やばいスキルがついちゃった   作:ナストマト

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GWですね。え、出かけないのかって?
何言ってるんですか。ちゃんと出かけますよ。ソロで。






 

 

第61層の街《セルムブルグ》は、金持ちという金持ちが住むような高級住宅が立ち並ぶ城塞都市だ。街自体が湖に囲まれており、その景観はとても美しい。特に、夜になると街の灯りが水面に反射して映し出すその景色は幻想的で、見る者の心を奪う。

 

それだけに、フローリアと並んでデートスポットとして有名になっている。半分を越えた階層ではあるが、カップルらしき人たちをよく見かける。そのまま湖に沈んでくれないかな。

 

聞けば聞くほど住むには金がかかりそうな街ではあるが、血盟騎士団の副団長様はそこにホームを置いている。よくそんな金があるなホント。やっぱり大規模ギルドなだけに給料もいいんだろうか。

 

知り合いだけのギルドならともかく、大規模なギルドを運営していくには、やはり惹き付ける物が必要だ。その最たる例が金。もちろん肩書きもあるだろうが、人間というのは目に見えるものに縋る傾向がある。金というものは共通の権力に成り得るものだ。自分たちで十分稼げるだけの実力があるとはいえ、貰えるならそれは嬉しいだろう。アスナがそうかは知らないが。

 

まぁ、つまりだな、何が言いたいかというと

 

 

 

 

 

金が欲しいです。

 

 

 

 

 

「あんまりジロジロ見ないでよー」

 

「あ、悪い」

 

 

アスナに軽く注意される。いや、だってさ、いくらすんのこの建物。花瓶やら照明やらテーブルやら、どれもこれも高級そうな物ばかり。いや、別にシャンデリアとかそういうわけじゃないんだけど、なんていうの、溢れ出る高級感?

 

何で俺がさっきみたいな事を考えていたかというと、まず今、俺はアスナのホームにいる。そのアスナのホームが自分のホームと比べて、それはそれは豪華なこと。もうね、羨ましいというより、よくそんなに金があるなと思いまして、結果さっきの考えに至るわけです。考えというより金銭欲だけど。

 

だってさー、俺は原作のキリトみたいにバーサクでモンスターを狩りまくった訳でもないしさ、ましてや《愚者の勇志》のおかげでハイスピードでLv.が上がったからそこまで金を稼げてないんだよね。別に何に使うとかはないけどさ、あるならあるでいいじゃん。使いたい時に使えないよりマシだ。

 

さて、そんな欲望は置いといて

 

 

「あの娘の様子は?」

 

「まだ寝てる。疲れてたのかもね、あんなに小さな子だもん」

 

「そうだな…」

 

 

椅子に座るアスナ。あの娘、つまり、ユイのことだ。ユイを見つけた後、とりあえず寝かせられるような場所として、アスナが自分のホームに招いたのだ。ユイをベッドに寝かせてから相当な時間が経ったが、未だに起きる様子はないようだ。うーむ、疲れていたわけではないと思うんだけどな。原作通りならユイは、キリトとアスナに会いたくて姿を現す、システムとは何だったのかというトンデモな事をやってのけたのだが、この世界ではどうなのだろう。姿を現した以上、何かしらの原因があるのだろうが、やはりキリトとアスナ目当てなのだろうか。

 

 

 

だが、それ以上に聞きたいことがある。それも、ユイが記憶を失っていなければの話だが。

 

 

 

「…ええと、ショウ君」

 

 

アスナが遠慮がちに話しかけてくる。

 

 

「話のことなんだけど」

 

「ああ」

 

 

今、この場にいるのは俺とアスナだけ。最初はキリトたちもユイの様子を見ていたのだが、時間も時間ということもありアスナに面倒を任せ、今日のところは帰った。俺も帰ろうかと思っていたのだが、アスナが俺に話があると言い、引き止めたのだ。話って何ですかね。男と女が二人きりでお話なんてまさかいやちょっと待て落ち着けそうと決まった訳ではアババババ。

 

 

「その、ごめんなさい」

 

 

はい、フラれましたとさ。うん、知ってた。あ、泣きそう。いや、そうじゃないだろ。勝手に妄想しといて泣くなよ。

 

 

「何が?」

 

 

理由を尋ねる。俺としてはアスナに謝られるような事はした覚えはないんだが。

 

 

「色々とね。1つは、ショウ君とラフコフとの間にあった事を聞いちゃったこと」

 

 

……ああ、なるほどね。

 

 

「もう一つは、ショウ君が逃げたなんて言ってしまったこと。あんなことがあったら、攻略どころじゃないのに…」

 

「………」

 

「本当にごめんなさい」

 

 

そのことを知っているのはキリトとクラインだけだが、恐らくキリトに聞いたのだろう。討伐戦の時の荒れ具合を共に見てたキリトの方が事情は飲み込めてるだろうし、今日一緒に俺のとこに来たしな。別に言うのは構わない。前だったらあまり思い出したくなかったけどな。

 

 

「謝んなよ。でもそうか、いや、別に知るのはいいんだ。ただ、あまり心配かけたくなかったんだよ」

 

 

アスナのことだ。俺の事を心配するようになって自分の事を蔑ろにしそうだし。

 

 

「それに、逃げたことに違いないからな」

 

「そんな…」

 

「いや、アスナ。俺は最初、復讐のためにLv.上げまくろうと思ってたんだ」

 

「え?」

 

 

これはキリトにも話したことのない話。褒められたことじゃないどころじゃないからな。というより、話す必要がなかったというのが本音だな。

 

 

「俺はな、サラが殺されてから少しの間引きこもった。だけど、すぐにダンジョンに出てLv.を上げようとした。復讐のためだ。ラフコフの連中を、特にPoHの野郎を殺そうとな。だけど、狩りを始めてすぐに止めた」

 

「…どうして?」

 

「サラが居なくなったから。復讐心よりもアイツの存在は大きかったみたいでな。狩りをしようとしても、やる気というものが湧いてこなかった。もう、戦う意志なんて俺にはなかった」

 

「……」

 

「だから攻略組を抜けた」

 

 

あの時の俺は、アイツに依存してたと言ってもいい。何処へ行くにも一緒。ソロでいた俺の心の支えになっていた。そんなやつが、急にいなくなったんだ。俺には耐えられなかった。

 

 

「それからまたしばらく引きこもった。その間、キリトやクラインたちが来てくれた。元気づけようとしてくれた。それから、少しずつだけど攻略していこうと思った。別に理由も目的もない。ただ、惰性でな」

 

 

ダラダラと、ゲームクリアとかそういうことも考えず、自分の為でも何でもなく、ただ過ごす。飯を食って、ちょっと狩りをして、寝る。そんな日々。

 

 

「それが俺の攻略組を抜けた理由だ。わかるだろ、お前が言った通り、逃げたも同然なんだよ。復讐を貫くでもない。攻略組としてゲームクリアを貫くでもない。そのどちらからも、俺は逃げたんだ」

 

 

だからアスナ、お前が謝る必要なんてないんだ。すっかり俯いてしまっているアスナ。だからこういう話はしたくなかったんだ。こうやって人のことを考えられるやつだから。こうなるのはわかってた筈なのにな。ああ、やめやめ。もうこの話はおしまいだ。そう思って切り上げようとしたとき。

 

 

「ショウ君は……」

 

「ん?」

 

 

小さな声でアスナが何かを呟いた。ゆっくりと顔をこっちに向ける。

 

 

「ショウ君は、サラさんのことをどう思っていたの?」

 

「どうって…」

 

 

決まっている。親友だ。俺にとってかけがえのないやつだ。アイツとの関係を口にするならこれ以外にない。

 

 

それなのに

 

 

「…………」

 

 

俺の口は開いたまま動かない。何でだ、何で動かないんだ。親友。たった4文字の言葉じゃないか。

 

 

「ショウ君?」

 

「え?」

 

 

訝しんだ表情をするアスナ。気づけば温かいものが俺の頬を伝っている。何だよ、何だこれ。俺、泣いてんのか? なんでだよ。泣くなよ。男がわけもなく泣くなんて恥だぞ。止まれ。止まれよ。

 

 

 

 

 

ふと浮かぶのは、サラの笑顔。

 

 

 

 

 

「………あ」

 

 

次々に浮かんでくる、サラとの思い出。ダンジョンに潜ったこと、遊びに行ったこと、出会った時のこと。

 

 

「………ああ」

 

 

そして、最後の言葉。

 

 

 

《ありがとう》

 

 

 

そうか、そうだったのか。俺は、サラが──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サラの事が、好き、だったんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、声を上げて泣いた。男が女の前でみっともない。しかし、そんなことはお構いなしにと思いっきり泣いた。悲しみが止まらない。泣いても泣いても涙が溢れてくる。

 

大切なものは無くして初めて気づくとは誰の言葉だったか。ああ、俺はなんと大切な人を亡くしてしまったのだろう。人は失いたくないから手元に置いておくというが、俺もそうだったのだろうか。どちらにしろ今更だ。考えたところでどうにかなるものではない。あるのはただ一つの真実。サラがいないということだけ。

 

未だ止まらない涙。再び訪れる、心が沈んでいくような感覚。いっそのこと、このままこの闇に身を委ねてしまおうか。光が届かないような場所で、ひっそりとしているべきだろうか。そうすれば、なにも悲しむことはない。なにも恐ることもない。そう、このまま──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと、頭の上に違和感を感じた。

 

 

 

 

 

 

「痛いの痛いの飛んでけー!!」

 

 

 

 

 

 

唖然とする俺。顔を上げてみると、いつの間にかユイが俺の傍に立ち、頭の上に手を置いていた。

 

 

「痛いの治った?」

 

 

俺の頭を撫でながら話しかけてくる。……きっと、俺がどこかを痛めて泣いていると思っていたのだろう。気遣いのできるいい子だ。

 

こんな子が、ただのプログラムな訳がない。

 

この感触も、温もりも。

 

 

 

 

 

 

光が

 

 

また、あの時の光が見えた気がする。

 

 

 

 

 

 

「ひゃっ!?」

 

 

ユイを抱きしめる。今はユイに記憶があるのかなんてどうでもいい。これが、俺が今、欲していたものかもしれない。そこにある確かなもの。遠い思い出でもなく、確かにあるもの。俺が一度手放してしまったもの。今、この腕の中にあるユイという存在は、ここにある。

 

無くしたくない。

 

もう二度と、失いたくない。

 

 

「アスナ」

 

 

いきなり呼ばれてキョトンとするアスナ。一応侘びを入れておかないとな。これからすることはいくら知り合いといえど、気軽には出来ない事だ。

 

 

「悪い」

 

 

ユイから離れ、アスナを抱きしめる。

 

 

「〜〜〜〜〜っ!!」

 

 

顔を真っ赤にするアスナ。怒ってるよな。そりゃ怒るわ。急に男に抱きしめられたのだから。今、アスナの目の前には、ハラスメントコードの通知が来ているはずだ。アスナがYesのボタンを押せば、俺は黒鉄宮に転送される。

 

しかし、それでも俺はこうしたかった。アスナという存在を確かめたかった。確かなものであって欲しかった。もちろん、キリトやシリカたちのことだって偽物だと思っているわけじゃない。ただ、今はこうしたかったんだ。

 

 

 

 

 

失ったものは2度と戻らない。だからこそ、尊いものであり、無くしてはならないんだ。

 

 

 

 

 

「わがままなお願いしてもいいか」

 

 

 

 

 

なら、無くさないために何ができる。

 

 

 

 

 

「生きてくれ。俺のためじゃなくていい。自分のためでいい。とにかく生きてくれ」

 

 

 

 

 

俺には、力がある。チートだろうとなんだろうと、力が。だから──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前が生きている限り、俺はお前を守る」

 

 

守ってみせる。全て。俺が。

 

 

 

 

 

 

 

 






はい、ここまでです。

ギャグ入れたい(切実)。だって話が重いんですもん。しかし、最初からこの書き方で行くと決めてしまった手前、この局面でギャグを挟むのは無理でした。グスン。

以前、PoHの口調がおかしいと御指摘があったのですが、この作品でのPoHの口調はホロウフラグメントを参考にしております。ゲームを買っておられない方、その辺はご了承下さい。

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