退屈な人生にピリオドを!
「あぁ~~~~、マジ詰まらん」
我ながら贅沢なことを言うなぁ、思う。
俺は所謂"成功者"や"勝ち組"と言われる部類に入るのだろう。
田んぼだらけで、木造の建築や昭和期に建てられたであろう家屋が残るようなこの土地には似つかわしくないような大きなモダンな家に住み。株の配当金だけでも何不自由なく暮らせてしまう。
そんな生活に憧れ、一世一代の大勝負を繰り返し、ハラハラしながらも楽しかった生活を思い出す。
今思えば、あの頃が一番楽しかったのかもしれない。自分の勝負勘だけを頼りに、手元の馬券に一喜一憂した日が、株の値動きに人生をBetした日が、今の自分には輝いて見える。
あの高揚感を、俺は今欲していると自覚してはいるが、じゃあもう一度人生をかけるような勝負をこの世界に挑もうとは、この生活を手に入れてしまった今ではとても思えない。
そう思いながらも、暇つぶしのために俺はいつもと同じようにパソコンをスクロールする。
ただただ惰性で、画面の内容を流し読みしていると、一つのサイトが目に留まった。
俺はマウスカーソルをそのサイトのリンクに合わせ、クリックする。
「なんだって?『人生に飽きたそこの貴方、競馬ファンのそこの貴方、このゲームは、サラブレッドに転生し、無双するのも、熱い戦いに身を投じるのもあなたの自由!自分を育成し、夢を目指す、転生型育成シュミレーションゲームです。』……??? 転生って、お前もうちょっとましな噓つけよ。」
ここ最近は、インターネットが急速に発展し、多種多様なサービスが展開される中、インターネットを通した詐欺なんかも、そりゃぁもうどんどん巧妙化していくわけで、そんな中流行りのものから取って付けた様な荒唐無稽な謳い文句。
課金画面を開いてみれば当たり前のように数字が9桁単位余りにも馬鹿馬鹿しすぎる。
そう思いそのサイトを閉じようと思うが、俺の勝負勘が「これだ!」と叫んで俺をこのサイトに釘付けにしてくる。
「俺はこんな、得体も知れないサイトに価値を見出しているのか……⁉嫌ダァ!俺はこんなサイトに、目の前のドブに足を、金までも突っ込むなんて!……しかし、一競馬ファンであるこの俺にこの謳い文句は刺さりすぎる……!」
俺もついに耄碌したか……。などと馬鹿なことを考え、一度冷静になるためにデスクに置いてあるコーヒーの入ったマグカップを手に取り、中身を口の中に流し込み
「うん。取り敢えず、どんなものか確認しよう。」
俺は一度画面に向き直ると、氏名、メールアドレス等を書き込んでいく。
しばらくそんなことをしてき、次の画面に移る。
「成程成程。これは、ステータス表か。」
どんな内容か画面を確認する
残りポイント:50
《成長効率》
スピード:(1/100)
スタミナ:(30/100)
パワー:(30/100)
《先天的資質》
身体的環境変化・輸送耐性:(50/100)
心肺機能:(50/100)
タフネス:(50/100)
柔軟性:(50/100)
《固定ステータス》
スタート時の基礎能力値:血統によって確定
精神的環境変化・輸送耐性:(85/100)
賢さ:(100/100)
画面の右側には、2つのそれぞれ正方形を45°傾けた形のグラフと正三角形のグラフがあった。
これを見た瞬間、俺は確信した。
「……これ絶対詐欺だろ。」
そう呟き、このサイトを閉じようとする。けれども、さっきからどうも閉じる気にはなれない。
突然だが、俺は今きっと、今世で一番重要な判断を迫られている気がする。
どう考えても怪しすぎる転生という内容、普通ならこんな怪しい、ゲームかも分からないものに10桁も11桁も金を溶かさないだろう。
そう、"普通"なら。しかし、俺はもう今の人生に大した意味も見出せず、俺を成功者にまで導いてきたMy勝負勘は「このゲームに賭けろ!」「このゲームはマジだ!」と叫んでいる。
理性は警鐘を鳴らすが、その叫びを聞いているうちに、"勝負師"だった俺には、"賭けない"という選択肢が最初から無かったかのように、思考がこのゲームに全てを"懸ける"という考えに集約されていく、気が付けば俺は
「意地でも理想の転生してやる!俺の全財産を賭けてでも俺は、ここで詰まらい人生に、ピリオドを打ってみせる!」
そんな目標を掲げていた。
この目標を達成するには、まず最初にポイントの、使用優先度を考えるべきだ。まず大事なのは、《先天的資質》の項目だろう。
考えてもみよう。まず、競馬とは馬の才能がほぼすべての世界だ。幾ら自分が努力しようと、どれだけ鞍上が上手かろうと、才能の差はそう簡単には埋められない。
ブラッドスポーツなどと言われる、競馬ならなおさらだ。
坂路で有名なミホノブルボンだって、あのタフネスさは天性のものだろう。
そして、この項目の中でも最も重要だと思えるのが心肺機能だろう。あの歴代最強馬確定*1の、セクレタリアトの心臓がでけぇことは有名だが、オーストラリアの歴史的名馬ファーラップや、18世紀後半の圧倒的最強馬エクリプスだって心臓がデカいという記録がある*2のだ。
彼らは共通してどんな距離でも全盛期には、圧倒的な内容で勝利を収めている。
そのことを考え心肺機能値の働きをステータスで例えると
[スピード値]&[スタミナ値]×[心肺機能値]=実質基礎競争能力*3
になるわけだ。ここからわかるのは基礎競争能力は心肺機能に依存しているのだ。
どう考えてもこれが大事なのは確定的。なので、これをまずMAXにする。
次に柔軟性、走り方を自在に出来る様になるのでクソ重要!距離を選ばないのが名馬だろ!
思ったように体動かせないのはおかしい!テイオーみたいなステップしてみたい!という理由でMAX。
その次に歴史に残りたいので身体的環境変化・輸送耐性を80。努力チート的なのを可能にするために*4、タフネスをMAX。
余った金で《成長効率》の項目をスピードを優先的に割り振っていく。
10分後、『クレジットが足りません』というメッセージと共に、ステータスを振り終えた俺は、満足気に頷いた*5。
そして、やはり転生すると確信しながら、画面に目を移す。
残りポイント:0
《成長効率》
スピード:(80/100)
スタミナ:(60/100)
パワー:(60/100)
《先天的資質》
身体的環境変化・輸送耐性:80
心肺機能:(100/100)
タフネス:(100/100)
柔軟性:(100/100)
《固定ステータス》
スタート時の基礎能力値:血統によって確定
精神的環境変化・輸送耐性:(85/100)
賢さ:(100/100)
種牡馬・繫殖牝馬適正:(82/100)
全財産をぶち込んだステータスを見た後、俺は次のページに進んだ。
「プロフィール設定ねぇ、なんか妙にリアルやな。えーと……なになに?『ここでは、自身の性別、誕生日、毛色、血統を自由に設定することができます。*これにより誕生年が絞られること、史実馬やその子孫の馬がロストする可能性に留意ください。』……要するに、生まれたい年代に現役やってる好きな種牡馬を父に、いい感じの未受胎だった現役繫殖牝馬を母に選べばいい、という訳だ。」
ここで疑問が浮かぶ、なんでこっちは課金しなくてもいいんだよ。まぁ些事だろう。大方ランダム要素が強いとかだろう。
そして私は今非常に深刻な問題に直面した。
ーーいや、めんどくせぇ
そう、めんどくさいのだ。俺は元来、めんどくさいけれども適当に決めたら後悔するようなことを考えるのは昔から苦手なのだ。20分ほどうだうだした後、さすがに俺も気を引き締めた。
コーヒーを口に運び、眠気が吹き飛ぶような苦味で思考をクリアにする。
まず考えるのは年代と場所だ。場所は、海外は有名馬しか知らないので却下。よって我らが日出る国、日本。
年代は、歴史に名を残したいため、フランケルやブラックキャビアにオルフェーブルが全盛期っぽい、2012年を射程に、勝つのに現実的で、対戦するまで彼らの記録を邪魔*6をするは避けたいので、2007年で決定!
性別は人外TS転生願望は無いし*7、性差もある為牡馬!
毛色はかっこいいから青毛!
血統は……2006年に現役で成績が良くて、珍しさが欲しいから*8非サンデーで……うーん……ハッ
「シンボリクリスエスがおるやん!非サンデー系、しかもロマン*9のロベルト系!これはもう運命だね!」
少々、いや、結構興奮してしまったが、運命を感じたので仕方がない。
母馬は2006年産駒がいなくて、アラジ*10が代表産駒、G1馬を2頭も輩出している、ダンスールファビュルーにした。
この二頭の、産駒傾向はそれぞれ違う……はずだ。ダンスールファビュルー産駒の代表格である、アラジやのヴェールは鋭い瞬発力がウリだ。対してシンボリクリスエス産駒は、力強さが際立っているように感じる。
「なんか欧州寄りの血統になちゃったけど多分何とかなるだろう。《成長効率》のスピードの値上げまくったし。」
次のページに進むと『【警告】転生後はステータスの閲覧をすることは出来ません。』というメッセージとその下には『プレイを開始する』というボタンがあった。
俺はこれから待ち受けているであろう、運命に思いを馳せながら深く息を吸い込み吐き出す。
画面に向き直り、『プレイを開始する』のボタンにマウスカーソルを合わせる。我ながら、こんな胡散臭いサイトに何億も課金したのはおかしいと思う。
けれども俺は、"最高"の成功者になる為に、あの高揚感に、このボタンとMy勝負勘に、フルベットせずには居られなかった。
そんな「俺」を俺は嫌いではない。
「俺の全財産賭けたんだ!"俺の"つまらない人生にピリオドを!''俺に''輝かしい馬生を!」
そう言って俺は、マウスをクリックした。
拙作ですがよろしくお願いします。