未来を予習して動く緑谷出久、なぜか周囲から未来視のヒーローだと思われている』【別稿】 作:まだら模様
作者はにわかなので設定等に間違いがありましたら申し訳ございません。
「すっげえ! 本物のテーマパークじゃん!」
広大な敷地に足を踏み入れた生徒たちから、一斉に歓声が上がった。
皆その現実的な日常と様変わりするようなものに対面したことで、高揚している者が多いようである。
水難、火災、土砂――あらゆる災害や事故を想定して作られた雄英高校の超ド級訓練施設『ウソの災害や事故の部屋』、通称『USJ』。
出迎えたレスキューヒーロー・13号が、個性の危険性とそれを人助けに使う責任について静かに語りかける。
クラスメイトたちがその言葉に感銘を受ける中、出久だけは一人、背中に冷たい汗を伝わせていた。
(……右腕も両脚も、リカバリーガール先生の治癒と十ヶ月鍛え抜いた体力のおかげでなんとか動く……! でも、まだ万全じゃない……絶対に残りの反動を抑え込まなきゃ……!)
(来る……! 大雑把な未来知識の通りなら、もうすぐ中央広場の噴水前に……!)
出久の視線は、13号の解説ではなく、中央広場空間の一点に固定されていた。
腰回りに整然と並べられた多目的ポーチのファスナーに指をかけ、ミリ単位の距離感を思考内で弾き出す。
その異様なまでの殺気と緊迫感を、隣に立つ相澤消太は見逃さなかった。
(昨日の放課後……『最大級の警戒を』と言い切ったあの眼だ。やはり緑谷の奴、何かを確信している……!)
相澤は無言のまま、首に巻いた捕縛布に手をやり、個性を即座に発動できる体勢へ移行した。
その直後だった。
広場の中央、空気が歪み、黒い靄が爆発的に広がり始めた。
「……集まって集団で動くな! 13号、生徒を守れ!」
相澤が叫ぶ。黒い靄の中から、おどろおどろしい異形たちの集団――ヴィラン連合が姿を現した。
◇
「な、なんだアレ!? 入試の時の横行みたいな演出か!?」
切島が前傾姿勢をとり、爆豪が掌に爆炎を燻らせて飛び出そうとした。
「待って、二人とも行っちゃダメだ!!」
出久の裂けんばかりの制止の声が、弾け飛んだ。
「数が読めてない! 敵の目的も不明だ! むやみに間合いを詰めるのは自殺行為だよ!」
「あんだと!? デク、指示してんじゃねえ――」
「飯田くん、連絡だ!!」
爆豪の怒号を遮り、出久は振り返りざまに飯田天哉の胸元を指差した。
「学校の校舎まで走って! 敵は敷地内の通信を遮断してる! 外部への連絡手段は僕たちの足しかないんだ、君の足が必要なんだ!!」
「っ……! 承知した!!」
飯田は一切の躊躇を捨て、校舎へと向かって弾かれたように地を蹴った。
同時に、出久は背後の13号へ向けて鋭く叫んだ。
「13号先生! 背後に気をつけて! 黒霧のワープホールは、あなたの『ブラックホール』を回り込ませて自爆させるリスクがあります! 位置を変えて構えてください!」
「なっ……何故それを……!?」
13号は絶句しながらも、出久の尋常ではない迫力に押され、即座にノズルを背後の空間から逸らして軸をずらした。
(判断が早すぎる……! 状況把握、避難誘導、敵の能力の危険性の指摘……すべてコンマ数秒の間で行われているぞ……!?)
相澤が戦慄する間もなく、空間を割って黒い靄――黒霧が出久たちの頭上に立ちはだかった。
「初めまして。我々は『ヴィラン連合』――」
「喋らせない!!」
出久はポーチから「高輝度マグネシウム閃光弾」を抜き放ち、安全ピンを飛ばして黒霧の顔面へと投擲した。
視界を焼き尽くす強烈な閃光が炸裂する。
「ぐっ……! 光……!?」
「冷えろっ!!」
光の目くらましと同時に、出久は「圧縮冷却スプレー」を二本同時に噴射しながら、三パーセントのワン・フォー・オールで跳躍した。
狙うは、靄の奥に一瞬だけ透けて見えた金属の首輪――黒霧の実体だ。
(ワープ個性の核は首元だ……! ここを冷やすか叩けば、ワープの展開を阻害できる……!)
だが、黒霧の反応速度は出久の予想を超えていた。
「素晴らしい先制攻撃……! ですが、届かない!!」
ひやりとした冷気と拳が届くコンマ一秒前、黒霧の靄が出久の身体を包み込んだ。
「しまっ――」
「惜しかったですね、少年。……ですが、散りなさい」
黒霧は冷や汗を流していた。
もしあとコンマ数秒、光と冷却への対処が遅れていれば、自分の首輪は粉砕されていた。
一年生の動きではない。自分たちの能力も、弱点も、最初からすべて知っていたかのような無駄のない強襲。
(死柄木様……この少年は、真っ先に排除すべき脅威です……!)
黒霧のワープホールが広がり、出久の視界が暗転した。
◇
どぽん、と激しい水音が響いた。
「げほっ、ぶはっ……!」
水面に顔を出した出久の目に飛び込んできたのは、巨大なプールと人工の山脈――『水難ゾーン』の光景だった。
(水難ゾーン……! 一緒に飛ばされたのは……!)
「緑谷ちゃん! 大丈夫!?」
「ひいいい! 死ぬ、死ぬううう!」
蛙吹梅雨が出久の襟首を掴んで水面に浮かび上がらせ、峰田実が半狂乱で水面をバタつかせていた。
出久たちが這い上がったのは、水上に浮かぶ沈没しかけた座礁船のデッキだった。
「み、緑谷ちゃん……周りを見て……」
梅雨の言葉に、出久は船下を見下ろした。
水中には、水棲系の個性を生かした無数のヴィランたちが、獰猛な笑みを浮かべて船を囲んでいた。
「ケケッ! 陸の上のヒヨコどもが、水の中に逃げ場もなく取り残されたなぁ!」
「一人ずつ引きずり下ろして叩き潰してやるよ!」
峰田が泣き叫ぶ。
「終わった……終わったよ緑谷ぁ! あいつら水中のプロだぞ!? 俺たちの個性じゃ勝てるわけないだろ!!」
出久は荒い息を吐きながら、脳内で高速演算を重ねていた。
(ここでワン・フォー・オールを無暗に使っちゃダメだ……! 腕を壊したら、広場にいる相澤先生たちを助けに行けなくなる……!)
(ホームセンターと防災ショップを巡って、バイト代で買い揃えたこの救助・防災グッズ……! これと、梅雨ちゃんの水・陸両用の跳躍力、峰田くんの粘着球……これを組み合わせるんだ!)
「二人とも、僕の指示通りに動いて! 脱出するよ!」
出久はポーチから「強力ケミカルライト」を数本取り出し、発光させて船から十メートルほど離れた水面へと遠投した。
「えっ、ライト……!?」
水面に落ちた光が、ゆらゆらと揺れる。
その光に、いちばん船に近かった三体のヴィランが、反射的に顔を向けた。暗い水中で獲物を狙う水棲種特有の習性――揺らめく光源に、無意識に視線を奪われる。
三体の隙を見逃さず、出久はポーチから折りたたみ式のスリングショットを取り出し、峰田へ投げ渡した。
「峰田くん、これで球を撃って! 狙うのは水面じゃない、船の側壁と、奴らが掴もうとする縁! 奴らが船に取り付こうとする場所を、球で塞ぐんだ!!」
「ひ、ひぃぃ! もぎもぎもぎぃぃッ!!」
峰田はパニックになりながらも、スリングショットで頭部の粘着球を高速連射した。
出久の狙い通り、球は水面ではなく、船の側壁や水中から這い上がろうとするヴィランたちの手元・足元へピンポイントで付着した。
「なっ……なんだこれ、離れねえ!?」
「手と脚が……船に貼り付いた!?」
船縁に張り付いた三体がもがくたび、水面が揺れ、周囲のヴィランたちもざわめき始める。
「今だ、梅雨ちゃん!」
出久はポーチからレスキュー用の高強度ロープを引っ張り出し、船の反対側の甲板の手すりに固定した。もう一端を梅雨へ渡す。
「梅雨ちゃん、これを舌で引っ張って! 船を傾けて、奴らの体勢を崩す! その隙に僕たちを巻き込んで跳んで!!」
「任せて、緑谷ちゃん!」
梅雨の舌がロープを巻き取り、強靭な脚力で甲板を蹴る。
船が大きく傾き、粘着球に足を取られたヴィランたちの体勢が崩れた。
しなやかな舌が出久と峰田の胴体を一瞬で巻き取り、宙へと引き上げる。
粘着球で船縁に身動きを封じられた三体が、傾いた船の揺れに耐え切れず水没し、慌てて駆け寄ろうとした他のヴィランたちと水中でぶつかり合う。
足場を失ったヴィランたちが互いに絡み合い、船へ取り付く動きが一瞬だけ止まった。
「やった……! 脱出できたぞ!!」
峰田が涙目で叫ぶ。
出久は空中から、広場の方角を見つめていた。胸を焼くような焦燥感が、出久の全身を支配していた。
(急がなきゃ……! 相澤先生が……みんなが危ない……っ!!)
◇
広場は、凄惨な戦場と化していた。
「がハッ……!?」
相澤消太の身体が、地面に叩きつけられた。
その上には、漆黒の巨躯を持つ人造人間――『脳無』が覆いかぶさっていた。
両腕の骨は折られ、顔面は血に染まっている。
「……相澤先生!!」
水難ゾーンから駆け戻ってきた出久の視界に、破壊的な光景が飛び込んできた。
13号は出久の警告を受けて自滅こそ免れていた。だが、背後の警戒に気を取られた隙を突かれ、別のヴィラン集団に押し込まれて重傷を負っていた。
警告は無駄ではなかった。だが、それで窮地を完全に脱せたわけでもない。
飯田が脱出したとはいえ、増援が来るまでの時間は稼げそうにない。
そして何より――中央で相澤を踏みつけているあの化物が、圧倒的な絶望として立ちふさがっていた。
「やあ、帰ってきたんだ」
歪んだ笑みを浮かべるのは、首に手を巻きつけた男――死柄木弔だった。
「黒霧を止めようとしたイカれた一年生。……脳無、あいつの頭を潰せ」
脳無の頭部、露出した脳味噌の下にある凶暴な瞳が出久を捉えた。
ドスッ、という不気味な足音とともに、脳無が地面を蹴る。
速い。視認すら困難な速度。
(かわせない……っ!!)
出久は三パーセントの全身体術で間一髪、横へ転がった。
衝撃波だけで肌が裂けそうになる。回避だけで精一杯。道具も、小細工も、この圧倒的な暴力の前には何の意味もなさない。
(どうする……!? どうすればこいつを止められる……!?)
出久の脳裏に、激痛を伴う未来知識の断片が走る。
『衝撃吸収』と『超再生』。
真っ向から打撃を叩き込んでも無力化される。腕を壊して全力を叩き込んでも、再生されたら終わりだ。
だが――出久の目が、脳無の踏み込みの瞬間に固定された。
(踏み込みの癖……! こいつは突進する直前、必ず右の膝関節に巨体の全体重を乗せる……!)
(正面から力比べをするんじゃない。あの一瞬、巨体を支えているのはあの膝だ……! 全力の一撃を一点に集中させて、体勢を崩せば……!)
出久は拳を握り締めた。
(一度きりだ……! この一撃に、僕の全部を懸ける……!!)
「脳無、殺せ」
死柄木の冷酷な命を受け、脳無が右足を深く踏み込んだ。巨体が前傾姿勢になり、出久の頭上へ拳が振り下ろされる。
その、極限のコンマ一秒。
出久は逃げなかった。
踏み込まれた脳無の右膝関節――その皿の真裏へ、滑り込むように潜り込んだ。
右腕のすべての細胞に、ワン・フォー・オールの力を充填させる。
三パーセントではない。五パーセントでもない。
血管が弾け跳び、骨が悲鳴をあげる——100%の、極大の力!!
「うあああああああああああああっっっ!!!!」
ドーーンッッッ!!!!
USJ全体を揺るがす爆音と衝撃波が吹き荒れた。
出久の右拳が、脳無の右膝関節へ寸分の狂いもなく叩き込まれた。
巨体の全重量を支えていた支点へ、すべての力を一点に集中させた一撃。
脳無の巨体が、軸を失って傾く。
「ガァっ……!?」
右膝を砕かれた脳無の巨体が傾き、ズシンと音を立てて地面へ倒れ伏した。
広場に、恐ろしいほどの静寂が訪れた。
「……は?」
死柄木弔の口から、掠れた声が漏れた。
オールマイトを殺すためだけに作られた最高傑作。
それが、たかが一年生の拳一発で、膝を折られて地べたに倒れている。
「おいおい……嘘だろ……? 脳無が……殺された……?」
死柄木の瞳に、底知れぬ戦慄と動揺が走った。
隣で、黒霧の煙が激しく揺らぐ。
「死柄木様……あの少年、やはりただの一年生ではありません……! 我々の配置も、弱点も、脳無の構造すら事前に『すべて知っていた』動きでした……! オールマイトが密かに育て上げていた……我々を炙り出すための隠し玉(刺客)です……!」
「チッ……!! 冗談じゃねえぞ、なんだあのアナログな予習怪物……!!」
一方、出久は激痛に耐えながら、心の中で必死に反芻していた。
(殺してない……! 僕は殺してない! 膝を壊して、一瞬の停止を勝ち取っただけだ……!)
しかし、出久の安堵は長くは続かなかった。
メリメリメリ、と気味の悪い肉の蠢く音が響く。
『超再生』。
砕けた脳無の膝関節が、一瞬にして元の形へと復元されていく。
「……驚かせやがって」
死柄木の動揺が、一瞬でド黒い殺意へと変わった。
「再生するほど壊しても、すぐ立ち上がるんだよ、脳無は。……おい脳無、そいつを骨も残さず噛み殺せ」
立ち上がる漆黒の巨躯。
その光景を見上げながら、出久の意識は急速に遠のいていた。
右腕は完全に紫色に変色し、感覚が失われている。
(あぁ……ダメだった……。再生……されちゃう……)
(ごめん、みんな……僕じゃ……ここまでだ……)
視界が真っ暗に染まり、出久の身体が地面へと崩れ落ちた。
脳無の巨大な拳が、気絶した出久の頭上へと振り下ろされようとした、その瞬間――。
ドッガアアアンッッッ!!!!
USJの頑丈な入口の扉が、木っ端微塵に吹き飛んだ。
煙の中から歩み出てきたのは、怒りで笑みを消し去った、絶対的な平和の象徴。
「もう大丈夫」
背中のマントを翻し、オールマイトが立ち塞がった。
「私が、来た!!」
ここが一番難しかったです
マジでバランスの調節が鬼畜難易度…
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