未来を予習して動く緑谷出久、なぜか周囲から未来視のヒーローだと思われている』 作:まだら模様
評価が良ければ続きます(多分)
作者はにわかなので設定等に間違いがありましたら申し訳ございません。
「十ヶ月だ! 雄英入試までの間、この海浜公園のゴミを君一人の手で清掃しろ! 名付けて『鍛えよマッスル! アメリカンドリームプラン』だ!!」
中学三年生の春。
オールマイトから提示された分厚いトレーニング計画表を手に、緑谷出久は冷や汗を流していた。
(あ、あぶない……っ! これ、予習してなかったら初日で骨折して失格になる未来だった……!)
頭に流れてきた不穏な断片知識――『オーバーワークで身体が壊れる』という未来。
無個性で貧弱な己の体を自覚している出久は、怪我でヒーローへの道を絶たれる保身のため、前夜に徹夜で計画表を読み込み、自分の骨格と筋肉量に合わせた完璧な『修正・補正スケジュール』を作り上げていたのだ。
上記のおかげもあってか、冷静な判断に基づく指摘や分析ができていたのであった。
「あの、オールマイト……! 効率よく負荷をかけるため、テコの原理を使わずに重機を動かしたり、特定の筋肉を重点的に追い込む順番に組み替えてもいいですか……!?」
「む……? 緑谷少年、そのやり方は遠回りだし、負荷が過剰ではないかね?」
首を傾げるオールマイトに、出久は必死に頭を下げた。
「大丈夫です! こっちの方が、僕の体には絶対『効く』気がするので……っ!」
(怪我する未来を回避するには、自分に合わせたフォームとペース管理を徹底するしかないんだ……!)
その真剣な眼差しに、オールマイトの脳内で恐ろしい勘違いが爆発した。
(私の渡した完璧なプランを、初見で自分の解剖学的限界に合わせて修正してきただと……!? 己の弱点と成長速度を冷徹に『予習』し、私の指導の先まで見通しているというのか……!!)
「す、素晴らしい自制心と分析力だ少年! その計画で行こう!!」
◇
かくして、出久の過酷な十ヶ月が始まった。
夏。照りつける太陽の下、汗だくになりながら腐食した鉄骨を引き摺る。
秋。冷たい風が吹き抜ける中、砂に埋もれた巨大タイヤを腕力だけで引き抜く。
「未来は見るなよ? 見えてしまうのは仕方ないが、頼りすぎるな」というオールマイトの釘刺しにも、出久は素直に頷いた。
見えてしまう危険の断片を避けるため、出久はただひたすら自分の体調管理ノートと向き合い、徹底的な「安全な追い込み」を継続した。
さらに、冬の寒さが深まるアパートの室内。
「緑谷少年……今、参考書の該当ページを何も見ずに一発で開いたのかね!?」
「あ、はい。なんとなく、ここが試験に出そうな気がして……」
(脳内に『ここを勉強しろ』って知識が流れてくるから予習してるだけなんだけど、理屈を喋ろうとすると頭が痛くなるから黙っておこう……)
「なんとなく、でその精度か……!? 勉学の領域まで未来を予習し、網羅しているというのか……!!」
オールマイトは毎回、少年の底知れぬ「準備量」に戦慄していた。
◇
二月下旬。雪のちらつく真冬の朝。
予定されていた期日の、ほんの数時間前。
出久は最後の一個――砂に埋まった巨大な金庫に、手をかけていた。
両脚が砂に沈み、背筋が軋む。
だが、痛みの質は違っていた。
十ヶ月前なら、確実に壊れていたはずの負荷。
それを、出久は自分の体の限界を把握した上で、壊れない順番で積み上げてきた。
――ガバッ!!
錆びついた金庫が、砂から浮き上がる。
朝日が差し込む。
その瞬間、頭の中に、明確な「確定した未来」が流れ込んだ。
(――受け継ぐ。ワン・フォー・オールを)
出久は膝をつき、朝の海に向かって歓喜の声を上げた。
「……うおおおおおおおっ!!」
◇
「……は?」
少し早く現場へ向かったオールマイトは、足を止めた。
眼前には、見渡す限り清掃された砂浜。
そして、最後の金庫を引き上げたばかりの少年の姿。
(……やはり、来たか)
オールマイトは、予定より数時間早く訪れた理由を、改めて噛みしめていた。
未来の断片を知るこの少年なら、私の用意した十ヶ月を、予定通りに終えるとは限らない。
いや――終えられないはずがない。
(だから私は、最後の瞬間を見届けるために来た)
(緑谷少年よ。君は私の用意した未来を、すでに一歩超えているのか……!?)
オールマイトの背筋に、猛烈な歓喜と恐怖の鳥肌が立つ。
(この少年は……一体どこまで先の『未来』を見据えて、私すら想定し得なかった完璧なトレーニングを完遂してみせたというんだ……!!)
「やばい……! いや、凄すぎるぞ緑谷少年ンンッ!!」
声が裏返りながら駆け寄ってくる平和の象徴。
砂浜で肩を揺らす出久は、遠ざかる寒さを感じながら、安堵の息を吐いた。
(……よかった。ちゃんと予習して、怪我しないで体を鍛えられて……本当によかった)
自分の保身と真面目な予習が、またしても伝説のヒーローの脳内で「恐るべき大軍師の偉業」として神格化されているとは、出久は夢にも思っていなかった。