【ゆる募:うちの自治区を発展させる方法】   作:空紅 唯空

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アステラ自治区の怖い噂①
侵入した密猟者が誰も帰ってこないらしい


9話 ――ようこそ、要塞都市ステラガルドへ!

古龍イヴェルカーナとの予期せぬ遭遇から、十数分後。

飛行船は、ようやく目的地へと近づいていた。

 

眼下に広がっていた森林が途切れ、岩山に囲まれた開けた土地が見えてくる。

そして、その中央に――巨大な人工物が姿を現した。

 

まず目に入るのは、都市を取り囲む分厚い城壁。

その上には、巨大な砲台や監視塔が一定の間隔で配置されている。

城壁のさらに内側には、石造りと木造の建物が幾重にも立ち並び、中央には一際大きな建造物がそびえ立っていた。

 

崖に沿って設置された飛行船発着場。

街を横断する石畳の道。

商店が並ぶ市場。

煙を上げる鍛冶場。

 

そして、外敵の侵入を防ぐための巨大な門。

それらが一体となって、一つの都市を形作っていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「さて、ここがアステラ自治区唯一の都市。要塞都市ステラガルドだよ!」

 

カメラが、都市の全景を映し出す。

 

ライブチャット

: うおおおおおおお!!!!

: でっっっっっっっか!!!!

: まあ……! なんて立派な都市なのでしょう!

: ……想像以上の規模ですね。

: これがステラガルド!?

: 要塞って聞いてたけど本当に要塞じゃねーか!!

: まるで古いお城のようですわね。

: 城壁の厚さ、砲台の配置、監視塔の数……防衛を最優先した都市設計に見えます。

: ていうか、ここに684人しか住んでないの!?

: 嘘だろ!? どう見てももっといるだろ!!

 

飛行船はゆっくりと高度を下げていく。

街の外縁部に設置された発着場には、荷物を運ぶ職員や、出発準備をしているハンターたちの姿が見えた。

 

「こちらがステラガルドの飛行船発着場です」

「物資輸送、狩猟で得られた素材の運搬、遠方への人員輸送などを行っています」

「今回回収したイャンガルルガも、ここからギルドの施設へ運ばれる予定です」

 

飛行船が接岸する。

 

――ゴトン。

 

係留用の設備が船体を固定し、乗降用の足場が下ろされた。

 

「よーし、到着!」

「会長さん、書記さん、お疲れさん!」

 

「ありがとうございました」

 

二人は甲板から発着場へと降りる。

澪はカメラを持ち直し、周囲の様子を映し始めた。

荷物を積み上げる作業員。

大きな木箱を運ぶ人影。

荷車を押す小柄な――

 

……小柄な?

 

ライブチャット

: ん?

: んん?

: ……あら?

: 今、画面の端に何か……。

: ちょっと待って。

: なんか小さいのいなかった?

 

――ニャ?

カメラの端。

大きな木箱を二匹がかりで運んでいる、小さな生き物がいた。

 

丸い耳。

ふさふさの尻尾。

柔らかな毛並み。

二本足で歩き、作業用の服を着ている。

 

その姿は――どう見ても猫だった。

 

「よいしょ、よいしょ……ニャ!」

 

「そっち、もうちょっと持ち上げるニャ!」

 

「分かってるニャ! でもこれ重いニャ!」

 

「あとちょっとニャ! 頑張るニャ!」

 

二匹は協力して木箱を運び、指定された場所へと置いた。

 

――ドスン。

 

「ふぅー! 終わったニャ!」

 

「次はあっちの荷物ニャ!」

 

そして、何事もなかったかのように次の作業へ向かっていく。

 

…………。

 

………………。

 

ライブチャット

: ?????????

: は?????

: えっ……?

: ……今のは?

: 猫?

: 猫だよな?

: ね、猫さんが……。

: 二足歩行してたぞ!?

: しかも喋ったぞ!!!!

: 人語を使用する猫型の知的生命体……?

: いやいやいやいや待って待って。

: か、可愛らしい……!

: なんだあの生き物!?

 

澪がカメラを少し動かす。

すると。

 

「三番船の点検、終わったニャー!」

 

「おう! ありがとな!」

 

「次は二番船を見てくるニャ!」

 

飛行船の足場を、工具箱を抱えたアイルーが駆けていく。

 

別の場所では――

「この荷物はギルド行きニャ!」

 

「了解ニャ! 台車持ってくるニャ!」

 

さらに別の場所。

「次の便に乗る人は、こっちで受付するニャー!」

 

人間の職員とアイルーが、ごく当たり前のように一緒に働いていた。

誰も不思議がっていない。

むしろ、発着場の仕事はアイルーがいなければ回らないのではないかと思えるほど、あちこちで活躍している。

 

ライブチャット

: 増えたああああああ!!!!

: 猫だらけじゃねーか!!!!

: か、可愛い……とても可愛いですわ……!

: 複数個体を確認。社会的な役割分担も成立しているようですね。

: 何これ!? アステラって猫の街なの!?

: さっきまで古龍にビビってたのに今度は猫!?

: あの小さな手で一生懸命荷物を運んでいますわ……!

: ちょっと待って、めっちゃ可愛い。

: おい誰か説明しろwwwww

 

そのとき。

荷物の確認をしていた一匹のアイルーが、こちらに気づいた。

茶色と白の毛並み。

小さな作業帽。

腰には道具を入れたポーチ。

 

「……ニャ?」

 

アイルーが首を傾げる。

 

「おや? 会長さんと書記さんじゃニャいか!」

 

とてとてと、小走りで近づいてくる。

 

「おかえりニャー!」

「今日はずいぶん早いお帰りだニャ!」

 

「ただいま戻りました」

 

澪は自然に挨拶を返す。

 

「ところで、その変な機械は何ニャ?」

 

アイルーがカメラを覗き込む。

画面いっぱいに、丸い猫の顔が映った。

 

「……ニャ?」

 

カメラを見つめる。

右に首を傾げる。

左にも傾げる。

そして。

 

「……もしかして、撮影中かニャ?」

 

「はい。今は自治区紹介の生配信中です」

 

「生配信?」

 

一瞬考え込んだ後。

 

「……つまり、たくさんの人が見てるってことかニャ!?」

 

アイルー職員

 

「よ、四万人!?」

 

アイルーの尻尾が、ぴんっと立った。

 

「そ、そんなに見てるのかニャ!?」

 

そして、慌てて姿勢を正す。

小さな帽子を整え、カメラへ向かってぺこりと頭を下げた。

 

「こ、こんにちはニャ!」

「ステラガルド飛行船発着場で働いてるアイルーだニャ!」

「よろしくお願いしますニャー!」

 

ライブチャット

: かわいいいいいいいい!!!!

: あああああ可愛らしいですわ!!!!

: なんだこいつ可愛すぎるだろ!!!!

: ……非常に興味深いですね。

: アイルーっていうの!?

: 挨拶してくれたwwww

: こちらこそよろしくお願いいたしますわ!

: よろしくニャー!!!!

: おい語尾うつってんぞwww

: 可愛いから仕方ないだろ!!

 

 

コメント欄がアイルーの話題で埋め尽くされる中、一つのコメントが流れた。

 

: ……少し確認したいのですが。

: ん?

: 先ほど、アステラ自治区の人口は684人と説明されていましたよね?

: ああ、そうだったな。

: ですが、現在映っているアイルーたちも、明らかに都市の労働力として活動しています。

: ……確かに。

: 彼らは、人口に含まれているのでしょうか?

: あっ。

: あー……。

: そういや、この都市を684人だけで維持できるのか不思議だったんだよな。

: つまり……。

: まさか、人口とは別に猫が大量にいるのか!?

: いやでも、何匹いるんだ?

: それに、彼らの仕事は飛行船発着場だけなのでしょうか?

: 待て待て。あの街の規模で猫が働いてるなら……。

: 鍛冶屋にも?

: 食堂にも……?

: まさか狩猟にも!?

 

「……会長」

 

澪はコメント欄を確認してから、静羽の方へカメラを向ける。

 

「どうやら、皆さんアイルーたちについて興味を持たれたようです」

「人口の数え方についても質問が来ていますね」

 

その足元では、先ほどのアイルー職員が不思議そうに首を傾げていた。

 

「ニャ? ボクたちの話かニャ?」

「何か聞きたいことがあるなら、答えるニャ!」

 

澪は少し考え、静羽に確認する。

 

「……せっかくですし、ここでアイルーたちの紹介もしておきましょうか?」

 

カメラには、静羽と澪、そして二人の足元でちょこんと立つアイルーが映っている。

その背後では、別のアイルーたちが元気よく荷物を運んでいた。

ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・

Tips:アイルーの肉球はぷにぷにしている

   アイルーは人懐っこいが稀にツンデレさんがいる

   アイルーは生後数か月は動くものすべてに突撃してしがみつくので運が良ければ猫団子になる

   アイルーは可愛い・綺麗な・渋い・カッコいい等々、色々なタイプの子がいる

   アイルーと仲が良ければ尻尾で顔をぺしぺししてくれる

   アイルーはいます。ここにも、そこにも。どこにでも。

 

ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・

飛行船発着場。

 

行き交う職員たちの間を、小さな獣人たちが忙しそうに駆け回っている。

荷物を運ぶ者。

伝票を確認する者。

飛行船の整備を手伝う者。

 

その姿に、配信のコメント欄は大いに盛り上がっていた。

 

「彼らはアイルー。アステラ自治区において、人類の隣人として共に生活している獣人族です」

 

澪はカメラをアイルーたちへ向けながら、説明を続ける。

 

「見た目は猫に似ていますが、高い知性を持ち、私たちと同じように言葉を話し、道具を扱い、社会生活を営んでいます」

「アステラ自治区では、人間とアイルーが互いに協力し合いながら暮らしており、彼らもまた、この土地を支える大切な住民です」

「職業も多岐にわたり、料理人、鍛冶職人、商人、運搬業、ギルド職員など、様々な分野で活躍しています」

「中には、ハンターと共に狩猟へ赴く『オトモアイルー』もいますね」

 

ライブチャット

: へええええ!!

: 人間と共に生活しているのですね!

: てっきりペットかと思ったけど、普通に働いてるんだな。

: 独自の文化と社会性を持つ知的種族ということですね。

: オトモアイルー!?

: え、あのちっこい体で狩りに行くの!?

: まあ……勇敢ですこと。

: 体格差を考慮した専用装備や戦術が存在するのでしょうか。

 

澪が真面目に説明している、そのすぐ横。

静羽は、先ほど挨拶してくれたアイルー職員の前にしゃがみ込んでいた。

 

そして。

 

なでなで。

 

「……ニャ?」

 

なでなでなで。

 

「ニャ、ニャニャ……?」

 

アイルーの耳がぴくぴくと動く。

尻尾が、ゆらゆらと揺れ始めた。

静羽はすっかり上機嫌で、アイルーの頭を優しく撫でながら、何やら熱心に褒めている。

 

「そ、そんなに褒めても何も出ないニャ……!」

 

しかし、口ではそう言いながらも、アイルーは逃げようとしない。

むしろ、少しずつ目を細め始めている。

 

「……ニャぁ……」

 

完全に気持ちよさそうだった。

 

ライブチャット

: wwwwwwww

: おい会長wwww

: あらあら……!

: ……会長は何をしているのでしょうか。

: 猫撫でてるwwww

: 書記ちゃんが真面目に説明してる横でwww

: でも、アイルーさんも嬉しそうですわね。

: 会長、めっちゃ手慣れてない?

 

「また、アイルーたちの仕事は都市内部に限りません」

 

澪は説明を続ける。

 

「アステラ自治区には、各フィールドにハンターや調査員が利用する拠点が設けられています」

「森林、草原、砂漠、雪山など、環境の異なる地域に設置された拠点ですね」

「アイルーたちは、そうした拠点の維持管理も担当しています」

「物資の補充、設備の点検、周辺環境の調査、緊急時の救護支援など、その仕事は多岐にわたります」

「彼らの協力がなければ、現在のアステラ自治区の探索活動は成り立たないと言っても過言ではありません」

 

ライブチャット

: なるほど。都市だけでなく、自治区全域の物流を支えているのですね。

: すごい重要な仕事じゃん!

: 小さな体で、そんなにたくさんのお仕事を……。

: てか雪山にも行くのか!?

: アイルー、思ってた以上にたくましい。

: 都市人口が少なくても、彼らの存在を考慮すれば労働力の説明がつきますね。

 

静羽は相変わらず、アイルー職員を撫でていた。

しかも、ただ撫でるだけではない。

仕事ぶりを褒め、毛並みを褒め、働き者であることを褒め――。

 

とにかく、褒める。

 

「そ、そうかニャ?」

「ボク、そんなにすごいかニャ……?」

 

尻尾がぴんと立つ。

 

「いやぁ、それほどでもあるニャ!」

 

すっかり得意げになってしまった。

その様子を、澪は説明の合間にちらりと確認する。

 

「…………」

 

一瞬、何か言いたそうな顔になる。

しかし。

 

「……なお、アイルーたちはそれぞれ独立した意思を持つ住民ですので、雇用関係なども基本的には本人の意思を尊重して決定されます」

 

さらりと説明を続けた。

 

ライブチャット

: 会長wwwwww

: 完全に口説いてるだろこれwww

: アイルーさん、とても嬉しそうですわ。

: 褒められてどんどん調子乗ってるwww

: 会長の対人……いえ、対アイルー交渉能力が高いですね。

: あれ絶対、勧誘しようとしてるだろ!!

 

「さて、先ほど質問のあった人口についてですが……」

 

澪はカメラを自分の方へ戻した。

 

「先ほどお伝えした684人という数字は、アステラ自治区に居住する人間の人数です」

「アイルーたちは別に集計されていますので、実際に自治区で暮らしている住民の総数は、それよりも多くなります」

「ですので、ステラガルドの都市機能を人間684人だけで維持しているわけではありません」

 

ライブチャット

: あーーーー!!!!

: やっぱりそういうことか!!

: なるほど。統計上の区分が異なっていたのですね。

: それなら納得ですわ。

: いやでも、アイルー何匹いるんだろ?

: この街、思ったより住民多いのかもしれないな。

: 人間とアイルーの労働人口比率が気になります。

 

「ニャ〜……」

 

静羽の手の下で、アイルーはすっかり目を細めていた。

耳はぺたりと寝かされ、尻尾はご機嫌に揺れている。

 

「会長さん、撫でるの上手だニャぁ……」

「もうちょっとだけお願いするニャ……」

 

仕事中である。

しかも、生配信中である。

 

そんなことは、もはやどうでもよくなっているらしい。

その様子を見た別のアイルー職員が、近づいてきた。

 

「おーい! 何してるニャ! 次の荷物が――」

 

ぴたり。

足を止める。

静羽に撫でられ、幸せそうな顔をしている同僚を見つめる。

 

「…………」

 

「……ずるいニャ」

 

ライブチャット

: wwwwwwwwww

: 増えるぞこれwwww

: まあ! もう一匹!

: 順番待ち発生wwww

: ……業務効率への影響が懸念されます。

: 真面目に分析すんなwwww

 

澪は、そんな光景を横目で見ていた。

 

一匹目のアイルーは完全に懐いている。

 

二匹目は羨ましそうに見つめている。

 

そして生徒会長は、実に楽しそうだ。

 

「…………会長」

 

一拍置いて。

 

「……アイルーたちと仲良くするのは結構ですが、職員の業務を止めないでくださいね」

 

しかし、注意を受けた一匹目のアイルーが、すかさず反論する。

 

「だ、大丈夫ニャ! ちょっと休憩してるだけニャ!」

 

「お前、さっき休憩終わったばっかりだニャ!」

 

「…………ニャ」

 

「…………」

 

「……あと一分だけニャ」

 

ライブチャット

: 一分wwwww

: 交渉始めたwww

: ふふっ、可愛らしいですわね。

: ……アイルーの勤怠管理も大変そうですね。

: 書記ちゃんの苦労が増えていくwww

: 会長、古龍見ても平然としてたのに猫にはめっちゃ甘いの草。

 

澪は小さくため息をついた。

 

「……皆さん。ご覧のとおり、人間とアイルーの関係は非常に良好です」

「……良好すぎる場合もありますが」

 

その言葉に、コメント欄が再び笑いに包まれた。

 

 

 

 

[一分後]

 

「ニャ〜〜……♪」

 

静羽の手の下で、アイルーが幸せそうに目を細めている。

尻尾はゆらゆら。

耳はぴくぴく。

すっかりご満悦だった。

 

その隣では、もう一匹のアイルーがじっと様子を見ている。

 

「……あと何秒ニャ?」

 

「……五秒ですね」

 

「ニャッ!?」

「もうそんなに経ったのかニャ!?」

 

「ずるいニャ! ボクも撫でてもらいたかったニャ!」

 

「……お二人とも、勤務中ですよね?」

 

「「ニャ…………」」

 

そして、約束の一分が経過した。

静羽が手を離すと、アイルー職員Aは名残惜しそうに耳を伏せた。

 

「……もう終わりかニャ」

「でも、すっごく気持ちよかったニャ!」

「会長さん、ありがとニャー!」

 

「次はボクもお願いするニャ!」

 

二匹は小さな前足を振る。

 

「ばいばいニャー!」

 

「また来てニャー!」

 

静羽も手を振り返し、二匹と別れた。

アイルーたちは元気よく仕事へ戻っていく。

 

……一匹目が何度も振り返っていたのは、ご愛嬌である

 

ライブチャット

: ああああ行っちゃった!!

: 最後まで可愛らしかったですわ……!

: 一分きっちり撫でてて草。

: 約束の時間を守った点は評価できますね。

: 俺もアイルー撫でたい。

: わかる。

: 私も一度お会いしてみたいですわ。

 

「さて、もうそろそろお昼の時間じゃない?」

 

白峰 澪

 

「……そうですね」

 

澪はマジカルフォンで時刻を確認した。

 

「ちょうど昼食の時間帯です」

 

「配信開始から随分経ちましたし、そろそろ休憩を挟んでもよい頃合いですね」

 

そこで、コメント欄が反応した。

 

ライブチャット

: お昼!!

: 飯の時間か!

: そういえば、もうそんな時間なのですね。

: アステラのご飯ってどんなの?

: 地域特有の食文化にも興味があります。

: モンスターの肉とか食うのかな。

: えっ。

: いや、あれだけモンスターがいるんだし。

: ……確かに、食材として利用される可能性はありますわね。

: そういやさっきのイャンガルルガも回収してたな。

: まさか昼飯になるのか!?

: 食用に適した種類かどうかは別問題でしょう。

 

澪がカメラを街の方へ向ける。

飛行船発着場から続く大通りには、石畳が敷かれていた。

通りの両側には商店が並び、買い物客や仕事中の住民たちが行き交っている。

 

人間に混じって、アイルーたちの姿もあった。

大きな籠を抱えて歩くアイルー。

店先で野菜を並べるアイルー。

小さな台車に食材を積んで運ぶアイルー。

 

そして――。

 

どこからともなく、香ばしい匂いが漂ってきた。

じゅうじゅうと何かを焼く音。

鍋の中で煮込まれるスープ。

焼きたてのパンの香り。

通りの先には、飲食店が集まる一角が見える。

 

「……ちょうどいいですね」

「この先には食堂や飲食店が集まっていますので、昼食を取りながらステラガルドの食文化を紹介するのもよいかもしれません」

「もちろん、配信中ですから、撮影可能なお店を選ぶ必要がありますが」

 

ライブチャット

: 飯テロ配信きたあああ!!

: いいぞいいぞ!!

: 地元のお料理、ぜひ拝見したいですわ!

: 食材の供給経路や調理法にも興味があります。

: てかアイルーが料理してる店とかあるの!?

: さっき料理人もいるって言ってたぞ!

: アイルーさんのお料理……!

: 絶対見たい!!

 

ところが、書記には一つ懸念があった。

 

「……会長」

 

澪は静羽へ視線を向ける。

 

「一応確認しておきますが……」

「今日の昼食代は、各自の私費ですよね?」

 

先ほどのイャンガルルガ討伐で、静羽が損傷した太刀の修理費を配信経費にしようとした件。

澪は、まだ忘れていなかった。

 

しかし。

 

「い、いや。昼食はちゃんと経費にしていいか事前に確認取って許可貰ってるから!?」

「なんと、2000クレジットまでなら経費で出せます! 2人で合計4000クレジットーー!」

 

両手を広げ、どこか誇らしげに宣言する静羽。

まるで、とんでもない偉業を成し遂げたかのような態度だった。

 

「…………」

 

澪が固まった。

そして、数秒後。

 

「…………え?」

 

思わず聞き返す。

 

「……事前に?」

「許可を?」

「……取ったんですか?」

 

ライブチャット

: wwwwwwwww

: なんでそんな驚いてんだよwww

: まあ! きちんと申請されていたのですね!

: 一人当たり2,000クレジット、二名で合計4,000クレジットの予算ですね。

: 書記ちゃんの反応wwww

: 普段どんだけ信用ないんだよ会長www

: ですが、事前に許可を得るのは当然の手続きでは……?

: それをやっただけで驚かれる生徒会長。

 

澪は少し考えた。

 

確かに。

今回の配信は、アステラ自治区の知名度向上を目的とした公式広報活動である。

その一環として地元の飲食店を紹介するのであれば、食事代を広報費として計上することにも合理性はある。

しかも、事前申請済み。

 

承認済み。

 

上限額まで決まっている。

何の問題もない。

 

「……なるほど」

「それなら問題ありませんね」

 

澪は素直に頷いた。

 

「公式配信における飲食店紹介の費用として、事前に承認されているのであれば、適切な支出です」

 

そして。

 

「……失礼しました。てっきり、またその場の思いつきで経費にしようとしているのかと」

 

ライブチャット

: またwwwww

: 『また』って言ったwww

: ふふっ、書記さんも大変そうですわね。

: 今回は会長の手続きが適切だったということですね。

: 会長の勝利!!

: なんの勝負だよwww

 

ただし、書記ちゃんは書記ちゃんだった。

 

「では、領収書は必ず受け取ってください」

「二人それぞれ上限2,000クレジットですので、片方が余らせた分をもう片方に回せるかどうかは、承認条件の確認が必要ですね」

「それから、私的な買い物は含めないでください」

 

「……あと、念のため申し上げますが」

 

澪は、静羽の方をまっすぐ見た。

 

「昼食代の許可が下りたからといって、太刀の修理費まで認められたわけではありませんからね。」

 

ライブチャット

: wwwwwwwwww

: まだ刀の話してるwwww

: そこは別件ですものね……。

: 正しい判断です。

: 書記ちゃん、絶対に譲らないwww

: 経費4,000クレジット確保したのに刀の修理費はゼロwww

 

そこへ、近くの食堂から元気な声が響いた。

 

「お昼ご飯の時間だニャー!」

 

「今日も美味しい料理がいっぱいだニャ!」

 

「焼きたてのお肉、できてるニャー!」

 

「今日のおすすめ定食もあるニャ!」

 

「昼飯まだのやつは寄ってけよー!」

 

街は、ちょうど昼の賑わいを迎えようとしていた。

 

「……さて、会長」

 

澪は改めて飲食店が並ぶ通りへカメラを向ける。

 

「せっかく予算も確保していただいたことですし、今日は少し豪華な昼食にしてもよさそうですね」

「……一人2,000クレジット以内で、ですが」

「せっかくの紹介配信ですし、普段よく利用するお店でも構いませんよ」

 

コメント欄には、早くも期待の声が溢れている。

 

ライブチャット

: 書記ちゃん、予算管理が徹底してるwww

: で、何食うの!?

: アステラの郷土料理が気になりますわ!

: 価格と料理の内容を比較してみたいですね。

: 4000クレジットでどれだけ食えるんだろ。

: 飯テロ配信の始まりだあああ!!

 

澪は小さく息をつきながらも、どこか安心した様子だった。

少なくとも今回は、会長がきちんと事前申請を済ませていた。

それだけで、昼食に関する事務処理はずいぶん楽になる。

 

(……最初からこうしてくだされば、何も問題ないんですけどね)

 

そんなことを考えながら、澪はカメラを静羽へ向けた。

 

「それでは会長。お店はもう決めていらっしゃいますか?」

 

――なお、昼食予算の確保をここまで誇らしげに発表する生徒会長は、キヴォトスでもなかなか珍しいと思われる

 

 




アイルー可愛いよアイルー

アイルーと共にあらんことを。
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