アンケートのほう、ありがとうございました。もう決めました。いつまで悩んでても仕方がないので。
今回は長いです。ただ、見所ですね。
え?バレンタイン?
筆者はソロプレイヤーですよ?
65層、転移門前。俺はアスナを待っていた。俺はアスナが付いてくることを了承した。断ったら後が怖いし、何より機嫌を損ねるとS級食材を調理してくれない。ここ大事。
そういう訳で待っているのだが、遅いな。約束の時間までは後3分あるが、アイツならもっと前に来ててもいいと思うのだが。約束は守るようなやつだしな。原作知識だけど。あれ? でも確か、母親との食事には遅れてたな。あの時はユウキたちと話をしていて時間を忘れてたからだよな。てことは俺、忘れられてる? そうかー、忘れられてるかー。あれ? 目から涙が。擬態できてねぇ。
「お待たせ」
お、来たか。時間ギリギリだな。まぁ間に合ってよかった。…て、うん?
「お前、何か顔色悪くないか?」
「…気のせいよ」
「そうか?」
「気のせいって言ってるでしょ。早く行くわよ」
ふぅむ、気のせいだろうか。まぁ本人がそう言ってるんだからそうなんだろう。俺はパーティー申請をしてアスナが了承する。よし、さあ行くか。俺たちは街から出てすぐの遺跡に向かった。
65層は幽霊のようなモンスターが多く出る、いわゆるホラー系フロアだ。基本的に夜で、朝の時間帯でも日が出ることはない。もちろん、幽霊と言っても本物ではなく、死神のような格好で鎌をもった奴だったり、フードを被ってフワフワ浮いてるような奴といったモンスターだ。時々ガイコツみたいなのも出てくるな。俺が前に戦った《オブリビオン・サーバント》もこの階層にいる。明るいところなら大丈夫でも、暗いところで出てこられたら怖いかもな。だから
「キャアァァァァァァァァァ!!!」
こんなにアスナが叫ぶのもわかる。うん、わかるんだけど、そんなに叫ばないでもいいんじゃないかな。俺も多少怖いが、アスナのおかげで怖がってる暇がない。アスナが目をつむっていて当てにならないので、俺はアスナが怖がっている原因の幽霊系モンスターを倒す。何かモンスターの方がアスナに対して怖がってた気がするな。そんなことはないんだが、ありそうで怖い。
「倒したぞ」
「え、う、うん」
恐る恐るモンスターのいた方を確認するアスナ。いないのを見てホッとする。なにこれカワイイ。
「幽霊的なの苦手なのか?」
「そうよ、悪い!? 」
何でそんなに威圧的なんだよ。別に悪くないっての。そういえばそうだったな。原作でもそんな設定だった気がする。でも待てよ。もしかして
「顔色が悪かったのって、これが原因か?」
ギクッとするアスナ。そうなのかよ。
「よく付いてくる気になったな」
「…忘れてたのよ。こういうフロアだって」
「今からやめてもいいんだぜ?」
「嫌よ。こんなフロアに負けるもんですか」
原作だとこういうフロアはサボったってのに、成長したな。いや、戦闘が出来てないところをみると足を引っ張ってる分むしろ退化したというべきか。
「ックク、にしてもすごい絶叫だったな」
「何よ、貴方は怖くないって言うの!?」
「怖くないわけじゃないけど、あそこまで叫ばないって。ックク」
「笑わないで!」
「いや、悪い悪い」
いやー、面白い物が見れたな。怖いんじゃ仕方ないよな。アスナも女の子だもんな。ここは男の俺が先頭に立って、引っ張っていってやるとしますかね。ックク。
俺は意気揚々と進み始めようとする…が、足が動かない。どうしたんだ? 足元を見てみると、何者かが俺の足を掴んでいる。
掴んでいるのは、4体の人型の骸骨だった。それが俺の足につかまりながらケタケタと笑っている。
……………フフフ
「ギャアァァァァァァァァァ!!!」
「アハハハハハハハハ!」
めっちゃ笑われてる。アカン、恥ずかしい。何ということでしょう。つい先程まで笑っていたはずの私が、いつの間にか笑われてる立場に。ちくしょう。
さっきの骸骨はモンスターではない。このフロアのオブジェクトだ。しかし、ただのオブジェクトではない。動くオブジェクトなのだ。それゆえ、ダメージはない。精神的なダメージはあるが。あいつらオブジェクトだから索敵に引っかからないんだよな。だから怖い。
「笑いすぎだろ」
「だって私ほど叫ばないってアハハハ!」
「泣くぞ」
何の脅しだよ。効くわけねぇだろ。案の定、未だに笑い続けている。もう知らん。放っておこう。
俺に付いてきながらも笑い続けているアスナ。しかし、笑っていられるのもそれまでだった。すぐさま出てきた幽霊系モンスターに怖がり、何とか倒したと思ったらまた次のモンスターが出てきて、基本怖がりっぱなしだった。俺はアスナが怖がってくれたから怖がらずに済んだ。あるよね、自分より人が怖がってると怖がらずに済むってやつ。
俺たちは何とか進んで行き、大きな部屋に出た。その部屋には扉以外は何もない。モンスターもいない。怪しいな。とりあえず、その扉を調べてみることにする。しかし、開かない。何かアイテムが必要なのか? 仕方ない。この部屋は後回しにしよう。
と、扉から離れようとしたその時。一体のモンスターが現れた。しかし、アスナは怖がらない。なぜなら
「幽霊じゃないわね」
そう、幽霊ではないのだ。フードを被り、杖を持った人のようなモンスター。身長は3mほどで足もある。これならアスナも怖がらない。凄いね、幽霊じゃないとそんなに強気なのね。やる気満々ですやん。モンスターの名前は《ネクロマンサー》。何の捻りもないな。しかし、このフロアによく合っている。レベルは76と高い。さて、どうするか。いつも通りでいいか。
「俺が先に仕掛ける。タゲを取るから後から突いてくれ」
タゲとはターゲットのこと。タゲを取るというのはターゲットを自分に向けるということだ。タゲを取るにはどうすればいいか。簡単だ憎悪値を稼げばいい。要は攻撃を当てればいいのだ。
コクリと頷くアスナ。よし行こう。
俺は敵に向かって一気に駆け、刀を振りかざす。当たる。そう思った俺の斬撃は、敵をすり抜けた。
「な!?」
当たると思った俺は体勢を少し崩す。背後を取られたと思い、急いで振り返るが、こっちを見ていない。アスナの方を見ている。タゲを取れていない。攻撃が当たらなかったからだろうか。いや、それよりアスナを下げなければ。タゲを取れたと思って突っ込んだのでは危険だ。
「 アスナ、タゲを取れてない! 一旦下がれ!」
「黙ってて!」
バカ野郎。下がれって言ってんのに。俺の攻撃が当たらなかった以上、こいつに何かあるのは確実。それに正面から突っ込むっていうのか。案の定アスナの攻撃は敵をすり抜ける。それでも、何度も何度も切り付けようとする。やはり当たらない。
「ッ、ハアァァァァァ!!」
攻撃が通らなかった苛立ちからか、アスナは細剣の下級ソードスキル《リニアー》を放つ。《リニアー》は相手を突き刺すように細剣を出すソードスキルで狙いを定めやすいのが特徴だ。
アスナは攻撃を首元に当てれば通ると思ったのだろう。その考えはいい。ただ、それをソードスキルでやる必要があったのか。もし通らなければ、ソードスキル後の硬直が致命的な隙になる。まず、普通の攻撃で試してからソードスキルを放つべきだ。それは、アスナ程の腕前であれば有り得ない致命的なミス。
そしてアスナの攻撃は、すり抜けた。
敵がそのまま動かないはずがない。敵の持ってる杖が光る。ソードスキルだ。硬直で動けないアスナに対して杖を大きく掲げ、それを振りおろした。
アスナは、目を見開き、見た。
迫ってくる杖。
避けられない。
当たるはずの攻撃。
杖と自分の間に入る一筋の影。
そして振り下ろされた杖は、一閃によって切り裂かれた。
「ショウ…くん?」
「一旦退くぞ」
「でも」
「でもじゃねえ! 退くぞ!」
俺は有無を言わさずアスナの手を取り引っ張って部屋を出る。幸い、追っては来ないようだ。どうやらあの部屋の固定ボスのようだな。俺たちは遺跡内の圏内に移動した。圏内には誰もいない。よかった。一息つく。
さて、説教の時間だ。
「バカ野郎!」
俺はアスナに対して怒鳴る。アスナは驚いた表情をしてこっちを見る。
「俺の攻撃が当たらなかったんだ。何かあるって考えるだろ! そんなのに正面から行くバカがいるか!」
「な、何よ! 私だってソードスキルなら通るかもって思って」
「だとしても、やるタイミングがおかしいだろ! 結果的に俺が間に合ったから良かったけどな、間に合わなかったらどうするつもりだったんだ!」
「ただのソードスキルじゃない!」
「普通のソードスキルだとなんでわかる! もしかしたら死ぬほどの威力だったかもしれないだろ! この世界はそんな理不尽があるんだ。冷静になって考えろバカ!」
この野郎、俺がここまで言ってるのにまだ自分のミスに気づかないのか。いや、アスナ程のやつが気づかない訳が無い。とすれば、認めないだけなのか。なぜ? なぜ認めない?
「貴方に…」
「ん?」
「貴方に何がわかるのよ!! このゲームから逃げた貴方に!!」
「逃げた…?」
「そうよ、貴方は攻略組から抜けた。一度とはいえね。それはゲームから逃げたということ。そうでしょ」
それは…
「私は、アナタを尊敬してた」
「え?」
「第一層で、ディアベルさんを助けた時、この人は何て強いんだって思った。貴方はあのボスが違う動きをして来るって知ってた。違う?」
こいつ…
「どうして知ってたのかわからないけど、一人で突っ込むなんて普通なら出来ない。しかも、ボスの攻撃を防ぐなんて私なら出来なかった。だから尊敬した」
知らなかったな。アスナにそんなこと思われてたなんて。一層のことがバレてたのは驚いたが。
「それなのに、アナタは攻略組から抜けた! 逃げた! このゲームから!」
アスナ…
「私は、こんなゲームに負けたくない。認めない。絶対に逃げない。だから強くなりたかった。だからキリト君を、貴方を尊敬した。強いから。それなのに、キリト君はこんなゲームを楽しんでる。貴方は逃げた。そんな人達に負けたくないって思った。だから、貴方に決闘を挑んだ。それなのに負けた。ゲームから逃げた貴方に! だから付いていこうと思った。どうして私が負けたのかを確かめるために!」
…そうだったのか。尊敬されてたこともそうだが、そんなことを思っていたなんて知らなかった。そうだ、アスナは自分がエリートの道から外れることを恐れていた。だからこそ、ゲームクリアに固執した。そんな中、自分以外がこの世界を楽しんでいる事を許せなかったのだろう。
しかし、おかしい。原作でいえば、キリトとリズがあった時には、アスナはすでにこのゲームを認めていたはずだ。キリトに恋してたしな。だが、この世界では認めていない。狂っているのだ。俺が入ってきたことによって話が。ディアベルがいい例だ。本当は死んでいたのに、今は生きてる。結果、軍は出来なかった。つまり、これは俺の業。
なら俺が対処しなければならない。
「アスナ」
まぁ、そんな義務的なものじゃないけどな。人が一人悩んでるんだ。助けないわけがないだろ。
「お前は、キリトがゲームを楽しんでいることに腹を立ててたな 」
「それがなに?」
「お前はこのゲームを楽しんでないってのか?」
「当たり前じゃない!」
「なら、リズと買い物したり話したりすることも楽しくなかったって言うんだな?」
「それは…」
「さっきお前が幽霊に怖がったり、俺がビビってる姿を見て面白いと思うこと全てが偽物だと言うんだな?」
「…」
「違うだろ! お前はもうゲームを楽しんでるんだ! 認めてるんだよ、このゲームを!負けたくないってのは別にいい。けどな、認めないってんなら、偽物だってんなら、お前の心はどこにある? お前は死んでるのか? 違うだろ! お前が思っている感情は全部本物なんだ! お前は確かに!ここに! 生きてるんだ! 」
こいつはずっと一人だったんだ。この作られた世界の全てが偽物だと思っていたから。自分の感情でさえな。そりゃキリトについて聞いた時に渋い顔をするはずだ。偽物に遊び呆けてる奴に対していい印象を持つ訳が無い。しかし、強さは認めている。その結果がリズへの返答だったんだ。ようやくわかった。
早くクリアしなければならないという焦り。だからこそのさっきのミス。このままなら危険だ。またいつ同じようなミスをするかわからない。そもそも、偽物だと言う考えが間違っているんだ。
なら、その腐った考えを叩き直してやればいい。
「確かに目に見えてるもの、聞こえてるものはデータ、偽物かもしれない。けどな、この感情は本物だ。だから、俺たちが経験してることは全部本物なんだ。俺たちはこの世界に生きてるんだ」
「生きてる…」
「だからさ、もう意地を張るのはやめろよ。認めろ。自分がこの世界に生きてることを」
「でも」
「まだ言ってるのかお前は」
俺はダメージにならない程度にデコピンをする。デコを抑えて俺を見るアスナ。
「偽物ならダメージにならないようにデコピンなんかしないぞ。オレンジになるのが怖いから弱めたんだ。どうだ、これでも俺が偽物だってのか?」
「……クスッ、バカみたい」
「笑うなよ、恥ずかしい」
ちくしょう。自分の説得力のなさを恨むぞ。もっとちゃんと考えろ俺のバカ野郎。でも笑ったな。そうだよ。笑え。そんな笑顔が偽物な訳が無い。
「ショウ君」
「ん?」
「私ね、小さい頃から親に言われる通りに勉強してきたの」
アスナは前を向きながら話す。俺は黙って聞く。それしか出来ない。人のリアルに口出しなんか出来ない。
「ちっぽけな人生になるかもしれないけど、それでも言われる通りにやってきた。でも、このゲームに囚われて、親が失望するんじゃないかって、自分がやってきたことが無駄になるんじゃないかって怖かった。こんな作られた世界で死ぬことが怖かった。だから強くなろうと思った」
アスナがこっちを向く。
「私はこのゲームに負けたくない」
「ああ」
「私は、私達はこのゲームに囚われた」
「ああ」
「それでも、この世界で生きてる」
「そうだ。この世界にいる皆が生きてる。決して無駄になった時間なんてない。1日が、本物の1日がここにもあるんだ」
「そっか」
「認めたか?」
「一応ね。でも、何だか楽になった気がする」
「そりゃよかった」
ったく。手間がかかるね、このお嬢ちゃんは。たとえどんな世界にいようと、自分が生きていることに変わりはないってのに。俺だって、死んでるのかわからない身だ。けどな、今はこの世界に生きてる。それだけは間違いない。間違えちゃいけない。間違えられない物だからこそ、尊いものなんだ。
「1つ聞いていい?」
「どうした?」
「貴方は逃げたの?」
「そうだな、俺は逃げた。攻略組から、現実から。でも、俺は今、ここにいる。攻略組として。Shoとして。それじゃダメか?」
逃げた。そう、逃げたんだ。俺は。現実からも、自分自身からも。それでも、俺は確かにここにいるんだ。
「ううん、そうだよね。生きてるんだから、逃げたくもなるよね」
「お前が幽霊から逃げたようにな」
「それを持ち出さないでよ!」
頬を膨らませるアスナ。それでも、さっきまでとは全然違う。晴れやかな表情をしている。そこに焦った様子はない。うん、いい顔するじゃんか。
「勝てない訳だなぁ。ショウ君はこの世界に生きて、私は向こうの世界に生きてたんだから」
「なら、今やったら俺は負けるかもな」
「そんなことないよ。ショウ君、凄く強かったから」
「はいはい、あんがとさん」
お世辞でも嬉しいね。今更だけど、さっきの話からすると、あの時のアスナは手を抜いてなかったってことか? てことは俺はあのアスナに勝ったってこと? うお、なんか凄い達成感が出てきた。
「じゃあ、ボス倒しに行くか」
「そうね」
「今度は落ち着いて行けよ?」
「わかってる」
ならよし。今のアスナなら大丈夫だろう。パートナーとして任せられる。アスナに対して凄い上からだな俺。
きっと誰しもが不安に思ってる。このデスゲームで、いつ死ぬかわからないという不安に。だからこそ、人は助けを求める。それは、人との繋がりだったり、趣味だったり、なんでもいい。その時に生まれる感情。楽しい、悔しい、悲しい。それは、この作られた世界でも確かな本物。不安という感情でさえ、嘘偽りのないもの。生きているからこそ生まれるもの。だから、俺たちは生きている。だから
「ショウ君、行くよ!」
笑顔で誘うこの少女にドキッとするのも不思議ではない。
はい、ここまでです。
この作品のアスナはゲームクリアというよりゲームに負けないという気持ちの方が上な感じですね。それを念頭において読んでいただければと思います。
一応言っておきますと、アスナがヒロインかどうかはまだわかりませんよ? 先はまだまだ長いんです。