異世界転生したらスキルが〈生成AI〉だったので、知識を集めて格上狩りを始めます 作:カラリ
街へ帰り、リネアが開けられずにいた錠前の資料を広げた。これを解ければ、彼女の行きたい遺跡へ入れるかもしれない。
アイは、思っていなかったところを指摘した。
『開くのは、魔力を止めたときかもしれません』
俺は二枚の紙を見比べた。同じ印へ魔力を流すと開く、という本と、閉じる、という本。どちらかの説明が間違っているのかと思っていたが、アイは何を見ているのだろう。
――流してる間じゃなくて?
『はい。操作を終えた後まで測った記録がありません。同じ錠前で、短く流して止める試験をしてください』
弱い魔力を少し流し、すぐ止めてみる。その手順を紙へ書き足し、翌朝リネアのところへ持っていった。
彼女は錠前を作業台へ固定し、そこへ流す魔力の強さを測るメーターをつないだ。まずは今までやっていた方法を見せてもらう。
魔力を流すと、中の細い線が青く光った。留め金が枠をつかみ、強めるほど締めつける力も増していく。
「これで、ずっと開かなかったんだ」
リネアが手を離した。
光が消え始めたとき、留め金の片側がわずかに浮いた。
「今、動きました?」
「うん。少し緩んだね」
俺はそこをアイへ見せた。次は弱く短く流し、途中で強めず止めるように言われる。伝えられたリネアもうなずき、もう一度手を置いた。
今度の光は短かった。
消えると同時に、かちりと音がした。
留め金が二つとも開いていた。
リネアがそっと枠を持ち上げる。今度は芯だけが机へ残り、彼女の手の中で、割れた外枠が完全に離れた。
「開いた……」
リネアはしばらく動かなかった。俺も枠と芯を交互に見る。さっきまであれほど力を入れても離れなかったものが、小さな光で開いてしまった。
――止める方が操作だったのか。
『その可能性が高いです。閉めてから、もう一度同じように開けられるか確かめましょう』
リネアへ伝えると、今度は大きくうなずいてくれた。
「やろう。今のをもう一度」
◇
もう一度、錠前を組み直して試す。強い魔力を流すと閉じた。弱い魔力を少しだけ流し、すぐに止めると開いた。
何度繰り返しても同じだった。
開くと書いた本は、操作を終えたところを説明していた。閉じると書いた本は、流している最中を見ていた。実物と一緒に読み直すと、どちらもさっき見たことを表しているように思えた。
「本が間違ってたわけじゃなかったんですね」
「うん。強いか弱いかばかり気にしてたよ。途中でやめるのは失敗だと思って、もっと流してた」
俺は紙の余白へ、魔力を止めるところまで大きく書き足した。これなら、次に読むときも迷わずに済む。
「アイ、ありがとう。これ、本当に開けたかったんだ」
リネアが顔を上げて言った。こちらを見てはいるが、呼ばれたのは俺ではない。
『お役に立ててよかったです。遺跡の記録も見せていただけますか』
俺だけが返事を聞いてうなずくと、リネアは少し待ってから首をかしげた。
「何か言ってる?」
「役に立ててよかったって。それと、遺跡の記録も見たいそうです」
「もちろん。持ってる分は全部見せるよ。どこから見たい?」
アイに聞き、俺が答える。リネアが確かめ、また俺が聞く。二往復したところで、リネアが机の上の小さな呼び鈴を見た。
「声を出す道具につなげたら、直接話せないかな」
『音声を出す仕組みが分かれば試せます』
「試せるみたいです」
「それも探そう。毎回ルカに言い直してもらうの、大変だし」
俺としても、二人が何を知りたいのか聞く方に回れるのは助かる。リネアは図面を取りに荷車へ向かった。
筒から出てきた図面が机へ広がった。どうやら、ここからが本当に開けたいものの話だった。
◇
遺跡は西の山にあるという。
リネアが以前行けたのは、崩れた外壁の内側まで。その先には同じような印を重ねた扉があり、通れなかったそうだ。
写した扉の印や、魔力を測った記録を順にアイへ見せる。錠前と同じ働きを使っている部分はあるが、接続する順番は違うという返事が来た。
どこで流してどこを止めるか。まだ実物を見ないと分からない場所はどこか。アイが整理した順番を写すと、リネアはそれを自分の記録へ重ねて見ていた。
「入口で試せるところまで、行ってみたいです」
「私も。これを持って帰ってから、何度も本を探したんだ。やっと続きが見られるかもしれない」
リネアが開いた錠前を持ち上げた。俺は図面の奥に描かれた部屋を見た。古い道具と記録。何が残っているかは分からないが、読んだことのない本を並べられたように気になった。
――アイも見たい?
『はい。使われていた仕組みを、実物で調べられそうです』
なら行こう。
俺は机の上の地図を引き寄せた。
◇
狼の討伐報告を出すと、組合は回収と周辺の確認を手配してくれた。
毛皮と角の買い取り代も加わり、道具代やザラへの費用を引いてから三人で分ける。俺の財布には準備の前より多くの金が入り、買ったものはそっくり手元に残った。
「帰り道を買ったつもりだったのに、道そのものが増えましたね」
俺が言うと、ザラは巻き取り器の袋を持ち上げた。
「川を渡れるだけでも行ける場所は増えるからね。次の遺跡も持っていこう」
「一緒に来てもらえますか?」
「うん。あの辺は何度か案内したことがある。今度は中も見られそうだね」
リネアが早速地図を広げた。出発の日と必要なものを相談する間に、アイから、空中へ足場を出す魔法の本も見たいと言われた。
前に写したものを出すと、持っている器具を置ける場所も増やせそうだという。俺は紙の角をそろえ、遺跡の図面と一緒にしまった。
その日から出発までは、ザラに槍も教わった。クロスボウを持てない近さへ来られたときのためだ。構えを直し、打ち込まれる木の棒を柄で受ける。今は腕が負けないので、教えられた姿勢を保っていられた。強くなった分で、前ならできなかった練習までできる。
穂先を藁束へ刺すと、ザラがいいねと言ってくれた。
普通に練習するのも、できることが増えるなら結構楽しい。
休憩に入って一覧を見ると、次の条件が見えた。
〈並列モデル レベル60で解禁〉
今度は60。今の自分から23も上だ。
リネアが出発の日をもう一度確かめに来たので、一覧を閉じた。準備は明日で終えられそうだった。
◇
出発の前夜には、アイと続きを見る約束をしていた旅絵集を開いた。橋の上に家が並ぶ、あの街を描いた本だ。
調べ物の写しは鞄へ詰め終わっている。今日は閉館の鐘も鳴らないので、橋の街の続きからゆっくりめくった。最後の絵は、街を離れた丘から見た夜景だった。
『この窓ですね』
――どれ?
『左端の、青い屋根の下です。昼の絵で籠を下ろしていた家です』
戻して比べてみると、同じ形の窓があった。俺は橋全体の灯りを眺めていただけだったが、アイはあの家を探していたようだ。
――よく覚えてるな。
『もう一度、広場の絵を見てもいいですか』
しおりを挟んでいたところへ戻す。今度は屋台の後ろの階段に気づいた。絵は変わらないのに、見つかるものは増える。
翌朝、本を図書館へ返してから待ち合わせへ向かった。鞄は少し軽くなったが、帰りにはもっと重くしてくるつもりだった。
◇
山の斜面から、石の壁が突き出していた。
入口へ着くとリネアは荷物を下ろし、真ん中の扉へすぐに寄っていった。細い線が幾重にも刻まれている。確かに、あの錠前で見たものに似ていた。
「ここ。前は閉じる方に動かしてたんだと思う」
写しと実物を並べ、光り方をアイへ見せる。リネアが手を置き、教えられたところで止めた。
手元から青い光が消えた。
少し遅れて、奥で音がした。
石の扉が横へ動き、冷たい空気が流れ出てくる。リネアが奥へ灯りを向けた。
「開いた」
ザラが隙間から地面を確かめて、うなずいた。リネアは扉を押さえていた手を離し、灯りを前へ出して敷居を越えた。
俺も荷物を持って続く。奥の大きな扉が灯りに浮かぶより先に、リネアは壁際の文字を見つけて足を止めた。
「こっちにもあるよ」
図面へ写してあった外壁の文字より、ずっと細かい。彼女は袋から写しを出そうとして、手がふさがっていることに気づいた。
「灯り、持ちます」
受け取って壁へ近づけると、リネアは俺の隣で紙を広げた。