遅くなりました。
いやー、戦闘描写って難しいですね。何回も書き直してしまいました。
ボス攻略当日。集合場所は転移門前で、集まり次第回廊結晶でボス部屋の前まで転移することになっている。俺が転移門前に着いた時には既に多くのプレイヤーが集まっていた。しかし、その中の誰も会話などしていない。装備を確認している人もいれば、目を閉じ自らの集中力を高めている人もいて、各々が来るべき決戦に備えている。準備から戦いは始まっているのだ。その点、流石にここまで戦い抜いてきた奴らだな。
ディアベルはまだ来ていないようだな。それとキリトたちも。まだ時間じゃないしな。そのうち来るか。
さて、俺も準備をするとしますかね。武器は《紅椿》だとして、防具は変えよう。40中層にいた辺りからずっと変えてなかったしな。この装備より軽いのが無かったから変えてこなかったが、この間攻略してた時に良いアーマー、というかコートを見つけたんだよな。ずっと放ったらかしにしておいたが、ステータスもいいし着るか。俺は装備画面を操作してそのコートを装備する。
……何か黒いな。いや、深い青色って言った方がいいか。まぁ、暗い色は隠蔽に長けてるから良いんだけどさ。何となくキリトの服装に似てるんだよな。別に胸当てとかは無いんだけどさ。装備全体がそんな色だし。統一感があるってことでいいか。何より軽いってことが一番だ。
「誰かと思ったよ」
さっきまではいなかったはずのキリトが俺に話しかけてきた。急に話しかけるなよ、ビビったわ。
「防具変えたんだな」
「ああ、軽いやつが手に入ったからな」
「なるほどな」
俺の戦い方を知ってるだけあって理解が早いな。
武器だけでなく防具にも重さがある。体防具や手防具、足防具などがあるが、そのどれにも重さがありAGI値にマイナスがかかる。俺の戦い方からして、防具も軽い方がいいのだ。防御力は求めていない。もちろん、あるに越したことはないが。
「その服、似合ってるな」
「そのセリフは女性に言ってやれ」
「え?」
え、じゃねぇ。お前ならコロっと落ちるだろうよ。それに、俺は男に言われても嬉しくない。…ゴメン、嘘ついた。地味に嬉しい。
「エギルとクラインはまだ来ないのか?」
「まだみたいだな。もう来てもいい頃だと思うけど」
何やってんだアイツら、早く来いよ。そして俺の緊張を解きほぐしてくれ。正直、キリトが来てなかったらヤバかった。本当にキリトさん感謝ですわ。
「おーっす、キリト、ショウ」
話をしていたらクラインとエギルがやってきた。おやおや、同伴出勤ですか、羨ましくない。こいつらのカップリングとか誰得だよ。
「お、防具変えたのか、似合ってんなそれ」
「なんだろう、お前に言われると嬉しくない」
「ひでぇ!」
何か軽いんだよ、言葉が。キリトに言われた方が嬉しかったな。ハッ、まさか俺はキリトのことが何でも無いですスイマセン。
「今日は頼んだぜ。それと、あまり援護を期待しないでくれ。誰もお前には追いつけそうもないからな」
そういえばエギルはアスナとの決闘を見てたんだったな。それなら、俺の動きを知っててもおかしくないか。キリトにも言われたが、そんなに速いんだな俺。
「援護よりも自分の事を心配してくれよ」
「ボス攻略のキャリアは俺の方が上だぜ」
「そうだな、いらん心配だったか」
そうだよな。恐らくだが、今回の参加者の中でも俺が一番キャリアが浅いだろう。人の心配より俺自身を気にするべきか。
ふぅ、何となく緊張が解れたな。やっぱり見知ったやつと会話できるっていいな。キリトたちは俺が緊張してると思って声をかけてくれたんだろう。こんな知り合いがいることは本当にありがたい。死んで欲しくないな。原作では死ななかったが、俺がこの世界に来た以上何が起きるかわからない。サチのように生きている人がいるなら、逆に死んでしまう人が出てもおかしくない。願わくば、いつまでもこんな風に会話が出来たらいいものだ。
と、空気が変わったな。どうやらディアベルたち聖龍連合が来たようだ。ちょうど時間だし、これで全員かな。
「みんな集まったみたいだな。それじゃ、行こうか」
いよいよだな。心臓が高鳴る。ディアベルが回廊結晶を取り出す。
「コリドー、オープン」
結晶が光ったかと思うと、丸いゲートのようなものが現れた。あれを通っていくと、ボス部屋の前まで転移できる。ディアベルが先頭となり、プレイヤーたちがゲートに入る。俺たちも後に続いて入った。ゲートに入るとすぐにボス部屋の前に着いた。回廊結晶のゲートは薄い膜みたいなのが張ってるだけのようだ。実は俺は回廊結晶を通るのは初めてだったりする。なんていうかすごいね。ドラえもんのどこでもドアってこんな感じなのかね。
さて、ボス部屋の扉が今、目の前にある。何という大きさだ。こんなに大きかっただろうか。以前よりも大きく見える。それに伴う威圧感は半端なものではない。今になって緊張感が増してくる。扉が大きな口に見えてしまう。それはプレイヤーたちを飲み込む怪物の口。地獄への入口。俺の心が問うて来る。本当に俺にここに入る資格があるのかと。挑む資格があるのかと。
知ったこっちゃねぇや。
資格? 何それ? 俺は俺の意思でここにいる。みんなの危険を減らすため、ボスを倒すため、それでいいじゃないか。なんだなんだ、こんな扉ごときでビビっちまって、これから戦えるのかよ。思い出せ、聖龍連合でのことを。俺たちは下層の人たちの希望そのものなんだ。そんなやつが、戦う前からビビってどうすんだよ。あいつらが知ったら失望するぞ。
「毎回のことだけど、俺から言うことはたった一つだ。勝とうぜ!」
ディアベルが声をかける。その言葉ずっと使ってんのな。だが、やる気は高まった。やったろうじゃないの。
ディアベルが扉を開く。目の前に見えるのは白銀に輝く蜘蛛。かなりの大きさがある。あいつがこの層のボスか。なるほど、タングステンの名を冠してるだけあって随分と硬そうだ。
「ショウさん」
ディアベルが目配せをしてくる。このボスの引き付け役は俺だ。俺が始めない限り、全員で仕掛けられない。つまり、合図をしろと言いたいのだろう。ええー、人前でそういうの恥ずかしいんだけど。まぁいいか、気合を込める意味でも、やったるか。
大きく息を吸い、腹に力を込める。
これが俺の復帰戦だ。
さぁ、お前ら
「行くぞ!!」
『おお!!』
その時、攻略に参加したプレイヤーたちは見た。
ボスの顔元に突如として上がった炎を。
それは、見る者の心を惹きつけるような力強い炎。
その火元には
彼の、Shoの姿があった。
「キリト!!」
「了解!!」
名前を呼ばれただけだが、ショウの狙いはわかった。敵が右前脚の横払いを左から右に放ってくる。ショウはそれを正面から迎えに行き、攻撃を刀身の上を上手く滑らせて受け流す。いくら脚が8本あるとはいえ、慣性もある。必然的に、蜘蛛は右前方にバランスを崩す。今だ。俺はショウに声をかける。
「スイッチ!!」
ショウと位置を入れ替わり、未だにバランスを崩している蜘蛛の顔めがけて片手剣のソードスキル《バーチカル》を放つ。ボスのHPバーの20分の1程度削り、イエローゾーンへと突入する。残りのHPバーは3本。もともと5本あったから、ようやく半分と言ったところだ。
《バーチカル》は単発の初級スキルで、ジャンプして上から下に振り下ろす技だ。バランスを崩したとはいえ、復帰するのに時間がそうあるわけではない。今は硬直時間の短い初級スキルで攻撃していくのがベストだ。
「ナイス、キリト!」
そう言うとショウは、すぐに蜘蛛の顔へと、まさに目にも止まらないほどの斬撃を浴びせる。蜘蛛が体勢を立て直すまでそれを続け、一度は俺に向いた憎悪値を再び自分に向ける。そうすることで、もし仮に攻撃を仕掛けていたプレイヤーの硬直が解けていなくても、そのプレイヤーへ攻撃をすることは必ずしも無いわけではないが、危険性は大きく無くなる。
それは、ショウ自身の危険が高まることになる。しかし、ショウは見事にその引き付け役の仕事を果たしている。引き付け役どころか、憎悪値を稼ぐために与えたダメージは、俺たちが与えた総ダメージよりも与えているだろう。メインアタッカーとしての役割も十二分に果たしている。
それにしても、なんというスピードだろうか。消えては現れ、斬撃を浴びせ、脚の振り払いが来ると思ったら攻撃を受け流すのに適切な位置取りをして受け流し、酸の攻撃が来ると思ったらすぐさま射程圏外へと退避する。まるで瞬間移動でもしているのではないかと疑うほどのスピードでだ。
驚愕すべきはもう一つ、先ほどの斬撃もそうだが、太刀筋が見えない。刀の赤い色も相まって、まるで炎が迸っているようだ。開始直後のあの斬撃は、何もないところから急に炎が噴き出したようだった。太刀筋が揺らいでいるわけではないのだが、確かにそう見えた。まるで、ショウの闘気を具現化してるかの如く。
ここで一つ疑問が浮かんだ。確かにショウのスピードは凄まじいモノがある。しかし、俺と決闘したときはこれ程の速さではなかった。Lv.アップしたと思えば速くなっているに違いないのだが、極振りとはここまで極端に現れるものなのだろうか。どうも違和感が残る。
「キリト!」
ショウに呼ばれて思考の底から戻ってくる。既に蜘蛛の体勢は立て直されていた。硬直は解けている。しくった、すぐに離脱しないと。ショウの頑張りを無駄にするわけには行かない。考えるのは後だ。今はボス戦のことに集中しよう。
疲れた、本当に疲れた。めっちゃ頑張ったよね。これ現実世界なら労働基準法に違反しててもおかしくないぞ。あっち行ってこっち行って攻撃受け流して憎悪値稼いで、どんだけ働いてるのよ俺。しかし、それももうすぐ終わりだ。硬いだけあって時間はかかったが、ボスの最後のHPバーもレッド直前程まで来た。
「ウオリャアァァァァァァ!!」
クラインの一撃が入る。削れたHPゲージの色が赤色に変わる。レッドゾーンに入った。だが、油断してはいけない。ボスというのはここから攻撃パターンを変えてくる。それは、武器を変えたりソードスキルを使ってきたりと色々だ。このボスはどうなるんだ。
「キシャアアアァァァァ!!」
雄叫びを上げたかと思うと、全身が赤色に染まった。なんだ、何が起こるんだ。俺たちは一旦後退し、様子を見る。
と、1人遅れている奴がいる。蜘蛛がそいつの方を向く。しまった、憎悪値が俺に向いてない。
蜘蛛はそいつに向けて酸を放った。そいつは蜘蛛の方を見ていなかったため、酸をモロに食らってしまう。するとその途端、そいつは一歩も動かなくなってしまった。おい、どうしたんだ。
「ま、麻痺った!!」
そいつは必死に俺たちに伝える。麻痺だと、ここに来て厄介なものをやってきやがる。蜘蛛は麻痺状態のそいつに向かって行き、体を大きく上に持ち上げた。プレスしようというのか。マズイ。
硬さがある武器は、多少攻撃力にもプラスされる。考えてみれば当然だ。柔らかいもので攻撃したところでダメージなんか対したことはないだろう。逆に、硬いものならダメージは大きくなる。それは、敵の攻撃にも言える。相手はタングステンの名を冠しているほどの硬さを持つ敵。ダメージがどれほどになるのか想像もつかない。
俺は蜘蛛とそいつとの間に割り込む。割り込んだはいい。ここからどうする。さっきまでみたいに受け流すことは不可能。こいつを持ち運ぶには俺のSTR不足で時間がかかる。何か、何か方法はないのか。考えている間にも蜘蛛の体は迫ってくる。ちくしょう、ダメなのか。ここで死ぬのか。
「まだ諦めてはいけない」
声が聞こえた。見ると、ヒースクリフが俺と蜘蛛との間に割り込んでいる。
ヒースクリフは、その手に持った盾を蜘蛛にめがけて掲げる。
盾とぶつかった蜘蛛は、その勢いを止めた。
もちろん、完璧に勢いを殺せたわけではない。見れば、少しずつヒースクリフが押されている。しかし、時間が稼げれば十分だった。俺は麻痺ったやつを抱き抱え、離脱する。ヒースクリフもうまく離脱したようだ。まさかこいつに助けられるとはな。
「ありがとよ」
「貴重な人材を失うのは私としても攻略組としても惜しいからね」
…うわ、なんか恥ずかしい。貴重とか言わんでくれ。言われ慣れてないんだよそういうの。自分の力量を理解した今だと、なんかすごく恥ずかしい。前までなら冗談だろと思って流してたんだけどな。
「しかし厄介だね」
「あ?」
「先ほど離脱する際に1度攻撃を顔に仕掛けてみたのだが、弾かれてしまった。先程よりも体並に硬さが増していると言っていいだろう」
マジかよ。じゃあどうする、また時間を掛けて少しずつ削って行くしかないのか。どうせ普通の攻撃だと弾かれるけど、やらないよりはマシだ。
……そういえば、前にもこんなことがあったな。キリトと《紅椿》の材料を取りに行った時のモンスターがこんなやつだったな。たしかあの時は…。
あーあ、仕方ないか。
「ヒースクリフ」
「何かね?」
「もしもの時は援護頼む」
「…いいだろう」
一応保険はかけておいた。ヒースクリフなら大丈夫だろう。キリトが何をするつもりかと目線で訴えてくる。心配すんな、キッチリ終わらせてくるよ。
俺は、真っ赤に染まった蜘蛛に向かい正対する。
刀を鞘に収める。
せっかくだ、見せてやるよ。
見とけよお前ら。これは挨拶替わりだ。
これが、俺だ、これがShoだ。
蜘蛛めがけて駆ける。
蜘蛛とすれ違う際、刀を抜刀し、斬り抜ける。
しばしの静寂。
パリンと何かが散っていく音がする。
これが俺の最高のソードスキル
《
鳴り響くファンファーレ。
そして出てくる画面に書き記された文字。
【congratulations】
部屋に響く歓声。
第65層、フロアボス討伐がいまここになされた。
はい、ここまでです。
本当に難しかったです…。出来る限り本家の描写っぽくしようかと思ったのですが、筆者の文章力スキルでは無理だということで、自分らしく書いてみました。本当に《愚者の勇志》が欲しい今日この頃です。
結局ユイは出すことにしました。やっぱりユイもヒロインの一員なので。それに出しておいた方がネタが増えるゲフンゲフン。