【ゆる募:うちの自治区を発展させる方法】   作:空紅 唯空

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5話 自治区紹介生配信

 

【挿絵表示】

 

 

 

澄み渡る青空。どこまでも続く草原。

 

画面中央には、赤と黒の華やかな和装をまとった久世静羽。

 

そして、カメラの向こうから落ち着いた女性の声が聞こえる。

 

「会長、もう配信開始してます」

 

「えっ」

 

一瞬の沈黙。

 

風が吹き、静羽の長い黒髪と赤い羽織が揺れる。

 

「……はい。先ほどからずっと映っています」

 

「ちなみに、音声も入っていますので」

 

ライブチャット

名無しのキヴォトス生: wwwwwww

名無しのゲヘナ生: 開始してるの気づいてなかったのかよwww

名無しのトリニティ生: あらあら、可愛らしいハプニングですわね。

名無しのミレニアム生: 配信開始から約24秒。どうやら配信者本人が開始を認識していなかった模様。

名無しのキヴォトス生: えっ、が素すぎるwww

名無しのキヴォトス生: あっ、これ絶対あのスレ主だわ。

名無しのゲヘナ生: ドラゴンの横に定規置きに行った人とは思えない反応で草。

名無しのキヴォトス生: 待って、ドラゴンの横に定規って何!?

名無しのトリニティ生: カメラ担当の方、とても落ち着いていらっしゃいますわね。

名無しのミレニアム生: むしろカメラ担当が配信進行を管理しているようですね。

名無しのゲヘナ生: もうこの二人のやり取りだけで面白いんだがwww

 

「……会長。視聴者の皆さんがお待ちです。まずはご挨拶をお願いします。」

 

 

「え~、こほん。本日はお日柄もよく、晴天の空のもと始めさせていただきます。

どうも皆さん。アステラ学園生徒会長の久世静羽です。本日は自治区を紹介するために配信しています。」

 

「カメラ担当の生徒会書記、白峰 澪(しらみね みお)です。」

 

静羽は堂々と挨拶をしている。

……ように見えるが。

 

その赤い瞳は、時折カメラの横へと動いていた。

ちらっ。ちらっ。

そこには、澪が用意した挨拶用のカンペがある。

 

静羽がカンペに視線を移すたび、澪はわずかにカメラの角度を調整していた。

 

ライブチャット

名無しのキヴォトス生: おお! 始まった!

名無しのトリニティ生: ごきげんよう、静羽様、澪様。

名無しのゲヘナ生: よろしくー!!

名無しのミレニアム生: 生徒会長と書記による公式配信ですね。

名無しのキヴォトス生: なんかめっちゃ丁寧な挨拶w

名無しのゲヘナ生: お日柄もよくwww

名無しのトリニティ生: まあ、きちんとしたご挨拶ですこと。

名無しのキヴォトス生: さっき「えっ」って言ってた人と同一人物とは思えないwww

名無しのミレニアム生: ……視線が一定間隔で下に移動していますね。

名無しのゲヘナ生: あっ。

名無しのキヴォトス生: カンペ見てるwwww

名無しのトリニティ生: ふふ、初めての配信ですもの。緊張なさっているのでしょうね。

名無しのキヴォトス生: あの掲示板で「変身!」とかやってたスレ主がこんな真面目な挨拶を……。

名無しのゲヘナ生:やめろwww思い出させるなwww

名無しのキヴォトス生: 変身???

名無しのミレニアム生: ところで、背後の景色が非常に興味深いです。高山地帯と広大な草原が同時に確認できます。

名無しのトリニティ生: あの遠くの滝も美しいですわね!

名無しのキヴォトス生: 普通に観光したくなる景色だなぁ。

名無しのゲヘナ生: ところでカメラ担当の澪ちゃん、めちゃくちゃ落ち着いてない?

名無しのキヴォトス生: 会長より配信慣れしてそうw

名無しのミレニアム生: カメラのブレも少ないですね。撮影は安定しています。

 

「……皆さん、ご視聴ありがとうございます。コメントも問題なく確認できています。

会長、挨拶は無事に終わりましたので、そろそろ本題に入りましょうか。」

 

 

「では、今回は自治区紹介ということで話せる範囲で色々紹介していくよ。

アステラ学園自治区は自治区面積がキヴォトス最大で草原、森林、砂漠、雪山、河川、洞窟など多様な環境が存在します。主な産業は狩猟・採集・農業・素材加工で、代表的な交易品には、ウチケシの実を利用した薬品、特殊なキノコ、希少な鉱石、モンスター由来の素材などがあります。」

 

「補足しますと、現在人が居住している地域は自治区全体のごく一部です。大部分は未開拓の自然環境となっています。そのため、同じ自治区内でも地域によって気候や生態系が大きく異なります」

 

ライブチャット

名無しのキヴォトス生: へええ、自治区紹介っぽくなってきた!

名無しのトリニティ生: 草原に森林、砂漠、雪山まであるのですか!?

名無しのゲヘナ生: キヴォトス最大ってマジ!?

名無しのミレニアム生: 面積最大で複数の気候帯が存在する……地理的に非常に興味深いですね。

名無しのキヴォトス生: そんな広いなら観光地いっぱいありそう。

名無しのトリニティ生: お花畑などもあるのでしょうか。ぜひ拝見したいですわ!

名無しのゲヘナ生: 砂漠も雪山もあるって、移動するだけで大変そうだな。

名無しのキヴォトス生: 狩猟って言った?

名無しのゲヘナ生: 言ったな。

名無しのキヴォトス生: 狩猟って、ウサギとか鳥とか?

名無しのキヴォトス生: あー……。

名無しのキヴォトス生: いや、まあ、間違ってはいない……のか?

名無しのゲヘナ生: 前スレ民、何か知ってるなら教えろwww

名無しのミレニアム生: 待ってください。今、非常に気になる単語がありました。

名無しのキヴォトス生: どれ?

名無しのミレニアム生: 『モンスター由来の素材』です。

名無しのトリニティ生: モンスター……?

名無しのキヴォトス生: ゲームとかに出てくるアレ?

名無しのゲヘナ生: あっ!!!! あのドラゴンか!!!!

名無しのキヴォトス生: だからドラゴンって何!?

名無しのキヴォトス生: 説明すると長くなるんだよ!!

名無しのミレニアム生: ウチケシの実も気になります。どのような成分が含まれているのでしょうか。

名無しのトリニティ生: 特殊なキノコ……食用なのでしょうか?

名無しのゲヘナ生: 希少鉱石! 武器とか作れるのか!?

名無しのキヴォトス生: 質問が多すぎるwww

 

「質問はまた後でね。えー、広大な自治区面積に対して総人口は684人。移動手段は主に4隻の飛行船となっております。

住民の大半は、要塞化された一つの街とその周辺に暮らしています。

街には学園、ギルド、鍛冶屋、武具屋、雑貨屋、市場、農園、宿屋、飲食店、診療所、飛行船発着場などがあります。生活に必要な施設はそろっていますが、他自治区と比較すると都市としての規模は非常に小さいです。」

 

ライブチャット

名無しのキヴォトス生: へえ、684人……。

名無しのキヴォトス生: ……ん?

名無しのゲヘナ生: ちょっと待て。

名無しのミレニアム生: 684人?

名無しのトリニティ生: まあ、小さな学園なのですね……。

名無しのキヴォトス生: いやいやいやいや。

名無しのゲヘナ生: キヴォトス最大の自治区なんだよな!?

名無しのキヴォトス生: 684万人じゃなくて!?

名無しのミレニアム生: 資料には明確に「684人」と記載されています。

名無しのゲヘナ生: 少なすぎるだろ!!!!!!

名無しのトリニティ生: そ、それほど広大な土地に、たった684名しか暮らしていらっしゃらないのですか!?

名無しのキヴォトス生: うちの学校の一学年より少ないんだけど!?

名無しのゲヘナ生: それもう自治区っていうか大自然じゃねえかwww

名無しのミレニアム生: 人口密度が極端に低いことは確実ですね。正確な面積が分かれば計算できますが……。

名無しのキヴォトス生: ちょっと待って、さらに気になることがある。

名無しのゲヘナ生: なんだよ、まだあるのか?

名無しのキヴォトス生: 移動手段が飛行船4隻って……。

名無しのキヴォトス生: 電車は? バスは? 車は?

名無しのトリニティ生: 飛行船での移動だなんて、少し素敵ですわね。

名無しのゲヘナ生: いやロマンはあるけどよ、4隻で足りんのか!?

名無しのミレニアム生: 交通インフラの整備状況が気になります。自治区内の移動も飛行船が中心なのでしょうか。

名無しのキヴォトス生: というか、街が一つしかないの!?

名無しのトリニティ生: ……今、要塞化された街とおっしゃいました?

名無しのゲヘナ生: そこ!!!! 俺も気になってた!!!!

名無しのキヴォトス生: 要塞化って何? 城壁でもあるの?

名無しのミレニアム生: 通常の居住地ではなく、外部からの脅威に備えた防衛構造を持つという意味でしょうか。

名無しのキヴォトス生: あー……まあ、あんなのが生息してたらな……。

名無しのキヴォトス生: また前スレ民が意味深なこと言ってる!!

名無しのゲヘナ生: でも鍛冶屋と武具屋があるのはいいな!

名無しのキヴォトス生: ギルドって何するところ?

名無しのミレニアム生: 狩猟を主要産業としているのであれば、その管理組織かもしれません。

名無しのトリニティ生: 農園や市場、飲食店もあるのですね。小さくても暮らしやすそうですわ。

名無しのキヴォトス生: 診療所もあるなら安心……なのかな?

名無しのゲヘナ生: いや待て、なんでこんな小さい街を要塞化する必要があるんだよwww

 

「……人口についての反応が多いですね」

「ちなみに、684人のうち学園の生徒は50人です。残りはギルド関係者やハンター、商業・農業などに従事する住民になります」

 

ライブチャット

名無しのキヴォトス生: 50人!?

名無しのゲヘナ生: 生徒会長ってことは、50人の学校のトップなのか!

名無しのトリニティ生: 少人数だからこそ、生徒同士の交流も深そうですわね。

名無しのミレニアム生: 学園全体で50人……教育設備や教員の人数も気になります。

名無しのキヴォトス生: というか、50人しかいないのに自治区がキヴォトス最大なの、情報量が多すぎるwww

名無しのゲヘナ生: 684人で要塞都市を維持してるのも普通にすごくね?

名無しのキヴォトス生: それはそう。

 

「会長、皆さん、自治区の規模と人口の差に驚かれているようですね」

「それから、街を要塞化している理由についても質問が来ています」

 

「うち基本移動は徒歩か飛行船しか無いんだよね。要塞についてはっ、と来たね。白峰書記撮影よろしく」

 

「承知しました、会長」

 

「……皆さん、少々画面が動きますのでご了承ください」

 

遠くから、低く響く鳴き声が聞こえた。

草原を吹き抜けていた風が、一瞬だけ強くなる。

 

ライブチャット

名無しのキヴォトス生: 徒歩か飛行船!?

名無しのゲヘナ生: 車ないのかよ!?

名無しのミレニアム生: 道路網が未整備ということでしょうか。なるほど、飛行船への依存度が高いわけですね。

名無しのトリニティ生: 徒歩での移動は大変そうですわね……。

名無しのキヴォトス生: ん?

名無しのゲヘナ生: ちょっと待て。

名無しのキヴォトス生: 今なんて言った?

名無しのミレニアム生: 「来たね」と発言しましたね。

名無しのトリニティ生: 何かお客様でもいらっしゃるのでしょうか?

名無しのゲヘナ生: いや待て待て待て。

名無しのゲヘナ生: なんで武器構えた?????

名無しのキヴォトス生: えっ、刀!?

名無しのキヴォトス生: あ。

名無しのキヴォトス生: あああああああああ!!!!

名無しのキヴォトス生: おい、これもしかして!!!

名無しのミレニアム生: 周囲に何らかの危険が接近している可能性があります。

名無しのトリニティ生: えっ!? でしたら避難なさった方がよろしいのでは!?

名無しのゲヘナ生: いや、カメラ担当めっちゃ冷静なんだけど!?

名無しのキヴォトス生: 「承知しました」じゃないんだよwwww

名無しのゲヘナ生: 撮影よろしくって何を撮る気だよ!?

名無しのキヴォトス生: 俺らが見たいって言ってたやつか……!?

名無しのキヴォトス生: 何!? 何が始まるの!?

 

「会長、撮影準備はできています」

「……ただ、自治区紹介の配信であることはお忘れなく」

 

名無しのミレニアム生: 待ってください。奥の草が不自然に揺れています。

名無しのゲヘナ生: 何か来るぞ!!

名無しのトリニティ生: どうかお気をつけて……!

名無しのキヴォトス生: ついに生で見られるのか!?

 

「もちろん!そんなに時間はかけないから。さて、

 

 

話の途中だがイャンガルルガだ!」

 

――その瞬間。

 

上空から甲高い咆哮が響き渡る。

 

「ギャアアアアアアッ!!」

 

黒紫色の翼を広げた巨大な飛竜が、猛烈な勢いで草原へ急降下してきた。

 

【挿絵表示】

 

 

 

地面に降り立った衝撃で土煙が舞い上がり、周囲の草が大きくなびく。

鋭い嘴、巨大な耳、棘のある尻尾。

 

黒狼鳥イャンガルルガ。

 

その姿が配信画面いっぱいに映し出された。

 

ライブチャット

名無しのキヴォトス生: え?

名無しのゲヘナ生: は?

名無しのトリニティ生: えっ?

名無しのミレニアム生: ……!?

名無しのキヴォトス生: ちょっと待って?????

名無しのゲヘナ生: なんか降ってきたああああああ!!!!

名無しのトリニティ生: きゃあああ!? 何ですのあれ!?

名無しのキヴォトス生: デッッッッカ!!!!!!

名無しのミレニアム生: 未確認の大型飛行生物!? しかも明らかに攻撃的な姿勢を取っています!

名無しのゲヘナ生: いやいやいや!! 逃げろって!!!!

名無しのキヴォトス生: なんでそんな冷静に名前紹介してんの!?

名無しのゲヘナ生: てか「話の途中だが」って何だよwwww

名無しのキヴォトス生: あの掲示板で見たやつと別の種類じゃねえか!!

名無しのトリニティ生: 静羽様!? 澪様!? お逃げくださいまし!!

名無しのミレニアム生: カメラ担当の方はなぜ撮影を続けているのですか!?

 

「……黒狼鳥ですか。随分と騒がしいお客様ですね」

「会長、画角は確保しました。できればこちらに土煙が来ないようお願いします」

 

ライブチャット

名無しのキヴォトス生: カメラ担当落ち着きすぎだろ!!!!!!

名無しのゲヘナ生: 「騒がしいお客様」じゃねえよwwww

名無しのトリニティ生: お二人とも、危機感というものはございませんの!?

名無しのミレニアム生: ……もしかして、これがアステラ自治区の日常なのでしょうか。

名無しのキヴォトス生: こんな日常あってたまるか!!!!

名無しのゲヘナ生: まさか……あれと戦う気か!?

名無しのキヴォトス生: そういや前の掲示板で狩猟がどうとか……。

名無しのトリニティ生: ま、まさか本当に……!?

 

イャンガルルガが翼を大きく広げ、再び威嚇するように咆哮を上げる。

 

澪はカメラを構えたまま、淡々と告げる。

「……会長。配信中ですので、なるべく見やすい位置でお願いします」

 

「注文多くな~い!?まあいいけど。

さて、緊急時につき、ハンターの判断でイャンガルルガの討伐を開始する」

 

「討伐判断、確認しました。記録を開始します」

 

ライブチャット

名無しのキヴォトス生: ……討伐?

名無しのゲヘナ生: おい待て、今「討伐」って言った!?

名無しのトリニティ生: ま、まさか本当に戦うおつもりですの!?

名無しのミレニアム生: 「ハンターの判断」……つまり、彼女自身に討伐を決定する権限があるということでしょうか。

名無しのゲヘナ生: いやそれよりカメラ担当!! 「記録を開始します」って冷静すぎるだろ!!

 

イャンガルルガが鋭い鳴き声を上げる。

 

大きく翼を広げ、地面を踏みしめながら静羽へ向き直った。

 

 

――アステラ学園自治区、初の公開狩猟が始まろうとしていた。

 

 

 




『名無しの○○生』いらないですかね?

無い場合こうなります。
: ……討伐?
: おい待て、今「討伐」って言った!?
: ま、まさか本当に戦うおつもりですの!?
: 「ハンターの判断」……つまり、彼女自身に討伐を決定する権限があるということでしょうか。
: いやそれよりカメラ担当!! 「記録を開始します」って冷静すぎるだろ!!
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