最強魔法少女はニチアサ枠から引退したい   作:おすすめのプリキュアは何ですか

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魔法少女モノを書いてみたくなったので書きました。






最強魔法少女はニチアサ枠から引退したい

 

 

 

 

「すいません。俺(わたし)、魔法少女辞めます」

 

 魔法少女歴四十年越えの、自他ともに認める大ベテランである俺(わたし)、魔法少女名───魔九院(まきゅういん) ユラリは、上司の魔法のマスコット(クマ型)であるマクマンに、辞表と書かれた封筒と共に、そんなことを告げた。

 

 

 もう何年前になるだろうか。

 この世界と異界が繋がり、異界から侵略的外来異界種、魔獣と呼ばれる存在が流入し、人類文明は崩壊の危機に見舞われた。

 既存の兵器群では対処出来ないその存在を相手に、人類が開発した対抗策───それが、【魔法少女】だった。

 

 異界の技術によって、人間を魔獣に対処可能な存在に【変身】させる。

 それこそが、魔法少女技術。

 

 そして今日。

 人類社会は、魔法少女を中心とした文明を築き上げ、かつての隆盛を取り戻しつつあった……わけなのだが。

 

「ユラリくん、急にどうしたんだい? いや、こう言うべきか。───どうしたんだクマ、ユラリちゃん?」

「真面目な話なんでマスコットモードオフにできます?」

「あ、うん。ごめんね。でもほんと急だからさ」

 

 まぁ、自分でも急な自覚はあるし、待遇に文句がある訳では無い。

 

 ……だが、俺(わたし)にも事情があるのだ。

 

 

「マクマン、俺(わたし)は思うんだ。───還(・)暦(・)近(・)く(・)の(・)お(・)っ(・)さ(・)ん(・)に魔法少女はキツイって!」

 

 

 俺(わたし)、魔九院ユラリは───旧戸籍上は正真正銘、還暦間近の男性なのだ。

 

 

「……旧戸籍とか意味あるクマ?」

「いやあるでしょ!?」

「男だった時より、魔法少女だった期間の方が長いじゃんクマ」

「それは、そうだけど!」

 

 魔法少女黎明期、今よりももっと世界が荒んでいた頃。

 成り行きで魔法少女になった俺(わたし)は、今日まで最前線で魔法少女として戦ってきた訳だが、正直中身も年齢も少女と呼べるようなものではない。

 

「魔法少女は老いがほぼ体に現れないし、寿命も少しだけ長いから、あと五十年は現役張れると思うクマが……」

「お前みたいなマスコットはいいよな!? 別に何も言われないから! 俺(わたし)はこの前、言われたんだぞ!?」

 

 魔獣災害から女の子を助けた時。

 その女の子が俺(わたし)を見て言った一言。

 

 

『本物のユラリちゃんだ……すごい! お母さんがずっと応援してました!』

 

 

 ……いや、うん。

 別にね、悪気があった訳じゃないんだろうけどさ。

 

「なんか……心が折れたんだよね。俺(わたし)、もう世代跨ぐほど少女名乗ってるおっさんなんだ……って……」

「クマとしてはそのヒラヒラ衣装を四十年着こなして自認おっさんを貫ける方がすげぇと思うクマけどね」

 

 魔法少女としてのユラリの衣装は、露出控えめのお手本のような魔法少女衣装。

 ヒラヒラふわふわと、水色と白で全体的にパステルカラーの優しい色合い。人魚や天使、なんてイメージがぴったりの上品な代物。

 少女趣味が強い面はあるが、これで露出が激しかったりしたらきっと俺(わたし)は魔法少女を続けられていなかっただろう。

 俺(わたし)の魔法少女としての体は体型のメリハリはないが、あまりに薄く細く、男性と異なる骨格を実感させられるのだ。

 

「とにかく! 俺(わたし)はもう、魔法少女を辞めるから!」

「え〜。そんなこと言わず、これからも楽しくやろうクマ。クマも、たまにユラリのマスコットとして前線に出るの、いい運動になって楽しいクマのに」

 

 とは言っても、マクマンもあまり本気で止めるような雰囲気ではなかった。

 

 正直に言ってしまえば、辞め時はずっと考えていたし、相談はしていた。

 魔法少女黎明期。今のように魔獣の対策も、体制も、装備も整っておらず、魔法少女技術も未解明の点が多かった時代。

 俺(わたし)の先輩は、同僚は、もうほとんどこの世に居ない。何度も何度も心が折れそうになって、その度にはを食いしばって立ち上がり、どうにかして勝ち取った平穏。

 

「……俺(わたし)みたいな血腥い魔法少女は、もう要らないだろ」

「ユラリ……」

「それに。後輩も育ってきて、ようやく潔く前線を任せられるようになったんだ。俺(わたし)もそろそろ、ニチアサは卒業だ」

「ニチアサ……?」

 

 っと、マクマンは旧文明について詳しくないから知らないんだったか。

 日曜日の朝は、魔法少女にとって無敵の時間。だから、俺(わたし)はそういう魔法少女を個人的にめざしていた。ただそれだけの話だ。

 

「……そういうなら、クマは止めないクマ」

「サンキューマクマン。俺(わたし)が居なくなっても、前線でないと太るからな?」

「余計なお世話クマ。……長い間、お疲れ様クマ。これからは、好きなことをして過ごすといいと思うクマ」

「そうだね。次は深夜枠とか狙ってみるよ」

 

 

 そんな感じの、軽い調子で。

 

 四十年にも及ぶ俺(わたし)の魔法少女人生は、意外とあっさり終わりを迎えた。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「あれ、先輩。珍しくスーツ着てるし、荷物纏めてるし。もしかして、これから地方興行とかっすか?」

 

 デスクに置いてあった私物を纏めていた俺(わたし)に声をかけてきたのは、今の俺(わたし)と同じく、コスチュームではなくスーツ姿の群青色の髪をした少女。

 たとえコスチュームを脱いでも、魔法少女はその見目麗しさと派手な髪色や髪型で、一目で見分けが付く。

 

 彼女の名はイシュシュ・パレト。

 俺(わたし)の教え子であり、後輩で、結構優秀なんだが、イマイチ熱意にかけた……悪い言い方をすると最近の若者っぽい子だ。

 

「あ、おみやげは甘いのでお願いしますね。食べるのめんどーなんで、零れやすいのもNGで」

 

 なんて、可愛げのないことを言ってくれる。

 これで優秀じゃなかったら、泣くまで扱いてやったのに……とかも思ったが、今はもうそんな時代でも無ければ、コイツはコレで可愛いところもあるやつなのだ。

 

「イシュシュちゃん。俺(わたし)、今日で魔法少女やめるから」

「…………え?」

 

 普段から気怠げな表情ばかりのイシュシュちゃんの目が、珍しく大きく見開かれた。

 

「と言っても、しばらくはこの街にいるだろうし、引き継ぎとかで困ったらいつでも聞きに来てね」

「え、あ……はい。え、でも、なんで」

 

 さすがに急だったからか。

 イシュシュちゃんは目を白黒させ、他愛のない返事を返すだけ。

 とはいえ、イシュシュちゃんは俺がサポートしてやらなきゃいけない子でもないし、俺が抜けたところで組織としても今更困ることは無いだろう。

 

 ……現に、こんな反応をしてくれたのはイシュシュちゃんが初めて。

 

 他の子は「あ、送別会とかないですよね?」とか「今までおつかれさまでしたー」と軽く返すくらいで、理由すら聞いてくれなかったし。若いことは、イシュシュちゃんくらいとしか話が会わなかったのもあるんだけど。

 

「まぁ……さすがに俺(わたし)もいい歳だからね。そろそろ若い子に花を持たせないと、って」

「……そ、そうですか」

「そういうわけだから、これからも頑張ってね、イシュシュちゃん」

「……うす」

 

 いつにも増して覇気のない返事だったが、彼女なら大丈夫だろう。

 挨拶するべき顔なじみなんて、今やマクマンと、せいぜいイシュシュちゃんの二人くらい。

 ちょっと寂しいが、こんなものだろう。それに、今どきの子は送別会とかやるのも面倒くさくて嫌だろうし、第一こんな急じゃ予定のたてようがない。

 

「……ねぇ聞いた? ユラリさん、辞めるんだってよ」

「へぇ。でも、時代遅れって感じだったもんねあの人」

「魔導具(デバイス)も戦い方もね……さすがに合わないって感じだったし……」

 

 最後に、あまり顔も名前も知らない魔法少女達の、そんな声が聞こえて。

 全くその通りだと、自嘲してしまう。

 でも、それが聞けたことでようやく。俺(わたし)は自分の時代が、役目が終わったのだと、ほんの少しだけ肩の荷が降りた。

 

 

 

 

 

 そういうわけ、で。

 

 

 

 

 これにて俺(わたし)、魔九院ユラリはめでたく無職! 

 明日からは、これまでの貯金で食い潰す日々が始まるという訳だ! 

 

 

 ……正直、悲観は一切なかった。

 使うあてもなかった貯金は、命懸けの仕事をし続けていただけあってたんまりあるし、魔法少女と言うだけで食いっぱぐれるようなことはほぼない。

 貯めた資金でカフェを開いて、いい感じのバイトの女子高生を雇って、「てんちょ〜、このままじゃお店潰れちゃいますよ〜」って言われるという、密かな野望だってあるのだ。

 

 名残惜しさはあれど、老兵は去るのみ。

 

 ガタンゴトンと電車に揺られ、社宅の方へと向かう。

 マクマンがすぐには退去しなくて良いと言ってくれたが、さっさと片付けてしまった方が、新しい子も入れやすいだろう。

 

 ……電車の中を見回すと、制服に身を包んだ派手な髪色の学生が何人か目に入る。

 多分養成校か、制服の感じからしてもしかしたら一般校かもしれないが、魔法少女なのは間違いない。

 

 今や学生でも魔法少女の子がいる時代なのだ。

 そのため、電車の中で派手な髪色の見た目少女の中身ほぼ還暦が、スーツ姿で立っていても特に視線を集めたりはしない。

 

 見られるとなんだか騙してるみたいな申し訳なさが湧くので、それ自体は良いのだが。

 ……三十年前だったら、人の多いところを歩けばすぐにファンが押し寄せたのに、という寂しさがないと言えば嘘になるケド。それはそれ。そもそも三十年前は、まだ電車が復活していなかったし。

 

「ニチアサかぁ……」

 

 ニチアサ。

 それはある種、俺の行動原理と言える単語だった。

 

 別に何も、ああいうヒーローになりたかった訳じゃない。

 ただ、あの時代はヒーローが必要だったんだ。

 わけも分からず人々が魔獣に食い殺されて、魔法少女になることができるのもごく限られた人だけで、そんな彼女達でも魔獣に勝てずに殺され続ける日々。

 

 誰かが希望にならなくちゃならないって時。

 俺は、それは俺だと思い込んだ。思い込まなきゃ、やってられなかった。

 

 だから、引退の理由はそんな理想を汚したくなかった、というのもあるのかもしれない。

 若い魔法少女の言う通り、俺は旧型ゆえか、現代の発展した魔導具(デバイス)の操作に難があるし、戦い方も古臭いし、華がない。

 

 ニチアサのヒーローは、魔法少女ってのは、夢と希望を与える存在。

 俺は自分が、もうそれたり得ないと知っている。夢と希望を騙るには、少々擦れすぎた。

 

 

『───急停車します』

「と、と」

 

 

 なんて物思いに耽っていると、アナウンスと同時に電車が止まり、思わず声に出してバランスを取ってしまう。全盛期ならこれくらい、バランスを欠片も崩さなかったのに、こういう所で嫌な歳の取り方も感じてしまうな。

 

 何事かと窓の外を見ると、建物の間を縫うように顔を覗かせたのは───様々な生物の残虐な部位のみを合成させたかのような、巨大な生物。

 

 ───魔獣だ。

 

 大きさにして三十mはあるだろう、かなりの大型。都市部でこの大きさのものが出るのは珍しい、が。纏う魔力量からしてそこまで強くは無い。

 電車のドアが空かず、避難を促さないのは、そういうことだ。

 

 ここで下手に逃げるより、バリアを展開できる列車の中の方が安全であり、逃げるよりも待つ方が被(・)害(・)も(・)少(・)な(・)く(・)済(・)む(・)。

 

「あ、あれって! アメジア・レスターじゃない!?」

 

 派手な髪色の魔法少女女子高生が、列車内から空を指さす。

 

 そりゃあこんな都市部で魔獣が出たのだ。

 一番近くにいたであろう魔法少女───アメジア・レスターと呼ばれた少女は、巨大な箒を象った機械に跨って、空をかけて現れる。

 

 紫の髪に、宝石のような瞳。

 お姫様と旅人を混ぜた不思議な印象のドレスに身を包んだ彼女は、俺(わたし)でも知っている。確か最近魔法少女レートを急上昇させている、魔法少女だ。

 華やかな見た目もあるが、相応の実力も備えでなければレートは上がるものではない。その証拠に、チームと思われる魔法少女達と見事な連携で、すぐに魔獣の動きを制限していく。

 

 ……アメジアはどうやら、特筆して魔力量が多い魔法少女のようだ。

 彼女の魔力量にものを言わせた砲撃とバリアを起点に、他二人の固有魔法と思われる鎖と糸で魔獣を拘束。

 華やかで映える戦い方を意識しながらも、戦闘自体は堅実。しかしやや対応力に欠け……。

 

 と、いけないいけない。

 つい評価するようなことを語ってしまったが、街の平和のために戦ってくれている若者達を評価するなんて、何様だという話だ。

 もう俺(わたし)は無職なのだ。彼女達の戦いにどうこう言う権利はないし、そもそも戦闘自体は危なげなく進んでいる。

 

 その証拠に、拘束された魔獣は、あとはアメジアの砲撃を受けるだけの───。

 

 

「……あ」

 

 

 魔法少女の強化された視力が、戦闘中のアメジアの顔を捉える。

 それを見た時、俺(わたし)の体は勝手に動き出していた。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

(あぁ……お腹痛いなぁ……)

 

 アメジア・レスターは、人前に立つといつも胃の奥がキリキリと傷んだ。

 新進気鋭の魔法少女。若手の有力株なんて呼ばれ、学生時代から企業に声をかけられて、スカウトされたあとも、それは変わらない。むしろ、酷くなってすらいた。

 

 もう思い出せもしない人間だった頃のアメジアの名前、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎なんて平凡な四文字の並びだった頃から、ずっと変わりはしない。

 

 確かに自分は魔法少女の才能があると思うし、才能にあぐらをかかず努力だってしたし、人気になれるように色々試行錯誤した。

 

 でも、だからこそわかる。

 私は、一番肝心な時に失敗をするんだ。

 

 魔法少女になる前、アメジアが転んだせいで両親は逃げ遅れて魔獣に踏み潰された。

 養成校の入学試験の時も、肝心なところで魔力の制御を誤った。

 

 自分がそういう人間だとわかっているから、自分を変えたくて努力しているのに。

 自分がそういう人間だとわかっているから、不安が拭えない。

 

 

「アメジア、トドメお願い!」

「う、うん!」

 

 

 そんな自分にも、期待してくれる仲間がいる。

 こんな自分を雇ってくれて、広告塔と言うまで期待してくれている会社のみんなのためにも、私は失敗できない、のに。

 

「───あれ?」

 

 スポンサーの新製品。

 専用魔導具(デバイス)である、圧縮魔力特殊砲塔。

 その標準を魔獣に合わせ、引き金を引こうとした時に、気が付いた。

 

(なにこれ……ロック!?)

 

 視界に表示される警告文。

 内容は、使用条件を満たしていない。

 そんなわけないでしょ!? 

 目の前に魔獣がいて、今からそれを撃とうとしてるんだよこっちは!? 

 

 皆に動揺がバレないように、素早く魔導具(デバイス)を操作してロックを解除しようとするけれど、上手くいかない。

 

 どうしよう、どうしよう! 

 焦りがアメジアの表情と思考を支配していく。

 別に魔導具(デバイス)を使わなくたって、アメジアの魔法なら魔獣を仕留められる。でも、そんなことしたらスポンサーとの契約とか、あれこれ脳裏を過ぎって呼吸が荒くなってくる。

 優先順位はなんだ? 魔獣を倒すこと、それは分かってるけど、スポンサーとの契約でトドメはこの魔導具(デバイス)って、でも緊急時は、そもそもこれって緊急時なの? 正直余裕はあるからもうちょっと、いや油断しちゃダメだ、そもそももう悩んでいる時間はない魔獣は人々の不安を受けると成長してしまうから魔法少女は可能な限り素早く華麗にそれでいて余裕をもって魔獣を倒さなきゃなのに、とりあえず笑顔を作れそしてそれからそれから。

 

 

「──────アメジアッ!」

「あっ」

 

 

 叫び声で、意識が現実に引き戻された。

 視線の先では、魔銃の顎が鎖を押し退けて開き、そこから光線が放たれようとしていた。

 

 狙いは、アメジアだ。

 とりあえず建物じゃなくて良かった、なんて安堵をしてから、それが見当違いの思考であることに気付く。

 魔導具(デバイス)を操作して障壁を───やばい、エラー探っていたせいで、すぐに操作ができない。自分の魔法は……防御に使ったら爆発して無事じゃ済まないし、魔力操作の障壁で防げる気はしない。

 

 あれ、これやばいんじゃ。

 

 自分なりに最善を探ったつもりなのに、このままだと死ぬ上に託された装備も破壊されて、守るべき人々の前で【魔法少女の敗北】というあってはならない事態を晒すことになってしまう。

 

 やばい、まずい、ダメだ。

 わかっているけれど、じゃあ、どうすればいいのか。私はどうすりゃ良かったのか。

 

 誰も答えなんて教えてくれないまま、アメジアの視界は汚泥のような色の光に包まれ───。

 

 

 

 

 

「【一番星の魔法(ナインスターズ)】」

 

 

 

 

 本来なら、アメジアはその声を聞いても、視線を変えなかったはずだ。

 何せ目の前の光は、自身の生殺与奪の権を握る光。それから目を背けるなんて、命を諦めるも同然。

 

 そのはずなのに、彼女の視線はその言葉に。

 その言葉の主が指先から放った、小さな星々に向けられてしまっていた。

 

「えっと、お疲れ様、アメジア・レスターさん」

「え。え、えぇ!?」

 

 いつの間にか、アメジアの横に少女がいた。

 柔らかいそうな、羊の毛のような髪の毛と、微睡むように眠そうで優しげな瞳。

 服装こそスーツに身を包んでいるが、一目で魔法少女とわかるし、そもそも魔法少女以外が空を飛んでるわけな……。

 

「逃げて!」

 

 そんなこと呑気に考えている場合じゃない! 

 アメジアは人生で一番レベルで声を張り上げた。私に向けて魔獣が光線を放ったのだから、このままだとこの子も、と。

 

 なんて、彼女の思考を嘲笑うかのように。

 魔獣の吐き出した光線は、羊髪の少女の横をすり抜け、空の彼方へと吸い込まれていった。

 

「あ、あれぇ?」

 

 間違いなく、自身に向かっていた光が、不自然な挙動で軌道が逸れた。

 もしかして、この子の【魔法】なのか、なんて呆然と考えているアメジアを他所に、少女はアメジア魔導具(デバイス)に目を向ける。

 

「うーん、ビートカプス社のやつか……操作方法は分からないけど、多分……」

「え、あの、ちょ」

 

 ぐいっ、と距離を詰められアメジアは言葉に詰まってしまう。

 魔法少女は皆とても端正な顔立ちをしているが、この子は別格だ。

 長い睫毛と薄い色素。ほんのり赤らんだほおと、呼吸の度に上下する薄い胸板。手足も指先も折れそうなほど細く、世界そのものに愛されてるかのように、愛らしく儚い。

 

 女性としては大柄な自分の体型に、アメジアな少々コンプレックスを抱いていたのも相まって、その少女の姿に見惚れてしまう、が。

 

「えいっ」

「え」

 

 その少女が、自分の魔導具(デバイス)に拳を振り下ろし、機器を一部破損させたのを見て、また思考が止まる。

 

 え、なんで壊したの? 

 そもそも魔導具(デバイス)は常に保護障壁で包んでるから、簡単に壊せないのに、いやそれよりなんで壊したの? これ高いんだよ? ほんとに私のお給金数年分とかそういうやつだよ? え? え??? 

 

「ビートカプス社の製品は、建造物と人間に撃てないようにセーフティが入ってる。うちも、安全施行気に入ってよく採用してたからね」

「……へぇ?」

「使うのは苦手だけど、機能と構造は知ってるつもりだから。ほら」

 

 少女に促されるままに、アメジアは再び魔獣に照準を合わせる。

 先程はこの時点でエラーが発生していたのに、今度はエラーは発生しなかった。

 

「どうしても最新型って既存のシステムと上手く噛み合わなくて、エラー結構多いからね。実戦でそういう事になったら、まずはサポートシステムを落として、って多分ビートカプスの人なら言ってくれるけど……まぁ実際起きると命懸けのこっちとしてはたまったものじゃないよね」

 

 少女がニコリと笑うと、荒かったアメジアの呼吸がピタリと落ち着いた。

 そういえば、渡された時もサポートシステムの仕様は調整中のため、戦闘中に発生したら無視するか、すぐさま放棄しても構わないって。

 

 そうだ、担当の人もそう言ってくれていたのに、予想外の事態に動揺しすぎて、思考が全部飛んでしまっていた。

 

「あの、ありがとうございます!」

「気にしないで。それより、早く魔獣を倒しちゃおう」

「は、はい!」

 

 深呼吸をして、アメジアは再び魔獣に視線を向け、魔力を集中させる。

 

 だが、ここでまた不安が過ぎる。

 少女が叩き壊したのは、サポートシステムの一部だったようだが、その影響か命中補正の機能も無くなっている。

 

 セーフティがないということは、下手するとこの一撃が建物や人に向けてしまえる。アメジアの魔力は強大だ。直撃すれば魔獣がタダではすまないのだから、建物や人は一溜りもない。

 

 ……また震えそうになったアメジアの手に、上から暖かいものが覆い被さる。

 

 

「大丈夫。君ならできるよ」

 

 

 小さくて儚い、少女の声。

 それなのに、何故かそれを聞いて、アメジアは思い出した。

 

 ずっと昔。

 もう名前も思い出せない、人間の女の子が、父親に抱かれた時の安心感。

 

「私の魔法で補助はするから。君は練習と同じつもりでやっちゃって」

 

 羊髪の彼女の指先から溢れた星屑が、道を作る。

 狙うは魔獣の核。その星の行先を見ていると、不思議と不安は無くなった。

 

 ふぅ、と。

 息を吐くと同時に、引き金を引く。

 紫色の魔力が砲塔から迸り、魔獣の頭部を撃ち抜いた。

 

 頭部を失った魔獣は、その身体が色を失っていき、端から魔力の粒子となって消滅を始めた。

 魔獣特有の消滅反応。周囲にもほかに敵性存在の気配はなく、戦闘は終了した。

 

「ふぅ……あ、あの! ありがとうござ……あれ?」

 

 アメジアが改めて羊髪の少女に礼を言おうとした時、既に彼女の姿はなかった。

 夢……のわけはない。流石に妄想でも、あんな小さくて可愛らしい女の子に助けてもらう妄想して、しかも勝手にそんな子に父性を感じるなんて、ちょっと変態過ぎる。

 

「アメジア! 色々聞きたいんだけど、まず大丈夫!?」

「というかさっきの子誰!? てかアメジアの魔導具(デバイス)壊したよね!? 修理費請求しなきゃでしょ!」

「あ、落ち着いて二人とも、私は大丈夫だから……」

 

 先程まで魔獣を拘束していた仲間達の口からも、あの羊髪の少女は見えていたようで、ひとまず自分の妄想ではなかったことは確定。

 

 そして、口ぶりからして、長い付き合いの仲間でも気付かないくらい、表情は隠せていたはずなのに。

 一体あの子は、どうやって私が魔導具(デバイス)のエラーで困っていることを見抜いたのだろうか。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 助けを求める目だった。

 

 どう見たって事態は優勢だったし、なんの心配も要らない。仮に多少のトラブルが起きても、自力で乗り越えられる子だと思った。

 

 それでも、その目を見た時、俺(わたし)の体は勝手に動いてしまったのだ。

 

「はぁ〜。やらかした」

 

 路地裏で蹲りながら、俺(わたし)は大きくため息を吐く。

 服装はほぼ下着姿。面倒にならないように全速力で現場から逃げたら、スーツの方が俺(わたし)の全力に耐えられなかった。

 もう着ることはないから良いけど、流石に大人として恥が勝る。コスチュームは目立つからと変身は省いたのが仇となった。

 

 しかし、こんな街中に魔獣が出るのも珍しい上に、堅実が売りのあの会社の商品がエラーを起こすなんて、あのアメジアという子、もしかしてかなり運がないのだろうか? 

 

 というか、結構上から目線だったよな俺(わたし)。

 元々指導が多かったせいで、教え口調になってしまったけど、いきなり現れた変なやつにあれこれ言われたら嫌な気分だよなきっと。

 俺(わたし)の魔法少女としての姿は、子供っぽいわけではないが、華奢で儚げな見た目なせいであまり威厳がない。こんな弱そうな見た目のやつに偉そうに言われたら嫌だよなぁ……ああやばい、自己嫌悪が止まらない。

 

 などと考えていると、ボロ切れ同然のスーツの、辛うじて形を留めていたポケット部分から、着信音が鳴る。でも今は電話に出る気分じゃ……。

 

「はい。こちら、魔九院ユラリです」

 

 気分じゃなかったが、染み付いた習慣で反射的に電話を取ってしまった。

 

「ユラリ! 今どこにいるクマ!?」

 

 電話の相手、マクマンは何やら少し焦ったように声を荒らげていた。

 

「マクマン……えっと、もしかして……」

「お前ネットの有名人になってるクマよ!」

 

 や、やらかした〜! 

 ネットの炎上が怖くて、魔法少女はイマドキメディア露出も多い中でずっと避けていたのに、やってしまった。

 

 そりゃあアメジアちゃんはレート上位の有名人。彼女相手にあれこれしたとなれば、誰かがネットにあげていてもおかしくはないだろう。

 というか、流石に魔導具(デバイス)壊したことの請求とか来ないよね? 

 

 そんなことを考えながら、恐る恐るSNSを開くと。

 

 

【なんか半裸で跳んでる魔法少女いたんだが……】

 

 

「は?」

 

 そんなタイトルの記事があった。

 どうやら、現場から立ち去る時に、自分の速度でスーツを引きちぎりながら去る俺(わたし)の姿が捉えられていたようだが。

 

【なんでコスチュームに着替えてないんだ? 痴女か?】

【というかこの子誰? 見たことないわ】

【小さいし養成校の子じゃない?】

【この薄さで魔法少女は無理でしょ】

【戦ってるとこ想像出来ないかも】

 

 スイッ、スイッ、と。

 指先がコメント欄を覗く度に、どんどんと顔が赤く、心が冷たくなっていく。

 

「その……色々思い詰めていたクマね。クマならいつでも相談に乗るから、言って欲しいクマ。だから、露出は……やめるクマ」

「あの、違っ」

 

 ブツリ、と電話がキレる。

 残されたのは、半裸の異常合法ロリ還暦間近男性魔法少女。

 

 

「深夜枠って、そういう事ではなくてぇ……」

 

 

 元魔法少女、魔九院ユラリ。

 現在職なし、インターネットタトゥー、あり。

 

 

 

 

 

 

 

 







・魔法少女
異世界からの侵攻者である魔獣に対抗するため、同じく異世界の技術から作られた概念。適性を持つ人間が変身することで魔法少女になれる。
基本的に変身は一方通行で、元の姿に戻ることはできない。




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