それは、遠い記憶の話だ。
「エ……じゃなくて。ユラリー! 良かった、生きてた!」
一瞬、俺の魔法少女名ではなく、本名を呼びそうになりながら現れたのは、和装の剣士といった風貌の魔法少女。
俺の幼馴染で、そして一緒に魔法少女にまでなってしまった腐れ縁。───魔法少女名、
「何とか俺の部隊はな。そっちは?」
「……エイシュの、死体が見つかった」
「……期待はしてなかったけど、そうか」
仲間が死んだという事実を、当たり前のように流してしまっている自分。
それが一番嫌だったが、そうでもしないとやっていられない。いちいち感傷に浸っていたら、いつまで経っても魔獣を滅ぼすことはできないのだから。
「
「巣に持ち帰られてなきゃな……。あの手の個体が増えたらやばいじゃすまねぇ」
当時、ヒスイ達が中心となって作成した
魔獣による
今までなら考えられない距離、精度で放たれた魔弾で、小隊が二つ全滅した。
調べたところ、
魔獣が人間の武器を取り込み、強化されることは知っていたが、まさか
「ケ……じゃなくて。ヒスイによれば、アイツらは概念を捕食するらしいからね。やっぱり、以前みたいな武装は無しの方がいいのかな?」
「カレン、お前さっきから俺たちの本名言いそうになるのやめろよ?」
「別に私達だけだからいいじゃん」
「当たり前だ。もしも人前で本名呼ばれたら、俺とヒスイは恥ずかしくて死ぬ」
いきなり世界が滅んだと思ったら、よく分からない妖精みたいなのと出会って。
魔法少女、なんて絵空事だと思っていた存在になって。
俺とヒスイは女の子になってしまったから、てっきりそういうものかと思ったら、俺とヒスイ以外ほとんど最初から女子みたいで、正直に言ったら連携に影響が出そうだから、隠しているのだ。
「じゃあせめてそっちも隠しなよ。俺、なんて言う女の子、あんまりいないよ?」
「……
「うわっ、演技下手っ」
うるせぇ、と言って、そんなやり取りにお互い苦笑する。
こんなの現実逃避でしかないのに。
「でもどうしようね。このままじゃ、どんどん魔法少女は減ってくばかりだし」
そういいながら、自分の武器である剣を杖にして寄りかかったカレンを見て、俺はふと思った。
「そういえば、カレンの剣って、コスチュームの一部みたいなもんで、自由に出し入れできるんだよな」
「そうだよ。それに、私の魔法があるから武器になるだけで、これ自体は他の人が使っても、棒切れ以下の武器にしかならないんだ」
「あー。だから前魔獣にそれが奪われても、向こうに変化が無かったんだな」
普通なら、剣の類を食べれば魔獣は近接戦闘能力が向上するだろうに、カレンの剣は食べられても意味がなかった。
……つまり。
「……カレン。その剣って、お前が使わないと意味ないんだよな」
「そう言ってるじゃん。それがどうしたの?」
「お前が使うからこそ、それは【武器】になって、お前の手の中にない時は、【武器】ではない?」
「だからそうだけど……って、まさか!」
俺達には、それぞれ一人一人別にして唯一の武器、固有魔法がある。
魔法少女の遺体を魔獣に奪われても、固有魔法が奪われないのは確認済み。固有魔法は、その本人のみが持つという概念であり、他人が使えるものではない。
ならば───。
本人の魔法によってのみ武器としての性能を発揮し、それ以外の人間にとっては、無用の長物を武装とすれば。
「その武器に、【武器】としての概念は宿らない、のかも?」
「わかんねぇ、けど。試さなきゃジリ貧だろ」
そうして、その案をヒスイのところに持ち帰り、皆で協力して、研究の末に生み出された、個々人のみが扱える専用装備。
それこそが、専用
◆
「その、コンセプトとしましては……アメジアくんの優れた魔力操作技術と彼女の魔法による圧縮された魔力を扱うという特性で、本来ならエネルギー量的に運用が非現実的な大型兵装の実戦投入をですね」
「
「ワァ……」
「ユラリさんストップ! キリクさん泣いちゃってます!」
と、少し熱くなって語りすぎてしまった。
いつの間にか、正座をしていたはずのキリクさんは床に泣き崩れてしまっている。
だが、これはダメだろというのが正直な感想。まずこれを着せられるアメジアさんが可哀想すぎるし。
「これはあくまで試作品のデータの一つですから、他にも色々試していくもので……」
「でも、キリクさんの設計思想、全部に重装甲が入っているよね? 装甲に対する注意は技師なら知らないはずないよね?」
「ひぁ、そのぉ……」
「ユ、ユラリさん! ほら! 他にも試作品ありますから! 今日はデータ収集が目的なので! キリクさん! 準備してきてください!」
「うん……」
ぺしょぺしょになったキリクさんは、ぺしょぺしょのまま端末を素早く手元で操作しながら、一旦退室していく。
……ちょっと昔を思い出して、言い過ぎてしまったかもしれない。
実際、あの手の
「その……まずは、すいませんユラリさん。その、馴れ馴れしかったですよね」
「え?」
「私、ユラリさんがそんなすごい人だったなんて知らなくて」
「あ、気にしないでアメジアさん!」
そういやキリクさんが言ってしまったが、専用
設計とかはだいたいそっちの畑の人がやったし、構想とか、実戦投入できるようになるまでのテストをしたりとかしたくらいだ。
「でも、そう言われると、初めて会った時に私の
「あれはねー。
「すごい……プロの人だ……!」
アメジアさんはただでさえ宝石のような瞳をキラキラ輝かせてこちらに向けてくる。まずい、あんまり最近出会わなかったタイプの後輩過ぎて、ちょっと眩しい。
「ユラリさんって、なんでも知っていて、すごくて、かっこよくて、まるで……」
「まるで?」
「おばあちゃんみたいです!」
一瞬、意識が遠のき、三途の川の向こうから手を振っている旧友達の姿が見えた。
でもごめん、絶対今見るものじゃないやこれ。
「……あ!? いや、今のは、私のおばあちゃん、すごくかっこよくて、私が触れない虫とかも取ってくれて、大好きってことで!」
「う、うん……大丈夫、ありがとね」
意図は伝わるが、さすがに今のはダメージがデカかった。
幾ら見た目が老いなくても、やはり精神面の、滲み出す老人感は隠せないということなのか!?
やっぱり、若い子にウケがいいかもと思って飴とか持ち歩くのはダメか? キヨラちゃんにも「それめちゃくちゃおばあちゃん感強いんでやめた方がいいですよ」って言われたもんね。
でも、普通に
「……本当に、私は運が良い魔法少女です。ユラリさんや、キリクさんや、レッちゃんやノンちゃんみたいな、優しい人達に出会えて」
己の老いと戦っている
レッちゃんやノンちゃんは……あだ名だろうが、名前の響きから彼女とよく行動を共にしている同僚の魔法少女であることはすぐにわかった。
こうやって、周りに感謝できるあたり、本当に純粋というか、ある意味で今の若手のエースのような扱いは向いてないのかもと思ってしまわなくもない。
「でも、キリクさんはちょっと自我強くない? ああいう人も必要だけどね」
「た、たしかにちょっとロボが好きすぎるし、押しが強いところあるんですけど、いい人なんです!」
「大丈夫? 騙されてない?」
「本当なんです! 一番最初に会った時、聞かれたんです。戦う時、何が一番怖いかって」
魔法少女の敵、つまり魔獣は恐怖の概念を力の根底にする。
故に、魔法少女は彼らを恐れてはいけない。のだが、容赦なくこちらを殺しにくる怪物を恐れるな、なんてのは無理な話で。
「……正直に、近づいて戦うのは怖いって言ったら、キリクさんってば重装甲ばかりオススメしてきて……なんだか嬉しくて断れなくて。すいません、私が悪いんです」
……なるほど。
技師としては、本人の気持ちの問題よりも、データと向き合うべきなのだろうが、個人的にそういう心意気はあまり否定したいものでも無い。
それはそれとして、あのロボ趣味は……かっこいいけどね? かっこいいが、どうかと思う。魔法少女っぽくはないよね。
「事情はわかったけど、それはちゃんと言わないとダメだよアメジアさん。専用
「はいっ! 気をつけます!」
自分でもちょっと語気を強め、怒っている風に言ったのに、何故かアメジアさんは嬉しそうだった。
やっぱりこの顔、威厳はないよなぁ……、と思わず頬に手を触れると、何かに気付いたアメジアさんが慌てて訂正を入れてきた。
「あ、その。私、あまり怒られる経験とかなくて。お母さんも小さい頃に亡くなってて……誰かに助けてって、素直に言えなくて。だから、こうやって助けて貰えるのが嬉しくて」
「……
「そうかもしれないですけど。でも、魔法少女って、みんなを助けるものじゃないですか。じゃあ、私達が困っている時、誰が私達を助けてくれるんだろうって、いつも不安で」
そういいながら、彼女は
「ユラリさんみたいな、
だから、ありがとうございます、と。
そんなことを、真正面から言われて。
ずっと、ずっと見送って、見捨てて、切り捨てて来た
「……ありがとう」
「い、いえ! 私なんてユラリさんにお礼を言われるようなことは……」
「ううん。……ありがとう」
「お、お待たせしましたー! これが他に考えていた重装甲以外のプランなんですが、まずはこれは掘削機をモデルにした中遠距離の強化パーツで……」
と、いい感じの雰囲気を切り裂きながら、またちょっとダメそうな案をキリクさんが持ってきた。
「アメジアさん。流石にって思ったら、言っていいんだよ」
「は、はい……。こら、キリクさん! えっと……シロウトシツモンデキョウシュクデスガ! シンキセイ!」
「ヒィィィィィィィ!?」
「あ、それは言い過ぎ!」
思ったよりも時間はかかりそうだが、今日はもう少し付き合うとしよう。
・
黎明期に活動していた、ユラリの幼なじみであった魔法少女。
ユラリを押して戦闘特化で知られる魔法少女であり、半ば軍神のように信仰すらされている存在。コスチュームは和装の剣士。
万物を切り伏せる最強の矛たる魔法【
故人。
・魔九院ユラリ(若かりし姿)
鎺カレンが生きていた頃のユラリ。正直自分が魔法少女の中でいちばん可愛いな?って思っていた頃。
今よりも余裕がないため、常にコスチュームを着ていて、それもあってかちょっと常に恥ずかしがっている初々しさのある、TS娘のトロの頃。
全体的に今より乱暴で勝気。何事にも積極的だが、感覚派の天才だったため教えるのは下手くそだったとか。