最強魔法少女はニチアサ枠から引退したい 作:おすすめのプリキュアは何ですか
「こんなところに八百屋なんてあるんすか?」
シン=ヨコハマは、東京都を囲む防壁が出来てから発展した都市だ。
そもそも、今の人類の文明はハリボテみたいな要素が多い、というのは置いておき、シン=ヨコハマは少し路地裏に入れば雰囲気が一変。
シャッターの降りた店舗と、急速な開発に置いていかれた古ぼけた建物の並ぶ暗い街並み。
「こんなところ、なんて言うなよ。開発が行き届いてないのは、
「そういうわけじゃなくて。だって、果実ってマジで希少なんすよ? 警備とか必要なんじゃないんすか?」
国内で栽培していたものはともかく、輸入頼りの品……例えば、コーヒー豆なんかは本当に貴重な嗜好品になっている。
とはいえ、一般的な食卓に並ぶ食材は、黎明期に死に物狂いで栽培体制を安定させたので、一般的な食事にはそこまで影響はない、と思うが……。
「と。着いたぞ。ここだ」
「何処っすか」
周囲と比べて何の変哲もない、シャッターの目の前。
「どこにも店なんてないように見え……」
「おーい! 来たぞ開けろー!」
「うぇ!? 何してるんすか!?」
「ん〜、遅かったねぇ、ユラリ」
シャッターの向こうから現れたのは、十二単めいたオーバーサイズの白衣を身にまとった少女。緑色の髪の毛と、そこから伸びたツタが何本か腕に絡んでおり、その非現実的な姿と可愛らしい容姿で、一目で魔法少女だとわかる。
顔立ちも幼く、手足もやや未発達な印象を受ける。
「って、あれぇ〜? 何その格好。遅めの思春期? 可愛いじゃ〜ん、このこの」
「やめろ、つつくな」
「へぇ、先輩って友達いたんすね」
サラッとイシュシュってばとんでもない暴言言わなかったか?
まぁ、そもそも同期がほぼいないのだから、必然的に関係性が後輩ばかりになって、友達と呼べるようなやつは少ないけど。
そういう意味では、こいつは友達と呼んでいいだろう。
「にっひひひ、やっぱユラリ、友達少ねぇんだねぇ。そっちの子、名前は?」
「あ、うちはイシュシュ・パレトって言うっす。よろしゃす」
「かわぁいい名前だねぇ。ボクは
ニカッと、ヒスイが笑いながら差し出した手を、イシュシュは……。
「イシュシュ……?」
「え。先輩、この人って、ヒスイ?」
「んん! ボクはヒスイだよ?」
差し出されている手を取らず、代わりにイシュシュは
「え? 白神ヒスイって、魔法植物学の権威で、魔法少女界一の再生屋と同じ名前じゃ……」
「あー。本人だよ」
「……はぁ」
「ひゃあ!?」
驚く、と言うよりは呆れた表情で、イシュシュは俺の脇腹を指でなぞってきた。
「うちは先輩がすげぇ魔法少女で、すげぇ知り合いがいるって、
「それは……そうだね。うん。ごめん」
いやだって、元々会わせるつもり無かったし、今日あったのも偶然じゃん、とか言ったら脇腹を擽られそうなので、グッと言葉をこらえることにした。
改めてだが、このロリババアの名前は白神ヒスイ。
別に言うことでもないが。
「えーっと、ヒスイさん」
「ヒスイでいいよぉ」
「流石になんでじゃあヒスイパイセンで。ユラリ先輩と仲良いってことは、もしかして同期だったりするんすか?」
「そぉだよ〜。だからこう見えておばあちゃんでね。孫までいるよ」
「どひゃぁ〜! 魔法少女ってほんとに見た目じゃわかんねぇっすねぇ!」
「褒めても毒しか出ないよぉ〜」
「毒出せるんすか!?」
「そういう魔法だからね、ボクのは」
……内心いきなり会わせていたことを反省していた
こいつ、
「そういえば、先輩は結婚とかしないんすか?」
「うぐっ!?」
しかもこいつ、
そりゃね?
「そういえば、ヒスイさんのお相手って……」
「そうそう。魔法少女だよ。ボクの頃は主流じゃなくて、割と先駆けくらいの位置でねぇ〜」
「へぇ〜。今じゃフツーっすけど、やっぱ時代なんすねぇ」
あ、なんならもう
あ、やばい。
マクマンに酒の席で、「ユラリは誰かいい人見つけないと、いつか取り返しのつかない無茶をしそうだから、早く身を固めて欲しい……」って真面目なトーンで言われて、ガチで凹んだの思い出してきた。
ごめんってマクマン。でも
「なんか先輩、勝手にうんうん悩んで苦しんでないっすか?」
「気にしないでいいよ。ユラリは昔っから、心配しぃなんだよ。そういえば、イシュシュちゃんって所属どこ?」
「会社なら、マクマで働いてるっすけど」
「マクマンのとこか〜! じゃあ、あの子にこれ渡してあげて」
「うわっ、これなんすか?」
「パイナップルって言ってねぇ。昔は酢豚とかに入れてたんだよ」
「これを!? これのどこを!?」
「応用編の用途から先に説明すんなよ」
「あ、先輩戻ってきた」
ちょっと意識がマクマンの飲みの席での
にしても、パイナップルとは、また懐かしいものを。
「やっぱ南国系のやつはね〜。種もないし、条件も揃わないし、ボクが付きっきりならまだしも、安定して生産するのは難しくてねぇ」
「え、これ貰っていいんすか? 貴重なんじゃ……」
「いいのいいの〜。ボクはね、種の保全とか、そういう高尚な目的じゃなくて。旧文明の暮らしを
戦う場所は違えど、
やり方は違えど、コイツもまた人々の希望のために戦う、【魔法少女】なのだ。
「……じゃあ、これ値段負けて貰える?」
「ユラリは別ー。市場を回せ、無駄貯蓄野郎」
「野郎とか言うな」
既に金は口座に入れてあるので、
「先輩、そっちの黄色いのはなんすか?」
「これはバナナって言ってな。朝食とかによく食べて、まぁ甘くて美味い」
「変な形っすね」
確かによく見ると変な形だけど、バナナを見てそう言われると改めて世代の差を感じるな……。
「んで、そっちはなんすか?」
しかし形としてはパイナップルの方が珍しいので興味が失せたのか、イシュシュの興味はもう片方の小瓶へと移る。
「ああ、これは毒だよ」
「え?」
それだけ伝えて、
焼け付くような痛みが喉と胃腸に届き、少しだけ気分が悪く……。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!? 間に合え間に合え!」
「うげぇ!?」
突然、イシュシュが
体が薄いせいで、振動が全身に響き、脳みそまで揺れてきた。毒を吐きそうになるのを何とか抑え……。
「いや何口抑えてるすか!? 吐き出して!」
「いや、ごめ、そういや説明してなく……」
やばい、思ったより強く叩かれて、肺の中身が押し出されて言葉が回らない。
「にへ、うける」
笑ってないで、イシュシュに説明しろロリババア。
「えーっとねぇ。旧世代の魔法少女。今だともうほぼ数がいないけど、ボクやユラリみたいな奴らは、根本的には【魔法少女】ってよりは、【魔法少女に改造した人間】ってのが近いんだ」
「そうだったんすねぇ」
ひとまず落ち着いたイシュシュに対し、ヒスイはどこかから持ってきたホワイトボードにあれこれ書いて、座学を始めていた。
思ったより呼吸器がやられたので、酸素ボンベで吸引中なので、ちょっと上手く喋れない。
「ボク達は現代の魔法少女と比べて、大きくわけて二つ特徴があってね。一つが燃費が悪い。魔法少女は飲まず食わずでも結構やれるけど、ボク達は普通の人間より少し多いくらいエネルギーの補給が必要なんだ」
「だから先輩ってよく隠れてパン食べてたんすね」
え、バレてたの?
若い子って全然食べないから、大食いなのが恥ずかしくてトイレで食べてたの、バレてたの!?
「そして、旧型の魔法少女は魔力器官の成長が自然に促されなくてね。研究の結果、体が弱った時に生存本能として魔力をたくさん生産し、器官も強化されることがわかったんだ」
「えっと、つまり……筋トレみたいなもんすか?」
「そうそう。ビジュアルが最悪だけどねぇ」
本来、魔力器官は生来のものに加え、基礎アーツの使用や魔法の行使などで魔力を使えば使うほど強化されていくものだが、旧型の魔法少女である
その解決策として、ヒスイが発見したのがこの服毒だ。
強制的に体に命の危機を誤認させ、魔力を生産させ、器官を成長させる。
ヒスイの魔法と薬学知識、そして魔法少女の肉体への深い造詣があるからこそできる芸当で、毒を飲めば強くなるなんて簡単な話ではない。
可能な限り身体機能への影響は避けて、痛覚への刺激を過敏にするとか、そういう類の毒にして貰っている。
それでも、服毒からしばらくはかなりキツイので、リスクはあるのだが。
「君達だって、訓練校で魔力垂れ流しの訓練とかしたでしょ? ああいうのと一緒」
「一緒っすかねぇ……」
「そういうことにしてあげな。ほら、若者の前でカッコつけたがりのそこの先輩さんが、気まずそうな顔しちゃってる」
いやだって、
「そういうわけで、あんまりこの先輩を問い詰めないであげてね、イシュシュちゃん」
「まー、わかってるっすけどぉ……納得いかねーっすよ」
「ユラリも、カッコつけるのも大概にしなよ〜」
割と面倒くさいことになると思っていたが、ヒスイに宥められてかイシュシュも深くは追求してこなかった。
というかついでに
同い年なのに、なんか子供扱いされてる気がする。
やっぱりこれはアレなのか、二児の母で孫のいるおばあちゃんと、独身おっさんの違いなのか?
◆
なんだか今日の先輩は、少しだけいつもと雰囲気が違った。
イシュシュの前では意識して少しだけカッコつけているのがわかっていたが、今日のユラリはなんというか、童心に帰っていたというか。
イシュシュにとって、ユラリがしがらみなどを抜きに気を抜けることは嬉しいこと、そのはずなのに。
自分の知らない一面。
自分の知らない側面。
自分は見たことも、させることも出来ない、笑顔。
らしくないとは思いつつも、少しだけ妬いてしまう。
所詮自分は後輩で、いつまで経っても幼い弟子。
この人がどういう人生を送ってきたのか、これっぽっちも知らないのだから。
……と、人生と聞いて、一つだけ。
通常、魔法少女の魔力器官の成長は十代後半でほとんど終わる。
それ以降は衰えるのを阻止するのが主となるが、今日ヒスイから習ったことが正しいなら、まだユラリの魔力器官が、
イシュシュは、ユラリが魔力切れを起こしているところを見た事がない。
久しぶりに、イシュシュは本当の意味で、ユラリという存在を遠くに感じてしまった。
・マクマン
人類に初めて接触した異界存在の一匹。魔九院ユラリの
ユラリとは勝手知ったる仲で、彼女が元男性であることを知る数少ない存在。ユラリのことは友人であり、相棒であり、子供のようなもので、できるだけ自由に過ごして欲しいと思っている。
・白神ヒスイ
ユラリの同期。元男性で、初期型魔法少女。
人類の食文化保存の研究に携わっており、それ以外にも薬学など多くの分野に通じる、非戦闘員の魔法少女。最初の方の魔法少女婚の実例で、二児の母だし、孫がいるし、一人は自分で産んでいる。ユラリと二人きりだと孫の話ばかりするので、ユラリは正直今回イシュシュがついてきてよかったと思ってた。
植物に干渉する【