最初はあの男の見せ場です。
「スイッチ!」
俺は叫ぶとアスナと入れ替わり、ローブを被り鎌を持った骸骨、いわゆる死神と呼ばれるような敵に刀のソードスキル《鷲羽》を放つ。敵のHPが削れ、残りわずかとなった。思ったより削れたな。くそっ、抜刀術で行けばよかった。敵はその鎌を振りかぶり俺を狙わんとする。俺はというと硬直で動けない。このままなら敵の攻撃をモロに食らってしまう。
だが、今の俺は一人じゃない。
「オリャアアアアア!!」
と、髭面の奴が気合を込めた雄叫びと共に刀のソードスキル《旋車》を放つ。その斬撃は見事に敵の首元を捉え、HPを持っていく。減りの勢いは止まらず、そのまま全てを削った。パリンという音がする。
やれやれ、アイツがLAかよ。
「よっしゃあああああ!!」
クラインが止めを刺すという気に食わない事態が起こったものの、俺たちは第67層を突破した。今のところ、俺が攻略組に戻ってから死者は出ていない。良い事だ。願わくば100層攻略まで死者ゼロで行きたいものだ。その中で一番の山場は次のクォーターポイントである75層だろう。俺の記憶が確かなら、あのスカルリーパーだったはずだ。攻略に参加したプレイヤーの半分ほどを葬った驚異的な敵である。だが、負けるわけにはいかない。今はもう、自分のためだけじゃない。キリトやアスナたち、他の皆にも生還して欲しい。ホント、最初の時の俺は自分さえ生きれば良いと思ってたからな。それぐらい生きるのに必死だったし。それを考えればマトモになったもんだな。
さて、そんな先の話はとりあえず置いておくとして、まずは目の前の68層攻略からだ。今日も今日とて攻略を進めていく。68層の森の中、俺はゴブリンを相手取っていた。俺は目の前のゴブリンをAGIを活かして攻撃の的を絞られないようにあらゆる方向から攻撃する。そして、削りきれると思ったところでソードスキル《鷲羽》を放つ。攻撃が当たる度に減っていくHPは、最後の攻撃を食らったところで0になり、ポリゴンを四散させた。うむ、いい感じだな。てかゴブリンって本当にどこにでも出るのな。下層から全階層ではないが、ほとんどの層で出てるぞ。正直飽きたわ。
ちなみに、パーティーは組んでいない。65層を突破してからずっとソロである。ソロの方が経験値効率はいいからな。出来る限りはソロで進めていきたい。
まぁ、おかげさまでLv.が91になってしまった訳ですが。どうすんのよこれ、安全マージンを10越したんだけど。原作のキリトより上なんじゃないの? しかも俺ってついこの間までLv.48だったんだぜ? 早すぎだろ、チートかよ。チートでした。
さぁ、敵は倒したことだし、どんどん攻略を進めよう。
「あ、いたいた。おーい、ショウくーん!」
と、歩みを進めようとしたところで声をかけられた。声の主はアスナだ。人を連れているようには見えない。どうやら一人で来たようだ。おいおい、血盟騎士団の副団長様が一人でこんなところに来ていいのかよ。あれ? アスナがエギルの店に来た時にもこんなことを思ったような? てことはエギルの店はフィールドと同じレベルということですね。あまり近寄らないようにしよう。
「探したよー。やっぱりソロで進めてたんだね」
「経験値効率がいいからな」
「もう、経験値よりも自分の身の安全を考えてよ。もう上層と言ってもいいところに来てるんだから、ソロじゃ危ないよ」
アスナの言う通り、既に攻略はアインクラッド全体の3分の2を越えている。下層、中層、上層と分けた場合、ここ68層は上層と言えるだろう。そしてこれまたアスナの言う通り、そろそろソロもキツくなってくる。それは決してLv.の問題ではなく、敵のAIの問題だ。上層になればなるほどAIのLv.は高くなる。66層を越えたあたりから敵の動きがはっきりと変わった。より統率を取るようになり、より動きが複雑になった。いくら俺がAGIを活かして回避するとはいえ、必ず攻撃が当たらない訳ではない。先程もゴブリンと戦った際、攻撃は食らわなかったが、ヒヤッとしたのがいくつもあった。タイマンでそれなのだ。複数を相手取ったら流石に食らってしまうだろう。紙装甲の俺にはちょっとした攻撃が致命傷になりかねない。だからこそ、パーティーを組んで攻略していくべきなのだ。
「まぁ、そうなんだけどさ、もう少しLv.を上げときたいんだよな」
が、俺には《愚者の勇志》というチート中のチートスキルがある。仮にパーティーを組んだとして、俺のLv.の上がり具合を不審に思うかもしれない。俺の知り合いならともかく、このスキルが一般に知られれば、一気に注目を浴びることになるだろう。もちろん、いい意味ではなく悪い意味で。全プレイヤーが欲しがるようなスキルだからな。それはなんとしても避けたい。だからこそ、パーティーは出来るだけ組まないようにしている。
「今でも相当高いと思うけど?」
「高いに越したことはないだろ。特に、俺は紙装甲だしな。一撃食らったらゲームオーバーになってもおかしくないんだ。AGIを極限まで高めておかないとな」
「それはそうだけど…」
「とにかく、俺はもう少しソロで行く。で、探したって言ってたけど何の用なんだ?」
これ以上は長くなりそうだったので、アスナの用事の方に話を逸らす。そんな俺の態度に少し不満顔になりつつも、この話についてはそれ以上何も言ってこなかった。すまんな、俺のことを案じてくれるのはありがたいが、こっちにも事情があるんだ。
「団長がね、至急血盟騎士団のホームに集まってくれって」
「ヒースクリフが?」
集まってくれってことは、俺以外にも人を呼んでいるということだ。ヒースクリフが人を集めるなんて、今まで記憶にないな。
「いったい何があるんだ?」
「私も内容は聞いてないのよ。実力、人柄ともに信頼できる人を集めてくれって言われただけ」
「そうか…」
人柄と実力? いったい何をしようというのだろう。しかし、至急と言ってる以上、一刻を争う事態が起こっているのだろうか。少し不安だな。
え、てことはアスナは俺のことを信頼してくれてるってこと? いや、そりゃそうだろ。信頼もおけないような人とパーティーなんか組める訳が無い。つまり前にパーティーを組んだ時には既に信頼されていたと言う訳で。
「ショウ君、顔赤いよ?」
「あれだ、日焼けだ」
「日焼けなんてこのゲームに無いよ?」
「可能性を捨てたらそこで試合終了なんだよ」
「とりあえず、ショウ君が誤魔化そうとしてるのはわかった」
ああもう、このゲームは顔の表現が大袈裟なんだよ。治まれ、顔の紅潮。それとアスナよ、少しは俺の心情を理解してくれ。信頼されてることがわかって恥ずかしいんだよこっちは。
「用件はわかった。それなら、今から行けばいいんだな」
「そうね。じゃあ、一緒に行こっか」
え?
「お前、他の人呼びにいかなくていいのか?」
「私以外にも幹部の人たちが当たってくれてるから大丈夫」
「う、うーむ」
「それとも私と一緒に行くのは嫌?」
…その聞き方は卑怯だと思うんだ。100人に聞いたら100人が美人だと認めるような美貌で、家庭的で、強くて、しかも性格まで良いと来てる。誰が見ても完璧な少女に誘われてんだ。嫌なわけ無いだろうが。
「フフ、わかりやすいねショウ君は。顔が真っ赤っかだよ」
「うるせー」
恨むぞ、このゲームの顔の表現のシステム。いや、ゲームを作り出した茅場晶彦よ。また一つ、茅場に文句が増えたな。
「じゃあ行くか」
「うん」
アスナを連れ添って歩く。その距離は遠すぎず近い。近いのかよ。近いんです。あの、アスナさん、肩が当たりそうなんですけど。これは、いいのか? コイツ、誘ってやがるのか? ゲヘヘ、なら遠慮なく頂いちまおうかな。アホか。正直、この距離は恥ずかしい。
しかし、この距離感にどこか満足してる自分がいた。
おまけ クラインより一言
え?俺様、活躍したのに出番これだけ?
はい、ここまでです。
最近忙しくて、執筆の時間があまり取れません(汗)
もう少ししたら早めに投稿できると思います。
次回はあまりに短くなるようなら今回とくっつけるかもです。