最強魔法少女はニチアサ枠から引退したい 作:おすすめのプリキュアは何ですか
「あ、イシュシュのレート上がってるじゃん」
平日の昼間。
やることも無いし客も来ず、平日なので話し相手のキヨラちゃんもいないこの時間。適当に流していたテレビに、知っている名前が出て思わず声を出してしまう。
基本的にネットを恐れている
魔獣は所謂【概念】を武装とする獣であり、その力の根源は魔獣が武器とする概念が、どれだけ恐れられているか。
つまるところ、魔獣という存在が脅威に思われれば思われるほど、その基礎的な力も増す。
故に魔法少女の最も大事な仕事は、勝つことではない。
人類は魔獣に勝てる、と信じさせること。
その為の取り組みとして始められたのが、この魔法少女レートだ。
だから日頃から気合い入れろって言ってたのに、イシュシュのやつ、本気でやればこんな急に上がるんだから、
魔法少女のメディア露出、活躍、人気などを総合して魔法少女に順位を付ける。順位が上だと単純だが名が売れて、良いことが沢山。
世界を救う魔法少女同士で順位を付けるなんて不和の原因になるとも思われるかもだが、案外こういう単純な施策は馬鹿にできない。
「アメジアちゃんは十二位か。あの子、最近調子上げてるなぁ」
これがあることで、魔法少女も、そのサポートをする企業や公的機関も、魔法少女が人気になるように振る舞う。
魔法少女が人気になれば、人々は信じるのだ。
この人達なら、何があっても自分達を助けてくれる、と。
「……そういうもんだよな、カレン」
もう声すら思い出せない彼女の名は、魔法少女レート第一位───カレンとだけ表示された短い名前と、同じものだった。
結局、
……俺は、ずっとあいつの影を追っているだけだった。
そして、改めて思い知る。
◆
魔法少女と大雑把に言っても、様々な者がいる。
例えば、一つは現日本政府直属の役人としての魔法少女。
彼女達の主な仕事は人類生存領域奪取のため、各地の調査と各企業の統率、他には魔法少女の管理、特に
あとは企業所属の魔法少女。
最も一般的な形で、旧時代のサラリーマンなんて言い方とあまり変わらない。企業の広告塔としての役割と、依頼や通報を受けて魔獣の討伐から素材回収。
他には地方興行や場合によってはテレビ出演、アイドルみたいなことをする輩もいるし、戦闘以外の芸能などに魔法を活かしている者たちもいる。
他にも個人勢がいるが、コイツらは例外。
企業にも目をつけられない木っ端も多いが、場合によっては独自の思想で動き、ギリギリ法を犯してないから許される
十人十色、玉石混交。
共通点なんて、魔法の力を携えた美少女であり、全員が人類に残された最後の希望であることくらい。
そうは言ったって、希望なんて重い荷物、皆が背負える訳じゃないんだけどね。
そんな思いの籠った溜息を吐きながら、魔法少女───
二ヶ月ほど前から、シン=ヨコハマを中心とした旧カナガワエリアでは、魔獣の報告数が増加傾向にあった。
すぐに監視範囲や巡回路、出動ラインの見直しが行われ、現在では現場の魔法少女が仕事量の増加に嘆いているだけで、さしたる問題は今のところないが、クリナにとっては一つ問題があった。
何も活躍できない。
今話題のイシュシュ・パレトの所属している【マクマ】なんかは、素早く体制を変更して対応し、メキメキと業績を上げている。
今日だって、クリナ達が手こずっていた魔獣をさっくり片付けて、すぐに次の現場に向かっていったくらい。
本当に同じ魔法少女なのかと疑いたくなるくらい、差を感じた。
クリナはこの時代にしては、比較的幸福な人生を過ごしていた魔法少女。
両親は健在で、生意気だが可愛い弟が一人。
魔法少女が生まれつき存在していた世代で、才を見出された時点で、
そうして意気揚々と入った養成校で、クリナは現実を知った。
自分以外の魔法少女はみんな煌びやかで、華やかで、覚悟が違う。
初めて魔獣を見た時、怖くて動けなかったクリナの横で、なんの躊躇いもなく魔獣の眉間を撃ち抜くような同級生がいた。
あ、自分って主役じゃないんだ。
それからズルズルと、惰性で魔法少女を続けて、惰性で就職活動して、惰性で今日に至る。
魔法少女の体は頑丈で、ちょっとの疲労や負傷では堪えないが、メンタル───心が弱ると機能不全に陥る場合がある。
そういうわけか、今日は戦闘での負傷がずっとジクジクと痛む。
久しぶりに休暇を取って、実家のヨコハマに帰ってきたのに体がどんどん重くなってくる。このままでは道で野垂れ死そうなほど、惨めな気分。
そう思っていたところで、ふと。
嗅ぎなれない良い香りがしてきて、足が自然と表通りから外れていく。
「カフェ?」
この辺りは何度か通ったことがあるが、いつの間にか見慣れないカフェが出来ていた。
クリナが見慣れない、ということは最近できた店のはずなのに、何故か老舗感が漂っているし、何故か看板が上から白布で覆われて、マジックで【改稿中!】と書かれているが、どうやら営業しているようだ。
……喫茶巡りなんてオシャレな趣味はないが、なんとなく扉を開けてしまう。
店内は歴史資料館でしか見た事ないような、古い時代の【喫茶店】そのもの。
レトロな雰囲気の椅子にテーブル。そして、カウンター席の方を見ると。
「え、子供……?」
一瞬そう思ってしまったが、よく見ると顔つきはやや大人びていて、体に張り付くような薄手のノースリーブセーターから覗く体型や四肢は、骨が透けてしまいそうなほど細いが、女性的な曲線を描いている。
貧相な少女と言うよりは、華奢な女性。もふもふとした羊のような髪の毛を持つ、恐らく魔法少女の女性がカウンターで寝息を立てている。
体が細い分、呼吸の度に体が大袈裟なまでに上下して、それに合わせて動く髪の毛がまるで風船の……。
「……んぅ。……あ、お客さん!?」
「あ、すいません、起こしちゃって……」
「いやいや!
飛び起きた羊髪の魔法少女は、せっかくの綺麗な顔の右上部分を仮面で隠し、急いでエプロンを身に纏ってカウンターに立った。
眠そうな瞳が愛らしい、顔だけで食べていけそうなほど、魔法少女の中でも特筆して綺麗な顔立ちだ。
魔法少女は魔法少女同士でも交配が可能といえど、そのケはないのに、クリナは見つめるのが気恥ずかしくなってしまう。
どうぞー、と促されてカウンターに座り、メニューを見る。
……コーヒー以外のメニュー全てに斜線が引かれていて、コーヒーしか無かったので、とりあえずクリナはコーヒーを頼むことにした。
幸いにも、クリナはコーヒーが好きだから良かったが、あの独特の人工の苦味は苦手な人が多いと思うのだが。この店大丈夫なのだろうか?
「あの。店長さん、魔法少女ですよね?」
「うん。と言っても、もう引退したけどねー」
そういって何故か楽しそうににへらと笑う店長の姿に、クリナは少し力が抜けてしまう。
今のは、調理に関係する魔法を持っているのか、という意味の質問だったのだが、そういう訳でもなさそうだ。
とはいえ、魔法の有無で必ずしも料理が上手くなる訳でもない。実際、クリナは料理が苦手だ。
店長は慣れた手つきでコーヒー豆を……え、あれ豆? コーヒー豆って高級品じゃなかったっけ? 値段、別に普通のコーヒーと変わらなかったよね?
「お客さん、もしかして甘藍クリナちゃん?」
「うぇっ!?」
豆に意識を取られていたのもあって、急に名前を呼ばれてクリナは素っ頓狂な声を上げてしまう。コスチュームは今日着てないし、名前を名乗ってもいないのに。
「な、なんで知って……」
「この辺りの魔法少女は皆覚えてるからね。あ、この辺りの子だけだよ? 流石に全国は覚えてないからね」
相変わらず楽しそうな店長の受け答えに対して、クリナは内心後悔と自己嫌悪。
一瞬でも、自分のファンなんじゃと思ってしまった。冷静に考えれば、対して活躍もしていない自分に、ファンなんているわけが無いのに。
……でも、シン=ヨコハマエリアだけでも、相当な数の魔法少女がいるのだ。さすがにそれの全てを把握しているなんてことはないだろうし、多少なりとも名が売れていると、自惚れるくらいは、許されるだろうか。
「そういえば出身はヨコハマって言ってたよね。もしかして帰省?」
「え。なんで知って……」
「前に雑誌のインタビューで答えてたでしょ?」
そう言われて、クリナは前にそんな事を答えたような、気がした。
本人ですらそうなるほど薄れた記憶なのに、なんで店長さんはスっと出てくるのだろうか。
え、これ本当にファンなんじゃないか?
抑えていた自惚れが溢れそうになり、己を戒める。これでファンじゃなかったら、本当に恥ずかしいぞクリナ!
嬉しいのか悔しいのか分からないめちゃくちゃな気持ちになって、何も話せないクリナを置いて、店長は手を止めずに話を続ける。
「クリナちゃん、初めて見た時は正直動きが固くて。あんまり場慣れしてないなぁ、大丈夫かなぁ、って感じだったんだけどさ」
ザクリ、と自分でもわかってる欠点を改めて指摘され、弱ったメンタルが折れそうになる───が。
「でも、失敗する度に戦法とか、
なんでそれを、と口を開きそうになって、唇を噛み締める。
クリナだって、何もしなかったわけではない。
だってそうだ。本当に惰性で続けているなら、こんな職にしがみついてない。給料はいいけど、最悪死ぬ可能性が高い。魔法少女である以上は、有事の際は戦わなきゃいけないが、それでもクリナの魔法なら、他に受け口はあったのに。
惰性、なんて言葉をつけないと認められなかった。
努力だってしていたけれど、結果も何もついてこない。成果の無い努力はしていないのと変わらない。だから、惰性って言葉で言い訳をし続けていた。
体が震える。
気づいて貰えた嬉しさか、真実を知られているという羞恥からか。
間違いなく、羞恥の方が大きい。でも。
「───店長さんは、私のファン、ですか?」
「……え〜?」
聞かずには居られなかった。
ずっと昔、母親が助けられた魔法少女が言っていたという言葉。
『魔法少女は、ニチアサなんだ』
よく分からない言葉だったけれど、意味を聞いてクリナはその言葉が好きになった。
正義を信じて、悪に負けず、皆の希望になる存在。
ニチアサは、クリナの憧れだった。そういう人になれたら、きっと自分のことが好きになれるだろうって。
だから、自分が本当に誰かの希望になれたか確かめたかった。
「ん〜。どうだろう。
縋るようなクリナの質問に、店長はどこか掴みどころない返事。
やっぱり、そんなものかと。落ちていくようなクリナの───。
「でも。クリナちゃんが、
クリナの手が、掴まれたような気分だった。
「……勘違い?」
「そ。その人がファンかどうかなんて、本当のところは聞かないと分からないし、
どこか力なく、遠くを見るように店長は微笑む。
風に吹かれたら消えてしまいそうなその笑みが、クリナには何故だかとても力強く見えた。
「だから、クリナちゃんは自信を持って。
差し出されたコーヒーの水面に、クリナ自身の顔が映りこんだ。
目元が輝いていて、大きな瞳がいつも泣いているように見えて、あまり格好よくない、自分の顔。
そんな自分でも、見てくれている人がいる。応援してくれている人がいる。勘違いしてもなんて、そんな傲慢なことを、許してくれる人がいる。
コーヒーを口につけて……うん、やっぱり苦いや。
でも、今はこの苦味が心地よい。
今は苦いけれど、飲み込んで、いつかはこの味を思い出して笑えるようになれればいいなって。
「店長さん……ありがとうございます……」
「お代分のコーヒーしか出せないけどね。あ、そうだ。クリナちゃんの魔法って、確かシュークリームを美味しくする魔法だよね……」
「え。まぁ、はい」
「
その後、何故か三時間ほど魔法の講習が始まった。
なんでコーヒーを飲みに来て魔法の講習を受けているのか、嬉しさとか悔しさとかでぐちゃぐちゃになっていたクリナは理解できず、流されるままに受けたが。
見てくれている人がいるって、きっとすごく大事な事だ。
それを思い出させてくれた店長に感謝して、また一人前になったらこの店に胸を張って、私のファンに会いに来ようって。
帰り道、彼女は軽い足取りでそう思えた。
◆
「でね! この前あの甘藍クリナちゃんがうちに来てくれてね〜! また来るって言ってくれたんだよ! 新規層獲得だよ!」
「てんちょ〜。その【この前】って二ヶ月前ですよね〜? あと、甘藍クリナって聞いたことない人なんですけど」
二ヶ月ほど後。
ユラリは以前店に来てくれた魔法少女のことを(何度目かは分からないが)自慢げに語り、キヨラに呆れられていた。
「だいたいその人、来てくれてないんですよね? 店長のコーヒー……は美味しいし、なにか失礼なことしたんじゃないんですか?」
「三時間くらい魔法の講習ならしたけど」
「それですよ! うわっ、めっちゃ嫌味な年上じゃん」
「昔はみんなで良くしたんだけどなぁ!?」
ギャーギャーと他愛のない会話をしながら、ユラリは手元の端末を慎重にいじくり、今の魔法少女チャートを確認して、少しだけ微笑む。
「……まぁ、いっか」
「何がですか?」
「なんでもないけど、何も無いことがいいかなって」
「客がいないのは良くないと思いますよ」
「そういうことじゃなくてね?」
後ろの後ろ、チャートの中で、誰も見ないような後ろだけれど。
あの日、コーヒーを飲んでくれた魔法少女の名前を見つけて、ユラリはそれならいいか、と笑えたのだった。
ちょこっと魔法少女欄
・イシュシュ・パレト
ユラリの元後輩ちゃん。実力はあるがやる気がないタイプだが、最近はやるしか無くなったので頑張っている。苦いのは嫌いだがユラリの淹れたコーヒーは好き。コスチュームは絵の具をぶちまけたかのようなオーバーオール。
物事の数値をめちゃくちゃにする【
・道成寺キヨラ
ユラリの店で働くバイト。イマドキの女子高生なのでユラリと話が全く合わない時があるが、お給料が良いので働かせてもらっている。一般校にかよっているので、魔法少女に対してはあまり詳しくない。コスチュームは不明。制服姿しか見たことが無い。
周囲に鐘を出現させて爆音を生み出す【
・甘藍クリナ
ユラリの店にたまたま立ち寄った、一般魔法少女。
社会人四年目でこれからの展望とか現実とかのギャップで疲れている。甘いものは苦手。コスチュームは華やかな宮廷料理人のような衣装で、動きやすいらしい。
シュークリームをめちゃくちゃ美味しそうにして、実際美味しくする【