ホロメンワチャワチャ話   作:吾輩は偏食である

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幻想郷ホロイズムwith常闇

 幻想郷ホロイズム IF

 

『常闇トワ、幻想入り』

 

 ──今度の迷子は、小悪魔ならぬ大悪魔? 

 

 プロローグ 配信開始まで、あと30分

 

 数年前。

 

 宝鐘マリンという一人のホロライブ所属VTuberが、幻想郷という不思議な世界に迷い込んだ。

 

 そこは、人間と妖怪が共存する、外の世界から隔絶された土地。

 

 博麗の巫女、魔法使い、吸血鬼、亡霊、そして数多くの妖怪たち。

 

 マリンは持ち前の知識とコミュニケーション能力、そして何よりも類まれなる東方愛を武器に、幻想郷で様々な出会いを経験した。

 

 そして最後には、無事に元の世界へと帰還したのである。

 

 その後、彼女が幻想郷で経験した出来事は、本人にとっても忘れられない思い出となった。

 

 ──それから数年。

 

 ホロライブのとある一室。

 

「……よしっ!」

 

 常闇トワは、配信準備を終えて一息ついた。

 

 今日はこのあと配信がある。

 

 ゲームの起動、マイクの確認、配信画面のチェック。

 

 いつも通りの準備だ。

 

「えーっと、これで大丈夫かな……」

 

 モニターを確認しながら、マウスを操作する。

 

 そのとき。

 

「……ん?」

 

 画面の端に、妙なものが映った。

 

 紫色の、裂け目のようなもの。

 

「え、なにこれ?」

 

 一瞬、映像の乱れかと思った。

 

 しかし、違う。

 

 画面の中だけではない。

 

 部屋の空間そのものに、何かが生じている。

 

「えっ、ちょっ……何これ!?」

 

 次の瞬間。

 

 ぐにゃり。

 

 視界が歪んだ。

 

「うわああああああああ!?」

 

 常闇トワの身体は、その紫色の裂け目へと吸い込まれていった。

 

 第一話 ここ、どこ? 

 

「……っつぅ」

 

 トワは地面に手をつきながら、ゆっくりと身体を起こした。

 

「な、何……?」

 

 周囲を見渡す。

 

 木々。

 

 草むら。

 

 遠くに見える山々。

 

 そして、見慣れない空。

 

「……森?」

 

 どうやら、どこかの山中にいるらしい。

 

「いや、待って。さっきまで部屋にいたよね?」

 

 記憶をたどる。

 

 配信準備をしていた。

 

 紫色の裂け目が現れた。

 

 そして、気づいたらここにいた。

 

「……え?」

 

 トワは数秒間、黙り込んだ。

 

 それから、ゆっくりと口を開く。

 

「……これ、もしかして」

 

 頭の中に一つの単語が浮かんだ。

 

「幻想郷?」

 

 東方Project。

 

 トワは詳しいわけではないが、作品の存在はもちろん知っている。

 

 博麗霊夢、霧雨魔理沙、紅魔館、弾幕ごっこ。

 

 有名なキャラクターや設定くらいなら分かる。

 

 そして、何よりも。

 

「いやいやいや、そんなわけないでしょ!」

 

 自分で考えて、自分で否定する。

 

 しかし、目の前の景色はどう見ても普通ではなかった。

 

「……とりあえず、誰かいないかな」

 

 スマートフォンを取り出す。

 

 圏外。

 

 当然といえば当然だ。

 

「ですよねー……」

 

 トワは頭を抱えた。

 

「やばい。これ、配信どうすんの……」

 

 そこか。

 

 第二話 普通の魔法使い

 

 森の中を歩き始めて、どれくらい経っただろうか。

 

 トワはとにかく人を探していた。

 

 妖怪がいるかもしれない。

 

 危険な場所かもしれない。

 

 そう考えると、むやみに動くのも怖い。

 

 しかし、立ち止まっていても何も始まらない。

 

「うーん……博麗神社ってどっちだろ」

 

 知識がないわけではない。

 

 ただ、地理までは把握していない。

 

「霊夢の神社に行けば何とかなる……のかな?」

 

 そんなことを呟いていると。

 

「おーい!」

 

 上空から声がした。

 

「ん?」

 

 見上げると、箒に乗った少女が飛んでいる。

 

 黒い服に大きな帽子。

 

 そして、特徴的な金髪。

 

「……え?」

 

 少女はトワの前に降り立った。

 

「お前、こんなところで何してるんだ?」

 

「……魔理沙?」

 

「おっ、私のこと知ってるのか?」

 

 霧雨魔理沙。

 

 トワでも知っている、幻想郷を代表する魔法使いの一人だ。

 

「えっ、ちょっと待って。本物?」

 

「本物って何だよ。私は私だぜ?」

 

 魔理沙は不思議そうにトワを眺めた。

 

「それより、お前は何者だ? こんなところで見かけない顔だけど」

 

「えっと……常闇トワです」

 

「トワ?」

 

「外の世界から来た……というか、たぶん迷い込んじゃったみたいで」

 

「へぇ」

 

 魔理沙は興味深そうにトワを眺める。

 

「外の世界からか。最近は珍しい話でもないが……」

 

「え?」

 

「この前も、なんか変わった格好の女が来てたな」

 

「変わった格好?」

 

「海賊だとか何とか言ってたぜ」

 

「……え?」

 

 トワの表情が変わる。

 

「海賊?」

 

「そうそう。宝を探してるとか、船長だとか。やたら騒がしい奴だったな」

 

「……宝鐘マリン?」

 

「おっ、知り合いか?」

 

「えええええ!?」

 

 トワは思わず声を上げた。

 

 まさか、先客がいたとは。

 

 しかも、あの宝鐘マリン。

 

「え、マリン先輩ってここ来たことあるの!?」

 

「先輩?」

 

「いや、えっと……」

 

 魔理沙は腕を組んだ。

 

「まあ、詳しい話は神社で聞くといいぜ。霊夢なら何か知ってるかもしれない」

 

「ほ、本当に!?」

 

「おう。ついてきな」

 

「助かったぁ……!」

 

 トワは心底安堵した。

 

 しかし、魔理沙は箒にまたがると、ニヤリと笑った。

 

「ただし、空を飛ぶのは自分で頑張ってくれよ」

 

「えっ?」

 

「じゃあな!」

 

「いやいやいや! 置いてかないでよ!」

 

 こうして、トワの幻想郷生活が始まった。

 

 第三話 博麗神社と、先輩の置き土産

 

「ここが博麗神社だぜ」

 

「おお……!」

 

 魔理沙の案内で、ようやく神社に到着したトワ。

 

 境内では、赤と白の巫女服を着た少女がお茶を飲んでいた。

 

「霊夢ー! ちょっと客を連れてきたぜ」

 

「ん? あら、珍しいわね」

 

 少女──博麗霊夢は、湯呑みを置いてトワを見た。

 

「初めまして。常闇トワです」

 

「博麗霊夢よ。それで、何の用?」

 

「えっと……実は外の世界から迷い込んじゃったみたいで」

 

「ああ、神隠しね」

 

 霊夢はさして驚きもせずに答えた。

 

「またなの?」

 

「またって?」

 

「数年前にも似たようなのが来たのよ。海賊を名乗る騒がしい女だったわね」

 

「やっぱりマリン先輩じゃん!」

 

「知り合いなの?」

 

「はい! ホロライブの先輩です!」

 

「ホロライブ?」

 

 霊夢と魔理沙が顔を見合わせる。

 

「まあ、外の世界の何かなんでしょうね」

 

「そうだな」

 

 トワは二人の反応を見て、少しだけ安心した。

 

 少なくとも、マリンもここに来ていた。

 

 そして帰っている。

 

 つまり、自分にも帰る方法があるはずだ。

 

「それで、どうすれば帰れるんですか?」

 

「さあ?」

 

「えっ」

 

「私に聞かれてもねぇ。外の世界との境界をどうにかできる奴ならいるけど」

 

「誰ですか!?」

 

 霊夢は湯呑みを持ち直した。

 

「八雲紫」

 

「あ、紫!」

 

 トワは思わず声を上げた。

 

「知ってるの?」

 

「うん! えっと、確か……すごい妖怪の人!」

 

「ふふっ、随分と大雑把ね」

 

「いや、知ってるけど、詳しくはないというか……」

 

「まあ、いいわ。紫が気づけば何とかしてくれるでしょう」

 

「気づけば?」

 

「ええ。あいつ、いつも何考えてるか分からないから」

 

 なんとも頼りない説明だった。

 

 トワは不安そうに魔理沙を見る。

 

「大丈夫なの?」

 

「まあ、何とかなるだろ」

 

「その何とかなるが一番怖いんだけど……」

 

 そのとき。

 

「おーい! 霊夢ー!」

 

 境内に元気な声が響いた。

 

「何よ、今度は」

 

 氷精チルノが、胸を張って現れた。

 

「なんか変な奴がいるって聞いたぞ!」

 

「変な奴って……」

 

 チルノはトワを指差す。

 

「お前か!」

 

「えっ、あ、うん」

 

「勝負しろ!」

 

「……はい?」

 

「チルノ、やめなさい」

 

 霊夢が呆れたように言う。

 

「いいじゃん! あたいは最強なんだから!」

 

「いや、あの……」

 

 トワは困惑した。

 

 東方Projectの知識が浅いとはいえ、チルノがどういうキャラクターなのかは知っている。

 

 そして、何となく察した。

 

(これ、断っても面倒なやつだ……)

 

「えっと、勝負って何するの?」

 

「弾幕ごっこだ!」

 

「……弾幕ごっこ」

 

 知っている。

 

 ルールも何となく知っている。

 

 しかし、自分が実際にやるとなると話は別だ。

 

「どうするんだ?」

 

 魔理沙が面白そうに尋ねる。

 

「いや、どうするって……」

 

 トワは霊夢に視線を向けた。

 

 霊夢は面倒くさそうにため息をつく。

 

「一回くらい付き合ってあげたら? ここでは珍しいことじゃないし」

 

「えぇ……」

 

 こうして、トワは幻想郷に来て早々、弾幕ごっこをすることになった。

 

 第四話 悪魔と氷精

 

「それじゃあ、始めるぞ!」

 

 魔理沙が審判役を買って出る。

 

「ルールは簡単だ。相手の弾幕を避けながら、自分のスペルカードを使う。まあ、楽しんでいこうぜ」

 

「いや、楽しんでいこうって……」

 

 トワは少し距離を取った。

 

「行くぞー!」

 

 チルノが両手を広げる。

 

「冷符『アイシクルフォール』!」

 

 無数の氷の弾がトワに向かって飛んできた。

 

「うわっ!?」

 

 トワは慌てて横に飛び退く。

 

 弾幕が地面に当たり、氷の粒が散る。

 

「ちょっ、普通に危ないんだけど!?」

 

「避けられたぞ!」

 

 チルノが楽しそうに笑う。

 

「もう一回!」

 

 今度は複数方向から氷の弾が飛んでくる。

 

 トワは翼を広げ、空中へと逃れた。

 

「おおっ! 飛べるのか!」

 

 魔理沙が感心する。

 

「まあ、一応悪魔だからね!」

 

 トワは空中で体勢を整えた。

 

(いや、これどうすればいいの!?)

 

 チルノの攻撃は勢い任せに見えるが、数が多い。

 

 東方のゲームなら何度も見た光景。

 

 しかし、自分がその中にいるとなると、話はまるで違う。

 

「えーい!」

 

 トワは思い切って魔力を放った。

 

 紫がかった光が空中に弾ける。

 

「おっ! 反撃か!」

 

 チルノは嬉しそうに飛び回る。

 

 だが、トワの攻撃は狙いが定まらず、あらぬ方向へ飛んでいった。

 

「わっ、危ない!」

 

 霊夢が結界を張り、飛んできた魔力を受け止める。

 

「ちょっと! あんた、何してるのよ!」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「弾幕ごっこは遊びでも、周りに迷惑かけるんじゃないわよ!」

 

「はい……」

 

 チルノはまだまだ元気だ。

 

「次で決めるぞ!」

 

「えっ、まだやるの!?」

 

 そのとき。

 

「そこまで」

 

 穏やかな声が響いた。

 

 紫色の隙間が空中に開き、その中から一人の女性が姿を現す。

 

 扇子を手に、余裕たっぷりの微笑み。

 

「まったく、騒がしいわね」

 

 八雲紫だった。

 

「紫!」

 

 霊夢が声を上げる。

 

「何しに来たのよ」

 

「もちろん、この子に会いに来たのよ」

 

 紫はトワへと視線を向けた。

 

「初めまして、常闇トワさん」

 

「えっ……あ、初めまして」

 

「あなた、外の世界から来たのでしょう?」

 

「はい!」

 

「そして、帰りたい」

 

「はい!!」

 

 トワは勢いよく頷いた。

 

 ようやく帰れるかもしれない。

 

 しかし、紫は扇子で口元を隠し、少しだけ笑った。

 

「そうねぇ……。それでは、少しお話をしましょうか」

 

 第五話 海賊の先輩

 

 紫の話によれば、トワが幻想郷に迷い込んだ原因は、外の世界と幻想郷の境界が一時的に不安定になったことらしい。

 

「数年前にも、似たようなことがあったわね」

 

「マリン先輩のことですか?」

 

「ええ。あの海賊の娘ね」

 

「先輩、ここでもそんな感じだったんだ……」

 

 トワは少し苦笑した。

 

「彼女は随分と幻想郷に詳しかったわ。こちらの世界のこともよく知っていたし、住人たちともすぐに打ち解けていた」

 

「まあ、マリン先輩は東方めっちゃ好きですからね」

 

「それに比べて、あなたは?」

 

「……えっと」

 

 トワは少し考えた。

 

「有名なキャラなら分かるけど、細かい設定とかはそんなに……」

 

「ふふっ。正直でよろしい」

 

 紫は扇子を閉じた。

 

「安心なさい。帰る方法はあるわ」

 

「本当ですか!?」

 

「ええ。ただし、少し条件があるの」

 

「条件?」

 

「あなたがこちらへ来たときに開いた境界は、すでに閉じてしまった。もう一度、外の世界との接点を作る必要があるのよ」

 

「それって、どうすれば?」

 

「あなた自身が持つ力を使うの」

 

「トワの?」

 

 紫は頷いた。

 

「あなたは悪魔なのでしょう?」

 

「はい。まあ、そうですけど」

 

「外の世界の人間とは少し違う。あなたの魔力は、こちらの世界にも馴染みやすいようね」

 

「へぇ……」

 

「だから、あなたの魔力を目印にして境界を開けば、帰れる可能性が高いわ」

 

「可能性?」

 

「ええ。必ず成功するとは限らないもの」

 

「……」

 

 トワは少し不安になった。

 

「でも、やるしかないですよね」

 

「そうね」

 

 紫は微笑む。

 

「それに、あなたには心強い味方がいるでしょう?」

 

「え?」

 

 紫が霊夢を見る。

 

「この子が帰るまで、面倒を見てあげてちょうだい」

 

「なんで私が」

 

「お願いね」

 

「ちょっと!」

 

 霊夢の抗議を無視し、紫は隙間の中へと消えていった。

 

「……あいつ」

 

 霊夢は額に手を当てた。

 

「まあ、仕方ないわね」

 

「よろしくお願いします……」

 

「はいはい」

 

 こうして、トワは博麗神社にしばらく滞在することになった。

 

 第六話 常闇トワ、幻想郷観光? 

 

 翌日。

 

「……で、なんでこうなったんだっけ?」

 

 トワは博麗神社の縁側に座っていた。

 

 目の前には霊夢。

 

 隣には魔理沙。

 

 そして、なぜかチルノまでいる。

 

「せっかく幻想郷に来たんだから、少しくらい見て回ればいいじゃない」

 

 霊夢はお茶を飲みながら言った。

 

「いや、帰る方法探さなくていいの?」

 

「紫が何とかするって言ってたでしょ。あいつが動くまで待つしかないわ」

 

「そんなぁ……」

 

「それに、あんたも外の世界に帰る前に見ておきたい場所くらいあるんじゃない?」

 

「うーん……」

 

 トワは考え込む。

 

 正直、興味がないわけではない。

 

 むしろ、せっかく幻想郷に来たのだから、少しは見てみたい。

 

 ただし。

 

「……紅魔館とか?」

 

「おっ、紅魔館か!」

 

 魔理沙が反応した。

 

「いいじゃないか。案内してやるぜ!」

 

「え、いいの?」

 

「もちろんだ!」

 

 霊夢が横から口を挟む。

 

「魔理沙、余計なことしないでよ」

 

「いいだろ、減るもんじゃないし」

 

「前にあんたが持っていった本、まだ返してもらってないんだけど?」

 

「げっ」

 

「……何の話?」

 

 トワは二人のやり取りを見て、苦笑した。

 

(ああ、こういう感じなんだ……)

 

 ゲームや音楽で知っていたキャラクターたちが、目の前で普通に会話している。

 

 それだけで、妙な感覚だった。

 

 第七話 紅魔館と、悪魔の先輩? 

 

 紅魔館。

 

 トワは門の前で立ち止まった。

 

「おお……!」

 

「どうだ? 立派だろ?」

 

「すごいね。ゲームで見たことある!」

 

 門の前には、赤い髪の少女が立っていた。

 

「おや、魔理沙さん。今日はお客さんですか?」

 

「おう、美鈴!」

 

 紅美鈴。

 

 トワも知っているキャラクターだ。

 

「初めまして! 常闇トワです!」

 

「これはご丁寧に。紅美鈴です」

 

 美鈴はトワの角と翼を見て、少し興味深そうに尋ねた。

 

「もしかして、あなたも悪魔なんですか?」

 

「まあ、一応!」

 

「へぇ! 珍しいですね!」

 

 そのまま館内へ案内される。

 

 図書館ではパチュリーが本を読んでいた。

 

「……また魔理沙?」

 

「今日は違うぜ」

 

「また本を盗みに来たの?」

 

「違うって!」

 

「ふふっ」

 

 トワは思わず笑った。

 

 そして、図書館の奥から小さな声がした。

 

「……悪魔?」

 

 振り向くと、そこには小さな少女が立っていた。

 

「あなた、悪魔なの?」

 

「え? うん」

 

「へぇ……」

 

 フランドール・スカーレット。

 

 トワは少し緊張した。

 

(この子、確か結構強いんだよね……)

 

「ねえ、遊ぼう?」

 

「えっ?」

 

「私と遊んでよ」

 

「あ、えっと……」

 

 トワは困ったように魔理沙を見る。

 

 魔理沙はニヤニヤしていた。

 

「せっかくだし、遊んでやれよ」

 

「いや、魔理沙さん?」

 

 結局、簡単な弾幕ごっこをすることになった。

 

 フランドールは楽しそうに笑い、トワも何とか応戦する。

 

 その様子を見ていたパチュリーが、ぽつりと呟いた。

 

「……外の世界の悪魔、ね」

 

「何か気になるんですか?」

 

「いいえ。ただ、幻想郷の悪魔とは少し違うようだから」

 

「そうなんだ……」

 

「あなた、こちらの世界のことをどれくらい知っているの?」

 

「えっと、有名なところは……」

 

「では、スペルカードルールは?」

 

「……何となく?」

 

「何となく?」

 

 パチュリーは本から顔を上げた。

 

「それで昨日、チルノと戦ったの?」

 

「えっ、何で知ってるの!?」

 

 魔理沙が大笑いした。

 

「ははは! もう噂になってるぜ!」

 

「やめてよー!」

 

 トワの幻想郷生活は、思っていた以上に賑やかだった。

 

 第八話 突然の異変

 

 その日の夕方。

 

 博麗神社に戻ったトワは、縁側で休んでいた。

 

「いやぁ、今日は楽しかったなぁ」

 

「そう?」

 

 霊夢が隣に座る。

 

「うん! 紅魔館も見れたし!」

 

「そう。それならよかったわ」

 

「でも、やっぱり早く帰りたいかな」

 

「まあ、そうでしょうね」

 

 トワは空を見上げる。

 

 夕暮れの空が、ゆっくりと赤く染まっていた。

 

 そのとき。

 

「……ん?」

 

 トワの身体が、わずかに光った。

 

「え?」

 

 胸元から、紫色の光が漏れ始める。

 

「ちょ、何これ!?」

 

 霊夢が立ち上がる。

 

「ちょっと! あんた、何かした!?」

 

「してない! 何もしてないよ!」

 

 次の瞬間。

 

 空間に、大きな裂け目が生じた。

 

 紫色の境界。

 

 そこから、強い風が吹き荒れる。

 

「うわっ!」

 

 境内の木々が揺れ、落ち葉が舞い上がった。

 

「これは……!」

 

 霊夢が札を取り出す。

 

「紫の仕業?」

 

 その裂け目の向こうには、見慣れない景色が映っていた。

 

 部屋。

 

 机。

 

 モニター。

 

 そして、見覚えのある配信機材。

 

「……え?」

 

 トワは目を見開いた。

 

「これ……トワの部屋?」

 

 しかし、裂け目は不安定だった。

 

 徐々に大きくなり、周囲のものを吸い込み始める。

 

「まずいわね……!」

 

 霊夢が結界を張る。

 

 そこへ魔理沙も駆けつけた。

 

「何だ何だ!?」

 

「境界が暴れてるのよ!」

 

「おい、トワ! お前の魔力が原因じゃないのか!?」

 

「わ、分かんないよ!」

 

 トワは自分の手を見る。

 

 紫色の光が、どんどん強くなっている。

 

「これ、どうすればいいの!?」

 

 そのとき。

 

「ふふっ。やっぱり始まったわね」

 

 聞き覚えのある声。

 

 紫の隙間から、八雲紫が姿を現した。

 

「紫!」

 

「お待たせしたわね」

 

「お待たせしたわねじゃないわよ! 何なのこれ!」

 

 霊夢が怒鳴る。

 

 紫は涼しい顔で答えた。

 

「この子が帰るための境界よ。ただ、少し不安定になってしまったみたいね」

 

「少しどころじゃないでしょ!」

 

 紫はトワへと視線を向ける。

 

「常闇トワさん。あなたの魔力を境界の目印にするの。力を集中させてちょうだい」

 

「集中って……どうやって!?」

 

「あなた自身の力を信じることよ」

 

「いや、そんな精神論で……!」

 

「大丈夫。あなたならできるわ」

 

 紫の声は穏やかだった。

 

 しかし、裂け目はさらに不安定になる。

 

 トワは歯を食いしばった。

 

「……分かった」

 

 両手を前に出す。

 

 自分の中にある魔力を感じる。

 

 悪魔としての力。

 

 普段は配信や日常生活の中で、意識することも少ない力。

 

 それを、今だけは全て集中させる。

 

「……っ!」

 

 紫色の光が、トワの身体を包み込んだ。

 

「いいわ、そのまま!」

 

「トワ!」

 

 霊夢が声をかける。

 

「焦らないで! 自分の力を制御しなさい!」

 

「分かってる!」

 

 トワは目を閉じる。

 

 そして。

 

「……これで、どうだぁぁぁ!!」

 

 一気に魔力を放った。

 

 紫色の光が境界へと流れ込む。

 

 暴れていた裂け目が、少しずつ安定していく。

 

「おおっ!」

 

 魔理沙が声を上げる。

 

「すごいじゃないか!」

 

「あと少しよ!」

 

 紫が扇子を広げた。

 

 そして、最後の一押し。

 

 境界が大きく開く。

 

 その向こうには、間違いなくトワの部屋があった。

 

「……開いた!」

 

 トワの顔が明るくなる。

 

「これで帰れるんですか!?」

 

「ええ。今なら大丈夫よ」

 

「やったぁ!!」

 

 しかし、トワは一度だけ振り返った。

 

 霊夢。

 

 魔理沙。

 

 そして、幻想郷で出会った人たち。

 

 たった一日か二日程度の出来事だったが、ずいぶん長く感じられた。

 

「……みんな、ありがとう!」

 

「別に。大したことしてないわよ」

 

 霊夢はそっけなく答える。

 

「また来いよ!」

 

 魔理沙が笑う。

 

「いや、できれば普通に帰りたいかな!」

 

「ははは!」

 

 トワも笑った。

 

 そして、紫が最後に声をかける。

 

「常闇トワさん」

 

「はい?」

 

「海賊の彼女にも伝えておいてちょうだい。幻想郷は、いつでもあなたたちを歓迎するわ」

 

「……うん!」

 

 トワは大きく頷いた。

 

「絶対伝える!」

 

 そして、境界へと飛び込んだ。

 

 最終話 配信開始! 

 

「……っ!」

 

 トワは自分の部屋の床に転がっていた。

 

「いったぁ……」

 

 周囲を見渡す。

 

 見慣れた部屋。

 

 見慣れたモニター。

 

 そして、デスクの上に置かれたスマートフォン。

 

 画面を見る。

 

 現実世界に帰還

 

「……帰ってきた」

 

 時計を確認する。

 

 配信予定時刻を少し過ぎていた。

 

「やばっ!」

 

 トワは慌てて椅子に座る。

 

 配信画面を立ち上げ、マイクを確認。

 

「えっと、これで……」

 

 数分後。

 

 配信開始。

 

「こんやっぴー!」

 

 いつもの挨拶。

 

 コメント欄が流れ始める。

 

『こんやっぴー!』 『待ってた!』 『トワ様遅刻?』 『何かあった?』 『寝坊?』

 

「あー、いや、ちょっとね!」

 

 トワは苦笑する。

 

「ちょっと不思議なところに行ってた」

 

『???』 『どこ?』 『旅行?』

 

「えっと……幻想郷?」

 

 コメント欄が一瞬ざわつく。

 

『え?』 『東方?』 『まさか』 『何言ってんのw』

 

「いや、マジで!」

 

 トワは身振り手振りを交えながら話し始めた。

 

「気づいたら森の中にいてさ! そしたら魔理沙がいて! 博麗神社に連れてってくれて!」

 

『魔理沙!?』 『霊夢!?』 『ガチで幻想入りしてるw』

 

「そうそう! あとチルノとも弾幕ごっこした!」

 

『草』 『最強と戦ってて草』 『トワ様、東方そんな詳しかったっけ?』

 

「いや、そこまで詳しくないから、めっちゃ大変だったんだって!」

 

 そして、少し間を置いてから。

 

「……あとね」

 

 トワは笑顔になった。

 

「マリン先輩も、昔そこに行ったことあるんだって!」

 

『ええええ!?』 『マリン!?』 『幻想郷ホロイズム!?』 『まさかの繋がり』

 

「そう! 紫っていう人が教えてくれた!」

 

『紫様www』 『八雲紫じゃん』 『マリン船長の世界線だ!』

 

 トワは楽しそうに笑う。

 

「いやぁ、すごかったなぁ……」

 

 そして、ふと思い出したように呟いた。

 

「……でも、トワ、もう一回行くのはちょっといいかな」

 

『なんでw』 『楽しくなかった?』

 

「楽しかったよ! でも、帰れなくなったら困るじゃん!」

 

 コメント欄が笑いで埋まる。

 

 トワはいつもの調子で配信を続けた。

 

 エピローグ ホロライブ事務所

 

 数日後。

 

「マリン先輩!」

 

「ん? どうしたのトワ様?」

 

「ちょっと聞きたいことがあるんですけど」

 

「なになに?」

 

 トワは少しだけ周囲を確認してから、小声で尋ねた。

 

「……幻想郷って、行ったことあります?」

 

「…………え?」

 

 マリンの動きが止まった。

 

「え、ちょっと待って」

 

「はい?」

 

「トワ様、何でそれを……?」

 

「いや、実は……」

 

 トワは、あの日の出来事を説明した。

 

 森で目覚めたこと。

 

 魔理沙に出会ったこと。

 

 霊夢やチルノ、紅魔館の面々と会ったこと。

 

 そして、紫に助けられて帰ってきたこと。

 

 一通り話し終えると、マリンはしばらく黙っていた。

 

「……ええええええ!?」

 

 事務所に響く驚きの声。

 

「トワ様も行ったの!?」

 

「はい!」

 

「うわぁぁぁ! いいなぁぁぁ!!」

 

「えっ、そこ!?」

 

「いやいやいや! ちょっと待って! 魔理沙に会った!? 霊夢は!? 紫様は!?」

 

「会いましたよ!」

 

「ええええ! いいなぁ! 船長もまた行きたい!!」

 

「いや、もういいですって!」

 

 トワは笑いながら首を振る。

 

 すると、マリンは突然真剣な表情になった。

 

「……ねえ、トワ様」

 

「はい?」

 

「船長、ちょっと気になってることがあるんだけど」

 

「何ですか?」

 

「紫様って、トワ様を帰すとき何か言ってなかった?」

 

「えっと……」

 

 トワは少し考える。

 

 そして、思い出したように答えた。

 

「『幻想郷は、いつでもあなたたちを歓迎する』って」

 

「…………」

 

 マリンはしばらく考え込んだ。

 

 そして、ニヤリと笑う。

 

「……ふーん?」

 

「何ですか、その顔」

 

「いやぁ……」

 

 マリンは窓の外を眺める。

 

「もしかしたら、また会えるかもしれないねぇ?」

 

「いや、トワはもういいですって!」

 

 二人の笑い声が事務所に響く。

 

 その頃、幻想郷。

 

 八雲紫は、どこか楽しそうに扇子を広げていた。

 

「ふふっ……。今度は誰が来るのかしらね」

 

 その傍らには、二つの写真。

 

 一枚は、かつて幻想郷を訪れた海賊の少女。

 

 もう一枚は、先日訪れた悪魔の少女。

 

 紫はそれらを眺め、静かに笑った。

 

「外の世界も、なかなか面白いものね」

 

 ──幻想郷ホロイズム IF『常闇トワ、幻想入り』完。




はい。ドラマCD的なアレです
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