やばいスキルがついちゃった   作:ナストマト

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予約明日になっててビビった。ギリギリ間に合って良かった。

初の1万字越えです。




あばよ

 

 

勝った。生き残った。だというのに、周りの歓声が何処か他人事のように感じる。現実感が無いというか、夢の中に漂っているような。そんな感覚。

 

 

「やったな」

 

「キリト…」

 

「どうしたんだ、元気ないな」

 

「いや、よくわからん」

 

「なんだそれ」

 

 

苦笑されるが、事実なんだからしょうがない。何なんだろうな。まぁ、いいか。わからんものを気にしても仕方ない。切り替えは大事。

 

 

「てかまたお前LA取りやがってこの野郎。あ、わかった、なんか素直に喜べないのお前がLA取ったからだわ」

 

「成り行きなんだから仕方ないだろ」

 

「だまれ主人公」

 

「貶されてるのかそれは…」

 

 

良いよなぁ、主人公補正ってやつはよぉ。勝手に運が巡ってくるし、ただでさえコイツには異世界転生チーレム無双のうち転生以外が揃ってるもんな。ってあれ?よく考えれば俺って転生ってことになるのか?これってキリトにはないよな?マジかよ勝ったな(錯乱)。

 

ま、何にせよだ。未だに歓声を上げ続ける奴らを見て言う。

 

 

「生き残ったな」

 

「ああ」

 

「……あんがとよ、生きててくれて」

 

「お互い様だな」

 

 

本当にさらっと返すよねコイツは。本心から思ってるからだろうが、ここまで素直だとちょっと言うの躊躇った自分が恥ずかしくなる。むしろキュンと来る。やだ、まさか私キリトのことを…アホか、守備範囲広すぎだろイチローもビックリだわ。

 

たぶんキリトとは意味が違うだろうな。俺は自分が守りたいものを守ると誓った。だからこその、誓いを守れたことへの感謝。コイツらの場合簡単にくたばりはしないだろうし、むしろ守らせてもらったという方が正しいだろうがな。それでも生きててくれたという結果があればそれでいい。

 

対してキリトはそれ以上でもそれ以下でも無い。ただ純粋に俺に生きててくれて良かったと、そう言ってるんだ。……うん、これはハーレムも仕方ないわ。惚れますわ。やだ、まさか私(ryもうええわ。

 

 

「ショウくーん!キリトくーん!」

 

 

アスナがやってきた。笑顔を浮かべてはいるがその顔に疲弊の色は隠しきれない。

 

 

「おう、お疲れさん」

 

「お疲れ」

 

「ほんとに疲れたよー。早く帰ってお風呂に入りたいな」

 

「それ良いな、一緒に入ろうぜ」

 

「うん、いいよ」

 

「ごめん、嘘、俺が無理。断れよ」

 

「えー」

 

「ハハッ……」

 

 

意気地無しと呟くのが聞こえたが無理なもんは無理。いや冗談でしょ? ボク男ですよ? 自分の身体を大事にしなさい。その前に俺が無理なんですけどね。どっかのキリトさんは原作でヤっちゃってましたけど。ざけんなよゴラァ!童貞なめんなよゴラァ!どどど童貞ちゃうわ!!

 

それはそれとしてだ。こんな何気ない日常会話が出来る。素晴らしいことだ。アスナも生きている。大事な人を、俺は守れた。クラインも、エギルも、ディアベルも。守りたいものを、俺は守れたんだ。なんて言うと烏滸がましいかもしれないが。あいつら強いし。俺がいなくても生き延びてたかもな。いいんだよ、生きてりゃそれで。

 

さてと、まだ礼を言わなきゃいけないやつがいるな。状況整理している様子のディアベルとクライン、エギルを見つけキリトとアスナと共に歩み寄る。

 

 

「お疲れさん」

 

「よう、Congratulations。今回は俺たちみんなの勝利だな」

 

「そうだな」

 

 

サムズアップする様がよく似合うなお前は。さて、お礼お礼。言うぞ、さぁ言うぞ。素直にお礼を言うのはやっぱり恥ずかしいなちくしょう。言うぞ、言うぞ、言うぞーッ!!(cv:古○徹)

 

 

「あー、その、助けてくれてあんがとな」

 

「借りを返しただけさ。これからは貸す側になるのかな?」

 

「ただのソロプレイヤーが大型ギルドに借りなんか作りたくねぇよ。何されるかわかったもんじゃない」

 

「いやいや、1人のプレイヤーとしてさ」

 

「どっちにしろだっての、借りは作らないようにしたいからな」

 

「貸しているのにかい?」

 

「貸してるつもりもねぇよ」

 

 

ただやりたいようにやってるだけだからな。

 

 

「ショウよう、オメェ1人で行っちまうなよな。なんとかなったから良かったけどよ」

 

「悪かったよ、ああするしかなかったからな。反省はしている。後悔はしてない。でもあんがとな。マジで助かった」

 

「よせやい、俺も後悔したくなかっただけだ」

 

 

と言ってキリトの方を見るクライン。

 

 

「もう、ただ見送るのはゴメンだからな」

 

「…そうか」

 

 

おそらく第1層の時のことを言っているのだろう。あの時、クラインはキリトを1人で行かせたことを後悔してると言っていた。どんな心境だったかなんて俺にはわからない。だが、ここで言葉に出すぐらいにはずっと心残りだったのだろう。キリトはキリトで苦い顔してるし。

 

 

「てかよ、ダチが危ない目にあってんだ。助けるのは当たり前だろ」

 

「お人好しだな」

 

「そうか?」

 

 

打算無しにこういうことが出来るから凄いよな。もしかしたらあの時クラインと一緒に行かなかったら死んでたのかもしれない。助け合い、なんて言ってたが、俺のことを心配してたのかもな。なんなのコイツら、いい奴過ぎて俺がゲスいみたいじゃん。

 

 

「で、さっき何話してたんだ?」

 

「ああ、死亡者数の確認だよ」

 

 

少し気になったので聞いてみたらそう返ってきた。早いな、もう次のことを考えてるのか。そうじゃなきゃ団長なんて務まらないか。

 

 

「何人死んだ?」

 

「6人だな」

 

 

6人。28人の内6人。それで済んで良かったと思うべきか、そんなに出てしまったと思うべきか。少なくとも原作より減らすことは出来たことを喜ぶべきか。…いや、結果としてだけ捉えよう。今は戦力が少なくなったのをどうするか考えないといけない。

 

 

「どうするんだ、底上げを待つのか?」

 

「予備戦力がどれ程いるのか確認しないことにはわからない。それも一つの手だとは思うけどね」

 

「なるほど」

 

 

個人的には底上げした方がいいと思うけどな。主に俺が楽になるし。それは抜きにしても後の攻略を考えれば今のうちにしといた方が楽になるはずだ。そんなことはディアベルもわかっているだろうけど。

 

 

「んなこたぁ後で考えりゃいいんだ。とりあえずお疲れさんってことで」

 

「そうだな、とっととアクティベートするか」

 

 

大人組は余裕がありますね。まぁここでうだうだしてるよりは良いから賛成だけどさ。あー疲れた。俺も早いとこ帰って風呂入りたいわ。

 

 

 

 

「しっかしあの野郎はスゲェな。あんな激戦だったってのにイエローにすら行かないもんよ」

 

 

 

 

──────え?

 

ズキン

 

 

 

 

「しかもタンクでアレだからな。神聖剣ってのはここまでチートなのかよ」

 

 

ズキン

 

 

「ってかよ、今までイエローになったことあったっけか?」

 

「いや、覚えがないな」

 

 

ズキン

 

痛い、頭が痛い。脳を直接揺さぶられてるような気分だ。今までにもあったが比じゃない。揺れる、視界が、音が、世界が。

 

 

「ショウくん?」

 

 

揺れる

 

揺れる

 

その中で見た。ヒースクリフが俺を見据えたのを。

 

その表情には冷笑を浮かべていて

 

 

 

───────っ!!

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

イエローにすら行かない?そんなことが有り得るのか? いくら神聖剣とは言え、一撃で殺られるほどの威力をもつ相手に対して? ポーションでも飲んだか? いや、そんな動きはなかったはずだ。回復せずにイエローで済むのはおかしい。

 

おかしいと言えば大会で見せたあの動きもそうだ。アスナの時も俺の時も、確実に決まると思った攻撃を不可思議なほどのスピードで躱した。スピードだけならショウも負けていないだろう。しかし、盾を持っていたことが問題となる。

 

通常、盾を持てばその分AGIが減少するため、スピードは大幅に落ちる。だからこそあの動きは不可思議なのだ。システムアシストの枠組みを超えている。

 

ではシステムの枠を超えることが出来るのはどのような人物か。あの演説が事実であると仮定すると、このゲームが支配されている以上考えられるのはただ1人。

 

 

まさか───

 

 

確証はない。ならば確かめるしかない。もし何の裏もない普通のプレイヤーだとしたらどうするか。オレンジになるのはもちろん攻略組には不信を大いに募らせることになる。今までのような生活は出来ないだろう。だがこの機を除いて他にあるのか。

 

行くしかない。ダメならその時だ。鞘に収まった剣に手をかけて───

 

 

「ショウくん?」

 

 

アスナの言葉にハッとする。待て、疑問に思ったのが自分だけだと何故言える。ショウを見れば目を見開きヒースクリフを見ていた。あの目は、わかっている。

 

ダメだ、行かす訳にはいかない。

 

 

「ショウ!!」

 

 

声は届いたのか、それは定かでは無い。結果としてあるのは、切りかかったショウ。それを防ぐこともせずに見つめるヒースクリフ。そしてその刀身が届くことなく不可視のものに防がれていること。

 

そこには《》と文字が浮かんでいた。

 

 

「よう、久しぶりだな茅場晶彦」

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

ああ、思い出した。思い出したぜクソッタレ。お前だよ。全ての根源は。

 

 

「よう、久しぶりだな。茅場晶彦」

 

 

周りが息を呑むのがわかった。唐突な行動に戸惑いを見せたが《Immortal Object》の表示を見るや今度は別の意味で戸惑ったが、俺の言葉を十二分に理解したようだ。

 

 

「これはとんだご挨拶だね」

 

「お前にはちょうどいいだろ。これは全プレイヤーの意思だ」

 

「ずいぶんと嫌われたものだ」

 

「好きになるとでも思ったのか。頭お花畑だな。47層にでも行ってこいよ」

 

「この世界を楽しんでいるようでなによりだよ」

 

「お陰様でな」

 

 

俺の皮肉に軽く笑いを湛えるヒースクリフ。本当にこのやり取りを楽しんでいるようにしか見えない。こっちとしては全く笑えない。

 

なぜスカルリーパーに勝ったのに喜びが薄かったのかようやく理解出来た。まだこの階層は終わってなかったからだ。こいつを倒さない限り75層は、いや、このゲームはクリアにならない。記憶になくてもそれがわかっていたから。

 

 

「なぜ防がなかった。お前なら防げたはずだ。そうすればバレることもなかったろうに」

 

「さぁ、なぜだろうね」

 

 

飄々とした顔がまた腹が立つ。答えるつもりはないってか?

 

 

「どうして私が茅場晶彦だと気づいたのか教えてもらえないかな?」

 

「さぁ、どうしてだろうな?」

 

「これは手厳しい」

 

「色々とおかしかったんだよお前は。キリトとアスナの決闘の時の動きといいイエローにならないことといい」

 

「果たしてそれだけかな?」

 

「ああ?」

 

 

なんだ? 何を言っている?

 

 

「どういう意味だ」

 

「フフフ、さてね」

 

 

意味深なことを言う。俺が正体を見抜いた理由? そんなもんお前が茅場晶彦だと知っていたからだ。忘れてたんだけどな。だがコイツがそれを知る由もない。システム以外にもなにかあったか? それともブラフ?

 

 

「……まぁいい。で、お前はこれからどうするんだ。正体が明るみになった以上、俺もコイツらも逃す気はさらさらねぇぞ」

 

 

驚きと困惑で包まれていた先ほどまでとは違い怒りと憎しみへと感情は移り変わった。臨戦態勢に入り今か今かと機を伺っている。

 

 

「ふむ、これは困った。ならば与えられた権限を行使するとしよう」

 

「ッ!!」

 

 

メニュー画面を開くように指を振り下ろす。させるかよ。刀を振り下ろす、が先ほどと同じように不可視の壁に防がれる。何なんだよコレは!? ATフィールドかディストーションフィールドか!?そのうちボソンジャンプでもしますってか!?

 

受け止められている間に操作は進む。何度も切りつけるがやはり届かない。これならどうだと抜刀術も試すが駄目。むしろ弾かれ尻餅を着いてしまう。

 

 

「無駄だよ、いくら攻撃しようとこちらに届くことはない」

 

 

やってみなきゃわかんねぇだろ。硬直が解け立ち上がり再び攻撃を加えようとする俺を踏みとどまらせたのは何かが倒れるような音だった。見れば俺以外のプレイヤーが全員地に伏せていた。

 

 

「安心したまえ。麻痺状態になっているだけだ」

 

「じゃなかったら何したかわかんねぇな……何がしたい」

 

「正体を見抜いたボーナスを上げようと思ってね。」

 

「ならすぐに俺らをこっから出せ」

 

「そのチャンスを与えよう」

 

「ケチだな」

 

「本来なら100層をクリアしないとならない所を75層で出してあげようと言うんだ。これ以上のサービスはないと思うがね」

 

「抜かせ」

 

 

俺はこの流れを知っている。この後コイツは1VS1の決闘を申し込むはずだ。

 

 

「私と決闘をしてもらおう。ただし、瀕死の状態からどちらかのHPが尽きるまでやってもらう」

 

「ダメだショウ!!そんな提案に乗るな!!」

 

 

キリトが止めようと声を荒らげる。

 

 

「でも勝てば脱出出来るんだぜ? これ以上死人を出さないためにも、このチャンスを棒に振るわけにはいかない」

 

「それでも、ショウ1人でやろうとするな!!」

 

「そうだぜショウ!!こういうのは大人の仕事だ!!」

 

 

クライン、お前もか。

 

 

「コイツは俺との決闘をご所望だ」

 

「だけどよ!!」

 

「心配すんな」

 

 

ああ、やっぱりコイツらは優しい。俺1人に負担をかけまいとしている。誰かに責任を負わせることを良しとしない。みんなで、どうにかするんだと。力を合わせればなんとかなるんだと。よく出来た奴らだよ。俺にはもったいない。

 

だからこそ、手放すつもりもない。

 

 

「俺は勝つ。勝って明日を手に入れる」

 

「ショウ…」

 

「アスナも、それでいいだろ?」

 

 

肘を着きうつ伏せになっている白と紅の鎧に身を包んだ少女は涙を浮かべていた。それでも表情はいつもの軽口を叩くような呆れた顔で。

 

 

「…君はいつもそうだよね」

 

「ああ」

 

「周りの意見なんて無視して勝手に行動しちゃって」

 

「ああ」

 

「ちょっぴりエッチなくせにヘタレで実は怖がりで恥ずかしがり屋で」

 

「ああ……ん?あれ?おかしくない? 何か貶されてない?」

 

 

あれれー?おかしいぞー? 何で俺ディスられてんの? 集団の眼がある中で公開処刑? あかん、やる気なくしてきた。さっきまでのシリアスはどこへ行ってもうたん?

 

 

「誰かが傷付くくらいなら自分を傷付けようとして」

 

「…………」

 

「他人のことばかりを考えて、自分のことは向こう見ずで」

 

「ああ」

 

「そして誰よりも強くて優しい」

 

 

 

 

 

──────そんなあなたが大好きです

 

 

 

 

 

「…返事は後でいいか?」

 

「うん、待ってる」

 

「了解。にしても今言わなくてもよくね? 周りからの嫉妬の目が凄いんだけど」

 

「見せつけてるのよ」

 

「それリズから教わったろ」

 

「やっぱりわかる?」

 

「似合わねーよお前には」

 

 

これ勝っても生きて帰れないかもな。ヒースクリフに向いてたヘイトが一気に俺に向いた気がする。憎悪がむしろ殺気にレベルアップまである。冗談だよな? な?

 

 

「てことだキリト、クライン」

 

「いやどういうことだよ」

 

「負けられない理由が1つ増えたってことだ」

 

「……へっ、いいか、絶対勝てよ!!そんで後で1発殴らせろ、見せつけやがって!!」

 

「殴ったら黒鉄宮送りだからよろしく」

 

「空気読めよお前!?」

 

 

空気って何?ボク知らない。

 

 

「ショウ」

 

 

沈うつな表情を浮かべるキリト。

 

 

「信じられないか?」

 

「違う、そうじゃない。大事な時に何も出来ない自分が悔しいんだ」

 

「……よくわかるよ、その気持ちは」

 

 

肝心なときに俺は何も出来なかった。サラの時も、PoHの時も。だからその気持ちは、痛いほどよくわかる。

 

 

「ごめん、俺は何も出来ない。任せていいか?」

 

「S級食材な」

 

「ははっ、ショウらしいな。わかった、勝てよ!!」

 

「ああ、ってことだからエギル、祝勝会の用意は頼んだぜ」

 

「任せろ、俺のおごりで用意してやる」

 

「勝つわ、絶対勝つ。勝ってエギルが破産するほど食うわ」

 

「それは勘弁してくれ」

 

 

素晴らしいお返事を貰えた所で、ディアベルに目配せする。麻痺状態のため弱々しくだが、力強い目で頷いた。

 

OK、任された。ここにいるみんなの思いも、今までに死んだプレイヤーの思いも、今生きているアインクラッド中のプレイヤーの思いも、俺が引き受けた。さぁ、殺ろうぜ。生きるか死ぬかのデスマッチ。

 

 

「もういいのかね?」

 

「律儀に待ってくれてあんがとよ」

 

「最期になるのかもしれないのだからね。騎士としては当然だよ」

 

 

さて、と切り出し決闘の申請が送られてくる。ルールは全損決着。改めて文字を見ると緊張感が溢れてくる。全損。それ即ち死を意味する。元々1度死んだような身だが、死ぬのが怖くない、と言ったら嘘になる。だがここで自分を殺すことの方が、死ぬよりよっぽど怖い。迷わずYESの方を押した。

 

左上のHPゲージが一気に0手前まで減少し、カウントダウンが始まる。今までの決闘よりも長く感じる30秒だ。ゆっくり、ゆっくりと数字が刻まれていく。コンセントレーションを高めていく。

 

ここまで、俺はどれ程の時間を生きてきた。思い返せば事故に遭い何故かやってきたこの世界。始まりの街で演説を聞いてキリトたちと会って、初めて恋をして大事な人を殺されて、1度は攻略組を離れて惰性で暮らしてたらやばいスキルがついちゃって、そこから必死にレベルを上げて技術を磨いて、やっとこさ攻略組に戻れて、アスナとも仲直りしてラフコフを潰して、また潰れかけた俺をみんなが励ましてくれてユイと出会って、そしてここまでたどり着いた。本当に色んなことがあった。そして俺は今、最後の戦いに挑もうとしている。

 

5、4、3、

 

この数字が0になった後、本当の殺し合いが始まる。

 

2、

 

そう、殺し合いだ。

 

1、

 

俺は、この男を

 

 

 

──────殺す!!

 

 

地を蹴り出した瞬間、世界を置き去りにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

連続する金属音が激しく響き渡る。俺の攻撃は悉く防がれる。右から左から、上から下から。アスナが見せたようなタイミングをずらす攻撃までもあの盾で悠々と防がれる。

 

それだけではない、俺は圧倒的手数で攻めていたというのに向こうもこちらの隙を見て攻撃してきた。スピードが今までと違う。明らかに速くなっている。こっちは攻めているつもりでも向こうは守ってはいない。どうなってやがる。

 

ヒースクリフが繰り出した突きを辛うじて躱す。何本か髪が持っていかれる、まさに間一髪だな。そのまま1度後退して立て直す。

 

 

「そのスピードはなんだよ、まさか今まで手を抜いてたって訳じゃないよな?」

 

「本当なら私が100層のボスを務める予定だったからね。手の内を明かすようなことはしないよ。今まで攻略組の中心であった人物の1人が最後のボスになる。実に面白い展開だとは思わないか?」

 

「だから手を抜いてたってのか、この外道が」

 

「救える命は救ってきたつもりだよ。相手が強ければ強いほど戦い甲斐があるだろう」

 

「情報の差異があるだろうが、卑怯じゃねえか」

 

 

向こうはこちらの全力を知っていてもこちらは向こうの全力を知らない。1度でも負けたら死ぬこのゲームにおいて情報の大切さは身に染みている。彼を知り己を知れば百戦危うからずという言葉もある。その情報の非統一性が大きな差を生む。

 

 

「そうだね、でも君は知っているだろう?」

 

「…なに?」

 

「君は知らないことを知っているはずだ」

 

 

何を言っているんだ。みんなが知らないことを俺は知っている? 思い当たるのは原作知識。しかし、コイツが知る訳が……いや待て、俺はさっきもこう思ったはずだ。あの時も自分は知っていると言うようなことを。コイツは……まさか………

 

 

「何のことだ」

 

「フフフ、卑怯とは言うが、それは果たして私だけかな?」

 

「お前はなんだ、何を知っている、誰だ、誰なんだお前は!?」

 

 

コイツは知っている。俺が経験値ブーストのスキルを持っていることを。いや、それならまだ管理者権限でなんとでもなる。なぜ、コイツが原作知識を持っていることを知っている!!

 

俺は今まで誰にも話したことがない。話すつもりもなかった。自分たちが創作品の登場人物なのだと誰が信じるだろう。俺だけが持つ俺だけの知識。それを知り得ることなど出来ないはずだ。いや、出来ない。断言する。

 

決してブラフではない。確実にコイツは知っている。コイツは本当に茅場晶彦なのか。

 

 

「っ!?」

 

 

動揺している間に距離を詰められていた。しまった、カウンターが基本攻撃だと思い込んでいた。くそ、今は勝負の最中だ。考えてる場合じゃない。振り下ろされた剣を何とか刀で受け止める、すると驚くべき事に盾を突き出してきた。防ぐ術もなく体に衝撃が走る。ダメージ判定は無いようでHPはそのまま。しかし体勢を崩され右手を地に着く。

 

そこをヒースクリフが逃すわけが無い。再び剣が振り下ろされる。刀は地に着いた右手に持っている。間に合わない。

 

刹那、鈍い音が響く。

 

ヒースクリフの剣は俺の身体に当たることなく地面に落ちていた。

 

 

「まさか鞘で流すとは、君は本当に楽しませてくれる」

 

 

危なかった。刀では間に合わないと判断した俺はとっさに体を傾け、左腰に着けた鞘に剣を当て受け流した。本当にギリギリだった。後コンマ数秒でも遅ければ死んでいただろう。そこから即座に離脱する。

 

だが今のでわかった。俺を本気で潰すつもりだということが。疑っていた訳では無いが、改めて理解する。

 

 

「今のは死ぬかと思った。あぶねぇな、精神攻撃は基本ってか?」

 

「今ので決めるつもりだったんだがね」

 

 

これが、これが神聖剣ヒースクリフの本気か。

 

 

「何が相手にならないだ、嘘をつきやがって」

 

「嘘はついていないだろう?」

 

「……そういうことかよ」

 

 

つまりこういうことだ。あの時、俺相手にヒースクリフでは相手にならない、という意味で捉えていたが逆。ヒースクリフ相手に俺では相手にならない、という意味だったと。

 

 

「というのは半分冗談だ。君を相手にすると本気を出さざるを得なくなるからね。あの時点で戦うのは得策ではなかった。少なくともあの中で強いという立場を示せれば良かったんだよ」

 

「それは評価してると捉えていいのか?」

 

「最大級の賛辞を送っているつもりだよ」

 

「そうかい、こっちもさっきので目が覚めたぜ」

 

 

今はコイツが誰でも構わない。本気で殺しにかかっている以上、立ち向かうだけだ。俺には守るべきものがある。待っている人がいる。

 

 

「お前は敵だ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

 

お前を殺すぞ。ヒースクリフ。

 

 

「やってみたまえ、私は全力で君を迎えよう」

 

 

ソートスキルは隙を与えるだけ。キリトの時に見せたソードスキルを途中で切ってシステムアシストに乗せるのもそんな隙を与えさえしない。そもそもアレは未完成だ。失敗は許されないこの場面で使うことなど出来ない。

 

ならばとまともに攻撃すれば容易く防がれる。テクニカルに攻めようにもこれ以上技術がある訳でもない。ならばカウンターか? いや、さっきは俺が隙を見せたから攻めて来ただけだ。真っ向から対峙している今は向こうから攻めることはないだろう。

 

ただ一刻一刻と時間が過ぎていく。ある程度の距離をただ2人動かずにいるだけだ。どう足掻いても答えは出ない。どうすればいい。どうすれば勝てる。どうすれば。

 

 

──────っ

 

 

一つだけ、一つだけある。危険だ。危険すぎる。それでも1番可能性の高い。勝てるかもしれない一策。ただでさえ手詰まりのこの状況、やるしかないのか。

 

よう、《Sho》さんよ。どう思うよ。

 

──────全くもって馬鹿だな、よくもまぁそんな危険なことをしでかそうとするもんだ。

 

だよな、困っちまうよな。

 

──────でも守りたいもんがあるんだろ?

 

ああ。

 

──────やるならやれよ。

 

素直じゃないな。

 

──────俺だからな。

 

そうだな、俺だもんな。

 

──────そんな馬鹿は

 

嫌いじゃない!!

 

 

ゆっくりと刀を鞘に納める。

 

 

「来たまえ」

 

 

ようは簡単な話だ。防がれるなら防がれなければいい。最高速度のソードスキルを持って行く。それだけだ。開発者がどうしたって? 開発者が全ての状況下でテストした訳ないだろ。ソードスキルを全て把握していたところで、俺ほどのスピードを持つやつで体感したのかよ。

 

行くぜ、一世一代の大博打だ。

 

体勢を低くする。そこから地を蹴り出す。視界に色はない。あるのはただ人型のモノが立っているだけ。

 

 

人型を目前にして刀を引き抜く。

 

俺の最高の抜刀術、《翠蓮》。

 

 

鞘から抜き出した刀は光を発しながら

 

見事に盾を横切り

 

ヒースクリフをの首を

 

 

 

 

 

捉えることはなかった。

 

 

「残念だったね」

 

 

後ろから声が聞こえる。

 

躱された。

 

この後にあるのはスキル後の硬直。抜刀術によるライトエフェクトも光を失いつつある。視界の端で捉えるのは突き出された剣。

 

待つのは死。

 

躱された。

 

ああ、そうだよな。

 

 

 

 

お前なら躱すよな。

 

 

 

 

「うおぉぉぉ」

 

 

失われつつあったライトエフェクトが光を取り戻す。

 

刀を振り抜いた状態から右足を軸にして回転する。

 

再び視界に入ってきたヒースクリフの表情は驚愕に満ち溢れていた。

 

突き出された腕めがけて刀を振り抜く。

 

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!」

 

 

 

刀の下級ソードスキル《旋車》

 

 

ザンッ

 

 

振り抜いた刀は見事に腕を切った。ヒースクリフとその腕は繋がりを絶った。ほんの少しだったHPが減少し0になる。

 

 

「見事だ、ショウ君」

 

「お前、わざと俺に正体を気づかせるようにしただろ」

 

「どうしてそう思ったんだい?」

 

「そうじゃなきゃあの時防がない理由がないだろ。そして俺と決闘をする機会を作った。違うか?」

 

「フフフ、さて、どうだろうね。今となってはどうでもいいことだよ」

 

「そうかい」

 

「本当に見事だったショウ君。これで」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

「引き分けだな」

 

 

 

 

 

Sho HP 0/35600

 

ヒースクリフの切られた右腕は握ったままの剣から手を離した。その剣は俺の胸を深く貫いていた。

 

《You are dead》

 

その言葉が目に入る。ああ、死ぬのか俺。

 

姿が徐々に消えていくヒースクリフ。プレイヤーのHPが全損したときに起こる現象だ。いくら見ても気持ちのいいものではない。例えそれがこの事件を起こした張本人でも。

 

 

「俺、お前のこと嫌いじゃなかった」

 

「……ありがとう」

 

 

割れるような音ともに散らばっていくヒースクリフ。次は俺の番か。あれ、体が重くなってきたな。駄目だ、立っていられない。

 

 

「ショウくん!!」

 

 

倒れかかる途中で誰かに抱きとめられた。

 

 

「ショウくん!!嫌だ、ショウくん!!」

 

「……アスナか。お前麻痺ってたんじゃ」

 

「ショウくんのバカ!!愛よ!!気合よ!!」

 

「えぇ……」

 

 

腕で支えられたままゆっくりと寝かされる。やばい、目まで霞んできた。

 

 

「やめて、死なないで。ショウくん。お願いだから……」

 

「泣くなよ、頼むから、泣かないでくれ」

 

「泣かせたのはどこの誰よ!!」

 

「俺は泣かせるために戦ったわけじゃない」

 

「うぅ……グスン…」

 

「勝ったんだぜ、俺。これでお前らは帰れるんだよ。元の世界に。だから、笑ってくれ」

 

「そこにショウくんがいないじゃない!!」

 

「しゃあないだろ」

 

 

くそ、耳まで遠くなってきた。精神状態のはずなのに身体が熱くなってきた。これが死ぬっていうことなのか。ははっ、なんだろうな。これから死ぬっていうのに全く怖くない。幸せな人生だったからかな。

 

 

「私、ショウくんがいない人生なんて……」

 

「アスナ」

 

 

駄目だ、それだけは言わせてはならない。

 

 

「お前が俺をどう思おうと構わない。だけどな、俺が守ったお前達だけは誇らせてくれ。お前達を守った俺じゃない。俺の守ったお前達を。だから、頼むから、後を追うようなことはやめてくれよ」

 

「ショウくん……」

 

「……さっきの返事、断るわ」

 

「え?」

 

「保留も了解もこれから死ぬようなやつがしちゃ駄目だろ。だから断る。言っとくけど初めてだからな、告白されたの」

 

「それでも、私はショウくんのことが好き!!」

 

「……幸せもんだよ、俺は」

 

 

ありがとうよ。こんな俺を好きになってくれて。本当に悪かった。ユイにも生きて帰るって約束したのにな。反故にしちまったな。

 

 

「キリト!!クライン!!エギル!!ディアベル!!悪かったな、勝てなかった。でもお前らを帰せて良かった」

 

「バカヤロウが!!主役のオメェがいないんじゃ祝勝会どうするんだよ!!」

 

「俺だけじゃないだろクライン、お前らみんな主役だ」

 

「こんな時ばっか俺を持ち上げやがって……普段から持ち上げろってんだよ!!」

 

「面白かったからいいだろ」

 

「よくねぇよ!?」

 

「ははっ、お前のキャラ好きだったぜ。ありがとうな」

 

 

徐々に視覚も聴覚も消えていく。もうほとんど聞こえない。身体も既に重さが無くなった。腕も足も何も無いような感覚だ。

 

 

「……ウ!!あき……な!!……い…か……る…!!」

 

 

駄目だな、これは……キリトか?何言ってんだ?もう聞こえない。わかる、自分でもうすぐ死ぬんだというのがわかる。

 

 

「…………!!……………!!」

 

 

目の前で泣き叫んでいる少女の姿も、もう見えない。返事、断ってごめんな。本当なら……いや、やめよう。それはどこまで行ってもIFになってしまう。

 

ああ、この世界に来れて幸せだった。憧れのSAOの世界で、いい仲間と出会えて、恋をして、守りたいもの守れて、その中で死ねる。最後は余計だよな。本当ならもっとみんなといたい。冒険したい。何気ない日常を過ごしたい。

 

でもそれはもう叶わない。俺の分まで生きてくれなんて言わない。それはエゴだ。俺が守ったのはお前らだ。みんながみんなの分、ちゃんと生きてくれ。

 

 

俺は、お前らが、大好きだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あばよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1人、駆ける者の姿がある。彼女はどこに向かい走り、何をしようとしているのか。彼女自身わかってはいない。自分自身の存在さえも。

 

虚ろ(ホロウ)な彼女はただ走る。

 

プレイヤーカーソルはオレンジを示していた。

 

 

─────To be continued

 

 






お疲れ様でした。

とりあえずアインクラッド編終了です。
いやー、よく書き切れたね(笑)
回収出来るかもわからない伏線を張るどころかばら蒔いて見切り発車でここまでよくたどり着けたと思います。

最後にもあります通り、続きます。ゲームのやり直しがキツい!!でも楽しい!!ついでにパワプロも楽しい!!ゴッドイーターも楽しい!!

という訳なのでちょいと時間がかかるかもですが次回からホロウ編が始まります。もう少しだけお付き合いお願い致します。
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