上司 「ナスくん、これやっといて」
筆者 「はい」
上司2 「あ、これお願い」
筆者 「は、はい」
上司3 「ナス暇だろ? これ頼むわ」
筆者 「……はい」
部下 「先輩、これ頼んます」
筆者「おい待てコラ」
そんな39話です
……よし、回想終わり。何だか回想だけで1話使った気がするが気のせいだろう。気のせいったら気のせい。
さて、夜空が白ばみ始めたのはもうだいぶ前のことで、光が照りつけ、大地がすっかり本来の姿を取り戻した頃。ぶっちゃけて言えば朝7時ちょいと過ぎ。うん、詩的表現は俺には無理だな。
詩人的な表現をしようとしたら自分の語彙の貧弱さに気付かされた中二の夏。おかげで中二病の深みへ嵌らずに済んだのは僥倖だったな。代わりにこんな小説書くようになったけど。
「ふっ!はっ!」
俺の目の前では短剣を手に素振りをするシノンの姿がある。じゃじゃーん、前回の彼女とはシノンのことでしたー。いや、わかってるだろうけど一応ね。
シノンがこの世界に来て1週間。どうやらこの世界のことをすっかり忘れてしまっているようで、ここがゲームの中ということすら覚えていなかった。他にもHPって何? アインクラッド? ソードスキル? モヤッとボール? と疑問符が絶えない。
流石にこれはマズイと一般常識を教え、しばらくは安静に過ごしてもらおうと思ったのだが、4日経ったある日、『私も戦う、守られてばかりはゴメンだもの』と戦闘態勢へと移行。マナー違反とは思いつつもLv.を尋ねると"70"と不安が募るどころかヒマラヤまで達するほどの返事が返ってきて頭を痛めた俺は悪くないはず。
いつまでも世話になるつもりはないと言っていたし、自ら行動しようとするその気概は買いますがね、そのLv.はちょっとマズイんじゃないかと思うのですよ。ここは76層であり、所謂安全マージンと呼ばれているのは階層+10Lv.。この時点でもう16もの差が開いている。
更に言えば、高Lv.になればなるほどLv.が上がった時の恩恵は大きい。というのも、以前にも述べたが、相手より強ければ強いほど貰える経験値は少なくなる訳で、しかも必要経験値は増えるのだから当然と言えば当然である。しかし、逆に言えば、敵のLv.も高ければ高いほど1つのLv.の差が大きくなるわけで。ここ76層でシノンがやっていくには少々厳しいものがあるというのが正直なところだ。
とはいえ、シノンの意気を無碍には出来ないので、万一、圏外に出る時は誰かに付いていくことを条件にシノンも戦うこととなった。
が、武器を持たせてみれば素人も素人。本当にLv.70なのか疑うほどに。まぁそんな事情があり、今は素振りからやらせているのだ。
「ほら、腰が高くなってきたぞ」
「ハァ……ハァ……」
「苦しい時に出来てこそだ、頑張れ」
「ハァ……ハァ……くっ!!」
シュッ、シュッと再び突きと水平切りを繰り返すシノン。使っている武器は短剣。本人曰くこれが1番マシだと。マシというだけで手に馴染まないのかね。どこか違和感を感じる。
さて、口だけの男なんて嫌だし俺も軽く振りますか。あ、口だけって言葉、なんか卑猥。……はい、集中します。
ふぅ、と息を整え、ゆっくりと刀を顔の前に持っていき、静止。そのまま目を閉じ、精神を集中させる。
そのうち音が少しずつフェードアウトしていく。何も考えない、何も感じない、ただひたすら無になる。
そこから一気に動き出す。仮想の敵に向かい間合いを詰め、斬る、斬る、上から、下から、横から、斜めから。イメージとしては二刀流ソードスキル『ジ・イクリプス』。絶えず繋げるように流れるように振り続ける。そして、仮想の敵の、その首を
「……っ!!」
斬る!!
「……ふぅ」
うーん、どうも上手くいかない。力の流れ方が気持ち悪いというか、引っかかりを感じる。まだまだ改良の余地があるな。
「……凄い」
「んなことねぇよ、まだまだだ」
疲れたからか、ペタンと女の子座りしているシノン(可愛い)が驚愕の表情を浮かべ呟く。が、完成度としてはイマイチなのであまり喜べない。
「この世界では、みんなアンタぐらい強いの?」
「うーん、自惚れる訳じゃないが、俺は強いぞ。少なくとも5本の指には入るはずだ」
「そう……なら、師事出来る私は光栄ね」
「そんな大層なもんじゃない。気にすんな」
「ふふっ……」
「俺は置いといて、お前だ。正直センスあると思う。たった数日でここまでやれるようになるのは凄いと思う」
「そう? 自分ではよくわからないけれど」
「全然違うな、力の伝え方と身体の運び方が滑らかになってきた」
「でもまだ突きと水平切りしかしてないんだけど」
「石垣も無いのにいきなり天守閣を造るか?土台が出来てこそ立派な城は造れるんだよ」
「侍らしいお言葉ね」
「二つ名は忍者だけどな。ま、今の調子なら早いうちに外に出れるかもな」
「ホント?」
「焦るなよ。突貫工事は事故の元だぜ?」
チラッと時刻を確認する。そろそろみんな起きてくる頃だな。
「いい時間だし、そろそろ帰るか」
「ええ」
思うに、シノンが攻略組として活躍するのはそう遠くはないだろう。勘でしかないが、どこか確信めいたものがある。しかし、何故だろう。どこか焦っている気がしてならない。初めて会った時とは別の意味で落ち着いていないような、そんな気がする。
なんてな。そんなにシノンのことを知ってもいないのに、わかった気になるのはシノンに失礼か。
ともかく今は、成長著しい姿を見るのが一つの楽しみだ。微妙な距離を開けて隣を歩くシノンをそっと横目で見ながらそう思った。
別のとある日。76層の攻略から帰って来ると、エギルの店でクラインが何やらカウンターの上に座って、仰々しく手を顔を動かしながら声を張り上げ、何事か語っている。どこから持ってきたのか、手ぬぐいや扇子まで用意して、さながら落語家のようである。
カウンターの上なんかに座ってエギルも客も迷惑してないのかと思うが、テーブル席に座る客や立ち見の客は、むしろ嬉々として話に聞き入っていた。エギルは辟易とした表情を浮かべていたが。
……なんぞこれ?
状況がさっぱり掴めないんだが。
何してんのアイツ。
「ってことで、辛くもスカル・リーパーとの激戦を制した俺たち!誰しもが歓喜に沸く中、ただ1人、目を光らせていた者がいた!そいつは疾風の如く駆け出すと、ヒースクリフへと剣を突きつけこう言った!『久しぶりだな、茅場晶彦』!」
「「「「うぉぉぉぉぉぉおおおお!!」」」」
頭を抱えた。
それ、俺やん。
「自らの正体が露見し狼狽えるヒースクリフ!それでも冷静を装いながら、正体を暴いたボーナスをやると言った!それがヒースクリフとの一騎打ち!もし勝てばゲームから脱出させてやると!」
「「「うぉぉぉぉぉぉおおおお!!」」」
「その提案にソイツはこう言った!『俺は勝つ、勝って明日を手に入れる』!」
「「「「かっけぇぇぇぇぇえええ!!」」」」
は、恥ずかしい! 言い回しが完全に黒歴史そのものですやん! あかん、聞いてられん!
帰ってきたばかりの俺だったが、あまりの羞恥に耐えられず、エギルの店を後にするのだった。
「響き合う打撃音!再び始まった激闘は何者も立ち入ることの出来ない2人だけの領域!俺たちはただ見守ることしか出来なかった!そして、その戦いは徐々にソイツが押され始める!」
「「「……ゴクリ」」」
「しかし!──!!───!!」
「「「────!!」」」
出ていった店からけたたましい歓声が聞こえるが気にしないったら気にしない。そうだな、もう1度攻略にでも行こうかな。鬱憤ばらしに。
このあと、めちゃくちゃ斬首した。
「恥ずかしい……」
再びエギルの店へと帰ってきたものの、周りから刺さる視線がキツい。握手してもらえますかなんて言われたの初めてなんだけど。なんなん?
クラインなんなん?
「でもよくわかったよ。ショウ君って凄いんだね!」
「それなりにな」
と、興奮した様相で俺に話してくるのは、パツキンのエルフ。手塚ゾーン並に視線を引きつける夢と希望が詰まったバルジがそれはそれは目の保養になりますありがとうございます。
おっぱいだけでもう皆さんにはおわかりだろう。リーファことおっぱい……じゃなかった、おっぱいことリーファである。
シノンを引き取った次の日にキリトが『俺の妹』とか言って連れて来た時はビックリした。お前居なかっただろと思ったが、どうやらキリトを心配するあまり、自らSAOをプレイすることを決意し、第二世代フルダイブマシン『アミュスフィア』でSAOにやって来たのだという。驚きの行動力である。出川哲朗も裸足で駆け出すレベル。
キリトも最初は怒ったのだが、自らを心配しての行動であること。それに来てしまったのはもうどうしようもないことでそれ以上はお咎めなしにしたようだ。
なぜエルフの姿なのかはリーファ自身にもよくわからないらしい。設定も何もなく勝手にここに飛ばされたとか。SAOバグり過ぎじゃないですかねぇ。てか入って来れることにも驚きだわ。
しかし、最初見た時は誰だかわからなかったな。流石に長い時間が経ってるし記憶が薄れてるのかね。俺のSAOへの愛はその程度だというのかちくせう。
「謙遜しなくてもいいのに」
「目立つのは苦手なんだよ。本当はあんなの柄じゃないの!恥ずかしいの!」
「言葉遣いが退行してるわよ」
シノンである。リーファと同じく彼女もまたクラインの独演会を聞いていた1人だ。
「普段の俺はあんなんじゃないんだ……教室の隅で細々と1人本を読んでるようなシャイな性格なんだよ……」
「「ダウト」」
「解せぬ」
なぜ二人して否定するし。
「まだ会って数日だけど、そんなふうには全く思えないよ」
「そうね、むしろ面倒事には嬉々として飛び込んで行くような性格ね」
「違うってのに」
面倒事に嬉々として飛び込んで行くだぁ? 何言ってますの。面倒事には見猿聞か猿言わ猿を貫く俺だぜ?
「他にも始まりの街の時とか」
「うっ」
「ボス戦はいつも目立ってたそうね」
「ううっ」
「そもそも四天王なんて呼ばれてる時点で目立ってるよね」
「ぐはっ」
ヤメロォ!これ以上俺を辱めないでくれ!
「わ、わかった。確かにシャイじゃないかもしれない。でも俺が教室の隅にいるようなヤツっていうのは事実だ。てかそうだった」
「そうなの?」
「ああ、ちょっと人付き合いが苦手でな。暇さえあれば本ばかり読んでた」
「へぇ、意外ね」
意外……か。リアルの俺を知る奴らなら、今の俺こそ信じられないだろうよ。
「そんなだから友達と呼べるヤツもろくにいなくてな。この世界に来た時も排他的になった。自分しか見えてなかった。他人なんて気にしてられなかった。いや、気にすること必要がなかったってのが正しいか。どこまで行っても自分本位だったからな」
「「……」」
「そうだな……もしオレが変わったというのなら、それはキリトたちのおかげだ。アイツらと触れ合うことで、他人を認識するようになった。世界が俺だけじゃなくなった」
一人ぼっちの俺を、暗闇の中の俺を照らしてくれた。周りには人がいた。当たり前のことを、俺は気づけなかった。
「アイツらには感謝してる。こんな俺に付き添ってくれてるんだからな。もちろん、シノンとリーファにも」
「ショウ君……」
「だから、困った時には俺を呼べ。必ず助けに行く。大切な友だちを、仲間を見捨てたりはしない。絶対に」
ただ一つだけ、守りたいものを最後まで守り通せばいいと、とある少女は言っていた。全部を守る事なんて俺には出来ない。それでも、俺の大切な人たちは守れる。守ってみせる。
それが俺に出来る恩返しだ。
「アンタ、やっぱりシャイなんかじゃないわ」
「え?」
「そんなに堂々と恥ずかしい事を言える人がシャイなわけないじゃない」
「え? あれ? なんかおかしくない? 俺の決意が笑われてない?」
あれれー?おっかしーぞー?
違うじゃん!もっとこう……俺が言うのも何だけどありがとう的な言葉をさ!それ目当てじゃないけどそんな言葉をさ!え?俺がおかしいの? また黒歴史作っちゃったの? ヤバい、泣きそう。
「ふふ、お生憎様、私は守られるだけなのはお断りなのよ」
そうでしたね、貴方はそういう方でしたね。
「ていうかさ、面倒なのは嫌いなんじゃなかったの?」
「面倒じゃない範囲で俺を呼んでください」
「えー、なにそれ」
軽く笑い合う。
その後、シノンが目を伏せながら言う。
「……私は強くなりたい。少なくともアンタと並べるくらいに。だけど……そうね、もし私がそういう状況になったら───」
「ああ、任せろ」
微笑みを浮かべながら、されど、どこか悲しげな表情を浮かべるシノン。どうしてだろうか。詮索はしない。いつか、シノンが自分から話してくれるだろう、そんな気がしたからだ。
「困った時はお互い様だよ。ショウ君も、何かあったら頼っていいんだからね!」
「おう、どんどん頼るわ。もう頼り過ぎて俺の仕事無くなるぐらい頼るわ」
「というわけで早速、クエストに付いてきてくれない? ちょっと面倒なんだよね〜」
「シノン、お呼びだ」
「アンタも働きなさい」
い、嫌だ!!私は働かないぞ!!どこかの飴好きなちびっ子か。メーデーメーデーメーデー。
「しゃあねぇな、んじゃ行くか」
「私も行くわ」
「ありがとう!!」
旅は道連れ世は情け。以前までの俺なら鼻で笑っていたような言葉だ。今ならば、そんな言葉に表さなくても心でわかる。こうした繋がり、温もり、それこそが人なのだと。
いずれ、俺はこの世界にいなくなるかもしれない。それでも、しっかりと刻み付けておこう。この思い出を。俺という存在がいた事を。もう俺は、1人じゃない。
「一人ぼっちは寂しいもんな」
「何か言った?」
「いんや、何にも」
さあ、今日も張り切って生きていこう。
おまけ
※シノンはショウと攻略に出たことがありますがリーファはないという設定でお願いします
「ところでどんなクエストなんだ?」
「ラグーラビットを探せって奴なんだけど全然見つからなくて」
「それS級食材じゃん、超レアだぞ」
「ええ!? どおりで見つからないわけだよ〜」
「面倒なだけあって時間がかかりそうね」
「う〜、このクエスト諦めよ「お、いた」うかな……ってええ!?」
「ほれあそこ」
「あ、ホントだ!」
「どうやって捕まえるの?」
「普通なら投擲スキルで見つからないように倒す。見つかったら凄いスピードで逃げるからな」
「投擲スキルはあるけど全然上がってないよ〜」
「シノンは?」
「ないわね」
「んじゃリーファ、頑張って」
「ええっ!?」
「心配すんな、失敗してもなんとかしてやっから」
「う、うん……よし、えい!」
「あ、当たった」
「でも倒せてないよ!あ、逃げちゃった!」
「任せろって」 シュン
「あ、あれ?ショウ君?」
「ほい、ただいま」 シュン
「え?え?」
「相変わらず馬鹿げたスピードね」
「ほれ、これでいいだろ」
「あ、ラグーラビットの肉!うん、これを渡せばOKだよ」
「もっとスキルレベル上げておけよ。そうすれば精度も上がって狙いやすくなるからな」
「あ、うん。ありがとう!」
「よし、んじゃ帰るか」
「……なんかずいぶん早く終わったわね」
「まぁな、俺、妙に運が良くてさ、結構簡単に見つかるんだよな。ラグーラビットの肉なら幾つかストックしてあるし」
「あら、ならそれを渡せばわざわざここまで来ることなかったんじゃないかしら、なんてね」
「(゚Д゚ )」
「……いや、冗談だったんだけど。その手があったかみたいな顔止めてくれる?」
「(゚Д゚ )」
「あ、またラグーラビットがいるよ!」
「くそがああああああああ!!」
「「……凄い」」
この後めちゃくちゃ狩りまくった。
はい、ここまでです。
毎回話の骨組みはある程度考えているのですが、書いているとどうしてもネタを入れたくなる病に侵されています。し、仕方ないじゃないか!フルハウスとか見てたら適度にギャグを入れたくなるんだ!
フルハウス面白かったのになぁ……