【ゆる募:うちの自治区を発展させる方法】   作:空紅 唯空

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久世静羽の噂①
家に博物館を開けるくらい刀コレクションがあるらしい。


8話 ――お迎えは空からやってくるが――空の向こうに、  がいた。

「まあそれもやりたいけど、今回は無しかな。お迎えも来たみたいだし」

 

「……お迎え?」

 

澪が空を見上げる。

 

「……ああ、来ましたね」

 

――ヴォォォォォォン……

 

遠くから、低く重い駆動音が響いてきた。

澪が空を見上げる。

カメラもそれに合わせて上を向いた。

青空に浮かぶ、一つの大きな影。

最初は鳥か何かに見えたそれが、徐々に大きくなっていく。

やがて、その全貌が明らかになった。

――巨大な飛行船だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

大きな船体に、空中に浮かぶための巨大な気嚢。

船体の側面にはアステラのギルドを示す紋章。

甲板では乗組員たちが慌ただしく動いている。

 

ライブチャット

: えっ!?

: なんか来た!!!!

: あれは……飛行船ですの!?

: 大型の浮揚式航空機ですね。興味深い構造です。

: さっき言ってた飛行船ってこれ!?

: 思ってたよりデケェ!!

: とても立派ですわね……!

: 飛行原理や積載能力について詳しく知りたいところです。

 

飛行船は二人のいる草原の上空で速度を落とした。

船体からロープが下ろされ、数人のギルド職員が地上へ降りてくる。

 

ギルド職員

「おーい! 会長さん! 書記さん!」

「回収要請があったイャンガルルガってのは、あれか?」

 

職員が地面に横たわる黒狼鳥を指さす。

 

「そうだよ~」

 

「回収できそうだな。よし、作業始めるぞー!」

 

「よろしくお願いします。討伐記録については、後ほどギルドに提出します」

 

「了解!」

 

あまりにも自然なやり取り。

巨大なモンスターの回収だというのに、職員たちには驚いた様子がない。

 

ライブチャット

: 待って待って待って。

: 何を回収するって???

: まさか、あの黒狼鳥を……?

: 大型生物の回収作業ですか。輸送方法が気になります。

: え、持って帰るの!?

: あんなデカいのどうやって!?

 

ギルド職員たちは慣れた手つきで作業を開始した。

まず、イャンガルルガの状態を確認。

次に、巨大な翼と胴体を固定するための頑丈な吊り具を取り付けていく。

飛行船からは大型の巻き上げ装置が下ろされた。

 

――ガコンッ!

 

金属製のフックが吊り具に接続される。

 

「固定よし!」

 

「巻き上げ開始!」

 

――ゴゴゴゴゴ……!

 

重厚な駆動音が響き渡る。

イャンガルルガの巨体が、ゆっくりと地面から持ち上がっていく。

そのまま、船体の大型貨物区画へと収容されていった。

 

「よーし、収容完了!」

「後はギルドの解体場に運ぶだけだな」

 

ライブチャット

: うわああああ浮いた!!!!

: すげぇぇぇぇ!!!!

: あのような巨大な生物を、丸ごと運べるのですね……!

: 大型貨物の空輸に対応した設計。非常に興味深いです。

: しかも作業員が慣れすぎてる。

: これ絶対いつもやってるだろwww

: それほど頻繁に大型モンスターが討伐されるのでしょうか……。

 

回収作業が終わると、飛行船から乗降用の足場が下ろされた。

 

「会長さんたちも乗ってくか?」

 

「はい。お願いします」

 

二人が乗り込むと、甲板にいた職員が軽く会釈した。

 

「お疲れさん。今回は生配信だったんだって?」

 

「ええ。現在も配信中です」

 

「へぇ! じゃあ、俺たちも映ってるのか?」

 

澪がカメラを向ける。

 

「おーい! キヴォトスのみんな、見てるかー!」

 

職員が元気よく手を振る。

 

ライブチャット

: 見てるぞー!!

: おっちゃん元気www

: ごきげんよう!

: こんにちは。飛行船の仕様を教えていただきたいです。

: なんか急に旅番組みたいになったwww

: さっきまで怪物と戦ってたのになwww

 

――ゴォォォォ……

 

飛行船の駆動音が大きくなる。

船体がゆっくりと高度を上げ、草原が少しずつ遠ざかっていく。

澪は甲板からカメラを外へ向けた。

 

眼下に広がるのは、どこまでも続く緑の大地。

遠くには森林地帯。

さらにその先には、巨大な山脈が連なっている。

川が大地を横切り、滝が白い筋となって流れ落ちていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……皆さん、こちらが上空から見たアステラ自治区の景色です」

「地上からでも十分分かりますが、このように自然が非常に豊かな地域となっています」

 

ライブチャット

: ……綺麗ですわね。

: うわ、すっげぇ……。

: さっきの怪物さえいなけりゃ最高の観光地じゃん。

: 地形の起伏が大きく、未開発地域も相当広そうですね。

: これがキヴォトス最大の自治区か……。

 

「会長、皆さん飛行船からの景色を気に入ってくださったようです」

 

「このまま街へ向かうのでしたら、到着まで自治区の交通事情や飛行船について紹介するのもよさそうですね」

 

ライブチャット

: 飛行船もっと見たい!!

: 操縦室とか見せてもらえないの?

: 推進機構と航行設備について興味があります。

: 街の様子も拝見してみたいですわ。

: そういや街が要塞になってるって言ってたよな?

: あっ! それも気になる!!

 

飛行船はゆったりと空を進んでいる。

眼下には広大な草原。遠くには山脈が連なり、その麓には深い森林が広がっていた。

そんな絶景を背景に、静羽が首を傾げる。

 

「うーん、交通事情って地上でほとんど説明したじゃん。あれ以上に何か言うことある?」

 

「…………」

 

澪は少し考え込んだ。

 

「……確かに、そうですね」

「基本的な移動手段が徒歩と飛行船であること、飛行船が四隻あることは既に説明しましたし……」

「それ以上となると、航路や運行体制の詳細くらいでしょうか」

 

数秒の沈黙。

 

「……自治区紹介の初回配信で、そこまで詳しく説明する必要はありませんね」

 

ライブチャット

: たしかにwww

: 徒歩か飛行船の二択だもんなwww

: 交通手段が非常に限られているのですね……。

: 交通網の整備状況については、まだ研究の余地がありそうです。

: いや、そもそもなんで車とか電車がないんだ?

: さっきの怪物が出る場所に線路敷いても、すぐ壊されそう。

: あっ……。

: それは確かに大きな問題ですわね……。

 

近くで荷物の確認をしていたギルド職員が、会話を聞いて口を挟んだ。

 

「まあ、飛行船があるだけでも随分便利になったんだけどな!」

「昔は遠くまで行くのも大変だったし、重い荷物を運ぶのにも苦労したもんだ」

 

職員は甲板の手すりに寄りかかり、眼下の景色を眺める。

 

「今じゃ大型モンスターの回収もできるし、物資も運べる。ありがたい話だよ」

「そうですね。特に大型の資材や狩猟で得られた素材の輸送では、飛行船の存在が重要です」

「ただ、四隻しかありませんので、運用にはどうしても制約があります」

 

ライブチャット

: なるほど。貨物輸送が主要用途なのですね。

: さっきの鳥を丸ごと運べるのはすごかった。

: あれが日常業務なの、やっぱりおかしいってwww

: 住民の皆さんの生活を支える重要な交通手段なのですね。

 

「……では、交通事情についてはこのくらいにしましょう」

 

澪はカメラを外へ向けた。

飛行船が進むにつれて、眼下の景色も変わっていく。

草原の向こうには、木々が密集した広大な森林地帯。

さらに遠くには、険しい岩山が見える。

 

「せっかく飛行船に乗っていますし、今は景色を中心にお見せするのがよさそうですね」

 

「地上からでは分かりにくい自治区の広さも、上空からなら多少は伝わると思います」

 

ライブチャット

: それは嬉しいですわ!

: 景色めっちゃ綺麗だしな。

: 空から見ると本当に広いな……。

: 地形の観察にも適していますね。

: そういや、この森林にもモンスターがいるの?

: そりゃいるだろ。さっき草原にあんなのいたんだぞ。

: ……今は遠くから眺めるだけにしておきたいですわね。

 

「おーい、会長さんたち!」

「もう少ししたら街が見えてくるぞ!」

 

澪がそちらを振り向く。

 

「ありがとうございます」

「会長、もうすぐ街が見えるそうです」

「せっかくですから、到着前に上空から街の全景を撮影しましょう」

「……例の防衛設備も、外からなら一部見えるはずです」

 

ライブチャット

: おっ! 街!!

: ついに要塞都市が見られるのか!?

: どのような街なのでしょう……!

: 防衛設備の規模が気になります。

: そういや最初に要塞って言ってたよな。

: あの怪物がいるなら、そりゃ壁くらい必要か……。

 

飛行船は、ゆっくりと進路を変えた。

遠くの地平線。

森林と草原の境界、その向こうに――。

人工物らしい輪郭が、少しずつ見え始めていた。

 

「……見えてきましたね」

 

 

ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・

 

 

飛行船は、穏やかな風に乗って進んでいた。

眼下には広大な森林。

その先には、アステラ自治区で唯一の街がある。

先ほどまでイャンガルルガの討伐映像に騒然としていたコメント欄も、今ではすっかり落ち着きを取り戻していた。

 

: いやー、いい景色だなあ。

: 本当に美しい場所ですわね。

: さっきまで怪物と戦ってたのが嘘みたいだ。

: 自然環境の保存状態が非常に良好ですね。

: こういう景色見てると観光したくなる。

: なお野生動物。

: それは言うな。

 

そんな平和なコメントが流れる中。

 

「……見えてきましたね」

 

澪はカメラを街の方角へ向けようとした。

だが、ふと気づく。

先ほどまで隣で景色を眺めていた静羽から、何の反応もない。

 

「……会長?」

 

カメラを動かし、静羽の方を向く。

そこには――

 

双眼鏡を覗き込んでいる静羽がいた。

街の方角ではない。

もっと遠く。

森林地帯のさらに向こう、険しい山々が連なる方角を、じっと見つめている。

 

「……何か見つけましたか?」

 

静羽は双眼鏡を覗いたまま答えた。

 

「書記ちゃん見てみ?」

 

そう言って双眼鏡を差し出す。

 

「……?」

 

澪はカメラを渡して、双眼鏡を受け取った。

 

そして、静羽が見ていた方角へ目を向ける。

 

――数秒後。

 

「……………………え?」

 

声が漏れた。

それは、普段の澪からは考えられないほど、か細い声だった。

双眼鏡を持つ手が、ぴたりと止まる。

 

「…………嘘でしょう」

 

ライブチャット

: ん?

: どうした?

: 何かありましたの?

: 白峰書記の様子が変わりましたね。

: え、ちょっと怖いんだけど。

: さっきの怪物が来たときも冷静だった人だよな?

: ……何を見つけたのでしょう。

 

澪はゆっくりと双眼鏡を下ろした。

その表情は、明らかに強張っていた。

 

「……会長」

 

「……あれ、本物ですか?」

 

返事を待つ間もなく、カメラが静羽の手によって動かされる。

画面が山脈の方角へ向いた。

最初に映ったのは、青い空。

 

そして、雲を頂く険しい山々。

その手前には、深い森林がどこまでも広がっている。

一見、何の変哲もない景色だった。

 

: ?

: 山?

: 何か映っているのでしょうか。

: 特に変わったものは見えませんけれど……。

 

カメラが望遠になる。

山の稜線。

岩肌。

その上を流れる、薄い雲。

 

そして――

 

雲の一部が、不自然に動いた。

いや。

違う。

 

雲が動いたのではない。

雲の中に、何かがいた。

巨大な、何かが。

 

さらに倍率が上がる。

 

画面の中央に、白銀の輪郭が浮かび上がった。

長大な首。

幾重にも重なる、美しい白い鱗。

空へ向かって伸びる巨大な角。

 

そして――

 

空そのものを覆い隠すかのような、大きな翼。

 

 

――氷龍、イヴェルカーナ

 

 

山の頂近く。

その白銀の古龍は、岩場に静かに佇んでいた。

 

周囲には、季節外れの白い霜が広がっている。

岩肌を覆う氷。

空気中に漂う、細かな氷の粒子。

太陽の光を浴びたその身体は、まるで巨大な宝石のように輝いていた。

 

美しい。

あまりにも、美しい。

 

しかし。

 

その姿を見た瞬間、配信を見ていた誰もが理解した。

これは、先ほどのイャンガルルガとは何かが違う。

 

大きさだけではない。

武器の数でもない。

攻撃性でもない。

もっと根本的な。

 

生き物としての、存在そのものが違う

 

ライブチャット

: ………………え?

: なんだ、あれ。

: ……綺麗。

: 未確認の大型生物……いえ、これは……。

: ちょっと待って。

: さっきの鳥とは全然違うぞ。

: なんでしょう……画面越しなのに……。

: なんか、怖い。

: 分かる。

: ……映像を見ているだけなのに、強い緊張を感じます。

 

そこにいるだけで

イヴェルカーナは、何もしていなかった。

 

吠えてもいない。

暴れてもいない。

獲物を追っているわけでもない。

 

ただ、そこにいる。

 

それだけだった。

にもかかわらず、画面の向こうにいる数万人の視聴者が、言葉を失っていた。

イャンガルルガが現れたときは、恐怖と同時に興奮があった。

 

巨大な怪物。

危険な生物。

それでも、戦うことができる相手。

そう感じられた。

 

だが、今映っているものは違った。

仮に目の前に現れたとして。

戦おうという考えが、そもそも浮かばない。

逃げるという判断さえ、すぐにはできないかもしれない。

それほどまでに、圧倒的だった。

 

「…………氷龍」

 

澪が、小さく呟いた。

 

「イヴェルカーナ……」

 

普段なら、いや。あそこにいたのが竜であれば、ここで解説が始まっていたはずだ。

生態。

危険度。

特徴。

注意事項。

 

しかし、今の澪は違った。

 

双眼鏡を握ったまま、遠くの古龍を見つめている。

知識としては知っている。

実在することも、当然理解している。

アステラで暮らす以上、古龍の存在は決して架空のものではない。

それでも。

 

実際に、あの存在を目の当たりにすることは別問題だった。

 

ライブチャット

名無しのミレニアム生: 氷龍……?

名無しのキヴォトス生: 何その名前。

名無しのゲヘナ生: いや、待て。龍?

名無しのトリニティ生: あれが……龍……。

名無しのキヴォトス生: さっきのイャンガルルガとかとは違うの?

名無しのミレニアム生: 格が……違う……。

名無しのゲヘナ生: なんかもう、名前からしてヤバい。

名無しのトリニティ生: とても美しいのに、どうしてこんなに恐ろしいのでしょう……。

 

飛行船の甲板では、風が吹いていた。

乗組員たちの話し声も、船の駆動音も聞こえる。

けれど。

 

澪の耳には、何も入ってこなかった。

視線はただ一点。

遠くの山頂に佇む、白銀の古龍へと釘付けになっている。

画面の中で、イヴェルカーナがゆっくりと首を動かした。

 

長い尾が、優雅に揺れる。

その動きに合わせて、周囲の氷の粒子がきらきらと舞い上がった。

まるで、冬そのものが生きているかのようだった。

 

一秒。

 

二秒。

 

三秒。

 

配信のコメントが、目に見えて減っていく。

誰もが、ただその姿を見つめていた。

そして。

 

――ふいに。

 

イヴェルカーナの頭が、こちらを向いた。

ほんのわずかな動き。

遠く離れた山の上。

肉眼では到底、その表情など分からない距離。

それなのに。

 

目が合った

 

――見られた。

 

その瞬間。

澪の呼吸が止まった。

 

「――っ!!」

 

イヴェルカーナの青い瞳。

それが、まっすぐにこちらを捉えている。

気がした、のではない。

確かに。

 

こちらを見ていた。

数キロも離れているはずなのに。

飛行船は、ただ空を進んでいただけなのに。

向こうから見れば、取るに足らない小さな存在のはずなのに。

 

――見つかった。

 

理由もなく、そう理解した。

心臓が、大きく跳ねる。

 

ドクン

 

ドクン

 

ドクン

 

澪は双眼鏡を下ろすことさえ忘れていた。

足元の甲板が、急に頼りなく感じられる。

手のひらに、じわりと汗が滲む。

 

逃げなければ。

いや、何から?

ここは飛行船の上だ。

 

相手は遠くの山にいる。

襲われているわけでもない。

危険な兆候があるわけでもない。

頭では分かっている。

それなのに。

身体の奥底が、警鐘を鳴らしていた。

 

 

――あれに、敵だと認識されてはいけない。

 

 

ライブチャット

: !!!!!!!!

: おい。

: い、今……。

: ……こちらを向きましたね。

: 目、合った?

: 合った。

: いやいやいやいやいや。

: こ、こちらを見ていませんでしたか……?

: 視線方向が撮影地点と一致しているように見えます。

: やめろ!!!!

: 画面越しなのに心臓止まるかと思った!!!!

: ……怖い、ですわ。

: なんでだよ! こっちは画面見てるだけだぞ!?

: こっちに来ないよな!?

 

けれど。

 

イヴェルカーナは、何もしなかった。

 

ほんの数秒、こちらを見つめた後。

興味を失ったかのように、ゆっくりと顔を背けた。

そして、白銀の翼を広げる。

 

――ふわり。

 

巨大な身体が、宙へ浮かび上がった。

その動きは驚くほど静かだった。

氷の粒子が舞い、陽光を反射する。

 

一度、大きく翼を羽ばたかせる。

すると、周囲の雲が押し流され、山頂に積もった雪が白く舞い上がった。

イヴェルカーナは、そのまま山脈の奥へと飛んでいく。

白銀の姿が、雲の中へ消えていった。

 

あとに残されたのは、薄く輝く氷の粒子だけ。

そして。

――静寂。

 

「………………」

 

澪は、しばらく動けなかった。

 

双眼鏡を下ろす。

大きく息を吐く。

自分がいつから呼吸を浅くしていたのか、分からなかった。

 

「……はぁ…………」

 

額に浮かんだ汗を、そっと拭う。

 

「……驚き、ました」

 

それだけ言うのが精一杯だった。

 

カメラは、まだ古龍が去った方向を映している。

コメント欄も、少しずつ動きを取り戻し始めた。

 

ライブチャット

: ………………。

: ………………。

: ……行ってしまいましたね。

: ……はい。

: なんか今、すごいもの見た気がする。

: 俺、手汗やばいんだけど。

: 私も、まだ心臓が……。

: 映像を通して強い恐怖反応を覚えたことが、非常に興味深いです。

: 分析してる場合かよ!!

: あれ絶対ヤバいやつだろ……。

: 先ほどのイャンガルルガとは、まるで違いましたわ。

: 違うどころじゃねぇよ。

: なんかさ……。

: イャンガルルガは「怖い怪物」だったけど、今のは……。

: ……災害?

: その表現が、最も近いかもしれません。

 

澪はようやく落ち着きを取り戻し、カメラを静羽へ向けた。

 

「……会長」

「……まさか、こんなところで古龍を目撃するとは思いませんでした」

 

その声には、まだわずかな緊張が残っている。

しかし。

 

静羽は、至って普段どおりだった。

 

「古龍が見られるなんて、運がいいねえ」

 

…………。

 

………………。

 

「………………」

 

澪は、静羽を見つめた。

そして。

 

「…………会長」

「……その感想が出てくるのは、会長くらいだと思います」

 

ライブチャット

: は???????

: 運がいい!?!?!?

: う、運がよい……?

: ……希少生物を観測できたという意味では、確かに幸運ですが。

: そういう問題じゃねぇだろ!!!!

: こっちは寿命縮まった気がするんだけど!?

: 会長さん、まったく動じていらっしゃいませんわね……。

: さっきの目が合った瞬間、マジで怖かったんだぞ!?

: いや会長、あれ見て「運がいいねえ」は強すぎる。

: 古龍の観測経験が豊富なのでしょうか……?

 

澪は、もう一度だけ山脈の方を見た。

そこには、もう何もいない。

 

青い空。

 

白い雲。

 

どこまでも続く山々。

 

先ほどまで、あの場所に古龍がいたことが嘘のようだった。

 

「……とりあえず、皆さん」

「先ほど映っていたのは、古龍種に分類される『イヴェルカーナ』というモンスターです」

 

いつもの説明口調に戻そうとする。

しかし、言葉を続ける前に、ふと息を整えた。

 

「……申し訳ありません。少し驚いてしまいました」

「古龍は、通常の大型モンスターとは一線を画す存在です」

「その生態や能力は、現代でも解明されていない部分が多く……」

 

一瞬、山の方へ視線を向ける。

 

「……非常に危険です」

「先ほどのように、こちらへ敵意を向けずに去ってくれたのは幸いでした」

 

ライブチャット

: ……敵意を向けずに。

: それ、もし敵意向けられてたらどうなってたの?

: おい、聞くな。

: 古龍種……通常のモンスターとは異なる分類なのですね。

: ていうかさ。

: ん?

: さっき会長、イャンガルルガのこと「よくある」って言ってたじゃん。

: ……ああ。

: じゃあ古龍は?

: ……まさか、頻繁に遭遇するわけではありませんよね?

: アステラ自治区における古龍の出現頻度は、重要な情報ですね。

: いや待て。もっと重要なことあるだろ。

: 何?

: あの生徒会長、古龍見つけてめっちゃ嬉しそうだったぞ。

: ………………。

: ………………。

: ………………。

: まさかとは思うけど。

: あれとも戦ったことあるんじゃねぇだろうな?

 

澪はそのコメントを見た。

そして。

ほんの一瞬だけ、静羽へ視線を向ける。

 

「…………」

 

答えを知っているような。

けれど、できれば今は触れたくないような。

そんな、何とも言えない表情だった。

飛行船は何事もなかったかのように、アステラの街へ向かって進んでいく。

 

つい先ほどまでの、穏やかな空の旅。

だが、配信を見ている数万人にとっては――

 

アステラ自治区が、ただ危険なモンスターの生息する土地ではないことを思い知らされた瞬間だった。

 

――そして視聴者たちは、古龍を見て「運がいい」と喜ぶ生徒会長について、また一つ大きな疑問を抱えることになった。

 

 

 

8話――お迎えは空からやってくるが――空の向こうに、天災がいた。

 

 




この間生徒会長<古龍が見られるなんて運がよかったな~(*'▽')ニコニコ
なお、アステラ自治区にはこんな反応をする奴が2桁はいます。

一般人と人類卒業者の反応の違いがわかりましたね(^^♪

モンスターハンターを知らない人のために説明すると、古龍とは「生態系から逸脱したものの総称」「自然の天災に相当するモンスター」です。現実の世界に存在する自然災害や自然現象、自然物の擬モンスター化のようなものです。

今回の後半は身一つで竜巻や地震、津波を見て逃げる人と、見られて運がいいと喜ぶ・止める・倒す等のことをしようとする人は色々と違うよね。ということを再確認したくて作りました。
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