未来を予習して動く緑谷出久、なぜか周囲から未来視のヒーローだと思われている』【別稿】 作:まだら模様
作者はにわかなので設定等に間違いがありましたら申し訳ございません。
登校時間。
雄英高校の正門前には、朝から大勢の報道陣が集まっている。
周囲の生徒たちには記者に回答している者から、鬱陶しいと感じている者など多種多様だった。
「オールマイトが雄英の教師になったというのは本当ですか!?」
「本人に直接お話を聞かせてください!」
校門の向こうへカメラを向け、警備員に詰め寄る記者たち。
その光景を目にした出久は、ぴたりと足を止めた。
(……あっ!)
頭の中に、数日前から断片的に浮かんでいた未来知識がよみがえる。
(そうだ! 今日の朝はマスコミが雄英に押しかけてくるんだった!)
(よかった……敵の襲撃じゃないんだ……!)
胸を撫で下ろした出久だったが、すぐに別のことに気づいた。
(いや、待って。これってつまり、雄英のセキュリティが突破されてるってことだよね……?)
(午後はUSJで訓練があるんだ。もし、敵も同じように侵入してきたら……!)
記者たちの手にはカメラやマイク。
少なくとも、今すぐ襲いかかってくるようには見えない。
(……うん。落ち着こう。あの人たちはマスコミだ。ヴィランじゃない。たぶん)
出久は自分に言い聞かせるように何度も頷いた。
そのまま校門を通り抜けようとしたところ、記者の一人と目が合った。
「君、雄英の生徒さん? オールマイトについて何か知っていることは?」
「ひゃっ!?」
突然マイクを向けられ、出久は飛び上がった。
(な、なんで僕に!? まさか、未来を知っていることがバレた!?)
「えっと、その……僕は何も……!」
「オールマイトの授業について、何か聞いていないかな?」
「あ、あの! 僕はただの生徒なので!」
逃げるように校舎へ駆け込む出久。
(危なかった……! 危うく余計なことを話すところだった……!)
もちろん、記者たちはオールマイトの情報を聞きたかっただけだった。
◇
「緑谷、それと爆豪」
朝のホームルーム。
教壇に立った相澤消太は、相変わらず怠惰な眼差しを前日の戦闘訓練を終えた生徒たちに向けた。
「昨日の訓練だが、VTRを見た。爆豪、お前は能力もセンスもあるが、子供じみている。己の感情に振り回されて勝機を逃すな」
「……チッ」
爆豪が苦々しく顔を背ける。
相澤の視線が、そのまま出久へと移った。
「そして緑谷。お前は道具と最小限の出力運用で相手の個性を阻害し、相手の動きを制限させた。八百万の解説通り、立ち回りとしては完璧だ。ただし――」
相澤の目が、射ぬくような鋭さを帯びる。
「お前がそこまで地形と相手の個性を計算し尽くしていたのか、それとも偶然か。どちらにせよ、油断ならん観察眼だ。己の力を過信せず、精進しろ」
「は、はいっ……!」
出久は背筋を伸ばして返事をしたものの、内心では冷や汗が止まらなかった。
(ち、違うんです……! 僕はただ失敗するのが怖くて、大雑把な未来知識を頼りにホームセンターで買った制汗パウダーとオイルを使っただけなんです……!)
周囲の生徒たちからは、感嘆の視線が注がれていた。
「緑谷くん、本当にすごいよ……あの短時間で相手の弱点を突く道具を持ち込むなんて」
「八百万さんの解説聞いてゾクッとしたわ。あれを現場の判断でやったんだろ?」
八百万が満足そうに頷く。
「ええ。緑谷さんのツール選定は、爆豪さんの汗の成分まで織り込んだものですわ。偶然で片付けられるものではありません」
「ほんと違いますから……!」
出久の心の叫びは、誰の耳にも届かなかった。
◇
講評が終わると、クラスの「学級委員長決め」が始まった。
学級委員長――その響きに生徒たちが色めき立つ中、飯田の提案によって投票制が導入された。
結果、最も票を集めた出久が委員長に、次点の八百万が副委員長に選出された。
「えええ!? ぼ、僕が委員長……!?」
壇上に立った出久は、膝をガクガクと震わせた。
(無理だよ……! 僕なんかが委員長なんてやったら、判断ミスでクラスのみんなに迷惑がかかっちゃう……! 失敗したらどうするの……!?)
だが、クラスの受け止め方は真逆だった。
「緑谷なら完璧にまとめてくれるよな!」
「実力も判断力もあるし、適材適所だぜ!」
失敗を極限まで恐れる出久の「泥臭い保身」は、周囲には「謙虚で完璧なリーダー」の姿として映っていた。
◇
昼休み。出久は麗日、飯田と共に食堂で昼食をとっていた。
飯田のヒーロー一家の話で盛り上がる中、出久の手はぴたりと止まっていた。
(明日……USJで敵連合の襲撃がある。相澤先生も、13号さんも大怪我をしちゃうんだ……)
(でも、言えない……! 『未来が見える』なんて話そうとすれば、頭の中に割れるような激痛が走って声が出なくなる……!)
(痛みを押し切って言ったとしても、絶対に信じてもらえない……。『なんでそれを知ってるんだ』って問いつめられたら終わりだ……)
(それに……僕はオールマイトさんと関わりが深い。ここで根拠もなく襲撃情報を出せば、オールマイトを狙うヴィラン側の関係者……内通者なんじゃないかって疑われる……!)
(未来視がバレるより先に『怪しい内通者』として拘束されるのが一番怖い……!)
思考の渦に飲み込まれ、顔色を失っていく出久。
「緑谷くん……顔色悪いよ? 大丈夫……?」
麗日が心配そうに覗き込んでくる。
「あ、うん……! ちょっと、考え事をね……!」
「無理せんといてね。委員長になったプレッシャー、凄いやろうし……」
(緑谷くん、ほんま真面目やから……一人で背負い込もうとしとるんやな)
麗日は出久の葛藤を「委員長の重圧」と完全に誤解していた。
その時――けたたましいサイレンが館内に響き渡った。
『セキュリティレベル3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難してください』
食堂内が一瞬にしてパニックに包まれる。生徒たちが押し合いへし合い、非常口へと殺到した。
出久も揉みくちゃにされながら、ハッと目を見開いた。
(あ……! 大雑把な未来知識で思い出した……! これ、敵の襲撃じゃない! マスコミが校門を破って敷地内に入ってきただけだ……!)
混乱が頂点に達しようとしたその時、飯田が壁を走り、非常口標識の上に飛び乗った。
「落ち着いてください! 単にマスコミが来ているだけです! 雄英の生徒らしく冷静に行動しましょう!」
飯田の決死の呼びかけにより、パニックは一瞬で収束した。
その姿を見上げた出久の胸に、強い尊敬の念が湧き上がる。
(飯田くん……すごい! パニックの中でみんなを引っ張れる……! 僕にはあんなこと絶対にできない……!)
午後。教室に戻った出久は、迷わず壇上に立った。
「みなさん、委員長は飯田くんがやるべきだと思います! 彼のあの立ち回りこそ、人をまとめるリーダーにふさわしいです!」
出久の真摯な推薦を受け、飯田は感激に震えながら委員長を引き受けた。
八百万が感心したように呟く。
(緑谷さんは、自身の性格と周囲の状況を客観的に分析し、最も適した人物に役職を譲られた……。己のプライドに固執せず最適解を選択できる……これこそ真のリーダーの器ですわ)
(違うんです……! 単に僕に委員長は荷が重すぎただけなんです……!)
◇
翌日。
午前中の一時間目、プレゼント・マイクによる英語の授業が行われていた。
「次のうち、関係代名詞が正しく使われていない文はどれだー!?」
マイクのハイテンションな声が教室に響く中、生徒たちは「普通だ……」とだるそうに受講していた。
だが、出久だけはノートを取る手すら震えていた。
(今日の午後……USJでのレスキュー訓練だ……)
(黙っていれば僕は無事でいられるかもしれない……。でも、知っていて見過ごしたら……相澤先生も13号さんも大怪我をする……!)
(失敗したくない、疑われたくない……! でも、誰かが傷つくのを知っていて何もしないなんて……そんなのヒーローじゃない!!)
出久の中で、「保身」と「ヒーロー志望としての本能」が激しくぶつかり合っていた。
予習して失敗を避けるのが自分のやり方だ。なら、危険を知っていて対策しないのは、予習すら放棄することと同じじゃないか。
マイクの授業が終わり、昼休みに入る直前。
出久は席を立ち、教卓の書類をまとめていた相澤のもとへ歩み寄った。
「相澤先生……少し、お時間よろしいでしょうか」
「……なんだ、緑谷」
相澤が出久を見下ろす。出久は拳を強く握り締め、意を決して言葉を紡いだ。
「今日の午後の……USJでのレスキュー訓練なんですけど……もし行くなら、どうか最大級の警戒をしてほしいんです」
相澤の目が細められた。
「……根拠は?」
「こ、根拠はありません……! ただ、昨日のマスコミ侵入みたいに雄英のセキュリティが突破された事例もありますし……なんとなく、嫌な予感がして……!」
出久は必死に頭を下げた。これ以上は言えない。激痛と、内通者として疑われる恐怖が口を塞ぐ。
相澤は無言で出久を見つめていた。その脳裏で、高速の思考が巡る。
(根拠もないのにここまで必死に食い下がる奴じゃない。あの戦闘訓練でも、完璧な予習と計算を見せた男だ……。まさか、こいつは外部の何らかの『動き』を事前に察知しているのか……?)
(あの戦闘訓練でも、完璧な準備と観察眼を見せた男だ)
(まさか、こいつは何らかの『違和感』を、俺以上に早く察知しているのか……?)
(オールマイトと関係が深い。だからこそ、余計に油断ならん……)
相澤の深読みは、出久の想像を遥かに超える領域に達していた。
「……分かった。今日、念のため警戒レベルを引き上げて臨む。だが、根拠を明かせない以上、これ以上の対応は期待するな」
「は、はい……! ありがとうございます……!」
出久は深くお辞儀をしてその場を離れた。
(言えなかった……! 敵の数も、死柄木って奴のことも、脳無の強さも言えなかった……! でも、相澤先生は警戒してくれる……!)
◇
午後。
コスチュームを身に纏い、クラスメイトたちはUSJへ向かう大型バスに乗り込んでいた。
バスが動き出し、窓の外の景色が流れていく。
出久は腰のポーチを何度も確認し、深く息を吐き出した。
(相澤先生は警戒レベルを上げてくれた。でも、あの襲撃の規模には足りないかもしれない……)
(それでも……僕ができる予習と準備は全部やった……!)
(絶対に……誰も死なせやしない……!)
出久の引き締まった表情を横目に、バスは災害や事故のあらゆる試練が待ち受ける施設――USJへと向かって走り続けていた。
今回は地味に重要な回なっていますね
内心の葛藤でだいぶ揺れています
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