最強魔法少女はニチアサ枠から引退したい 作:おすすめのプリキュアは何ですか
「てんちょ〜、このままじゃお店潰れちゃいますよ〜」
「はいありがとう。これ、今日のお給金ね」
「なんでこのセリフ言うだけで給金追加されるんですか? まぁ貰いますけど」
退職から二ヶ月。
昔のツテと貯金をやりくりして、
もちろん真面目に営業するつもりはなく、あくまで余生の暇潰し。
前までいたシン=ヨコハマは魔法少女の聖地マエバシ、現日本首都のミトに次ぐ関東の主要都市だったが、ヨコハマはそこら辺と比べたら、かなり静かなエリアになる。
魔法少女以前の日本では栄えた都市だったが、東京壊滅とそれに伴って東京を覆うように作られた防衛都市計画、そこから外れた都市であったヨコハマは、今や多少交通の便が良いだけの一都市でしかない。
とはいえ、かつての日本の主要都市なんてほぼ全てが壊滅し、魔獣の手に落ちてしまっている今、ヨコハマは相当幸運な都市ではあるだろう。
……それで言うと、三大都市がシン=ヨコハマとマエバシとミトなのは、旧世代の人間としてはめちゃくちゃ面白い字面なのだが、このネタは通じるやつがほぼいないのが難点か。
「てんちょー? 聞いてますか?」
「あ、ごめんごめん。何の話だっけ」
「だから。このままだとこの店、ほんとに潰れちゃわないんですか?」
そういいながらカウンター席に座り、堂々と宿題をやり始める不真面目なバイトちゃん。
彼女の名前は
燃えるような赤い髪と、縦に裂けた瞳孔、頬に僅かに生えた鱗と、恐らく特注であろうスカートから伸びる、細くしなやかな尻尾。
分かりやすく爬虫類がモチーフの魔法少女の女子高生。
この辺りの一般校に通っているらしく、たまたま
「心配ないよ〜。これでも
「でも、ユラリって名前の魔法少女検索しても出てこないですよ? せめてフルネーム教えてくれないんですか?」
「それは……ごめんね。この【顔】のこともあるから」
そう言って、
「……まぁー、いいですけどね。この店潰れると、あたしはバイト先なくなって困っちゃうので」
何かを察してか、キヨラちゃんもそれ以上は追求してこない。
まだ付き合いは短いが、この子はとても良い子だ。
それだけに、申し訳ない。
もちろん、
この仮面の下には傷とかもない!
遡ること二ヶ月前。
例の半裸失踪事件のせいで、名前こそ特定されなかったものの、インターネットの恐ろしさを感じた
だってネットって怖いんだもん!
魔法少女になる前はちょっと使っていたが、現文明でSNSの類が復活して発展したのは、本当にここ十年の話。
幸いにも、
なので、キヨラちゃんには申し訳ないが、しばらくは【何か深い事情を抱えたミステリアスな店長】でいかせてもらう!
ごめんねキヨラちゃん!
でもおじさん、インターネットが本当に怖いんだ!
半年ROM? すると大丈夫らしいから、半年後には謝るから!
「んーっと、話戻しますけど、本当にこんなにお客さん来なくて大丈夫なんですか?」
そんな情けない中身還暦に対して、気を遣える現代っ子のキヨラちゃんは、少し強引な形で話題を変えてくれた。
「なんかもっとアピールできることとか。そういうのあればネットに……」
「ネットはやめようか……」
「ネットじゃなくても、クチコミとかあれば変わると思うんですけどね。ほら、店長が可愛いとか!」
にひに、といたずらっぽくキヨラちゃんが笑うが、魔法少女は可憐なのがデフォルト。別に
「じゃあ、【魔法】でなにかアピールできないんですか?」
続いて出された提案に、
「【魔法】? あ、もしかして【固有魔法】のこと、今って略すの?」
「略すって、それ以外【魔法】なんてないじゃないですか」
「え、ほら。空中浮遊とか、魔弾とか障壁とか」
「あれは基礎アーツですよ。もう二十年前から教本で統一されてますよ。いつの話してるんですか?」
キヨラちゃんの悪意の無い言葉が、
……そうか、よく考えたら空中浮遊や魔弾や障壁は、今は機会でも再現出来る技術。
魔法少女がいることが当たり前の世界で生まれた子にとって、真の意味で【魔法】と呼べるのは、
───【魔法】。
魔法少女は一人に一つ、必ず本人しか扱えない魔法を持つ。
魔法少女はみんな鍛えたら魔力をビームみたいな放ったり、身を覆う結界を纏ったりはできるが、これは別。
触れた物の重さを変えたり、瞬間移動をしたり、果ては破壊の嵐のような攻撃を行ったり……そういう今の技術ではどうやったって成せない奇跡こそ、魔法少女の本質。
その奇跡を以て、異界と化した人類生存圏を取り戻すことこそ、魔法少女の責務と言ってもいい。
「魔法を使ってなんかアピールなんて、魔法少女がやってる店なら今どこでもやってますよ?」
「じゃあキヨラちゃんの魔法でできないの?」
「アタシの【
履歴書に書いてくれていたが、キヨラちゃんの魔法は簡単に言うと周囲に鐘を出して音を出す魔法。確かに、カフェの売上を上げる魔法ではない。
かと言って、
「
「アタシは綺麗で好きですけどねぇ」
たとえば意識。
この星が視界に入ると、その人物の視線を強制的にこの星に向けさせることができる。
個人的には強いと思っているが、仲間からは地味だと言われていた。
でも格闘戦とかで本当に強い……と言いたいところだが、そもそも今の時代格闘戦自体がナンセンスか。
あと副次効果で確率が作用するようなモノの確率を上げたり、とにかく概念を
前に研究職の友人から聞いた話だと、【
全然お客さん来ないじゃん。
その気になれば、視線を誘導してこの店に興味を持たせることはできるが、そこまでしてお客さんに来て欲しい訳でもない。
なんて色々考えていると、お湯の沸く音がしてきて
「確かに、どうせなら売れる方がいいけど。別に売れなくても、
「だから困るんですよ。タダでコーヒー飲める店が無くなっちゃったら」
歯に衣着せぬというか、良くも悪くも正直なキヨラちゃんの言葉に苦笑してしまう。
何となく、後輩のイシュシュを思い出す。あの子は元気でやってるんだろうか。
そんな郷愁に少し惹かれながらも、
決して、コーヒーが好きな訳ではなかった。
でも、本当に辛い時、仲間達と一緒にコーヒーを飲んで耐えていて、いつの間にかコーヒーを飲むのが日常になっていた。
だから別に違いなんて正直分からないのに豆を買って、自分で豆挽きからやろうと思ったけどさすがに面倒だから電動を買って、でもドリップだけはこうして自分の手でやっている。
熱湯の温度を測り、程よい温度になったのを確認してから、数度に分けてドリップを行う。この手順が正しいかは知らないが、体験として仲間達はこれが好きだと言っていた。
「はい、どうぞキヨラちゃん」
「いただきます。……ふぅ。ホント、このコーヒーは美味しいんですから、上手くやればきっと儲かるのに」
「だからいいって。キヨラちゃんが飲んでくれたら」
「だからぁ……もういいですよ」
ぷいっと、キヨラちゃんは怒ったようにそっぽを向いてしまうが、コーヒーはちゃんと飲んでくれている。
「それにしてもホント、まるで本物の豆から作ったみたいになんて言うんでしょう、深みがありますよね」
「うん? そりゃ豆から作ってるよ」
そういえばいつもキヨラちゃんは宿題やってて見てないか。
豆の種類は雰囲気だし、豆を挽くのは電動だけど、一応ね。
「…………は?」
しかし何故か、それを言った瞬間キヨラちゃんの顔が青ざめた。
「え、え、え? 豆、って、これコーヒー豆から作ってるんですか!?」
「逆にコーヒー豆以外から作ってるコーヒーってあるの!?」
「いや授業で習わなかったんですか!? 魔獣の侵攻で、世界のほとんどの国は滅びたんですよ!」
いや流石に知ってるよそれは。
だって滅んだところに立ち会ってるわけだし。
「だから、そのせいで現代ではほぼ手に入らない植物なんかは多くて。風味を再現したものならまだしも、コーヒー豆って確か、植物操作の魔法少女が付きっきりで作ってるっていう超高級品しか、存在しないはずじゃ……」
あー……。
そういえば、なんか値段が高くて、種類も昔より少ないなぁと思ったが、そういうことだったんだ。
「まぁ……好きでやってるものだからね。別に」
「す、すいません! もうアタシしばらく無給でいいです! さすがに気が引ける! 無料で貰っていいやつじゃない!」
「だからいいって……大袈裟だなぁ」
「というかそうですよ! うわっ、よく見たら外に【豆から拘ったコーヒー】とか書いてある! これ一見さんお断りみたいなものですよ!?」
「そーなの!?」
繁盛しなくても、せめて誰かの憩いの場になればなぁとか思ってたのに。
魔法少女の世界では、ただ喫茶店を経営するのすら難しいのかぁ。
◆
「お疲れ様です、イシュシュさん」
「ん、あー……お疲れ様っす」
後輩に軽く挨拶してから、イシュシュはその場に座り込み、大きくため息を吐く。
イシュシュ・パレトは魔法少女斡旋企業【マクマ】の現筆頭魔法少女。
元より(メディアに露出する本人のやる気の無い言動を除けば)有望な魔法少女だったが、ここ最近、より具体的にいえばこの二ヶ月は積極的に仕事を取り、そのレートを大きくあげていた。
とは言っても、レートを上げようとしているのは事実だが、実の所勝手にレートが上がっている、というのが現状だ。
シン=ヨコハマエリアは元から大都市にしては周囲や都市内、或いはトウキョウから這い出てくる魔獣の発生が多いエリアではあったが、ここ最近は様子がおかしい。
魔獣の発見数が明らかに増えた。
おかげで連日、この辺りの魔法少女は普段より多い出動が重なって、それなりに堪えている者が出始めている。
イシュシュは昔、あのふわふわとした先輩に死ぬほどしごかれていたのでまだ余裕はあるが、それにしたってだ。
「まぁ、こっちとしては願ってもないんすけど、ねぇ……」
チラリ、とイシュシュの視線が、左手に装着した
小さくて、あまり自信がない、けれど大切な先輩が一人前になった祝いにと、買ってくれた
いつどんな時も、誰よりも早く現場に駆けつけていたあの人。
自分達は仕事がないのが一番なんて笑っていたあの人。
「……どーせ、報告サボってたんだろうなぁ。そういうの言わないと、引き継ぎ大変じゃないっすかぁ」
とはいえ、泣き言は言っていても始まらない。
ちょっと抜けているが、無責任な人ではない。あの子達なら大丈夫って、託したのだろうから。
「本気ってのは柄じゃないっすけど。ま、憧れっすからね。仕方ねぇっす」
・シン=ヨコハマ
ユラリが以前拠点にしていた都市。
東京結界を囲む三大都市の一つであるが、老齢の魔法少女はその名を聞くとだいたい笑いを堪える。マエバシとミトは普通に笑う。