだいる。
◇
最初に戻ってきたのは二頭だった。
岩の前で止まり、俺たちへ顔を向ける。その体に残っていた青い光が、少しずつ薄くなっていった。新しく送ってくれる長はもういない。
一頭が道を下り始めると、ザラがその行き先を指した。
「下流の渡り場からこっちへ来るつもりだね。こっちの岸へ上がる道は細い。先に着けば、一頭ずつ止められる」
リネアが餌を止め、道具を手繰り寄せるのを待ってから走った。朝より足が軽い。荷物を背負ったままでもザラの後ろへ付いていける。
渡り場から上がってくる道を見下ろす岩場へ着いた。下の道は、人も獣も一列になる幅しかない。リネアが道を横切る白い幕を出し、ザラは脇の岩陰で槍を構えた。
俺は幕の向こうから出てくる胸元へ狙いを置いた。
爪の音が近づいた。
幕の向こうから灰色の鼻先が現れ、前脚が見えたところで引き金を引く。胸へ矢を受けた狼が止まり、そこへ横からザラの槍が入った。
今度は武器が通った。
後ろにいた一頭はすぐに身を引いた。俺たちも追わず、倒れた相手が動かなくなるのを待った。
胸へ力が入ってくる。
〈レベル30〉
来た。
俺は狙いを外さない位置で一覧を開き、明るくなった欄を選んだ。
――アイ、まだ戦ってる途中だけど。
『状況は引き継いでいます。推論モデルへ切り替わりました』
いつもの声が返ってきた。これで使える。落ち着いて試すのは後だが、使えるものを待たせておく理由もない。
俺は弦を引き直して顔を上げた。
◇
ほかの狼も戻ってきたが、倒れた仲間を見ると森へ下がった。
狙っていた道へ出てこない。ザラも槍を下ろして耳を澄ませた。リネアは、こちらの姿を隠す白い幕を出したまま、動力の魔石の残量を確かめている。
ここで待ち続けても仕方がなさそうだった。
――餌で呼び戻せるかな。
『先に反応を確かめましょう。幕を残したまま、道の下で短く光らせてください』
餌を下ろして光らせると、茂みの中で何かが動いた。だが狼は出てこない。
『見えない相手を警戒しています。幕を消し、こちらの魔力を隠してから、餌を別の茂みへ動かしましょう』
言われてみれば白い幕は、俺たちのいる場所へ目印を立てているようなものだった。姿は隠せても、その奥に何かいるとは分かってしまう。
俺たちは岩陰へ戻って頭巾をかぶり直した。リネアが幕を消し、餌の位置を変える。
今度は狼が木の陰から出てきた。鼻を動かしながら、こちらではなく餌の方へ近づいていく。
「あっちを向いてる間に動こう。風もこっち向きだ」
ザラの合図で下がった。相手の見ている方とは逆へ回れば、最初の下見と同じことができる。
それからは、見つけた相手を少しずつ分けて狙った。
リネアが餌で顔を向けさせ、ザラが回り込める道を選ぶ。俺は先に武器を据え、止めた相手へ二人で攻撃する。守りの魔力がなくなった分、狙った場所へちゃんと届いた。
しかも一頭倒すたびに、体へ力が入ってくる。弦を引くのも斜面を上るのも、前より楽になっていった。
最後の狼は倒木の横へ逃げた。
俺が追おうとすると、ザラから右へ回るように声が掛かった。左には穴があるという。教えられた方へ進み、端から出てきた体へ矢を当てる。
その横へザラが入り、槍を突いた。
相手が動かなくなるまで見届けてから、彼女は穂先を抜いた。
「これで九頭だね」
俺はようやく武器を下ろした。大きく息を吐いたところへ最後の温かさが入り、数字が変わる。
〈レベル37〉
「……37」
朝は18だった。見直しても間違っていない。
リネアは38、ザラは40になったという。三人で自分の武器を持ち上げ、互いの数字を確かめているうちに、やっと本当に終わった気がしてきた。
俺は荷物へ手を伸ばした。昨日よく分からないまま写した本がある。推論モデルになったアイへ見せたい。
「帰ったら、遺跡の錠前を開ける方法も聞いてみましょう」
「その前に水を飲もう。まず休憩」
ザラに水筒を渡されて、俺は素直に受け取った。リネアは腰の小袋へ手を置き、割れた錠前を確かめている。
「持ってきてたんですか」
「うん。でも、ここで開けて中の部品を落とすのは嫌だから。続きは作業台で」
そう言いながらも、彼女は袋の口を一度開いてのぞいていた。
俺も見たくなったが、まず水を飲んだ。リネアも袋を結び直し、隣へ腰を下ろした。