唯一無二の親愛系TS少女コンビ 作:しゅみです
その人と一生を添い遂げると決める契約を結婚と呼ぶのであれば、俺とこいつとの関係はどんなものだろうか。
幼稚園から中学までを同じ学校で過ごし、高校からは離れても毎日のように通話を繋いだ。大学ではその機会さえへれど、しかし今度はリアルで会う時間が次第に増えていった。なんの考えもなしに出かける癖は中学から変わらず、中身が空っぽでヤマもオチもない話を永遠と繰り返した。
別にお互いが別に死ぬまで一緒にいようと言ったわけではない。しかし、これから先の人生お互いを切り離して生きていくことなど考えもつかない。お互い同性愛者ではないから付き合うこともないだろうし、きっと社会人になってもふらっと送ったメッセージから目指す先のない会話が始まるだろう。
よくも悪くもお互いに干渉せずしかし反発せず勝手に距離を詰めたり離したり。他人から見たら掴みづらい距離感が俺にとって心地よくて、きっとこいつもそう思ってたと思う。
そして、お互いこれから先もこの関係性が続けばいいと、思っていた。
「あのさ、木を切ったやつあるだろ」
「なにそれ、板材のこと?」
「いんや、原型をそのままスパンと切ったやつ」
「原型を?ああ、丸太ね」
「そうそう、丸太丸太。あれって、漢字に直すと丸いに太いって書くだろ」
「そうね」
「字面だけ見たら木要素が無さ過ぎると思ったんだよな」
「うん」
「それだけ」
「それだけか」
時刻はちょうど12時ぐらい。駅にはこれから遊びに出かけようとする人や仕事中で食事に出かけに来た人たちが往来していた。その時はちょうど朝を食べていないであろうこいつを連れてご飯でも食べにいくところで、待ち合わせた俺たちは空腹を紛らわすように会話を続けていた。たわいのない会話は腹こそ膨れないが、減りもしないので気を紛らわすのに丁度良い。脳を介さない会話に実などいらないのだ。
「で、どこ飯行くん?」
「どこ行きたい?」
「ご飯食べたい」
「それはそう」
「それで、どこにご飯行きたい?」
「ご飯が食べられる場所」
「コンビニでいい?」
「じゃあラーメン食べたい」
「おけ、ラーメンな」
俺はスマホを使って近くのラーメン屋を調べる。大きな駅だけあっていくつものラーメン屋がヒットする。
「何ラーメン食べたい?」
「醤油か味噌か豚骨。最悪ラーメンじゃなくてもいい」
「醤油ね」
「強いていうなれば醤油」
「そう言ってんだろ」
「醤油ラーメンが食べたいなー」
口を開けど何も生まないこいつをいなしながら手早く醤油ラーメンをピックアップして調べる。数件ヒットした中から遠い物や高いものを除外して目的の店舗に狙いをつける。
えーと、まあこのあたりが良いか
「行くぞ、大船に乗ったような気でついて来な」
「らじゃ」
二人で横に並んで歩きだす。
「どれぐらい歩くん?」
「四、五分ほど」
「へー。本気出したら?」
「あたりが更地になるから本気は出せない」
「難儀なものやね」
「そうね」
「あ」
ちょうど渡ろうとしていた信号が目の前で赤に変わったので俺はげんなりした。駅前の信号と言えば変わるのが遅いともっぱらの評判で次に青になるのは一分ほど後だろう。俺は先ほどまでは渡れていたはずの横断歩道を悠々とわたる車たちに目をボーっとやりながらこぼした。
「一分延長だ」
「あーあ。本気出しておけば渡れたかもしれないのに」
「本気を出すと税を取られるから」
「本気税?」
「そうそう」
しかし、足止めされてしまったからと言って急いでいるわけでもないので仕方ないと割り切ってこいつとの会話にリソースを割こうと思考した。ここらで小粋なジョークでも挟んでやろうかとしているとき、それは起こった。
「ぶぇ」
とばされ視界がブレてぶれてぶれ、次に痛みが襲ってきた。思考に分厚いベールがかかったように鈍く遅く酷い。
「えぅぁ」
周りからのわー、や、きゃー。が悲鳴だと気づくのにわずかの時間も要せず、悲鳴悲鳴。
擦れた手足と内側で火薬が爆発したように響く脳への痛みが、あれ。なんだ。車が、車か。
そこでようやく俺が車で引きとばされたことに気づいた。それと同時に、頭から垂れる液体が俺のあたまから流れ出る血であることにも気づいた。
痛い。いたい。しかし、やけに冷静な頭は体を次の行動に移していた。
「なあ」
視界は縁が黒く靄がかかって見えない。かろうじて動く手足とを無様に動かして体を起こす。
後は耳と口が動けば十分だ。
「何か?」
それは思ったよりも早く見つかった。いや、見つかりに来た。若干遠くから聞こえる声からはいつものような軽薄さと隠し切れない痛みが伝わってきた。
「痛いか」
「痛いね」
そうだ、そりゃそうだ。無事なわけがない。俺の、横に立ってたんだ。
「俺もだ」
周りからは絶えず怒鳴り声や悲鳴が聞こえる。しかし、俺はその騒音を無視して次の声に耳を立てた。
「そりゃね」
「それは、そうだな」
俺たちは笑った。そして笑うことが最後だともお互い思った。
何か、気の利いたことでも言おうかと思って、それを思いついた。くだらないとも思ったが、あいつとの会話ではなぜかふさわしいと思った。
「なあ」
「なに?」
あいつの声が遠くから聞こえた気がした。
「金平糖ってあるだろ?」
「あるね」
「あれってさ」
「うん」
「英語のコンパクトが由来なんだよ」
そんなわけないな、と聞こえた気がした。つまり、返答が聞こえなかった。それから、周りの騒音もぴたりと止んだ気がして、それから俺は意識を手放した。
そうして、俺は目を覚まさなかったらしく、かわりに俺が目を覚ました。
明らかに病院ではない部屋のベッドで目を覚ました俺は違和感に気づきながらも部屋に入ってきた洋風の服装をした少女が俺を見て驚いた顔をしてから急いで去っていくのをぼんやりとみていた。
転生というものは知っていたので何となくまとまらない思考を切り捨てて、納得するようにした。
死んだのか。とか、あいつは無事だったのかな。とか考えていると横で物音がした。
俺がそっちに目をやると、横のベットでは今まさに少女が目を覚まそうとしているタイミングで、俺は起きた少女に何か言われるのではないかと内心ビクビクしながら待っていると、
ようやく目が覚めたらしい少女はあたりを見回して、それから俺に目を合わせて
「そんなわけないな」
といった。
「そうだよな」
ぽろりと口からこぼれた言葉は会話に対する返答なのか状況に対する納得だったのかはわからなかった。しかし、確かにわかることと言えば俺はまたこいつと一緒らしいということだけであった
俺
男。面倒見がいいタイプ。他人と関わるときは薄い壁を張る。
恋愛感情無し
あいつ
男。頭が良い。他人と関わるときは敬語。
恋愛感情無し