ホロメンワチャワチャ話 作:吾輩は偏食である
第一幕 偶然の鉢合わせ
某日、ホロライブの収録スタジオ。
「おはようございまーす!」
元気よく入ってきた綺々羅々ヴィヴィ。
今日は午後からバラエティ番組の収録が予定されている。
受付で挨拶を済ませ、控室へ向かおうとしたところ、廊下の先から聞き覚えのある声がした。
「いや、だから今日はこっちって聞いてるぺこ!」
「あれ?」
声の主は兎田ぺこらだった。
「あっ! ぺこーら先輩!」
「ん? おお、ヴィヴィじゃん!」
「おはようございます!」
「おはよー。今日収録?」
「そうなんですよ! 午後からです!」
「あー、そうなんだ。ぺこは午前中から収録ぺこ」
「えー! 偶然ですね!」
「ねー」
ぺこらは軽く笑う。
「ヴィヴィは何の収録?」
「バラエティ系の番組です! ぺこーら先輩は?」
「ゲーム関係のやつぺこ」
「おおー! そっちも面白そう!」
「まあ、いつものやつぺこね」
特に長話をすることもなく、二人はそれぞれの控室へ向かおうとする。
そのときだった。
「あ、そうだ!」
ヴィヴィが思い出したように声を上げる。
「ぺこーら先輩、今日収録終わったあとって何か予定あります?」
「……ん?」
ぺこらの足が一瞬止まる。
「いや、特にはないけど……?」
「じゃあ、ご飯行きません?」
「ご飯?」
「はい! せっかく会えたし!」
「……あー」
ぺこらは視線を少しだけ逸らした。
(いや、今日は帰りたいんだけどなぁ……)
実は午前中の収録が終わったら、そのまま帰宅するつもりだった。
特に用事があるわけではない。
ただ、家でゆっくりしたい。
それだけだ。
(うーん……どうしよっかなぁ)
相手がヴィヴィでなければ、もう少し気軽に断れたかもしれない。
しかし、ヴィヴィは後輩だ。
せっかく誘ってくれているのに、即座に断るのも少し気が引ける。
「えっと……収録終わる時間によるかなぁ」
「ほんまですか!?」
「う、うん。まあ、終わったら連絡するぺこ」
「やった! 楽しみにしてます!」
(あー……言っちゃったぺこ)
ぺこらは心の中で小さくため息をついた。
第二幕 予定外のトラブル
午前の収録。
ぺこらは順調に仕事を進めていた。
「はい、ではこちらのゲームをプレイしていただいて……」
「はいはい、任せるぺこ!」
ところが、収録開始からしばらくして問題が発生する。
「あれ?」
スタッフがモニターを確認する。
「すみません、映像が止まってしまいました」
「えっ?」
「少々お待ちください」
機材の接続を確認するスタッフたち。
しかし、再起動しても状況は改善しない。
「申し訳ありません。機材の不具合で、収録を一度中断させてください」
「ええー!?」
ぺこらが椅子から身を乗り出す。
「これ、結構時間かかる感じぺこ?」
「現時点では何とも……」
(うわぁ……)
ぺこらは時計を確認した。
予定では昼過ぎには終わるはずだった。
しかし、これでは何時になるか分からない。
(もう帰って寝たいぺこ……)
その頃、別の控室ではヴィヴィも収録の準備を進めていた。
「えっ、ぺこーら先輩の収録止まってるんですか?」
スタッフから聞いた話に、ヴィヴィは驚く。
「はい。機材トラブルがあったようで、少し押しているみたいです」
「うわぁ、大変やなぁ……」
ヴィヴィは少し考える。
「じゃあ、終わったら連絡もらえるように伝えてもらってもいいですか?」
「分かりました」
「ありがとうございます!」
一方、ぺこら。
マネージャーからその話を聞き、スマートフォンを手に取る。
「……ヴィヴィ、待ってるのかぁ」
(いや、別に待っててって言ったわけじゃないんだけどなぁ)
少し申し訳ない気持ちになる。
とはいえ、自分の収録がいつ終わるか分からない以上、今から約束するわけにもいかない。
ぺこらはメッセージを送った。
『収録トラブってるから、終わる時間まだ分からんぺこ!』
すぐに返信が来る。
『大丈夫ですよ! ゆっくり待ってます!』
「……」
(いや、ゆっくり待たなくていいんだけどなぁ……)
ぺこらはスマートフォンを伏せた。
第三幕 まさかの追加収録
機材トラブルは、思いのほか長引いた。
ようやく復旧した頃には、予定時刻を大幅に過ぎていた。
「お待たせして申し訳ありません。ここから再開します」
「はーい……」
ぺこらは軽く伸びをする。
(これ、終わる頃には夕方じゃないぺこ?)
しかも、トラブルの影響で一部の収録を撮り直す必要が出てきた。
「すみません、もう一度こちらのシーンをお願いします」
「ええー! さっきやったぺこー!」
「申し訳ありません!」
「しょうがないぺこねぇ……」
結局、収録が終わったのは夕方近くだった。
「お疲れさまでした!」
「お疲れぺこー!」
ぺこらは椅子から立ち上がり、肩を回す。
(やっと終わったぺこ……)
マネージャーから帰りの予定を確認される。
「ぺこらさん、この後はどうされますか?」
「んー……」
ぺこらはスマートフォンを取り出した。
ヴィヴィからメッセージが届いている。
『収録どうですか?』
『もう終わりました?』
『お疲れさまです!』
三件。
(……まだ待ってるのか)
ぺこらは画面を見つめる。
(いやぁ、さすがに今日は帰りたいぺこ)
疲れた。
お腹も空いた。
ただ、今から誰かと食事に行くとなると、もう一仕事という気分になってしまう。
(でもなぁ……)
ヴィヴィは悪くない。
むしろ、せっかく誘ってくれたのだ。
(うーん……)
数秒考えた末、ぺこらは返信する。
『今終わったぺこ!』
すぐに既読がついた。
『お疲れさまです!!』
『うちも今ちょうど終わりました!』
『ご飯どうします?』
「……」
ぺこらは天井を見上げた。
(タイミング良すぎるぺこ……)
第四幕 予想外の再会
スタジオの廊下。
ぺこらが帰ろうと歩いていると、向こうからヴィヴィがやってきた。
「あっ! ぺこーら先輩!」
「おお、ヴィヴィ」
「お疲れさまです!」
「お疲れぺこー」
「大変でしたね、機材トラブル」
「いやぁ、もう大変だったぺこ。めっちゃ待たされたし、撮り直しまであったし」
「うわぁ……」
ヴィヴィが心配そうな顔をする。
「疲れたんじゃないですか?」
「まあ、ちょっとねぇ」
「ですよねぇ」
ここでヴィヴィは、少し申し訳なさそうに笑った。
「……あ、もしかして今日は帰ってゆっくりしたかったですか?」
「えっ?」
ぺこらの目が泳ぐ。
「いや、まあ……」
「ごめんなさい! うち、なんか勢いで誘っちゃって」
「いやいや、別にヴィヴィが悪いわけじゃないぺこ!」
「でも、めっちゃ疲れてそうやし……」
「……」
ぺこらはヴィヴィの顔を見る。
どうやら本当に気を遣っているらしい。
(あー……)
(こういうところなんだよなぁ)
断る理由がなくなったわけではない。
疲れているのは事実だし、帰りたい気持ちも変わっていない。
けれど、せっかくの誘いを断って、ヴィヴィが気にするのも違う気がした。
「……まあ」
「はい?」
「ご飯くらいなら行けるぺこ」
「えっ!」
「ただし、あんまり遅くならないところね!」
「もちろんです!」
ヴィヴィの表情がぱっと明るくなる。
「ありがとうございます!」
「いや、そんな大げさな……」
(……まあ、いいかぺこ)
ぺこらは小さく笑った。
第五幕 焼肉屋にて
「いやぁ、お腹空きましたね!」
「ぺこもぺこも」
「今日はうちが焼きますね!」
「おっ、いいぺこね!」
ヴィヴィがトングを持ち、肉を網に並べる。
ジュウッという音とともに、香ばしい匂いが広がる。
「ぺこーら先輩、これ焼けましたよ!」
「おお、ありがとぺこ!」
ぺこらは肉を口に運ぶ。
「……うん!」
「どうです?」
「美味しいぺこ!」
「よかった!」
しばらくは仕事の話や最近の出来事で盛り上がった。
「そういえば、今日の収録どうでした?」
「まあまあぺこ。途中でトラブルあったけどね」
「うちも収録でちょっと面白いことがあって!」
「なになに?」
ヴィヴィが収録中の出来事を話し始める。
ぺこらは時折ツッコミを入れながら、話を聞いていた。
そして、食事も終盤に差しかかった頃。
「いやぁ、誘ってよかったです!」
ヴィヴィが満足そうに笑う。
「ん?」
「今日、ぺこーら先輩とご飯行けてよかった!」
「……そ、そうぺこね」
「最初、ちょっと帰りたそうやったから、断られるかなって思ってましたけど」
「ブッ!」
ぺこらが飲んでいたお茶を吹きそうになる。
「な、なんで分かったぺこ!?」
「えっ、分かりますよ! ちょっと反応が薄かったし!」
「いやいやいや!」
「ふふっ」
ヴィヴィが楽しそうに笑う。
「でも、来てくれて嬉しかったです!」
「……」
ぺこらは少しだけ目を逸らした。
「まあ、せっかく誘ってくれたし?」
「はい!」
「それに……」
「それに?」
「……ご飯は美味しかったぺこ」
「えへへ!」
ぺこらは照れ隠しのように、残っていた肉を口に運んだ。
エピローグ 帰宅後
帰宅したぺこら。
ソファに座り、スマートフォンを手に取る。
ヴィヴィからメッセージが届いていた。
『今日はありがとうございました! またご飯行きましょうね♡』
ぺこらは少し考えたあと、返信する。
『またタイミング合ったら行くぺこ!』
送信。
そのままスマートフォンを置く。
「……ふぅ」
今日は予定外の収録トラブルに、予定外の食事。
正直、帰宅したときにはかなり疲れていた。
しかし。
「……まあ、楽しかったぺこね」
ぽつりと呟く。
そして、少し間を置いてから。
「次はもうちょっと早く誘ってほしいぺこ……」
そう言いながら、ぺこらは笑っていた。
──おしまい。
うーむ、ぺこーらがちょいと嫌な奴になっている気が……毒にも薬にもならない話だ