ヤンデレ寸前アイドルたちとそれよりヤバめな学P 作:トマトォォォァァォ!!!!!
「──あなたを、プロデュースさせてください」
……最初はこの人のことを物好きな人だなと思っていた
中等部No.1ユニット『Singup!』の元メンバー「秦谷美鈴」の経歴や実力だけを見てそれにあやかろうとする愚か者……というわけではなく、むしろわたしが一般的なアイドルと比べマイペースで自由奔放ないわゆる『不良』であることを理解した上で私をプロデュースする変な人
篠澤さんのように苦難を悦楽と感じる変わった趣味を持ってるのかと思いましたが、少し接してみればそれは違うことがすぐに分かりました
「……随分と探しましたよ…そろそろあなたの実力をみておきたいのですが……」
わたしを探し回って疲れたのか、息が切れかけていて額には多少の汗が滲み出ていたプロデューサー
その表情は担当のアイドルが好き勝手に動くという逆境を楽しんでるとは思えないほどに苦々しく歪んでいました
『休日のアイドルは、休むのが仕事です。』
わたしが休日にプロデューサーの部屋を掃除したりお世話をしたいと言ったときには、やれやれといった雰囲気わたしを休ませようとしていました
これだけでも彼がどういった性格なのかが見て取れます、プロデューサーは堅実に物事を進め一歩一歩を着実に刻んでいく事を得意とする人
その日の天気でレッスンするかどうかを決めるわたしのような我儘なアイドルとは決して相容れなさそうな人
少なくとも、プロデューサーはそういった博打のみたいなことは好まない人でしょう……だというのに
「秦谷美鈴のプロデューサーとして、断言します。
──あなたがステージに向ける想いは…月村さんに負けるものではないと」
プロデューサーは確かにそう言いました
目線は真っ直ぐにわたしを捉え、確信に満ちた表情で
出会ってまだ数週間だというのに、どうしてここまで秦谷美鈴を信じて理解して受け入れて、行く先を躓かないように整えてくれるのか……それが不可思議でした
確かに、わたしには他の追随を許さないほどの類まれなる実力があります。同学年の人達には負ける未来が見えませんし、学園No.2の雨夜先輩や現
傲慢と言われれば否定はしません。自分でもそういった風に思われてしまう言動だとは理解しています。ですが、この初星学園全体で見てもトップクラスの実力を持っているのもまた事実。私をプロデュースすれば輝かしいキャリアを獲得することは確定的でしょう
……でも、それでもプロデューサーがわたしを選んだのは納得できません
いくらわたしがアイドルとして優れた能力を持っていると言っても、あまりにも不安要素が多いことはプロデューサーならすぐに見抜いていたはずです
それに、彼ほどのプロデューサーならわたし以外のアイドルを担当しても素晴らしい結果を残せることは想像に易くありません、というか何度か考えたことはあります
例えば倉本さん。あまり良くない表現にはなってしまいますが、アイドルとしては他より劣っていると言わざるおえない実力、ですが彼女の真髄はそこでは無い
目の前の困難からは決して逃げず、自身に何が足りないのかを理解し周りの人に教えを請える
日々日々に一歩ずつ研鑽できる人、プロデューサーとの相性は間違いなく良いでしょう
他には篠澤さんでしょうか。倉本さんと同じようにアイドルとしてはあまりにも向いていない身体能力
しかし、先程も言いましたが彼女は逆境を楽しめる人、体調不良を疑ってしまいそうになる細身からは想像もできないほどの上昇志向を持ち前へ進める人
篠澤さんもプロデューサーとの相性は間違いなく良いでしょう
あと上昇志向と言ったら佑芽さんも外せません。お二人とは違い元アスリートなのも納得の驚異の運動能力
それでいて負けず劣らずの上昇志向、姉方である咲季さんを超えるためにはどんな努力も怠らない人
もし佑芽さんがプロデューサーの担当だったら、今
以上のように、この初星学園にはわたし以外にも優秀なアイドルは沢山います
だというのに、そんな数多いるアイドルの中からプロデューサーはわたしを選んだのです
わたしとまりちゃんが競う舞台を整え、NIAでわたしを見事1位に輝かせ、夏のHIFでは共に辛酸を舐め、それを糧に研鑽を積ませ、遂には冬のHIFにてわたしを
どれもプロデューサーが居なかったら成し遂げることは難しかった偉業でしょう。とても感謝してもしきれません
……でも、同時にこうも思ってしまったのです
──どうしてプロデューサーは、わたしを選んだのでしょうか?
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「……ふわぁ……」
廊下に眠気交じりのあくびが静かに響く
気怠そうにしながら現
(……やる気が出ませんね、今日はこのままお昼寝してしまいましょうか…いえ、やめておきましょう)
一瞬邪な考えが思い浮かんだが、すぐにその考えはお蔵入りになる
それもそうだろう、廊下の窓から外を見れば空は雲が積乱した曇り空になっている
プロデューサーとの約束で曇りの日はレッスンなどはサボらないようにしているし、そもそも今は冬真っ只中、外で昼寝なんて事をしたら風邪を引いてしまう
流石の秦谷美鈴といえども、体調不良になってまでサボろうとはしない
(それにまりちゃんやりんちゃんも待ってますからね♪)
彼女はポッケからスマホを取り出しメールアプリを起動する
画面の一番上には彼女の古くからの友人、月村手毬からのメールが何件も届いている
『美鈴まだ!?もうミーティング始まってるよ!!早く来て!燐羽も待ってるから!!』
画面に表示された無機質な文字列、だというのにその一文からは月村手毬の激しい怒りがこれでもかとぐらいに伝わってくる
流石『Singup!』の歌姫だ、彼女は想いを歌だけでなくメールの文章にも込めることができるのは驚きだ
(『もう少しで着きますよ』…っと、ふふ♪相変わらずまりちゃんは元気で可愛いですね♪)
現在、秦谷美鈴、月村手毬、賀陽燐羽の『Singup!』元メンバーたちは解散ライブのために教室に集まり、ミーティングやレッスンを重ね解散ライブを成功させるために動いている
中等部の頃は果たせなかった解散ライブ、ファンの期待に応えるためにも一切の妥協は許せない、その共通認識が三人の中に根付いていた
(さて、急ぎますか)
しかし秦谷美鈴はそんなこと関係ないと言わんばかりに絶賛遅刻中である、とっくの当にミーティングの開始時間は過ぎており、それでも尚秦谷美鈴はゆっくりと歩いている。何も急いでいないようにしか見えない
もしこの情景を月村手毬が見たら、普段の美しい歌唱からは考えれないくらいの怒号が学園全体に響くであろう
「……ほんっっとうに信じらんない!美鈴のやつ、やる気ないの!?」
「うるさいわよ手毬……美鈴はそういう奴だったでしょう?今更気にしてもしょうがないでしょ」
「だとしても遅すぎだよ!もう20分も遅れてるんだよ!?1分2分ならまだ分かるけど、20分はないでしょ!?」
教室に近づくにつれ、手毬の尋常ならざる怒りと諦めの境地へと辿り着いた燐羽のため息が聞こえてくる
正当な怒りだろう、誰よりも『Singup!』を大切に思っていた手毬からして見れば20分の遅刻は怒髪衝天の出来事だ
(まぁ…今日もまりちゃんは元気ですね…)
そんな怒りも軽々しく受け止め愛情へと変換していく秦谷美鈴
こうなってくるともはや傲慢というレベルではない、言うなればブラックホールだ
「月村さん、すみませんが少し声量を下げてください、他の人の迷惑になってしまいますので……」
手毬の怒号にプロデューサーが静止を呼びかける
パソコンをカタカタとタイピングし、『Singup!』関係の資料やレッスンプランなどの作っている
その声は担当アイドルが大幅に遅刻しているというのに酷く落ち着いており、一切の焦りも動揺も感じさせない
「……美鈴のプロデューサーはよくそんな冷静でいられますね、怒ったりしないんだすか?」
「ええ、怒りという感情は今はOFFにしていますから」
「えっなんですかOFFって」
「秦谷さんの行動に対していちいち怒っていたら非効率ですからね、だったら最初から感じないように感情をなくしたほうがいいですよ」
「なに感情をなくすって!?怖い!怖いよぉ!?」
「プロデューサー科では必須技能ですよ?」
「プロデューサー科怖いよぉ燐羽ぁ!」
「初星学園はどんな化物を作り出そうとしているのかしら……?」
とてつもない初星学園の闇をなんてことの無いように話すプロデューサー
そんなプロデューサーと反比例するかの如く手毬は恐怖で泣き叫び、燐羽は初星学園への不信感を募らせていく
「まぁ……わたしのプロデューサーを化物呼ばわりなんて、りんちゃんは酷いです……」
そんな一幕の最中、美鈴が教室の中へと入って来る
その歩みは堂々としており、まるでレットカーペットの上の女優ように気品に溢れている。遅刻してきたことをまるで感じさせない歩みだ
「みーすーずー!!!(# ゚Д゚)」
だが、手毬にはそんなのは通用しなかった
席を立ち上がり掴みかかるような勢いで美鈴に迫る
先程までのプロデューサーへの恐怖は忘却の彼方へと消え去り、その表情は般若を思わせる程に怒りで満ちていた
「まあ、まりちゃんがすごく怒っています。一体どうして…?」
「美鈴の!せい!だよ!」
「あなた達元気ねぇ……」
怒り、困惑、呆れなどの感情が荒れ狂い、教室の中は混沌とかしている
何も知らない人がこの状況を見ればあさり先生に「なんかすごい喧嘩が起きてます!」と報告されるだろう
「来ましたか、秦谷さん」
「はい、来ましたよ。プロデューサー」
そう言い美鈴はにこやかに微笑む、それに応えるようにプロデューサーの方も僅かだが口角を上げ微笑み返す
さっきまで感情をOFFにするとか人間離れした事を思えないくらいに、人間臭い優しい笑顔だ
「……ふふっ」
そんなプロデューサーの笑顔を見て心が浮ついたのか、美鈴の顔は緩み、にこやかな微笑みは満面の笑みへと変わっていく
顔を合わせれば互いに微笑み合う、まるで恋人のようなやり取りだ
恋人とまではいかなくとも、その情景を見れば二人の間には強固な絆があることは一目瞭然だろう……
「美鈴!なんでこんなに遅れたの!!」
そんな情景を吹き飛ばすかの如く、手毬の怒声が響く
あまりの声量で部屋が揺れたのかと錯覚してしまう
「ふふっ、まりちゃんは元気いっぱいですね」
「笑ってないで質問に答えて!今日のミーティングは解散ライブの楽曲や方向性を決める重要なミーティングなんだよ?なんでこんなに遅れて……!?」
そう言う手毬の目元には涙が滲んでいる
仲間やファンの事を人一倍大切にしている彼女だからこその怒り
それを美鈴はあいも変わらずにこやかな微笑みで受け止めている
「……遅れてごめんなさい、まりちゃん。でも、仕方のないことなんです」
「仕方ない?何が?」
「だって、わたしは
「うっ…それは、確かに……」
「その他にも生徒会の業務などもあって時間の余裕がないんです。これでは遅刻しても仕方ないと思いませんか?」
「…それもそうだね。ごめん、何も考えずに怒鳴っちゃって…」
「いいえ、大丈夫ですよ、まりちゃん。そういう所もまりちゃんの良いところです」
あれほどまでに怒り狂っていた手毬を言葉巧みな正論で落ち着かせる美鈴
流石幼馴染というべきか、手毬の関わり方を熟知している
「いや…秦谷さんの仕事などのスケジュールはミーティングやレッスンに被らないよう調整している筈ですが……」
「えっ、どういう…」
「生徒会の業務などでトラブルがあっても良いようにある程度時間の余裕は取ってあるので、余程のことがない限り遅刻なんてないと思うのですが」
「美鈴?どういうこと?」
プロデューサー曰く余程のことが無ければ遅刻なんてあり得ないらしく、それを聞いた手毬は美鈴に対して困惑混じりの訝しむ目線を送る
「……なんで言ってしまうのですかプロデューサー、もう少しで誤魔化せるところだったのに…」
「美鈴!!!(# ゚Д゚)」
「プロデューサーに梯子外されてるじゃない、いい気味ね」
「ああまたうるさく……判断を間違えたましたか…」
再度混沌のような喧騒が起きる。もはやミーティングどころの話ではない
「まったくもう!なんで美鈴みたいないい加減な奴が
「だってわたしの方が強いですから、実力がある方が選ばれるのは当然でしょう?」
「ぐぬぬぬ………!!」
「わたしの方が強いから、ねぇ……それだけじゃないでしょう?」
「りんちゃん……?」
席に腰掛けたまま、燐羽の目線は2人から隣で頭を抱えているプロデューサーへと移り変わる
「そこはさぁ、プロデューサーのおかげです、って言ってあげたほうがいいんじゃない?」
「……俺ですか?」
「だって事実でしょう?というか、プロデューサー無しの美鈴がここまで来れるビションが見えないわ」
「まぁ、まるでわたしがプロデューサー無しでは
「しないんだ…」
思ってた以上にあっさりとその事実を認める美鈴、普段の傲慢っぷりが嘘のようだ
いつもとは違う謙虚さに、怒り狂っていた手毬も思わず怒りを忘れ驚いている
「美鈴のことだから『プロデューサーが居なくても
「もう、まりちゃんったら。わたしのことを傲慢で先輩方への敬意も持っていない無礼者とでも思っているんですか?」
「うん」
「まりちゃん!?」
いとも簡単に幼馴染を傲慢で先輩方に敬意も持っていない無礼者扱いする手毬
コレも彼女らの積み上げてきた信頼関係があるからこそ成せるコミュニケーションだろう
「ひ、ひどいですまりちゃん!わたしの事をそんな風に思っていたなんて!」
「いやだって…普段からわたしの方が強いですとか言ってるし、雨夜先輩が怒っていても笑ってたりするし…先輩達のこと舐めているのかなって…」
「そ、そんな……!?そんな風に思って……?」
「ぷっ…ククッ……こ、これに関しては美鈴が全部悪いと思うわよ…んふふっ…」
「りんちゃんもそんなに笑わないでください!」
「あの…そろそろミーティング始めませんか?」
完全に主題がズレている。当初の目的を覚えているのはもはやプロデューサーしか残っていない
「…コホン、話を戻しますが、わたしはプロデューサーがいなかったら
「本当に美鈴にしては謙虚だね…どうしてそう思ったの?」
「プロデューサーがいないとわたしはここまで成長出来ないというのもありますが…わたしをプロデュースしないということは、他の人がプロデュースされるということだからです」
確信を持った様子でそう断言する美鈴、だが、その表情には僅かだが苦虫を噛み潰したような様子も見て取れる
「そうでしょう?プロデューサー?」
「……そうですね、今でこそ秦谷さんをプロデュースしていますが、当初は断られた時のために他の方も候補にありましたから、別の人をプロデュースする可能性はありましたね」
「……っ、そう、ですよね。そしてプロデューサーが候補に挙げたということは、その方々にもプロデューサーが見込む程の実力や才能があるということです。そんな方がプロデューサーのプロデュースを受けたら、きっとわたし以上のアイドルになったことでしょう」
一切の笑みもなく真剣そのもので語るその姿には、いつもの余裕や傲慢さはまったく感じられない。それほどまでにプロデューサーのことを信頼し、その手腕を信じているからこその発言だろう
「おお…美鈴がそこまで言うなんて珍しい…そんなにプロデューサーのことを信じているんだ…」
「同然です、わたしを
「流石にそこまで言われると恥ずかしいですね……」
「自信を持ってくださいプロデューサー、あなたは学園一の問題児を頂点へと届かせたのですよ」
「問題児っていう自覚があるなら治すよう努力してくれませんか?」
「……でもそうなってくると、なんでプロデューサーは美鈴をプロデュースしたのかしら」
「……え?」
なんとなくで発言されたであろう燐羽の一言で、美鈴は不意を突かれたように呆然とする
「だって
そんな美鈴が見えていないのか、心底楽しそうに嬉々として語る燐羽
声の音程は今までより高くなり、表情は満面の笑みへと変化している
「本当燐羽って咲季のこと好きだよね……」
「ええ大好き♪ストイックで努力家、小柄なのに私を寛大に受け止めてくれる、強気の中に時たま見える弱気もギャップ萌えって感じよねぇ♪」
「おかしいな…わたしの知っている燐羽は同学年の子を姉扱いする変人じゃないはずなのに…」
「でもいつもライブで『わたしはあなた達のお姉ちゃんよ!』って言ってくれるわ、つまり私のお姉ちゃんよ」
冗談一つも無いような真剣そのものな表情で、冗談みたいなことを話す。
一体花海咲季の何が彼女をここまで狂わせたのだろうか
実の姉、賀陽継はこんな妹を見てどんな感情を抱くのか
「実際、そこのところどうなのよプロデューサー、咲季お姉ちゃんをプロデュースしようとか考えなかったわけ?」
「候補にはありましたね。主席も納得の身体能力、平日と休日をきっぱりと分け規則正しい生活をしている、それでいて慢心も無い。アイドルとしては最初から優等生でしたから」
「さっすが咲季お姉ちゃん♪プロデューサーにここまで言わせるなんて」
「……そう、ですか…」
冷静に花海咲季がどれだけ優れたアイドルなのかを評価するプロデューサーと、その評価を聞き
反面、2人が花海咲季を褒めるたびに美鈴の表情が少しずつ影っていくのが見える
それも仕方のないことだと言える、手毬や燐羽や友人達とは別ベクトルの愛情を抱いているプロデューサーが自分を選ばなかった場合の話をしているのだ。聞き心地は良くないだろう
「──ですが、俺はそれでも秦谷さんを選びました」
「えっ……」
そんな彼女に手を差し伸べるかのようにフォローを入れるプロデューサー
その言葉に美鈴も顔に光が灯る
「へぇ?それはどうして?」
「理由は簡単です。俺が秦谷さんに一目惚れしたからですね」
「あら」
「は!?」
「まぁ!?」
またもやとんでもないことをさらっと言い放つプロデューサー
どうやら彼は、一目惚れしたというのはそんなにも軽々しく言っては良いものではないということを理解してないようだ
「ひ、ひひ一目惚れってどういうことですか!?」
「いやまあ言葉通りの意味ですよ。担当アイドル候補を決めている際に、候補の一人であった秦谷さんのライブ映像を観た時から秦谷さんに魅了されてしまい、絶対にこの人をプロデュースしようと思ったんです」
まったく恥ずかしがらず真顔でプロデューサーはそう言い切る
これもプロデューサー科の人道から外れた教育の賜物だろう。彼には恥という感情はもう無い
「燐羽燐羽!一目惚れだって!」
「うるさいわよ手毬。まあ気持ちは分かるけど」
「まぁ、まぁ…!まぁ!?」
「美鈴なんてまともな言葉喋れていないもの。そんなに嬉しかったのかしら?」
身近な恋話にはしゃぐ月村手毬、冷静に俯瞰しながらも楽しいのが隠しきれていない賀陽燐羽、そして様々な感情が入り乱れ「まぁ」しか言えなくなってしまった秦谷美鈴、そんな三人を前にしても今尚平静を貫いているプロデューサー
先程との怒気混じりの喧騒とは別の混沌が教室の中で激しく渦巻いている
「……そんなに驚くことでしょうか?秦谷美鈴は美しく魅力的な女性です。一目惚れが起きたとしても何ら不思議ではないはずです」
「で、でもでも一目惚れだなんてそんなの…キャ〜~♪」
「手毬、流石にはしゃぎすぎよ。節度を持ちなさい節度を」
「まぁ、まぁまぁまぁ……まぁ…♪」
「あなたはそろそろ人の言葉を喋りなさい…」
「コホン……ともかく」
収集が付かなくなり始めた喧騒を取りまとめるかのように、プロデューサーが一際大きな声で三人に呼びかける
「俺は秦谷さんに一目惚れしたから彼女をプロデュースした、これでこの話はおしまいです。というかそろそろミーティングを始めませんか?もう開始予定時刻から一時間は経とうとしてますよ…」
「ふふ…一目惚れだなんて…咲季たちにも話してやろ……ってええ!?……ホントだ、もうこんな時間…」
「私達って相変わらず好き勝手してるわよねぇ…こんなんだから咲季お姉ちゃん達にも『これだからSingup!は…』とか言われるのよ」
「まぁまぁ、まぁ…まぁまぁ」
「引っ叩いたら直るかしらこのポンコツ、いつまでまぁまぁ言ってんのよ」
各々そんな事を呟きながらも机を囲むように席に座り、ミーティングを始めようとする
予定から一時間遅れでの開始、これこそ学園一の問題児ユニット『Singup!』、感情を消すことができなければこのユニットのプロデューサーなど務まらないだろう
「それでは今より、『Singup!』解散ライブのミーティングを始めます」
「やっとミーティングが始まる…美鈴のせいだよこんなに遅れたの」
「言うて手毬のせいでもあるでしょ、事あるごとに突っかかりすぎなのよあなた」
「は?は?は?」
「ミーティングを始めますからね?始めさせてくださいお願いしますから」
一難去ってまた一難、牛歩もビックリなほどに全く進まないミーティングに流石のプロデューサーも疲弊を隠せていない
だがしかし、驚くべきことにこれが『Singup!』の日常なのだ
面と向かい合えば瞬く間に口論となり、想いが通じ合えば誰よりも楽しそうに笑い合う
そんな頬笑ましく同時に面倒なアイドルユニット『Singup!』彼女たちは本当に解散ライブに漕ぎ着くことができるのだろうか……?
「………まぁ」
そんな喧騒の最中、秦谷美鈴はため息交じりに一言呟く
その表情は何か思い詰めたように深刻で、瞳には光が無いように見える
「燐羽ぁ!取り消してよ!今の言葉ぁ!」
「事実でしょ?断じて取り消すつもりはないわ」
「乗らないでください月村さん、賀陽さんもそんなに煽らないでください…ああもう一向にミーティングが始まらない…」
そんないつもとは変わった秦谷美鈴の様子に、その場の誰もが気づけないでいた