ハロウィンは自宅で自宅警備員のコスプレしました(白目)
「買い物に付き合ってくれない?」
そう誘われたのはシリカの店で食事を終えた後のこと。そういえば買い物してたって言ってたな。俺も同じ目的だったし断る理由もないので受けることにした。
「何を買いに来たんだ?」
「それがよくわからないのよ」
「はい?」
買い物に来たのに何を買うのかわからないとはどういうことだ?あれか、クエストで難題を出されたとかそういうことか?
「昨日、新しいスキルを取ったんだけど、それに合う武器がなくて」
ふむ?よく分からんが、シノンは記憶も失ってるみたいだし、武器スキルのことを分かっていないだけなのかもしれない。
「何ていうスキルなんだ?」
「……見てもらった方が早いわね」
そう言うとシノンはメニュー画面を開き、俺にも見えるように可視モードに────
「いやちょっと待て」
「何よ」
何よ、じゃねえよ。キョトンとした顔ででこっち見るな。
「個人情報の大切さ(24話参照)は前に教えただろ。どこから情報が漏れるかわからないんだ。あまり人に見せるもんじゃない」
「あんた、人に言ったりするの?」
「いやそういう訳じゃないが……」
「ならいいじゃない。ほら早く」
「いやしかし……ええ……」
結局根負けしてしまった。いいのかオイ。良くねぇよオイ。どうして俺はこうも押しに弱いのかね。NOと言える人間に成りたいですまる。
しゃあない、パパッと見てさっさと閉じてもらおう。
開かれたシノンのスキル画面。索敵、隠密、短剣など基本的なスキルがそこに表示されている。だが、その中に見たことのない異質なスキルが1つ。
《射撃》
何だこれは。今まで聞いたことも見たこともない。射撃?撃ち出すという事か?しかしここはソードアート、つまり剣技の世界だ。チャクラムの様な例外はあるが、あれはあくまで刃を投擲しているに過ぎない。
「どうかしら」
「……これはどうやって取ったんだ」
「どうやってって……レベルアップしたらスキルを取りますかって選択画面が出てきたから」
「Yesを押したわけか」
「そうよ。ダメだったかしら」
「普通なら時間をかけて決めるべきだけどな。でもまぁ、シノンが決めたことならそれでいい」
直感というのも大切な要素だ。この世界で(趣味スキル以外で)使えないスキルなんてないからな。シノンが選んだのならそれは既にシノンにとって必要なスキルなのだろう。
「それで、どうなの?」
「……初めて見たな。それに聞いたこともない」
「それって……なんだったかしら、ユニークスキル……ってやつ?」
「だろうな。恐らくだけど。良かったな、これで人外魔境の仲間入りだ」
「そう言われると嬉しくないわね」
事実だし。ユニークスキル持ちなんてみんな人外でしょ。ヒースクリフ然りキリト然り。俺? みんな言うしそうなんじゃねえの(諦観)。
「しかし、確かに武器が分からんな。射撃というからには撃ち出す物なんだろうが」
「だから買い物に付き合ってほしいのよ。私よりあんたの方が色々と詳しいでしょ?」
「まぁそれなりにな」
伊達に攻略組はやってないからな。武器やアイテムについての情報は生き残る上で必須。少なくとも一般プレイヤーよりは熟知しているつもりだ。
にしても射撃スキルの武器か……
「そうだな……普通の武器は試してみたのか? 短剣とか片手剣とか」
「ええ。でも射撃スキルには合わなかった」
「だよな。となると普通の店にはその武器は置いてないか……」
うーむ、射撃ねぇ。流石に銃とかは無いよな。そんなモンあったら世界観ぶち壊しだし。となると……いや待てよ、確かさっき……。
「シノン、心当たりがある。ちょっとついて来てくれ」
「分かった」
そう言って歩き始め────
「……ん?」
「どうしたの?」
今、誰かに見られていたような……。
最近よくあるのだ。振り返って見てみても誰もいないということが。索敵スキルではない。俺自身のセンサーに引っかかる。事実、スキルには何も引っかかっていない。
気のせいか……?
連れてきたのは所謂ジャンクショップの様な店。中古というよりも、普段使わないようなアイテムや武器が置いてある。それだけに異質な品々が揃っている。
例えばライトセイバーとか。ただしリアルでも存在するおもちゃのやつ。ただ剣が光るだけでスペックはしょぼい。誰が使うねん。
そんなジャンクショップに、俺は昼食をとる前に一度来ている。あの時は自分に使えるような物が無かったからさして気に止めなかったが、確か……あった。
「コレだ」
弓である。
ソードアートの世界に不似合いだし他の武器のせいでまともな武器と思わなかったが、こんな所で役に立つとは。しかしまぁ、弓を使ってくるモンスターもいるしそう考えれば使えないこともないのかな。
「使えそうか?」
弓を手に取って構えるシノン。弓を引き絞ったその構えは《会》と呼ばれる。目に見えない的があるかのように、狙いを定めるように正面を見据える。
その姿を、俺はどこかで見たことがある気がした。
「……うん、行けそう」
「……」
「ショウ?」
「……え?」
「なにボーッとしてるのよ。使えるわよコレ」
「ああ、悪い。少し考え事してた。んじゃそれ買うか。親父、これいくらだ?」
とNPCの店員に問うと結構いい値段の言葉が帰ってきた。おいおい、シノン専用武器なのにそんな値がつくのかよ。いや、むしろ顧客が決まってるから高くしてるのか。
しかし、シノンに買わせるのもアレだな。ここはちょっとカッコつけるか。
「ちょっとコレかりるぞ。買ってくる」
「え?い、いいわよ。自分で買えるわ」
「いいから奢らせろ。攻略組は金ばっか余ってしょうがないんだよ」
「でも……」
「でももなにもないっての。俺を女子に奢らない甲斐性無しにさせんな」
金が余っているのは事実である。特にここの所ホロウ・エリアのアイテムを拾いまくってるから使えなさそうなやつは売ったりしてるし増えていく一方なのだ。
なおアスナの家に泊まり込んでいた模様。ち、違うから。後で家建てようと思ってたから。ホントだからな!
「……わかったわ。ありがたく受け取るわね」
「おう」
支払いを済ませ戻りシノンに弓を手渡す。
「ありがとう、ショウ」
「お、おう。なんか素直に感謝されると照れるな」
「ふふ、なにそれ」
「さっそく試し打ちに行くか。どんな感じか確認した方がいいだろ」
「そうね。そうしましょう」
それにしても弓か。どんな感じ何だろうな。武器スキルであるからにはソードスキルがあるんだろうが、今まで見たことのない未知の領域だ。非常に知的好奇心を唆られる。
チャクラムは投げたら戻ってくるまで待たなくちゃならないが、弓は矢がある限り連続して射つことが出来るからな。これが戦力として使えるなら後方支援としてシノンは攻略組でも必須の存在になるかもしれない。それも含めて楽しみだ。
さっそく外に出て試し打ちに歩き出して────
「……またか」
「?」
索敵ではなく、俺のセンサーに引っかかるこれは、さっきと同じやつか?
「前を向きながら聞いてくれ。どうもさっきから見られてる感じがしてな」
「……何かしら。強盗?」
「まさか、圏内じゃそんなこと出来ない。それに敵意も感じられない」
少なくともラフコフの時のように明確な敵意は感じられない。じゃあなぜ? 俺のファン? うーむ、目的がよくわからんな。
「釣ってみるか」
俺に着いてくるようアイコンタクトで合図すると、シノンも意図が伝わったらしく、瞬きを1回。瞬き信号の使い手だったのか。シノンさん、マジカッケーっす。マジリスペクトっす。
大通りを外れ路地に出る。そこから更に道を選び、分かれ道のない一本道を進む。まだ着いてきているな、よしよし。
90°折れ曲がっている角を曲がる。だがその先は行き止まりである。もちろんわかっていた。あえてこの道を選んだのだから。
さぁ、正体を見せてもらおうか。
「おい、出てこいよ」
まだ夕刻とはいえかなり中心区から離れた場所だ。人も少ない。閑静な街並みの中で俺の声だけが木霊した。
だから声をかけられた方も気づいたはずだ。自分に呼びかけているのだと。
「いるのはわかってるんだ。何が目的か知らんが、話くらいなら聞いてやるから、はよ出てこい」
逃げるか? だとしても無駄だ。相手が逃げるよりも俺の方が速い。先回りして追い込めば奴は袋のネズミだ。こんな袋小路に来たのはそれが狙いである。もちろんなにもするつもりは無い。相手次第ではあるが。
2度目の呼びかけに、1つ、角から人影が現れる。
「あーあ、気づかれちゃったか〜」
「お前は……」
姿を見せたのは女性。年齢的にはキリトたちと同じくらいだろうか。童顔だが白魚のような肌と抜群のプロポーション。100人いたら間違いなくそのほとんどが振り返るであろう魅力的な外見をしていた。
「アタシ、ストレアっていうの!よろしくね!」
「ストレア……」
なんだ、この既視感は。俺はコイツと初対面のはずだ。それなのに、そのはずなのに、どうしてこうも気になる。
「なぁ、もしかして会ったことあるか?」
もしかしたら俺が忘れているだけかもしれない。そう思い問いかけるも
「ううん、ないよ」
明るく否定されてしまった。う、うーん。ここまでキッパリ言われると、あ、そうですか、と納得してしまいそうになる。
「でもショウをずっと見てたよ!」
「……なに?」
見ていた?いつからだ?少なくとも俺のセンサーに引っかかったのは最近のことだ。
「例えば75層のボス戦とか」
「嘘つけ、お前みたいなやつはいなかったはずだ」
75層だと? それは無い。あの時、戦いの始まりと終わりに人数を確認したが、ストレアなんてやつはいなかった。この見た目だ、いたら覚えてるに違いない。
しかし、有り得ない話ではないのか? かなり熟練度を上げている俺の索敵スキルに引っかからないということは、コイツの隠密スキルは相当のものだ。もし、誰にも気づかれずにボス部屋に入ることが出来れば、可能性としては無くはない……はず。
「まあいい。それで、なんで俺たちを追ってたんだ?」
気になるのはここだ。堂々と姿を現したことといい、今の雰囲気といい、敵対するような意思はまるで垣間見えない。それなのになぜストーキングなんてしていたのか。
「ショウに興味があったんだよー」
「はぁ?」
「だってショウってすごい強いし!」
「それはどうもありがとう?」
「私たちを追ってた理由はそれだけ?」
「うん、それだけだよ?」
えぇ……。
「なんか拍子抜けしたわ。警戒してた私がバカみたいじゃない……」
「ホントにな……」
「?」
いや、どうしたの?みたいな顔されましても。天然かコイツ。
「ま、いいや。自己紹介も出来たし、今日はこれくらいにしとこうかな。用事もあるし」
「え?」
「またね!ショウ!今度はもっとゆっくり話そうね!」
「いや、あ、うん」
手を振りながら駆け足で去っていくストレア。それを俺たちは黙って見ていた。
「……追いかけなくてよかったの?」
「構わんさ。特に敵対することも無さそうだし。今のところはな」
ストレアか。フィリアとシノン以上に不思議な人物だな。隠密スキルといい雰囲気といい、明らかに強い。攻略組と同等のレベルだろうか。あくまで予想だが恐らく間違いはないと思う。
だがそれ以上に感じる既視感。彼女に会った時から感じるこの感覚。会ったことも、それにストレアなんて名前は聞いたこともなかったはずだ。それなのにどうして。
……恐らく知っているんだろうな。俺がこの世界に来る時に忘れた記憶。その中に彼女のことが入っているのだろう。シノンのことも含めて。
ずっとおかしいと思っていた。なぜ茅場の正体がヒースクリフだと思い出せなかったのか。物語の重要な人物である彼を忘れるなど、いくら忘れっぽくても有り得ない。
なぜ思い出せないのかはわからない。思い出そうとしても思い出せない。まるで広大な砂漠の中から1粒の塩を必死に探しているような。足掻いても足掻いても空回っているだけ、そんな感覚。
記憶を失ったこと、そして俺がこの世界に来たこととは何か関係があるのだろうか。それを知っているのは恐らくただ1人。
ヒースクリフ。
決闘の時の彼の言動。あの口ぶり。見透かしたような目。まるで俺の何かを知っていたような、そんな感じだった。
彼の言葉が今でもどこかに残っている。抜けない棘として刺さっている。
前の世界は前の世界、今はこの世界の住民として、ただ生きていこうと思っていた。その中での言葉だった。
自分という存在への疑念。不安。そういった物が再び目を出してきた。自己という存在の非統一性。この世界にいるショウは。前の世界の大宮翔は。何がどうなっているのか。ヒースクリフに問い質したかった。
今となってはもうわからない。彼は死んだのだ。茅場晶彦が自ら作った世界で、自らの作ったルールを破ってまで生き残るとは思えない。彼はゲームの創作者ではなく、正しくこの世界に生きていたのだ。
だが、俺のやることは変わらない。時間は待ってくれないのだから。心に凝りを残そうと、今まで通りクリア目指して進むしかない。
とりあえず、シノンの射撃スキルが早く見たい。
はい、ここまでです。
大事なイベント2つ完了。もともと1話ずつ書こうと思っていたのですが思いのほか短くなったので繋げちゃいました。
またSAOのゲームが発売されましたね。筆者はまだですが、皆さんは既にプレイなさっているのでしょうか。しかしホロフラ発売されてから2年経つのか……。歳食ったな……。