クリスマス?
うち仏教だから(血涙)
リーファが「暇でしょ?手伝ってよ」と声をかけてきた。バカも休み休み言え。こちとらアインクラッド最前線で働く攻略組だぞ。
ましてホロウ・エリアも攻略しなければならないのだ。お前を手伝ってる暇なんてあるか。てか面倒い。これに尽きる。他を当たれ他を。
「で、どこに行くんだ?」
リーファには勝てなかったよ……
いや待て、しゃあないんや。ユイが「手伝ってあげてくださいパパ」とか言うからさ。そりゃもう娘には勝てないじゃん? しょうがないじゃん? 俺は悪くない。
けどなリーファ、わざわざ俺とユイが戯れてる時に言わなくて良いんじゃないですかねぇ。うん、間違いなく謀ったな。計画通りってキラみたいな顔してたし。
「付いてくれば分かるよ」
と言われてもな、結構森の奥深くまで来てるぞ。いくら76層とはいえ、こんな所まで俺は来たことがない。
しかし、奥深くとはいえ所詮は76層。出てくるモブも雑魚同然。現れるモブを切って捨て切って捨てて滞りなく進んでいく。と、1軒の古民家が見えてきた。しかし、いかにも日本家屋のような佇まいである。
「あそこだよ」
「むしろここじゃなかったら困る」
例えるなら8時だ○!全員集合の父ちゃんコントの家ような。ぼくのなつや○みに出てくる家のような。中世ヨーロッパという設定はどこへ行ったのかと開発者に問い詰めたい気持ちだ。
と、縁側に腰掛け項垂れている人がいる。着物を身に纏っていることから、育ちが良さそうな印象を受ける。アイコンが出ているし、クエストの起点なのだろう。
「話を聞いてあげて」
「はいよ」
NPCの前に立ち声をかける。
「兄さん、どうしたんだ?」
『……ん? お客か。すまない、少し考え事をね。そうだ、聞いてくれるか。愚かなものの惨めな話を』
「ああ」
俺が肯定すると、NPCは俯いていた顔を上げた。顔の整っている好青年だ。だが、その顔には憂いが生じていた。その憂いが項垂れていた理由なのだろうか。
『ここに女がいたんだ。その女との関わりは自分にも分からない。気づいたらいたんだ。だがその女は布団に横たわってもう死にますと言う』
『到底そのように見えなかった。血のほども良く唇にも赤みが指していたのだから。それでも女はもう死にますと言う。何故だろうか、確かに死ぬなと思った』
『自分は女に死んで欲しくなかった。何故かと言われても答えようがない。だが女は仕方ないと言った』
『そして女はこう言った。死んだら、埋めて下さい。大きな真珠貝で穴を掘って。そうして天から落ちて来る星の破片を墓標に置いて下さい。そうして墓の傍に待っていて下さい。また逢いに来ますから。と』
『いつまで待てばいいと聞けば百年待っていて下さいと言った。百年、私の墓の傍に坐って待っていて下さいと言った。自分は待っていると答えた。そして女は涙を流し死んだ』
『自分はすぐに真珠貝で穴を掘った。その穴の中に女を埋めた。そうして墓を作った。それがその墓だ』
男が指を指した方向に目をやると丸い墓石が置かれていた。
『自分は女の言う通り真珠貝で穴を掘った。ところがだ、落ちてきた星の欠片を取りに行こうとすれば、そこには、魍魎がいたのだ。自分には到底適わなかった。星の欠片を取ってくることは出来なかった』
『そして逃げて帰ってきたのだ。少し前まで顔も見知らぬ女のために命を賭けることはない。それでも、自分は星の欠片を取ってこなければならないのだ。それが出来ればこうして苦しむことも無かっただろうに』
『軽く請け合い、女との約束を守れない自分を、どうか責めてくれ。逃げて帰った弱い自分を、どうか責めてくれ』
ピコンと!が出てきた。ここでクエストか。どうすればいいとリーファを見やる。
「取りに行きたいの」
「星の欠片をか?」
「うん」
いつもの軽い感じとは違い、真剣な眼差しで俺を見据えるリーファ。何がそんなにもリーファを本気にさせるのだろうか。
ま、俺の返事は変わらないがな。
「兄さん、俺たちが星の欠片を取りに行くよ」
『……本当か?』
「ああ」
『……ありがとう』
これでクエスト受注完了だな。
場所は変わり78層。青々と茂った森の中に流れる流麗な川が、風の音と共に一つの音楽を奏でる。揺れる葉音がそこにアクセントを加え、目を閉じればコンサートホールを幻視するようだ。
しかし今は、残念ながらそんな劇場を楽しむ暇はない。件の敵さんが待ち構えてるからな。
「えい!!」
「よっと」
少しずつ、だが的確にダメージを蓄積させていく。巨大な樹木モンスター(もちろんNM)が長い腕を俺めがけて振るう。巨躯を活かした一撃は遠心力も相まり威力だけなら相当なものだ。
もちろん当たればの話だが。
その体格の通り動きは緩慢、当たるはずもない。誰かさんの言う通り、当たらなければどうということはないのだ。やっぱり速さって大事。
「これで……止め!!」
片手剣ソードスキル《バーチカルスクエア》。剣戟が太い幹へと吸い込まれる。流れるような動作に釣られ、結ばれたポニーテールが揺れる。
綺麗だ。それが彼女の剣技に対する感想である。
一つ一つの所作が完成されている。一太刀をとってもその一つ一つが芸術の如く滑らかに動く。幼い頃から続けているという剣道によるものだろう。全国に行った腕は伊達ではないという事か。
だが、それが戦闘に必ずしもプラスに働くとは限らない。型に嵌っているとも言えるからだ。
例えば、ボクサーは後ろからの攻撃に弱いと言う。相対して戦うのがボクシングとしては普通だ。だからこそ、背後にいるという意識はどうしても後手に回ってしまう。それが型に嵌るという典型だ。
だがリーファはそういった様子が見られない。足の運びや剣の使い方、むしろ慣れているようにも思える。ALOをやってたしそれもそうだよな。この階層の相手にも戦えてるし、いやほんと戦力として申し分ないわ。
「へへーん、どんなもんですか!」
目的の敵を倒し満足気にVサインを向けてくるリーファ。うん、かわいい。
「流石はキリトの妹というかなんというか」
「でしょでしょ?」
「調子に乗るな」
軽く頭を叩く。コツンという音に、あ痛っと言って頭を擦るリーファ。痛覚ないだろお前。
「何回か危険な場面があったぞ。余裕を持つのはいいが、慢心はするな。少しの油断が命取りになるんだからな」
ALOをやっていた経験があるからか、どこか死を軽視してるところがある。ここで死んでも大丈夫だという気持ちが無意識のうちに行動として現れている。アミュスフィアでダイブしてるはずだし、まぁ大丈夫なんだろうが。
ああそうだよ、エゴだよ。それでもいいだろ。もうSAOで誰かが死ぬところは見たくないんだ。ここはきちんと忠告させてもらう。
「むー、わかってるよ」
「……ならいいんだ」
「あ、あそこに何か落ちてるよ?」
ボスを倒した位置に丸い石が落ちている。これが星の欠片だろう。なるほど、大気との摩擦で角が取れたのだと考えれば丸くなるか。
「これでいいんだな」
「うん」
星の欠片は手に入れた。後はあの人に持っていくだけだ。これでこのクエストは終わる。
でもその前に
「なぁ、聞いていいか?」
「なぁに?」
リーファは丸い星の欠片を見つめながら返事を返した。
「何でそこまで真剣なんだ?」
このクエストへのリーファの意気込みが強い。それ自体はいい。だが、いつにも増して本気の表情だった。さっきの戦いでもそう。倒すという気持ちが強すぎたあまりに無理に突っ込んだ場面が何度かあった。それがこのクエストのことであることは明白。
何がリーファをそこまでさせる。何がリーファを駆り立てる。俺はそれが気になったのだ。
「……だってさ、辛いじゃん」
顔は星の欠片に向けたまま、ポツリ、と彼女が口を開いた。
弱々しく、それでもどこかに強い意志を感じた。だからだろうか、あまりにも矛盾していて脆く思えた。
「何も出来ないなんて、そんなの、嫌だよ。せめて何かその人のためにしてあげたい。ただ待っているだけは、辛いから」
悲しげに呟かれた言葉は、だから悲しく、だから強く届いた。
リーファは自分に当てはめているのだ。俺たちがこの世界に来て、決して短くない時間が経った。リーファは、いや、桐ヶ谷直葉は、兄である桐ヶ谷和人と疎遠になっていた。
お互いがよりを戻したいと思いながらも、SAO事件が起こったことで、その機会は長く失われた。
皮肉にも、それが和人への感情を改めて認識することになるのだが、それを伝えることも叶わない。
ただ待つ。彼女は待っている間、どのような気持ちでいたのだろう。いつまでも鳴らない鹿威しを、何を思って見つめていたのだろう。
顔を上げた。
「だからこうして会いに来たんだけどね」
再び星の欠片に目をやり、リーファは語り出す。
「寝たきりのお兄ちゃんを見てたら、いてもたってもいられなくて。日に日に窶れていくのが怖くて。心音が消える夢だって何回も見た。お兄ちゃんがモンスターに切り裂かれる夢だって見た。その度に病院に行ってお兄ちゃんに会いに行った」
星の欠片から目を離さない。だが、その目に星の欠片は映さない。
「こんなに近くにいるのに、お兄ちゃんは遠くにいて戦ってる。それが辛くて怖かった」
でも、と続ける。
「あたしには手段があった。お兄ちゃんの元に行ける手段が」
優しく、しかし力強く、その丸い星を握り込む。
「でもお兄ちゃんはあたしより強くて、あたしが足でまといになっちゃった。だからかな、何かしなきゃって。来た意味が無いじゃんって」
それが危険な行動に繋がった。
助けに来たつもりがむしろ役に立たず、レベルも今でこそ充分だが、当時は低く攻略にはとても出れなかった。
助けるつもりが助けられて。何のためにこの世界に来たのか。
それが焦りを生んだ。
ああ、彼女は強い。
誰かのために命を賭して会いに行くなど、俺には出来なかった。少なくとも賭けたいと思える相手もいなかった。それがたとえ親でも。
俺は自分さえ良ければ、自分が世界の全てだった。
「けどなリーファ、だからって無茶していい理由にはならない。お前が死んだらそれこそキリトが悲しむ。本末転倒だ」
「……うん」
「キリトを手伝うって気持ちは良い。だけどな、この世界は助け合わなきゃ生き残れない、だからみんなで助け合おう、なんてことは言わない」
「……」
「ただひたすらに、生きろ」
それが前の世界で、この世界で2度死んだ、そして、大切な人を亡くした俺から言えることだ。
きっとキリトは助け合うとか綺麗事抜かすんだろうな。だが俺はそんな聖人君子じゃない。ただ自分がやりたいようにやるだけだ。
ああそうだ、結局のところ、俺はいつまで経っても自分本位なのだろう。それが人を助けることになっても、それは自分がしたかっただけ。人を思ってやるわけじゃない。これでも他人を意識する様になっただけマシだがな。
目を閉じ顔を空に向けるリーファ。閉じた目に何を見ているのか。何を思っているのか。
不謹慎かもしれない。
けれど、この光景を美しいと、そう思った。
「えへへ、そうだよね」
その表情は晴れやかで。
「でもやっぱり、あたしは助け合いたい。困ってる人がいたら助けたい」
「ん、そうか。それならそれでいいさ」
「いいの?」
「言ったろ。キリトを手伝いたい気持ちは否定しないって。俺はお前の焦りを質しただけだ」
「そっか」
そうだ。お前は、お前らはそれでいい。そんなお前らを、俺は守ってやる。
「でも、君もだからね?」
「何が?」
「無茶ばかりしてるらしいじゃん。人に言っておいて自分が直さないのはどうかと思うな〜」
「いや俺は出来ると思ったからやってるだけだから。無茶無謀はしてないから」
「でも心配させるのはどうかと思うよ」
ぐぅの音も出ない。
「わかったよ、悪かったよ」
「うむ、よろしい!」
「……立場逆転してね? 何かおかしくね?」
「さあ、後は届けるだけだよ!モタモタしないで早く行くよ!」
「納得いかねぇ」
説教してたのはこっちの筈なのになんで俺が怒られるの? オチに使いやがって。
でもま、俺が言いたいことは言った。俺が言わないでもキリトが何かしらアクションを起こしてたと思うが、まぁいい。アイツは優し過ぎるからな。多少強く言った方がいいだろ。
誰かのために。元の世界にいた頃の俺には遠くかけ離れた言葉だ。家族とも離れ、家でも学校でも1人の生活を送ってきた。絆?友情?そんなもの存在しない。そう思ってた。
ただ、どこかで憧れてた。
人は自分に無いものに憧れるという。スポーツ選手だったり芸能人だったり。あるいは友達だったり。
ああ、良いものだよ、コイツは。2度と手放したくない。
よう、昔の俺。羨ましいかこの野郎。
はい、ここまでです。
リーファ回でした。これでリーファ層の読者も獲得出来たはず(ゲス顔)
クエストの元ネタは漱石先生の有名な小説です。小説を書き始めた頃からこの話を考えていました。直葉とどことなく似通ってると感じて、じゃあネタにしようと。実際100年待ちそうですよね彼女。
最後に私事なのですが、来年からかなり忙しくなりそうなのです。投稿頻度は守るつもりですが、遅れてしまう場合があります。ご了承ください。
でもエタらないからな!約束は守るからな!