防具を着けずに狩りをする生徒会長にハラハラしている。若干引いてもいる。
「うん、そうだよ。生徒会長兼ハンター。そこそこ強い方だと思うよ。」
ライブチャット
: そこそこ?????
: そこそこ強いwwwwww
: あの戦闘能力で「そこそこ」なのですか……?
: 自己評価と観測された戦闘能力に著しい乖離が見られます。
: さっき一発も攻撃食らってなかったよな!?
: じゃあアステラの「めちゃくちゃ強い」って何なんだよ!!
: ほかのハンターの方々も、あのような戦い方をなさるのでしょうか……。
: アステラにおける戦闘能力の評価基準を確認する必要があります。
「イャンガルルガについては白峰書記。解説よろしく」
「承知しました」
澪は手慣れた様子でカメラを動かし、倒れたイャンガルルガの全身を画面に収めた。
「では、先ほど討伐されたモンスターについて簡単に説明します」
「正式名称はイャンガルルガ。別名は『黒狼鳥』です。鳥竜種に分類される大型モンスターで、非常に攻撃的な性質を持っています」
「特徴は、硬い甲殻と鋭い嘴、発達した尾です。地上での突進や嘴による攻撃に加え、空中からの急襲も行います」
「また、火球を吐く能力と、尾に毒を持っている点にも注意が必要です」
「特に厄介なのが、非常に気性が荒く、執拗に攻撃を仕掛けてくることですね」
「当然ですが、イャンガルルガは、一般住民が対処できる相手ではありません」
「狩猟する場合は、相応の経験と装備を持つハンターが担当します」
「特に経験の浅いハンターにとっては、かなり危険な相手です」
ライブチャット
: 毒!?
: 火も吐くの!?
: 空を飛び、火を吐き、さらに毒まで……!?
: 複数の攻撃手段を備えた大型生物。危険性は高いですね。
: なんでそんなのが普通に生息してるんだよ!!
: さっき火球を使われる前に倒したのか……。
そんなコメントを眺めていた静羽が、何でもないことのように口を開いた。
「生き死によりも戦闘が好きで、自分よりも遥か格上にも嬉々として挑んでいくやばいやつだよ」
「極一部だけどそのまま勝つし」
…………。
………………。
ライブチャット
: ???????
: ちょっと待て。
: ……格上?
: 自身の生存よりも戦闘行動を優先する傾向がある、と……。
: いやいやいやいや!!!!
: あんな凶暴なやつより強い生き物がいるの!?
: それも、自ら挑みに行くのですか!?
: 生存戦略として合理的とは言い難い行動ですね。
: しかも勝つことあるの!?
: 待て待て待て。「極一部だけどそのまま勝つ」ってどういうことだよ!?
: 自分より遥かに強い相手を倒してしまう個体がいるということですの……?
: さっきまで怖い怪物だったのに、今度は戦闘狂のイメージになってきた。
「会長の説明は、少々極端ですが……概ねそのとおりです」
「イャンガルルガは非常に好戦的で、通常なら避けるべき格上の相手にも積極的に攻撃を仕掛けることがあります」
「縄張り争いでも、相手が自分より強いからといって簡単には引き下がりません」
一呼吸置いて。
「そして、稀にですが……本当に勝ってしまう個体もいます」
ライブチャット
: マジなのかよwwww
: 生態がおかしいだろ!!
: 戦闘経験による個体差が大きい可能性がありますね。
: そのような危険な生物が、自治区内に生息しているのですね……。
: なんかこいつ、ゲヘナにいたら絶対トラブル起こすタイプだろ。
: 風紀委員会が過労死するわ。
: ていうか「格上」って具体的に何!?
: イャンガルルガが挑戦する相手の具体例を知りたいです。
「例えば、飛竜種のリオレウスなどが挙げられます」
「一般的にイャンガルルガより大型で、空中戦にも優れたモンスターですが、イャンガルルガは臆せず攻撃を仕掛けることがあります」
「もちろん、常に勝てるわけではありません」
「……ただ、イャンガルルガが相手を選ばず戦いを挑むという点は、覚えておいて損はないでしょう」
ライブチャット
: リオレウス!?
: あっ!! 前に写真で見たデカいドラゴンみたいなやつ!?
: あの、木のそばで眠っていた巨大な生物ですわよね……?
: 以前の掲示板に投稿されていた個体ですね。大きさは相当なものでした。
: あれに喧嘩売るの!?!?!?
: こいつ怖いもの知らずすぎるだろwww
: しかも勝つことがあるだなんて……。
「……ちなみに、皆さん」
「イャンガルルガの好戦性は有名ですが、だからといって見境なく攻撃するだけの生物ではありません」
「戦闘能力も高く、経験を積んだ個体ほど厄介になります」
「特に、長年生き延びた個体は通常のイャンガルルガ以上に警戒が必要です」
ライブチャット
: つまり、好戦的でありながら実戦経験も豊富になる可能性がある、と。
: 戦うの大好きで、戦えば戦うほど強くなるとか最悪じゃねぇか!!
: そんなのが空から降ってくる自治区って何???
: ……改めて、先ほどの討伐がどれほど危険なものだったか分かりましたわ。
: で、それを一方的に倒した生徒会長は何者なんだよ。
: 本人は「そこそこ強い」とか言ってたけどなwww
「さて、会長。イャンガルルガについては、ひとまずこの程度でよろしいでしょうか?」
「うん、ご苦労様。うちの生徒はみんなある程度は戦えるよ。書記ちゃんもイャンガルルガなら倒したことあるでしょ」
何気ない一言。
本当に、何気ない一言だった。
しかし。
ライブチャット
: ん?
: ちょっと待て。
: ……今、何と?
: 「生徒はみんなある程度戦える」……?
: いやそれより後半!!!
: 書記ちゃんもイャンガルルガ倒したことあるの!?
: あの黒狼鳥を、ですか!?
: 撮影担当者にも大型モンスターの討伐経験があるということですね。
「……ありますが、会長と一緒にしないでください。心外です」
即答だった。
その声には、はっきりとした不満が混じっていた。
「ひどくない?」
「ひどくありません。事実です」
「私の場合、装備を整え、相手の行動を確認し、危険を避けながら慎重に戦います」
「会長のように、攻撃を紙一重で避け続けたり、わざわざ武器を損傷させる技を使ったりはしません」
「同じ討伐経験があるからといって、戦い方まで同じだと思われては困ります」
ライブチャット
: 心外wwwwww
: 会長と一緒にされるのが嫌なのかwww
: いえ、白峰書記さんのおっしゃることはもっともですわ。
: 戦闘におけるリスク管理の思想が根本的に異なるようですね。
: でも待って? 書記ちゃんもあの怪物倒せるんだよな?
: そうなんだよ!! そこを流すな!!
: 先ほど、一般住民には対処できない危険なモンスターだと説明されていましたよね……?
: つまり、白峰書記も相応の戦闘能力を有していると考えられます。
「単独で安定して討伐できるという意味ではありません。状況に応じて同行者と連携することもあります」
「私より腕の立つハンターは、アステラにも大勢いますので」
ライブチャット
: 書記ちゃんまで謙遜し始めたぞ。
: アステラの生徒、全員自己評価低いのか???
: それでも、あのようなモンスターを討伐できるのは十分すごいことでは……。
: 生徒会役員の戦闘能力が予想以上に高い可能性があります。
: ていうか今さらだけど、カメラ担当できるくらい落ち着いてた理由が分かった。
: そりゃ自分でも倒したことあるなら、あの状況でパニックにならんわな。
「……ただ、念のため申し上げますが」
「アステラの生徒全員が、イャンガルルガを討伐できるわけではありません」
「基本的な護身や避難行動を学んでいることと、大型モンスターを討伐できることは別です」
「その点は誤解なさらないようお願いします」
そして、少しだけ声を低くする。
「……会長も、説明するときはその辺りを区別してください」
ライブチャット
: また怒られてるwww
: 生徒会長なのに書記に注意されまくってるの草。
: 白峰書記さんがいらっしゃって本当によかったですわ……。
: 情報の正確性を確保するうえで重要な補足ですね。
: でもさ、ちょっと気になることがあるんだけど。
: 何?
: 書記ちゃんが倒したことあるなら、他の生徒会メンバーも結構強いんじゃね?
: あ。
: ……確かに。
: 生徒会全体の戦闘能力について、興味深いですね。
コメント欄に、次々と質問が流れ始める。
: そういえば生徒会って何人いるの?
: 会長と書記以外にもいるんだよな?
: ほかの役員の方々もハンターをなさっているのでしょうか?
: 生徒会の組織構成と各役員の専門分野について知りたいです。
: あと書記ちゃんの武器も気になる!!
: それな! 会長は太刀だったけど、書記ちゃんは何使うの?
澪はコメント欄を確認すると、小さく息をついた。
「……会長。今度は生徒会について質問が来ています」
「役員の人数と、それぞれの担当業務。それから、私の使用武器についてですね」
少し間を置いて。
「せっかくの自治区紹介配信ですし、生徒会の紹介をしてもよいかもしれません」
「本人のいない所でその人の事べらべら喋るのもな~。今回は書記ちゃんのだけ話そうか。書記ちゃんさえ良ければ」
その言葉に、澪は少し意外そうに瞬きをした。
「……私ですか?」
カメラを構えたまま、少し考える。
「そうですね。ほかの役員については、本人の了承を得てから紹介した方がよいでしょう」
ライブチャット
: おっ、書記ちゃん紹介!
: やったぜ!!
: 本人の了承を得てから紹介するという配慮、素敵ですわね。
: 個人情報の公開範囲を確認するのは適切な判断です。
: 会長、意外とそういうところちゃんとしてるんだな。
: 失礼だけどちょっと分かるwww
: で、書記ちゃんってどんな人なんだ?
澪はカメラを近くの安定した場所に設置し、画角を確認する。
画面に映ったのは、落ち着いた雰囲気の少女。
先ほどまで巨大なモンスターとの戦闘を平然と撮影していた人物とは思えないほど、ごく普通の生徒に見える。
「改めまして、アステラ学園2年、白峰澪と申します。生徒会では書記を担当しています」
「主な仕事は議事録の作成、各種書類の整理、記録管理などですね」
「身長は162センチ、誕生日は11月12日です」
「……まあ、基本的なプロフィールはこの程度でしょうか」
ライブチャット
: おお、ちゃんとした自己紹介だ!
: なんか安心する。
: とても落ち着いた方ですわね。
: 記録管理担当。先ほどの技名変更への反応にも納得です。
: そういや「超☆必殺技」って記録する羽目になったんだっけwww
: かわいそうwww
: ところで書記ちゃん!
: さっきのイャンガルルガ、倒したことあるんだよね?
: どのような武器をお使いになるのでしょう?
: 戦闘スタイルについても興味があります。
: 太刀? 大剣? それともボウガン?
: あの生徒会長と一緒に行動してるくらいだし、やっぱ強いのかな。
澪はコメント欄を確認する。
「……やはり、そちらが気になりますか」
少し困ったように息をついた。
「確かにハンターとしての活動経験はありますが、会長ほど戦闘に特化しているわけではありません」
「私の場合、何よりも安全性と確実性を優先していますので」
: 堅実な戦闘スタイルなのですね。
: それが本来あるべき姿だと思いますわ。
: 会長の戦い方が特殊すぎるんだよwww
: あの紙一重回避を基準にしたらダメだって。
「私の使用武器については、まだ説明していませんでしたね」
「せっかくですし、そちらも紹介しましょうか」
コメント欄には、次々と武器の予想が流れ始めた。
: 俺はライトボウガンに一票!
: 情報収集と状況判断に長けているなら、遠距離武器が適していそうです。
: 弓などもお似合いになりそうですわ。
: 意外と大剣だったりしてwww
: それはそれで見たいwww
「私の武器はこれです」
そう言って澪は、カメラの前に一丁の武器を取り出した。
――ゴトン。
地面に置かれたそれは、明らかに普通の銃とは異なっていた。
長く太い銃身。
重厚な機関部。
大型の照準器に、頑丈な銃床。
そして、ところどころにモンスターの素材を思わせる装甲が施されている。
「ヘビィボウガンです」
ライブチャット
: でっっっっか!?
: 大砲じゃねーか!!!!
: こ、これをお一人で扱われるのですか!?
: 大型の携行火器……興味深い構造です。
: さっきまで書類持ってた人が出す武器じゃないwww
: 書記ちゃん、思ってたよりずっと武闘派だった。
: ですが、あのイャンガルルガを討伐した経験があるのでしたら、納得できるような……。
澪は武器を持ち上げ、カメラに側面を見せる。
「ヘビィボウガンは、機動力と引き換えに高い火力を発揮する武器です」
「使用する弾によって攻撃方法を変えられるため、相手に応じた準備が重要になります」
「私の場合は、特に火力を重視しています。大型モンスターを相手にする以上、攻撃を受けない位置取りを心掛けていますね」
: 高火力型の射撃武器ですか。合理的ですね。
: それシールドとか付いてないの?
: 確かに。あんなデカい生き物相手なら防御も必要じゃない?
: 万が一、接近された場合はどうなさるのでしょう……?
「シールドを装着する構成もありますが、私は採用していません」
「その分、攻撃性能を優先しています」
丁寧な説明。
しかし、その内心は――
(あんなバカでかいモンスターに防御とか無理に決まってんだろ)
――非常に率直だった。
もちろん、口には出さない。
「相手の攻撃を受け止めるよりも、適切な距離を保ち、攻撃範囲から離れる方が私の戦い方に合っていますので」
ライブチャット
: 攻撃全振りじゃんwww
: 防御性能を削って火力を高める設計思想ですね。
: 慎重な方なのに、武器は随分と攻撃的なのですね。
: でも言ってることは分かる。
: ていうかあれ持って戦うの相当大変そう。
・
・
・
: ……あれ?
: どうした?
: 会長って太刀一本であの怪物に突っ込んでたよな?
: うん。
: 書記ちゃんは大砲みたいな銃を使って、距離取って戦うんだよな?
: そう説明されていますね。
: ……この二人、戦い方が真逆じゃね?
: wwwwwwww
: ですが、どちらも高い攻撃力を重視していらっしゃるようですわね。
: 近接戦闘に特化した会長と、遠距離火力に特化した書記。役割分担としては興味深い組み合わせです。
澪はヘビィボウガンを安全な状態にしてから、カメラの方へ向き直った。
「……以上が私の使用武器になります」
「ちなみに、会長と一緒に狩猟する場合は、会長が前方でモンスターの注意を引き、私が射撃に適した位置から援護することが多いですね」
「……もっとも、会長は動きが速すぎるので、射線を確保するのが大変なのですが」
ライブチャット
: あーwwwww
: さっきの動き見たら納得しかない。
: 味方の機動力が高すぎることによる射撃支援の難しさ……。
: お二人で狩猟なさることもあるのですね。
: そのコンビの戦闘も見てみたい!!
: 会長と書記ちゃんの共闘配信、需要あるだろこれ。
「……会長」
澪は視聴者からのコメントを見て、少し困ったように眉を寄せる。
「どうやら、今度は私たち二人での狩猟配信を希望する方が増えているようです」
「……一応申し上げておきますが、今日の配信は自治区紹介が目的ですからね?」
その言葉には、はっきりとした警戒が込められていた。
――白峰澪は知っている。静羽に「やるな」と言うと、場合によっては逆効果になることを。