最強魔法少女はニチアサ枠から引退したい   作:ちぇんそー娘

11 / 11
馬謖だったらもう叩き切ってるよ

 

 

 

 

 専用魔導具(デバイス)開発の仕事を終え、久方ぶりに我が家へと帰還することになったわけだが。

 

 懸念点といえば、やはり店のことだ。

 ペラトもキヨラちゃんも、しっかりしているところはあるけれど、ちょっと変わっているところがあるし……。

 

 と、ダメだダメだ。

 あの子達のママとして、任せた以上はしっかりと期待してやらなければ親失格……。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 己の恐ろしい思考に気付き、思わず電柱に頭を打ち付けた。

 クソッ、まだちょっと酒が残っている。アルコールによる思考力の低下ってこんな感じなのか。

 洗脳系の攻撃を受けたみたいに、常識がすっぽりと書き変わって違和感を持てない。

 

 俺(わたし)はママじゃない。誰も産んでない、OK? 

 よし、ママは正気に戻ったぞ。戻ったら二人を撫でてやらないと。

 

 そんなわけで我が家である喫茶店に戻ってきたのだが。

 

 

「何、これ……?」

 

 

 自慢ではないが、うちの喫茶店は滅多に人が来ない。

 そのはずなのだが、今日は何故か店に入り切らない人が、店の前で待機しているではないか。

 曲がる角を間違えたかとも思ったが、間違いなくこの場所であっている。

 

 まさか、あの二人が本当にやってくれたのか? 

 店の前から入ることができないので、急いで裏口から回って店内に入ると───。

 

 店内から最初に漂ってきたのは、凄まじい熱気と油の香りだった。

 

「ざぁこ♡よわよわ♡余計な水分を残すな♡*1」

「はいはいわかりました! あ、トンカツ定食、三番テーブルお願い!」

「ざぁこ♡*2」

「キヨラー。姐さんこれなんて言ってるの?」

「皿洗いと五番テーブル片付けお願いだって!」

「なんでキヨラはペラトさんの言うことわかるんだろね……」

 

 厨房では、キヨラちゃんが巨大な中華鍋やフライパンを忙しなく動かし、たまに口から火を吐いてその火力をさらに増していた。

 え、キヨラちゃんって火を吐けるの? 

 

 他にも水や注文を忙しなく取りに行くペラトとか、その手伝いをする……誰? 本当に知らない女子高生っぽい子二人とか。

 

 そこにあったのは、厳かな雰囲気のカフェではなく、満員御礼の定食屋の姿だった。

 

「ん……あ、店長! ちょうど良かった。このままじゃお店回んないので、手伝ってください!」

「え?」

「黄巾の乱♡*3」

「え、ちょっ」

「黄金長方形♡*4」

 

 

 なんだかよく分からないが、お客さんを待たせるわけにもいかないので、俺(わたし)はレジ打ちに立つことになった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「いや別にね? 怒ってないよ。怒ってないんだけど、なんでこうなったかは説明して欲しいかなって」

 

 昼時が過ぎ、客足も緩やかになったのを確認してから、とりあえず頼れる店員の二人を集め、正座させる。

 

「あ、じゃあうちら上がるね。お疲れキヨラ。また学校で〜」

「店長さんもお疲れ様でしたー」

「うんおつかれ。それでキヨラちゃん、あの二人誰?」

「あたしの学校の友達ですね。休日の昼は忙しいんで、ヘルプ来てもらいました」

 

 うわぁ、なんでツッコミどころ増やすのかなこの子。

 まぁ一旦諸々全ては置いておくとして。

 

「なんで……こうなったの?」

 

 いつの間にかキッチンは……厨房と呼んだ方がしっくりくる出で立ちになっていた。

 買った覚えのないでかいコンロと中華鍋とかあるし、喫茶店に絶対ありえないタイプの皿が洗面台に置かれてるし、あのでかい炊飯器持ち込んだの誰なの本当に。

 

「ざぁこ♡国破れて山河あり♡*5」

「そうですね……まぁ最初から語りますか……あれは店長があたし達に店を預けて最初の日」

 

 サラッとキヨラちゃんがペラトと普通に会話していたり、思ったよりも色々とあったようだ。

 ひとまず、キヨラちゃんの話を大人しく聞いてみることにすると。

 

 

 どうやら二人は些細なことで口喧嘩をしてしまっていたようだが、ペラトの話し方がこれなので、落とし所が見つからず、二人はお互い喋らないためにペラトが炒飯を、キヨラちゃんがトンカツを作ることにしたらしい。

 

「え、なんで?」

「陳謝♡*6」

「そういうことです」

「そっかぁ」

 

 全然分かんないけど、一旦置いておこう。

 

 それで、そんなトンカツと炒飯の匂いを嗅いだ人が、ここを定食屋と勘違いして入ってきて、仕方ないのでトンカツと炒飯を振る舞ったらすごく美味しかったらしくて。

 

「暇だから口論になるんで、どうせなら店を盛り上げちゃえばお互い喋らずに済むし、店長も店が繁盛して嬉しいだろうなぁ、と思いまして」

 

 それで、試しに昼食メニューを幾つか作って見たところ。

 

「満漢全席♡*7」

「この数ヶ月のお店の売上の数百倍売れちゃってですね……」

「マジか……」

 

 なんでそっちの方に努力しちゃったんだろう、この二人。

 

「まぁその過程で話せないと店回せなかったので、結局練習して会話できるようにしたんですけど」

「本末転倒……♡*8」

 

 じゃあもうこの子達、めちゃくちゃ商売上手いだけじゃん。

 本当にただうちの店を繁盛させただけになっちゃったじゃん。

 

「その過程で、必要になったのでコンロとか買い足したりしちゃって……すいません」

「それはいいけど」

「【そこが一番問題では?】」

 

 多少雰囲気ぶち壊れているけど、既に費用は回収するくらい売れているなら俺(わたし)としては問題ないし、それよりも気になったのは。

 

「二人共、手」

「手がどうかしました?」

 

 二人の手を見てみると、さすがに慣れているのか、それも包丁では歯が立たなかったか、切り傷等は見つからないが。

 

「やっぱりちょっと荒れてるな……」

「え、そうですか?」

「荒れてるだろこれは」

 

 魔法少女の体は強いが、あくまで強いだけ。

 油を使った料理に皿洗いなど、慣れない手でずっとやっていたら多少なりとも荒れてしまうものだ。

 

「天は気の集まり、地は土の塊♡*9」

「いやいや、前より二人とも荒れちゃってるぞ」

 

 二人共俺(わたし)鋭いところがあるのに、どうしてこうも自分のことになると疎いのか。普通に戻ってすぐ気がつけるレベルだったぞ。

 

「ちょっと荷物片付けてくるがてら、ハンドクリーム持ってくるから待ってな。手のケアって、ほんと大事だからな」

「は、はい。ありがとうございます」

 

 キヨラちゃんはなんだか拍子抜け、みたいな顔をしているが、怒られるとでも思ったのだろうか。

 元から趣味でやっている程度の喫茶店なのは、彼女から見ても明らかだったろうし、善意でやってくれたことに何か言うほど余裕がない訳でもない。

 それよりも、自分で考えて行動してくれたことが嬉しいし、お客さんが喜んでくれているのなら、そっちでいいだろう。

 

 ……まぁ。

 さすがにあの忙しさがずっと続くのは考えたくないので、定食屋は週二……いや、三回くらいで。水曜日と金曜日の夕方と、日曜日の昼くらいでいかせてもらおうかな。

 

「そういえば、コーヒー豆足りた?」

「あ、それは一回も使いませんでした」

 

 ………………週二でいいや。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 道成寺キヨラは、魔法少女だった。

 

 彼女の世代にとって、生まれつきの魔法少女というのは珍しいものではなかった。同じクラスにはいないにしても、探せばいる、そんな存在でしかない。

 

 ……なんてことは、幾らでも口で言えるけど。

 

 キヨラは自分のことを何も知らなかった。

 両親がどんな人だったのか、施設の人は誰も教えてくれないし。

 勉強も運動も、本気でやったら同級生どころか他の魔法少女よりもずっと優れているから、本気を出すことができないし。

 あれが欲しい、これが欲しいと言えば、いつの間にか用意されるし。

 

 それなのに、自分が何者なのかだけは教えて貰えない。

 

 故に、キヨラは自分のことが好きでも嫌いでも無くなった。

 好きになれないわけでも、嫌いになりたい訳でもなく、ただ無関心。

 なんでも手に入る中で、それだけ何も分からないから、興味を持つことをやめたのだ。

 

 友達は好きだし、学校は好きだし、でも一個だけ不満。

 将来は何をやりたいか決まらない。まぁ職業魔法少女は痛そうだしそれ以外でだけど、興味無いやつの将来になんて、イマイチ実感が持てなくて。

 

 働いているイメージでも持とうと、バイトを始めてみようと思った時。

 たまたま通りがかった店の中から漂ってきて、コーヒーの香り。

 

 

「……ふふ」

 

 ハンドクリームを塗られ、僅かに光沢を纏った指先を見つめ、キヨラは笑みを零した。

 

「あはっ☆薬指すかすか♡一生独り身エンゲージ♡*10」

「やっぱりペラトさんって性格悪いですよね」

「豚は己が豚であることを知らぬ♡*11」

 

 初めてできた魔法少女の友達がこんなのか、とキヨラは内心ため息を吐くが、これで意外と面倒見が良いのだから、一応はちゃんとした人なんだなぁとは思ってしまうのが悔しいところ。

 

 そう、ちゃんとした人なのだ。

 

 道成寺キヨラの人生において、欠落していた要素。

 こうなりたいと思えるような大人達。

 普通の人達が、人を助けている彼女達の姿を見て憧れるのと同じように、キヨラは何の変哲もない日常の中で、自分をただの少女として扱ってくれる魔法少女達に憧れた。

 

「そういえばペラトさん。魔法少女って戦わなくてもなれるものなんですか?」

「視野と額の広さが反比例♡答えは否♡───でも、戦うって意味は一つじゃないと思うよ」

「どういう意味ですか?」

「答えをすぐ求めるのは悪い癖♡ドパガキ♡」

 

 やっぱこの人はまともな大人じゃないかもしれない。

 憧れるのは店長だけでいいや。

 

 でも、魔法少女か。

 

 学校で教えられる魔法少女は、戦っていて、すごいとは思ったけど、なれるとは思えるようなものじゃなかった。

 でも、戦うって、人を助けるってそれだけじゃない気がする。

 

 だって確かに、道成寺キヨラは救われたから。

 こういう人間になりたいと、そう思えるような大人は、いつも微笑んでコーヒーを淹れてくれた人だから。

 

 コーヒーの苦味なんて、正直あまり分からないけれど。

 誰も気に留めないような、舌に残る小さな甘みが、道成寺キヨラの憧れなのだ。

 

 

 

 

 

 

*1:
「二番テーブル、炒飯二つ!」のようなニュアンス

*2:
「これお皿洗っといて! あと五番テーブル片付けて!」のようなニュアンス

*3:
「せんせぇ、これ制服なんで着てください」のようなニュアンス

*4:
「店の回転止めるわけにもいかないんで今はお願いします」のようなニュアンス

*5:
「これには色々事情があって、どこから語りましょうか」のようなニュアンス

*6:
「食への感謝を思い出すことで怒りを沈めようと思いました」

*7:
「ものすごく売れちゃって、収集つかなくなっちゃいまして」のようなニュアンス

*8:
「時間の無駄でした」

*9:
「考えすぎじゃないですか?」のようなニュアンス

*10:
「指輪でも見つめるような目して、そんなに嬉しかったの? まぁ私はせんせぇにハンドクリームなんて何度も塗ってもらっているけど?」のようなニュアンス

*11:
「そっちの周囲にいい子ちゃんしかいなかっただけじゃない?」のニュアンス






ちょこっと裏話
・キヨラは火を吹けるので火力の高い料理は得意だそうです。キヨラ以外にも、異形のある魔法少女は鋭い爪や翼や尻尾、伸縮可能な手足や人間より多い数の目や腕など、魔法以外での特殊な身体を持つ魔法少女は意外といます。
二十年ほど前まではそういう子への差別があったらしいですが、現在はそれほど見れなくなりました。そういう事情もあり、キヨラは火を吹けるのをあまり他人には教えていなかったらしいです。




面白かったら感想や高評価等よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

うちの美少女アバターに重い過去なんてありません!(作者:もろきゅー)(オリジナル:ファンタジー/コメディ)

突然、剣と魔法の異世界へ転移してしまった俺。▼俺に与えられた能力は、なんと《キャラクタークリエイト(女性限定)》。▼自分好みの女性キャラクターを複数作り、その姿を自由に切り替えながら冒険できるという、キャラクリ好きの俺にはもってこいの能力だった。▼せっかくなら理想のキャラクターを作ろうと、俺はまず金髪碧眼の美しい姫騎士を作成する。▼もちろん、キャラクターには…


総合評価:3407/評価:8.76/連載:6話/更新日時:2026年11月06日(金) 11:51 小説情報

転生したら余命僅かな美少女だったので、悪のカリスマの振りして遊んでる。(作者:悪のカリスマをこよなく愛するオタク)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

 悪のカリスマとは、悪を尊ぶ大罪人でありながら、人を惹きつける魅力を有する存在である。▼ ▼ 余命僅かな超絶美少女に転生した主人公は、魔法少女が存在する異世界で「悪のカリスマのごっこ遊び」を開始する。▼ あくまで、悪のカリスマの振りをして遊ぶだけ。▼ 迷える子羊の脳を焼き、チヤホヤされたいだけだったのに。▼ …‥いつの間にか、主人公の周囲には「本物の悪い子」…


総合評価:4684/評価:8.67/連載:2話/更新日時:2026年10月08日(木) 17:22 小説情報

【どうしたら】魔法少女に変身させられたけど放置された【いいと思う?】(作者:名無しの魔法少女)(オリジナル:ファンタジー/コメディ)

転生者たちが脳内掲示板でわちゃわちゃするn番煎じのよくあるやつ。▼日夜、悪の組織と魔法少女たちが戦うある意味平和なニチアサ的世界に転生したイッチ。▼マスコット的サムシングの押し売りに負けて変身するも、いろいろな要素が悪い方向に作用して、マスコットは絶叫して逃走。▼おいてけぼりを喰らったイッチはしゃあなしに、転生者たちが集う脳内掲示板に助けを求めるのだった。▼…


総合評価:3589/評価:8.47/連載:5話/更新日時:2026年09月13日(日) 12:00 小説情報

鬱百合アニメの推しキャラ皆に幸せになってほしいTS転生百合厨魔法少女(作者:丹羽にわか)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

TS転生百合厨魔法少女(糸使い)が推しの幸せの為に沢山頑張るお話。百合厨美少女は百合に挟まれると良い出汁が取れる。▼カクヨムで先行投稿してます。▼https://kakuyomu.jp/works/2912051606795487729


総合評価:6379/評価:8.73/連載:12話/更新日時:2026年10月10日(土) 07:03 小説情報

ステッキを拾った。魔法少女になった(30代男性)。(作者:稲荷竜)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

道端に落ちていた魔法のステッキを拾い上げたせいで、タイミング悪く魔法少女になってしまった30代男性。しかも闇属性。▼かわいい女の子のフリをするのは心苦しいが、戦う力があるのにまだ幼い少女たちにだけ戦わせるのはもっと心苦しい。▼そういうわけで魔法少女活動を続けることにした。……退職金でまだ暮らせるうちは。▼魔法少女活動はなんで昼が多いの? 社会人には不向きすぎ…


総合評価:6148/評価:8.81/完結:47話/更新日時:2026年09月25日(金) 11:01 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>