『革新』のフィロゾーフ:あるいは資本的及び啓蒙的な革命の素材、形体、及び権力 作:緑川翼
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土煙だけが、こちらへと向かってくる。サンドワームの姿は見えない。地中に潜伏しているのだから、当然ね。
本来ならサンドワームを地中から引っ張り出す工程が必要なんでしょうけれど、幸いにも、ここにいる六人は全員アーキタイプに覚醒するほど、魔力の操作に熟練している。
魔獣は大型になる程、魔力の多い人間に執着する性質があるから、サンドワームには私たちが極上のご馳走に見えているでしょう。
「──ッ! 出ましたぞ、流石に大きい!!」
「みなさん、頑張りましょうね! 『新生』のホ・ハギオス、起動!!」
「まったく、気楽に言ってくれるわね。行くわよサンキュロット、ついてきなさい。──『革新』のフィロゾーフ!」
「へいへい。最期までお伴しやすよ、仕事なんでね」
予想通りに地中から飛び出したサンドワームは、身体の半分以上が地中にありながら、地上に出ている部分だけで建物の三階以上の高さ。
巨大なみみずが牙を持ったような姿形をしたサンドワームへと最初に飛び出したのは、私とビーチェの従者である獣人のラグナルの二人。
光球を召喚してから、木の枝を鉤爪で掴み、魔力の縄を縮めた勢いで空を舞う。
「イイね、サイコーだねッ、楽しくなってきたね~ッ! 今日は鴉に餌をやろうか! 『栄光』のエインヘリヤル~!!」
眼下に広がる草原を、ラグナルが楽しそうに走っているわ。よく見れば、ラグナルの被っていた狼の毛皮が、彼の身体と同化している。興奮した言動といい、武を尊ぶ獣人に多い精神の高揚を代償に武力を上昇させる種類のアーキタイプね。
サンドワームも私たちの接近に気付いて、みみずのくせに大きく吠えた。大した肺活量。空気が揺れるのを感じるわ。
「“今の速度だと、ラグナルが先に接敵します。ルイゼットさんは一拍置いてから、ラグナルの攻撃で怯んだ魔獣に強烈なのを浴びせてください!”」
後方に控えるビーチェからの、念話を通じた大雑把な指示。
中空を跳ぶ私がその指示に反応する間もなく、狼を思わせる凄まじい速度で地を駆けるラグナルがサンドワームへと突撃する。
そのまま手に持った二振りの大きな戦斧を、大きく振りかぶった。
「景気よくやって良いんだよね、ビーチェ! この一撃は我らが高き者がために!──≪ギャラルホルン≫!!」
「へえ? 流石はビーチェの従者ね! 良い魔技を持っているじゃない!」
戦斧による、これまた大振りの攻撃。それは空気を震わせ、地面すら抉る威力でサンドワームに直撃した。凄いわね。余波によって、草原が逆三角形に抉られている。
みみずでありながら金属を削るような叫び声を上げて、ラグナルの攻撃を受けたサンドワームは仰け反った。
この絶大な威力の種は、突撃の勢いを乗せた戦斧に籠められた魔力。アーキタイプの動力でもある魔力とは、生物の持つ物理法則を超越する力。その魔力を武器に纏わせれば、その一撃もまた物理法則を超越した威力となるわ。
「距離と速度が必要だから、戦闘開始の一発目にしか使えないけどね! んー、やっぱり高威力の大技はスカッとするね~! それじゃ──⋯」
ラグナルの攻撃によって前後不覚となったサンドワームの身体を鉤爪で掴み取り、巻き取る速度で宙を舞いながら、細剣を構えた。
魔力を、そこへと集中させる。
細剣が、私の魔力で淡く発光した。
「───追撃は任せたよッ、カンディード商会のお嬢様!」
「ええ、ありがとう!美味しい所だけ貰うわよ、ラグナル!≪ボワ・ド・ジュスティス≫!!」
自由落下の速度を乗せて、サンドワームの頭上へと細剣を突き刺す。グチャリと、独特な感触。そしてそこから、魔力を放出する。脳天から地中の身体まで、私の魔力が貫いた。
しかし、違和感。鉄板すら貫通する威力で突き刺したにしては、あまりにも手応えがなさ過ぎるわ。細剣で脳内を掻き回して、確信する。
「コイツ⋯⋯、再生型ね! 私じゃ相性最悪よ!」
見れば、この数秒でラグナルが剥がした表皮すら再生しつつある。強固な外骨格や鱗を持たない代わりに、魔力を用いて傷を治療する種類。小・中型魔獣なら戦闘から逃走されるといつの間にか回復している程度の能力でも、保有魔力の多い大型魔獣となれば、刺した先から傷が治っていくのね。
貫通力はあっても破壊力や制圧力のない私の剣技では、脳や心臓をひたすら潰して魔力を枯渇させる他に討伐のやり様がないわ。再生にも魔力を消費するからには無駄にはならないにしても、渾身の一撃は不発。
サンドワームが、私たちの不意打ちから立ち直る。
「“反撃が来ます。さっきの鉤爪を使って、西西南方向に避けてください!”」
ビーチェの念話通り、瞳を持たないはずのサンドワームが私を認識した事を、私はアーキタイプで召喚した光球が強烈で野性的な殺気を感知した事で実感する。
同じく念話で指示を受けたらしいラグナルが後方へ下がり、ビーチェたちはまだ駆けている。彼らの援護は間に合わないでしょうね。
地に足を付けた私に頭上から襲い掛かるのは、私を飲み込もうと口を開いて降り掛かる、巨大なサンドワーム。
中々良い絶望感。
んー、ここでビーチェの指示通りに動いても良いのだけれど、それじゃあ正直勿体ないのよねぇ⋯⋯。こんなにも絶望的な状況になったのだから、どうせなら死中に活を求めましょうか。
迫り来るサンドワームへと、体格差を考えれば爪楊枝より細い細剣を構える。
「“ルイゼットさんッ?!”」
「問題ないわビーチェ、何の問題も無いの。そうでしょう、サンキュロット?」
「ああクソ、『懸命』のシュバリエ!! 何度も言いますがね、少しはお嬢自身も命を大事にして下さいや!」
「あら、その忠言は心外ね。ちゃんと私の左腕が間に合うと、想定しての行動だもの」
私の横に、大盾を構えたサンキュロットが現れる。しかし相手は、その大盾以上に巨大なサンドワーム。
二人まとめて、飲み込まれた。
「良いわね! 歴代でも、特に最悪な状況じゃないかしら?」
「呑気だなお嬢は! さっさと何とかしてくださいや、さっきから胃酸だか何だかで痛いんですよ!」
「そうね。このまま魔獣の体内旅行も悪くないけれど、糞と一緒に脱出するのは、流石に私も嫌だわ」
サンキュロットの魔力による防護によって、私はサンドワームに飲み込まれながらも唾液の一滴も掛かっていない。まあ、私に魔力を回している分サンキュロットは傷付いているし、魔力も徐々に消耗しているから、サンキュロットが死んだら私も死ぬんだけれど。
取り敢えず、胃に到着する前に脱出すれば問題ないでしょう。私は細剣へと魔力を籠めて、サンドワームの肉体へと突き刺した。
「突き抜けるわよ、備えなさい!」
突き刺した剣先から魔力を射出して、サンドワームの柔らかい肉体を切り裂いた。開戦早々から司令官であるビーチェの命令に背いたのには、それなりに意図があるわ。
身体が魔力で構成されて生物からは逸脱しているとは言え、魔獣にも臓器が存在するからには、体内から見ればその弱点も多少は分かる。サンキュロットに抱き抱えられた状態で傷口から外へと飛び出して、叫ぶ。
「ここから僅かに上、核はそこにある! これでさっきの命令違反は返したわよ、ビーチェ!」
「“もうッ、心臓に悪い無茶はやめてくださいッ! ラグナル、ダンウィッチ、お願いします!”」
「無茶をするのはビーチェも一緒でしょ!やるよ、ダンウィッチ!」
「よし、攻撃の機は貴様に合わせる! 賽子の女神よ、微笑みたまえ!──『神秘』のインベスティゲーター!!」
私の意図を理解したビーチェに指示されて、既に身体能力を強化していたラグナルが天高く跳躍する。そして速度と質量を乗せて、私の指定した地点へと二振りの大斧を叩き付けた。
サンドワームの肉体が切り裂かれ、魔力で構成された内臓が露呈する。心臓のように脈打つ、魔獣の核。
そこへ、ドワーフのダンウィッチが己の体躯に迫る巨大な対物狙撃銃から発射した、金属製の大口径弾が突き刺さる。いや、言葉を間違えたわね。
大口径弾はサンドワームの体内に留まることなく、貫通したわ。後に残ったのは、大口径弾よりも何回りも大きな風穴。
大口径弾に籠められた魔力の量から考えても、不自然な威力。サンキュロットの胸から下りて風穴を見ていると、ビーチェから念話で補足が入った。
「“ダンウィッチのアーキタイプ、『神秘』のインベスティゲーターは、ランダムで指数関数的に攻撃の威力を向上させる能力です! 今回は大きな目が出ましたね!”」
「ええ⋯⋯、戦闘に不規則性を持ち込んでるの? ドワーフらしい能力ね」
「クハッ!聖女の護衛がこんな能力にするくらいだ、そりゃドワーフの博打好きは有名になりますわな」
大盾を構えたままそう呆れるサンキュロットの後ろで、心臓を中心に大きな風穴を開けたサンドワームを観察する。金属片を擦り合わせたような鳴き声で叫ぶサンドワームは、耐えきれないとばかりに地へと伏せた。
⋯⋯大型魔獣が、この程度の攻撃で? 鼻で笑う。安芝居をうったサンドワームから、私のアーキタイプは溢れ出す悪意を察知しているわ。
「鴉よ、狼よ! ボクの活躍を戦女神に伝えておくれ! 死後ボクの魂が、高き者の元へと誘われますように!」
「おお! 死せる主よ、深海の館にて夢見るままに待ちにけり!」
「しせ⋯⋯? 今の、何処の聖句だ? ちゃんと読んでねえから覚えてねえんだが、聖書にそんな単語出てきたっけか?」
「何にしても祝詞は後にしなさい! 再生の時間を稼がれたわね。まだ窮地は脱していないみたいよ!」
「“はいッ、サンドワームが再生しています! 最大限に警戒しながら、追撃を!!”」
ビーチェの指令は僅か数秒、残念ながら遅かった。サンドワームの身体に空いた風穴は塞がっていき、活動を再開してしまった。膨大な魔力を持つ大型魔獣とは言え、なんて無茶苦茶な再生力。
それだけに留まらず、サンドワームはその大きな口を更に広げて、辺りの空気を吸い込みだした。空気の流れが可視化され、枯れ木や大地から割れた大岩や土塊までもが吸い込まれていく吸引力。緩やかに、私の身体が引き寄せられていく。
「まさか⋯⋯、このまま私たちを飲み込むつもり!? サンキュロット!!」
「この吸引力じゃ、それもあり得ないとも言い切れませんな。お嬢、手ェ離さんでくださいよ!」
「“総員、飲み込まれないように細心の注意を! 多分、これだけじゃ終わりません!!”」
他の面子は無事だとして、小柄でサンドワームとの距離も近かった私はちょっと不味い。僅かな浮遊感を感じて、サンキュロットの腕を取る。身長もあって重装備のサンキュロットなら、耐えきれるでしょう。
しばらく、浮遊感が続く。
「“この魔力の使い方、吸い込み自体が魔技みたいですッ! いや、どっちかと言えば魔力を体内に溜めているみたいな⋯⋯?”」
ビーチェが何か違和感を持ったようだけれど、間もなく私は浮遊感から解放された。ようやくサンドワームの攻撃が終わった、なんて安堵するほど、ここにいる顔ぶれの戦闘経験は浅くないわ。
今度は悪意が、拡散する。そして同時に、サンドワームの胴体が風船の如く膨らんだ。その溜め込んだ空気を燃料として発射されたのは、魔力を纏った土砂の弾丸。
「吸引の次は排出だ! 気を付けて、喰らえばペチャンコになるよ!!」
「吐き出した土砂すらも魔力を帯びているだと?! なんて馬鹿げた魔技だ、ワシの弾丸で撃ち落とせるか⋯⋯ッ!?」
「聖女殿の警告通り、あの吸い込みは大技の予備動作だったわけだ。お嬢、俺の後ろから動かんでくださいよ!」
「言われなくたって動かないわよ。こんな掃射みたいな土砂の下じゃ、私の機動力も活かせないわね⋯⋯」
これまでに飲み込んできた土砂や倒木に魔力を込めて、散弾銃の如き迫力で放出する強力な魔技。
名付けるなら、≪山崩葬≫って所かしら?
流石は魔力の操作に卓越した大型魔獣ね。通常の人間であれば臓器ごと吹き飛ぶ威力のこの技は、人間では考えられない操作精度の賜物だわ。そんな事を、弾丸となった土砂を大盾で受け止めているサンキュロットの後ろで考える。
「何を呑気に考え込んでんだか知りませんがねッ!この攻撃、俺も何時までもは耐えられませんぜッ!!」
「もう少し耐えてちょうだい。サンドワームの肺活量だって無限大じゃない。ここで重要なのは、全員が致命傷を負わない事よ」
「“その通りですルイゼットさん! それに、いくら大型魔獣だって心臓と脳髄の再生が負担じゃないはずが無いんです! ならこの大技は、サンドワームにとっても一発逆転の秘策のはず! ガンバって乗り越えて下さい! ”」
「ほら、ビーチェもこう言っている事だし、もうちょっとだけ踏ん張りなさいな」
「ダァくそ仕方ねえなッ! 出し惜しみは無しだ、 ≪ロマン・クルトワ≫!!」
私の前に立つサンキュロットが、機械鎧から黒煙を吐き出しながら魔力の防護壁を展開する。サンキュロットの防護壁は、不動を条件にした強固なもの。これなら、サンドワームの発射する土砂や倒木の散弾にももうしばらくは耐えられるでしょう。
彼らは大丈夫かしらと、サンキュロットの背に寄り添いながら周囲を見渡す。
「──≪セーヴィング・スロー≫! クッ、なんという威力だ、とても全ては防ぎきれん! ラグナル、押し返せるか!?」
「何とかね! グアッ⋯⋯、でも、これで大木まで来たら、崩されちゃうかも! 本気でいくよ、≪フライ・アガリック≫ッ!!」
「ワシは防護壁の維持に専念する! 暴走はしてくれるなよ、ラグナル!!」
向こうに見えるのは、狙撃銃を草原に置いて自身の前面に防護壁を展開したダンウィッチと、その後ろから二振りの戦斧で大きな散弾を切り裂くラグナルの姿。
アーキタイプによる身体強化で岩の弾丸を当然のように切断するラグナルの手腕も素晴らしいけれど、軍式らしい防護壁を即座に展開できるダンウィッチも見事だわ。
アーキタイプに反して、本人は堅牢かつ着実な性格ね。一体、どんな『理想』を持っていたら、この性格であのアーキタイプが発現するのかしら?
まあなににしても、流石はビーチェの護衛ね。広範囲で高威力なサンドワームの魔技を、よく凌いでいるわ。
「ビーチェ、軽率に頭を出さないでくだされ! 後方に控えてもこの威力!小生の術では護りきれませぬ!」
「ごめんなさいコウソンショウ! でも、ワタシが指揮官なんです。なら、戦場から目を離すワケにはいきません!!」
「まったく⋯⋯、相変わらず無茶なお人ですな! しからば小生も全身全霊で仕えましょうぞ!」
「場合によっては、コウソンショウにも前に出てもらいます! 大丈夫、ワタシも自分の身ぐらいなら自力で守れますから!」
後方に控えているビーチェとコウソンショウも、問題は無さそうね。コウソンショウが構えている知らない文字が印字された呪符に衝突した弾丸は全て、速度を失って落下しているわ。
たぶん、コウソンショウのアーキタイプが発動しているんでしょうね。
そう観察している内に、私たちに降り掛かっている弾丸は、徐々に少なくなっているように見える。終わりは近そうね。そう楽観した、その瞬間。
一際大きな悪意を、サンドワームは放った。
「“おっきな魔力を感じます、最後に一番デッカいのが来そうです! みんな、気を付けて!!”」
「まあ、そう簡単には行かないわよね。来るわよサンキュロット、気を張りなさい!」
「ヘイヘイ。⋯⋯チッ、受け止めきれるか?」
───≪山崩・激流葬≫!!
とでも名付けるべき魔技は、サンドワームのもはや悲痛な叫び声と共に放たれた。殊更に魔力の込められた岩盤と見間違う程に巨大な岩石の弾丸は、まるで砲弾。直撃すれば、サンキュロットの大盾と防護壁すらも破壊するでしょう。
サンキュロットも泥で汚れながら、口惜しそうに唇を噛んでいる。まったく、そんな表情が似合わない男だわ。何時も通り、軽薄に笑っていればいいでしょうに。
まあ幸いにも、サンドワームがとっておきを切った事で、降り注いでいた弾丸の大雨は止んだのだし⋯⋯、大岩の砲弾は私が破壊しましょうか。
「ビーチェ! あの砲弾は私が突き崩すわ。多分魔力を使い果たすから、後は任せるわよ!」
「“いえ、ルイゼットさん。その必要はありません。あの砲弾は──⋯”」
「小生が引き受けましょうぞ!!」
私がサンキュロットの影から飛び出す、その直前。ビーチェの念波とともに戦場の後方から駆けだしたコウソンショウが跳躍して、空を切る砲弾の前に躍り出た。構えるのは、やはり呪符。それを、目の前の岩塊へと押し当てる。
「───『探究』のセンニン、≪禁≫ッ!!」
「なっ、砲弾が空中で停止しただァ? アーキタイプの効果なのか!?」
「ふぅん? 砲弾を動かす力か何かを紙面に吸収したのね。面白いアーキタイプだわ」
「流石は大商会のご令嬢、素晴らしいご慧眼ですな! 推進力を手製の呪符へと封印する。それこそが小生が能力! そして──ッ!」
推進力を失って魔力を纏ったまま落下した大岩を横目に、サンドワームへと駆けるコウソンショウ。切り札が不発に終わったサンドワームも胃液らしい酸性の液体を吐き出して応じるけれど、コウソンショウは文官とは思えない機敏な動きでそれを回避する。
徐々に追い詰められてきたサンドワームが、近づくなと言いたげに巨大な身体を振り回した。それを待っていたと、コウソンショウは飛び上がって先ほど砲弾の推進力を封じた呪符をサンドワームへと叩き付ける。
「これぞ我がアーキタイプの真髄! 『探究』のセンニン、≪解≫ッ!!」
コウソンショウが魔技を発動するのと同時、大きな衝撃を喰らったように、サンドワームの巨体が仰けた。なるほど、封印した推進力の解放もできるのね。 事前に魔力を込めた呪符を用意する手間が必要なだけに、かなり有力なアーキタイプだわ。
それにしても⋯⋯。
「大型魔獣の大技を死傷者なしで乗り越えて、更に魔力まで大幅に削り取れた。本当に、ハッピーエンドとやらを迎えられそうじゃない?」
「ですな。そんな時に、また油断してやらかさんで下さいよ。降ってくる外壁から庇うのはもうウンザリですぜ」
「ちょっと、蒸し返さないでちょうだい。心配しないでも、同じ失敗は繰り返さないわ」
サンキュロットと軽口を叩きながら、私は細剣を構えて気を引き締め直した。